魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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十七章

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「あ、先輩。おはようございます」

 ガーラ様の屋敷の一角。物置を借りているらしいルナは少し眠たげに案内してくれた。元々私物らしい実験器具の数々は、あちこちに散らばっていて乱雑だ。けど、よかった俺もこんなかんじだって。どこも研究者ってこんなだよなって安心感がある。

「先輩? なにかありました? 急にキリッとした表情になりましたけど」
「なんでもない。それで。エルフについてだけど」

 これまで手に入れた情報と呪いの傾向から、エルフはまだこの街にいると俺もルナも確信している。そうでなければ、あれだけの数と規模の呪いはのこせない。

 問題はどこにいるかだ。俺とルナは最初、流民の中に隠れているのではないかと推察した。だから、戸籍の作成によってエルフを炙りだせるかもしれないと。

「ガーラ様にもそれとなく聞きましたけど。エルフらしい人物は流民の中にはいなかったそうです。衛兵と役所の人が手分けして一人一人顔と名前を調べたので、間違いないそうです」
「だとするなら、もう街から逃げたか」
「それはないとおもいます」

 いつになく自信たっぷりに言い放つルナ。なんでそこまで言い切れるんだろう。

「先輩。忘れたのですか? 元々エルフは自分を雇えと売り込みにきて、断られたことを逆恨みして呪いをのこしたのですよ?」
「ああ。それが?」
「そんなプライドが無駄に高くて心がひん曲がっている輩がですよ? 自分が危ういからといって逃げますか? 逆に自分の呪いを簡単にときやがって、ムキィィ!! ってなるでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかぁ?」

 身ぶり手ぶりと表情は、エルフになりきっているのだろうか。真に迫るほどだけど、俺にはピンとこない。

「はぁ、やれやれです。とにかく、そんなこんなでエルフはまだこの街にいます。それも、今度はもっとヤバい呪いをおこすでしょう」

 先程と違って、急に切迫した気持ちになっておもわず身を乗りだす。

「たとえば。この街の住人すべての憎悪、報復心。負の感情を利用して街一つを潰すほどの」
「そんなことが可能なのか?」
「これまでのことを鑑みれば。さすがに文字通り消すことはできないでしょうけど。住み続けるだけで魔力を吸い尽くして死に絶えさせる、反乱をおこさせる、疫病と死病を蔓延させることも可能です」
「呪いってそんなこともできるのか・・・・・・・」
「系統が豊富ですからねぇ。しかもこれまで発見した証拠もエルフのものでしたし。それくらいならばできるでしょう。エルフは基本的に排他的で他種族に無関心でプライドが高い傾向にありますから。それに、魔力って誰でも自在に操れないけど感情って誰にでもあるでしょう?」

 つまり、本格的にエルフを捜索しなければいけないってことか。衛兵や役人と手分けして探したとしても、呪いで妨害されたら意味がない。

「なので、ルナちゃんはすごく良いことをおもいついたのですよ。まさしく、先輩にしか手伝ってもらえないものです」
「なんだ?」
「逆探知ですっ」

 ルナの提案に、思案する。本来は魔法に利用された場所、道具を媒介にして使用者の辿った痕跡、もしくは自身の位置を探す方法だ。

「本当は呪いで逆探知なんて無理なのですよ。正確な今いる場所を特定するなんていう精密な方法。というか誰もしたことありません。ですが、もし魔法と呪いの知識を組み合わせたらできるのではないでしょうか?」

 魔法と呪いを組み合わせる。今まで誰もそんなこと考えなかった。俺でさえ。きっとかの大魔道士でさえ発想しなかったんじゃないか? まったく違いすぎるものだったから。

「そんな大袈裟すぎますよぉ~~。さっきなんとなくおもいついちゃっただけで、それもできるかどうかもわからないので。なので先輩の意見を聞かせてもらいたいなぁ~って。それに、あはははは」
「いいな。やろう。逆探知」
「ほえ?」

