魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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十三章

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「というわけで兄貴。エグ、エグ。今のが俺のルウと関係です・・・・・・・・・・・・うう、グス・・・・・・・・・・・・」
「とりあえず普通の奴隷と主の関係じゃないことだけはわかった」

 泣きながらそんなやりとりをしていたら、玄関のほうから人の気配が。なんとなく想像できたけど、やっぱり親父とお袋だった。

「あらユーグ! もう帰ってたの! お帰りなさい!」

 気難しく無口な親父とは対照的に、テンション高めなお袋が手提げ籠を置きつつ挨拶してきた。少し縮んで老けた印象がある。親父は白髪が増えたか?

「ああ、ただいま。買い物にでも行ったのか?」
「そんなところよ。あら? 誰か一緒なの?」
「ああ。この子は――――ってルウ?」

 さっきの威風堂々としたさまが、どこにもないルウは俺の背中へと隠れている。耳と尻尾が振るえているから、恥ずかしがっている? こんな可愛らしいルウ中々見れないからずっとこのままでもいいんだけど。いつまでもこのままじゃいられない。

 『念話』で対話を試みる。

 ――――――どうしましょう。まだ心の準備が。ウェアウルフの種族独特の挨拶をしたほうがよいでしょうか。それとも三つ指ついて人間らしい嫁入りのときみたいな挨拶のほうがよいでしょうか。下手をすればご主人様とお義母様の関係も。今後のことを鑑みて――――

 めちゃくちゃ考えてくれてた。めちゃくちゃ狼狽してた。く、嬉しい。

 ――――さっきはユーグ様とそっくりのお兄様だったからなんとかできましたが、ご両親ともなれば冗談は許されません。覚悟していたとはいえ、いざ対面したら。いけませんまだ心の準備が――――

 え? 俺と兄貴ってそんなに似てるかな? 昔はよく間違えられたけど。親父に兄貴と間違えられて怒られたりお互いの友達に間違えられたのはしょっちゅうあったけど、さすがに今は。体格も髪型も全然違うのに。

「ルウ? もしかしてあんた・・・・・・・・・」

 心の準備が用意されるほど甘くはなかった。お袋も親父も察したのか、途端に顔が強ばる。まさか次男が帰ってきただけでなく女の子を連れてきたと。どうしようといい意味での狼狽だ。

「あ~、親父? この子は、な? ユーグのな?」

 兄貴がフォローしてくれるけど、どうにも要領をえない。というかやっぱりおかしいぞ。

「親父、お袋。紹介するよ。ルウだ。俺の奴隷で、それで好きな子なんだ」

 さっと身を横に避けさせて、ルウを出す。突然のことだったからか、はっ! と慌ててルウは頭を下げた。

「奴隷。それに耳と尻尾・・・・・・・・・」
「ああ。ウェアウルフだけど、でも――――」

 最後まで言えなかった。お袋は、兄貴とは比じゃないくらいすごい顔をしていた。怒っているようでも哀しんでいるようでもある。親父は険しげに。

 なんでだよ。なんで皆そんな顔するんだ。俺は皆に紹介したくて好きな子だって知ってほしいのに。

「あ、あの――――」
「とりあえず、ご飯の準備をするわ」
 
 ルウをスルーして、そのままお袋は調理の準備に入る。その背中には物を言わせないという拒絶の意志があった。

「ルウ、隣に座って」

 困ったように所在なさげにしているルウに、隣の椅子へと促す。親父も兄貴も腰をかけたし、今のお袋にルウがなにかアクションをおこすのは逆効果だ。
 
「は、はい。失礼いたします」
「悪いなユーグ。今ちょっといろいろあってさ」
「いろいろ? お袋なにかあったのか?」
「お袋がっていうか、この街に関わることでな。丁度奴隷とか種族とか。そのせいで――――」
「ああ、ユーグ。ちょっとそれ外に出しておいてくれない?」

 微妙なタイミングでのお袋にずっこけそうになる。兄貴も親父も首を振るだけ。

「いいよ。どれ?」
「あんたの隣の椅子の物よ」
「は? どれだよ」
「だから、あんたの奴隷よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 意味が理解できなかった。おもわずルウと目を合わせてしまう。

