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第三部
プロローグ
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「ちょっと、このスープ味が濃すぎるんじゃないの?」
また始まった。うんざりさと怒りがない交ぜになって、実母に怒号を発しようと立ち上がろうとした。けど、後ろからグググ・・・・・・・・・! と強い力でとめられた。
「申し訳ございません」
愛しのルウが、なにも悪くないのに頭を下げている。そんな姿を見るのがいやで、申し訳なくて。
――――大丈夫です――――
俺とルウの絆の証、『念話』で心の声が聞こえる。
「この家での味付けを一通り教わってそのまま調理したつもりなのですが」
「そう。やっぱりウェアウルフには難しかったかしら? ごめんなさいね。大した調理法じゃないのに難しいことさせちゃって」
棘しか含まれていない口撃。もうだめだ。とめないと。
「お歳をめされて舌の機能が下がっているご老人にも配慮したつもりだったのですが」
「は・・・・・・・?」
眉間が、ピクリと反応をした。だから止めたかったのに。
「ご主人様と二人で暮していたときの、ご主人様が好んでいた味付けに慣れすぎていたもので。つい癖でいつもどおりにやってしまったのかもしれません」
「そう・・・・・・・・・・・・」
ぷるぷると震えているけど、顔が平静すぎてこわい。このへんでとめたい。
「じゃあ次からは気をつけなさい。もしこんな食事を食べ続けていたら、体に毒だから。あなたみたいに無駄に若い人にはまだ大丈夫なんでしょうけど」
おい。
「そうですね。次があれば、のお話ですが」
おい。
「というよりも、どうして朝からお肉が出ているの? いつもはお肉なんて出さないのに。重くて気分が悪くなるのよ。でも奴隷にはわからないのかしら。普通の人の当たり前なことって」
「食べやすいように柔らかく煮込み、あっさりと味付けもしました。それに、お肉も食べなければ必要な栄養が得られないと以前聞いたので。帝都では奴隷でも知っている当たり前なことをご存じないとは露知らず」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「このお肉、少し固いんじゃないの? 貴方達みたいに若くて丈夫な人だったら大丈夫なんだろうけど。味見した?」
「ええ。しましたが」
「そう。じゃあ次からは私が味見をするわ。ウェアウルフみたいに顎も歯も丈夫じゃないし」
「危惧していた以上に老いぼれ具合が加速しているのですね。今後のことも鑑みて、入れ歯を購入されては?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「もうやめてくれえええええ!!」
もうすっごい胃に悪い。なにこれ。なんで朝からこんな重苦しい応酬の間に挟まれないといけないんだ。しかもちょくちょく二人とも黙りこんで睨み合うし。戦争とかモーガンと戦ったとき以上の緊迫感をなんでここであじわいつづけなきゃいけないんだ。
「おいいい加減にしてくれよお袋!」
ルウと口論をしていた母親に、怒りをぶつける。
「そんな文句言うんだったら明日からお袋が作ればいいだろ!」
「なによ。無職のくせに」
「生活費は入れてるだろ!」
「この奴隷が自分から手伝うって言ってきたのよ。なのにできていないんだから当然じゃない」
「あんたの言い分がひどすぎるんだよ!」
「あんたは世の中のことがわかっていないのよ。奴隷を庇うなんて」
「奴隷どうこう関係ねぇわ! 百歩譲ってもルウは俺の奴隷であんたの奴隷じゃねぇ! ふざけた態度ばっかとってると焼き殺すぞ!」
ただの奴隷じゃない。ルウは俺の好きな子。そんなルウが実母――お袋に辛い目に合わされていたら、誰だって腹もたつ。それに、お袋もそのことはわかっているはずなのに。悪意があるとしかおもえない。
「なによ。文句があるんならこの家から出て行けばいいでしょ」
「この・・・・・・・・・・・・!!」
「ご主人様」
今日という今日は、黙っていられない。服をきゅっと掴んでくるルウを一瞥する。でも、これ以上ルウを苦しめたくない。
「今日は『もふもふタイム』なしです」
「なんで!!??」
「お願いしたはずです。私とお義母様とのやりとりに口をださないでくださいと」
「いや、でも。だって」
「これは私とお義母様の問題だと。いえ――――」
一旦言葉を切って、決意した面持ちで見つめる。
「私の戦いです」
「いや。それなんの戦い?」
実家に帰ってきてから、ルウはとにかく意地になっている。もちろん俺はお袋なんかよりもルウの味方だけど。母親に反抗心剥きだしでやり返している。それでも、やめようよ。争いなんて意味ないよ。勝っても負けても得られることなんてないし。従軍経験者のアドバイス聞いてよ。
ポン、と誰かに肩を叩かれた。親父だ。諦めたかんじで、切なげに首を横に振る。諦めろ、と。まるで昔経験したことがあるってくらいの悟り具合。兄貴もそれに同意して、反対側の肩をしきりに叩く。なにこれ。
「じゃあそこの奴隷。ちょっと洗濯物洗ってもらえる? ウェアウルフだからって水や泡で遊ばないでね。それから尻尾の毛が付かないようにして。なんだったらついでに斬り落としておいてあげようかしら?」
「ウェアウルフは犬と違って水と泡程度でははしゃがないのでご心配なさらず。老人特有のおもいこみを改めますよう。それからこの尻尾は、ユーグ様も大変お好きなので。それから私の名前はルウです」
「へぇ。子犬でも飼えばいいのにねぇ。そうすれば食費とか抑えられるのに。ねぇ、奴隷?」
「お義母様と子犬以上を足しても余ってしまうほどのことが私にはできるので。むしろお得かと。それからルウです」