 上手くすれば、俺の研究にも役立てられるかもしれない。

「え、え? いいんですか?」
「なんだ。お前が言いだしたんだろ?」
「いえ。てっきり研究所の上司みたいに馬鹿にされて終わりかな~って。あはははは。意外でした」
「どうせ他に方法はないんだ。できるかどうかってのも問題だけど。でも、面白そうじゃないか」
「うえ? 面白いですか?」

 そうだ。呪いと魔法を組み合わせるなんて、もし成功したら。今からワクワクしてきた。

「うわぁ。先輩ってやっぱり変人ですねぇ」
「うるせぇほっとけ。それで? 具体的には既存の魔法陣で良いのか?」
「うう~~~ん。そうですねぇ。たしか色々ありましたよね? 今回はエルフの呪いっぽいですし。でも呪具自体には保護とかかかっていませんし」

 それから、二人で資料を開き合わせて、話に話を重ねていく。いくら胸が膨らむほどの体験とはいえ、慎重に薦めなければいけない。

「先輩って魔法を創ったり謎を解いたり解析するのは得意みたいですけど。感情を推し量るの苦手でしょ?」

 途中、休憩のつもりなのか。それでも魔法陣に使用する材料、インクに使う薬草と虫の死骸の準備だけは手間取っていない。そこは、さすがに研究職か。働いているときもこうやっていたってかんじの手際のよさだった。

「必要なかったからな。今まで」
「だからあの奴隷の子もやきもきさせられるんですねぇ。納得ですわぁ。あははは」

 ? やきもき? なんのことだ?

「でも、先輩も悪いですよ? 両想いの女の子がいるのに他の女性になんて。まぁ、私が魅力的なのは仕方がありませんけど~~。恋心を利用されるのは女の子の常っていいますか。あ、知ってます? 昔片想いの相手が別の女性と結ばれてそれを恨んだ呪いで国が滅んだケースも――――」
「ちょっと待てや」

 聞き逃せない言葉の数々は一体なんだ。

「え? ちょ、先輩待ってください。目が血走ってますよ?」
「いいから喋れや。おかげで集中できねぇんだよ」
「えっと。だから私に魅力がありすぎるから奴隷の子から目移りしちゃってるって」
「お前に魅力なんてこれっぽっちもねぇ。二度と妄言をはくな。それ以外のことだ」
「うう、ひどいです~~」

 小芝居なんてどうでもいい。それより両想いとかやきもきとか。そういえばこいつはルウから聞かされていたんだよな。嫉妬していた理由、羨んでいた理由も。

「え? 違うんですか? だってあの子わかりやすいくらい嫉妬していたじゃないですか。私とかガーラ様とか」

 それは、厳密には違う。俺がルウを好きだって常時伝えているのに、他の女と一緒にいたりして、それである種勘違いしているんだ。俺が軽薄だと。穿った見方すぎるけど。だから、恋心ゆえの嫉妬じゃない。

 
「はぁ、やれやれ。先輩はもっと乙女心を勉強なさったらいかがですかぁ~? なんだったら私がご教示しますよぉ~? それに、本当に好きって気持ちがこれっっっっぽっちも存在していなかったらどんな嫉妬だってしませんよぉ~?」

 とりあえず、こいつが俺のことを馬鹿にしてるってのはわかった。腹立たしい。

「羨む気持ちと嫉妬の違いだってわからないんじゃないですかぁ~? プー、クスクス!」

 これ以上聞いていると我慢できない。こいつに対する怒りじゃない。ルウに対する、少しの期待。まさか本当に俺のことを好きなのか? ってさっきまで掲げていた決意が、揺らぎそうになる。先延ばしにしてしまいたくなる。

 だから、ルナに拳骨をして終わらせて作業を再開させる。

 今の俺のすべきことは、そんなことじゃない。
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