「だって奴隷って所有物でしょ? 人間の食べ物は作れるけど、奴隷のウェアウルフに食べささせる物なんてないから」

「ちょ、なに言ってんだ」

 さすがに看過できない。俺の産みの親に、好きな子を否定された。家族に大切な人を受け入れてもらえなかった事実が悲しくて、衝撃的だった。なんでこんなことを言うんだ、なんで頑なに拒むんだって問いたださないと。

「というかあんた、女に飢えてるからって奴隷はないでしょ。犬のほうがましでしょ。良い人がいないならそういうお店いって発散させなさい。早く捨てなさい。ご近所で噂になるの嫌だし。嫁も用意できないのかって、世間様だってどうおもうか」
「いいかげんにしろよ。世間だとかなんだとか関係ないだろ。俺にはルウ以外いないし考えられないんだよ」
「なによ。そんな不細工」

「ああ!!?? なんじゃわれゴルアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ユーグ!?」
「おいユーグなんでいきなり燃えてるんだ!?」

 だめだ。我慢しようとしたけど感情のままに『紫炎』が自動で発動してしまう。全身余すことなく包まれて火柱があがる。こともあろうにルウが不細工だと? ふざけんな。

「あ、親父机と椅子が!」
「だめだそっちはもう黒焦げになっとる! というかお前服に燃え移っとる!」
「ご主人様、落ち着いてください。家事になります」
「フシュ――――・・・・・・・・・・・・ブルブルブルブル。ブジュウウウウ・・・・・・・・・・」
「というかその尻尾だって耳だって邪魔じゃない。箒の代わりにもなりゃしないわ」

「ヌガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ぎゃあ! 親父髪の毛がぁ!」
「もうだめだ水もってこい!」
「落ち着けご主人様こら」
「う゛っっっっ!」

 ルウの神速の抜き手が刹那的な速さで鳩尾に深々と突き刺さった。手首までめり込んだ鋭さは伊達ではなく、呼吸さえできない。

「なるほど。これが噂の嫁いびりですか。さしずめ私を試そうという魂胆なのですね。嫁ではありませんが」

 途方にくれている親父と兄貴。白目を剥いてうつ伏せの俺。睨み合うルウとお袋。

「お義母様。私はあくまで奴隷でございます。まだまだいたらない身ですが、ご主人様にお仕えしていると自負しております」
「ふん、どうだか」
「奴隷は主には逆らいません。そのご家族にどのような仕打ちをされても耐えるのが奴隷でございます。なのでお義母様の無駄に尊大な言葉遣いと態度にも歯を食いしばって耐えます」
「・・・・・・・・・・・・・・・殊勝な心がけだこと」
「お義母様が命令されるのでしたら自ら犬小屋を築いて外で寝起きいたします。喜んで街の残飯漁りで餓えを満たしましょう。ご近所にどのような噂をされてもよいお覚悟ならば」
「・・・・・・・・・・・・・・・・なんですって?」
「奴隷に対して酷い扱いをしているお方が、私とご主人様が帝都へと帰ったあとどのような人に見られるか。奴隷とはいえ物も大切にできない下劣な品性の持ち主だと噂されてもよろしいのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 緊迫した空気。少しでも触れようものなら弾けて二次災害が発生してしまう恐怖。ようやく立ち上がったとき、なんだか洗浄よりおそろしいことになっていた。

「お食事の準備を手伝ってもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・・・・手を洗いなさい」
「心配せずともお料理する前に清潔にするのは当たり前ですので。奴隷とはいえその程度の常識はありますので」
「そう。ユーグのおかげね。人間の常識を教えてもらったなんて。ウェアウルフは違うんじゃない?」
「種族が違っても同じでございます」
「興味ないわよ」
「ではなにゆえお聞きに?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「おいユーグ。お前がダメにしたやつ取っ替えるぞ」
「あ、うん。ごめん」
「親父、ちょっとそっち持って」
「おう」
「あとで弁償する」
「当然だ」