応酬を繰り返し、二人は並んで去っていく。頭を抱えて、苦悩する。どうしてこうなった、と。
また始まった。うんざりさと怒りがない交ぜになって、実母に怒号を発しようと立ち上がろうとした。けど、後ろからグググ・・・・・・・・・! と強い力でとめられた。
「申し訳ございません」
愛しのルウが、なにも悪くないのに頭を下げている。そんな姿を見るのがいやで、申し訳なくて。
――――大丈夫です――――
俺とルウの絆の証、『念話』で心の声が聞こえる。
「この家での味付けを一通り教わってそのまま調理したつもりなのですが」
「そう。やっぱりウェアウルフには難しかったかしら? ごめんなさいね。大した調理法じゃないのに難しいことさせちゃって」
棘しか含まれていない口撃。もうだめだ。とめないと。
「お歳をめされて舌の機能が下がっているご老人にも配慮したつもりだったのですが」
「は・・・・・・・?」
眉間が、ピクリと反応をした。だから止めたかったのに。
「ご主人様と二人で暮していたときの、ご主人様が好んでいた味付けに慣れすぎていたもので。つい癖でいつもどおりにやってしまったのかもしれません」
「そう・・・・・・・・・・・・」
ぷるぷると震えているけど、顔が平静すぎてこわい。このへんでとめたい。
「じゃあ次からは気をつけなさい。もしこんな食事を食べ続けていたら、体に毒だから。あなたみたいに無駄に若い人にはまだ大丈夫なんでしょうけど」
おい。
「そうですね。次があれば、のお話ですが」
おい。
「というよりも、どうして朝からお肉が出ているの? いつもはお肉なんて出さないのに。重くて気分が悪くなるのよ。でも奴隷にはわからないのかしら。普通の人の当たり前なことって」
「食べやすいように柔らかく煮込み、あっさりと味付けもしました。それに、お肉も食べなければ必要な栄養が得られないと以前聞いたので。帝都では奴隷でも知っている当たり前なことをご存じないとは露知らず」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「このお肉、少し固いんじゃないの? 貴方達みたいに若くて丈夫な人だったら大丈夫なんだろうけど。味見した?」
「ええ。しましたが」
「そう。じゃあ次からは私が味見をするわ。ウェアウルフみたいに顎も歯も丈夫じゃないし」
「危惧していた以上に老いぼれ具合が加速しているのですね。今後のことも鑑みて、入れ歯を購入されては?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「もうやめてくれえええええ!!」
もうすっごい胃に悪い。なにこれ。なんで朝からこんな重苦しい応酬の間に挟まれないといけないんだ。しかもちょくちょく二人とも黙りこんで睨み合うし。戦争とかモーガンと戦ったとき以上の緊迫感をなんでここであじわいつづけなきゃいけないんだ。
「おいいい加減にしてくれよお袋!」
ルウと口論をしていた母親に、怒りをぶつける。
「そんな文句言うんだったら明日からお袋が作ればいいだろ!」
「なによ。無職のくせに」
「生活費は入れてるだろ!」
「この奴隷が自分から手伝うって言ってきたのよ。なのにできていないんだから当然じゃない」
「あんたの言い分がひどすぎるんだよ!」
「あんたは世の中のことがわかっていないのよ。奴隷を庇うなんて」
「奴隷どうこう関係ねぇわ! 百歩譲ってもルウは俺の奴隷であんたの奴隷じゃねぇ! ふざけた態度ばっかとってると焼き殺すぞ!」
ただの奴隷じゃない。ルウは俺の好きな子。そんなルウが実母――お袋に辛い目に合わされていたら、誰だって腹もたつ。それに、お袋もそのことはわかっているはずなのに。悪意があるとしかおもえない。
「なによ。文句があるんならこの家から出て行けばいいでしょ」
「この・・・・・・・・・・・・!!」
「ご主人様」
今日という今日は、黙っていられない。服をきゅっと掴んでくるルウを一瞥する。でも、これ以上ルウを苦しめたくない。
「今日は『もふもふタイム』なしです」
「なんで!!??」
「お願いしたはずです。私とお義母様とのやりとりに口をださないでくださいと」
「いや、でも。だって」
「これは私とお義母様の問題だと。いえ――――」
一旦言葉を切って、決意した面持ちで見つめる。
「私の戦いです」
「いや。それなんの戦い?」
実家に帰ってきてから、ルウはとにかく意地になっている。もちろん俺はお袋なんかよりもルウの味方だけど。母親に反抗心剥きだしでやり返している。それでも、やめようよ。争いなんて意味ないよ。勝っても負けても得られることなんてないし。従軍経験者のアドバイス聞いてよ。
ポン、と誰かに肩を叩かれた。親父だ。諦めたかんじで、切なげに首を横に振る。諦めろ、と。まるで昔経験したことがあるってくらいの悟り具合。兄貴もそれに同意して、反対側の肩をしきりに叩く。なにこれ。
「じゃあそこの奴隷。ちょっと洗濯物洗ってもらえる? ウェアウルフだからって水や泡で遊ばないでね。それから尻尾の毛が付かないようにして。なんだったらついでに斬り落としておいてあげようかしら?」
「ウェアウルフは犬と違って水と泡程度でははしゃがないのでご心配なさらず。老人特有のおもいこみを改めますよう。それからこの尻尾は、ユーグ様も大変お好きなので。それから私の名前はルウです」
「へぇ。子犬でも飼えばいいのにねぇ。そうすれば食費とか抑えられるのに。ねぇ、奴隷?」
「お義母様と子犬以上を足しても余ってしまうほどのことが私にはできるので。むしろお得かと。それからルウです」
応酬を繰り返し、二人は並んで去っていく。頭を抱えて、苦悩する。どうしてこうなった、と。
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