 正直気が気じゃない。お袋への怒りは今完全に消失している。だってルウがお袋への対抗心を剥きだしにしているんだから。もっというなら敵対心。絶対に勝つ、認めさせてやるっていう闘志がオーラになっているようだ。

「包丁の持ち方がなってないわ。ウェアウルフは母親から料理も教えないの? よく知らないけど」
「このほうが私には持ちやすいのです。お義母様のように手が太くはないので」
「毎日家事をしていればこれくらい太くなるわよ。あんただってこの手にあるくらい真剣に家事をしていないってことじゃないの? 奴隷だからやる気がないのかしら」
「私はまだ奴隷成り立てですし若いですし。ですがお義母様の年齢になれば同じほどになるかと」
「へぇ。私と同じ年齢になるまでユーグに飽きられてないといいわね。それか別の女の子ができたら捨てるでしょうけど」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「ねぇルウ? ちょっとこっち来て?」

 だめだ。やっぱり放っておけない。

「なんでしょうかご主人様。私とお義母様の邪魔をしないでください」
「なぁルウ。無理してお袋の相手なんてしないでもいいぞ」
「はぁ?」
「いや、俺もあとで親父達とお袋と話すから。それで理由聞いたりするし。それにいざとなったら帝都に戻るし」

 さすがにここまで険悪になるなんて予想していなかったから、俺の想像力不足を恨むしかない。

「ご主人様は私を本当に愛しているのですか」
「え、ちょ!? ええ!?」

 いきなりなに!? 恥ずかしくて下がったり顔を背けるほど尻尾で腰を固定されてガシィ! と両手で顔を挟まれて逃げられない。

「どうなのですか? ええ?」

 なんでちょっとキレ気味?

「す、好きです。愛してます」
「知ってますごめんなさいやっぱり無理です」
「強制告白させられた上にまたフラれた!」
「私の気持ちを優先してくださらないのですか?」
「いや、でもルウが嫌な気持ちになったり無理させたくないし。それに――――」

 親父達の態度もそうだけど、お袋には頑な意志が垣間みえる。兄貴もなにか言いかけていたし、なにか原因があるんじゃないか?

「私は無理なんかしていません。むしろ望むところです」
 
 薄い胸を景気よく叩くけど、それでもやっぱり不安だ。

「それに、どうしても認めてもらいたいのです。奴隷としても否定されたら私の矜持が保てません」

 それが理由か。奴隷として一種の美意識を持っているルウは、それが許せないのか。でも許せないポイントあった? お袋の発言に。

「なのであのお方の鼻っ柱と自尊心と誇りをぐしゃぐしゃになくして一生私には勝てない存在なのだと心の底から恐怖心を持つまで徹底的に戦いますのでご心配なさらず」
「心配するよ! 別の意味で不安だよ! そこまでしなくていいから!」
「大丈夫です。体術と素手は使いません」
「それ以外は使うってこと!?」
「ご主人様は私を誰だとおもってらっしゃるので?」
「この世界で一番大大大大大好きなルウだよ!」
「そうです。なので愛しの奴隷を信じてください」

 くるりと身を翻して、ルウはパタパタと走っていく。

「私は将来、大魔道士を越えるユーグ様の奴隷なのですから。これしきのこと造作もありません」

 う、そう言われるとどうしようもなくなる。ルウを信じたい。俺への絶対的信頼感に裏打ちされた対抗心なんだって、不本意だけど嬉しい。ひとまず様子見をしながら親父達と話をして。それでだめだとおもったらお袋をとっちめるやり方にするか?

「あら。どこに行っていたの? あまりに遅いから終わっちゃったわよ。しょうがないから切った皮でも食べて処理してくれる? いつもはゴミとして捨てるんだけどもったいないから。一人分余計に食材使わないといけないし。でも奴隷にはごちそうかしら? それともウェアウルフには? 」
「とんでもない。ウェアウルフはもっとしっかりした食事をします。それともゴミを食べ物と認識していらっしゃるのですか? そのような恥ずかしい見識でユーグ様をお育てになられたので? なら帝都に戻ったら私も見習ってよろしいでしょうか?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 やっぱり帰ってきたのは間違いだったか。軽く絶望した。安心できない。
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