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十八章
Ⅰ
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「私は一体なにをしていたのでしょうか」
部屋の隅で体育座りをして、俺の脱いだ服を頭から被っているルウは顔を見せずに一頻り罵倒してくる。俺もさっきのことは恥ずかしくて、やりすぎたって後悔している。流れとか雰囲気で抱きしめちゃったけど、うん。すごい恥ずかしい。
「ご主人様にあのようなことを。ウェアウルフとしてあるまじき振る舞いです。奴隷として正しくありません」
「その、なんだ。ドンマイ?」
場にそぐわない励ましも聞こえたのかどうか。
「自戒としてご主人様の汗と様々な雑多塗れの衣服をあえて被っているものの、まだ足りません」
それ、俺にとってもダメージになってるよ? とは言えなかった。今のルウに対してなにがショックになるのか未知数だ。
「ご主人様。下着もかぶせて――――」
「流石に渡さねぇよ?」
「・・・・・・・・・チッ。かまととぶって。乙女ですか」
なに? 逆にほしいの?
「なぁ、ルウ。好きな子の苦しみを取り除けない魔法士が、魔道士になれるか?」
「いえ、別になれるのでは――――」
「断言しよう、なれない!」
「ご主人様の中ではすでに事実になっているのですね」
「なぁ、ルウ。俺さ。今はルウが苦しんでいる理由を教えられる魔法、持ってないけどさ。創るよ。魔法」
元々、魔法とは新しい発見。知識と探求を追う者が築きあげてきた技術と能力だ。だったら、そんな魔法だって創れるはずだ。
「例え魔法を発明したとしても。私がご主人様の気持ちには応えない可能性もありますが」
「それでもいいさ。絶対に後悔はしない。自分の創った魔法を後悔している魔道士がいるとおもうか?」
「実際にご主人様は魔法に失敗してお顔に傷が――――」
「いや、いない!」
「断言なさるのならなにゆえ一度聞いたのですか。それ以外にも多々問題がありますが。それともそれらも全部解決する魔法を創ると?」
「いや。そんな魔法じゃ生温い」
他種族婚も。親との確執も。嫁姑問題も。この世界の仕組みも、理も。身分も立場も種族も。ありとあらゆる事象も、事柄も。根本から変える。そんな魔法を創れれば。それは大魔道士すら成し遂げられなかった偉業。
生涯をかけて研究するに足る研究テーマだ。
「途方もない壮大なテーマですね。魔導書何冊作成するおつもりですか? しかもきっかけが好きになった相手だなんて。大魔道士も呆れるに違いありません」
「いや、きっかけなんていいんだよ。それくらいルウのことが好きだし」
「恋心ゆえに世界を変えるなんて大それたこと、恐怖心が勝ります。ですが・・・・・・」
言葉をきったルウは、中々続きを喋ろうとしない。
「あ、ありがとうございます。一応お礼を述べておきます」
「はうっっっっぅっっっ」
チラッと見えた目。ちょっと照れたような仕草。控えめなルウ。かわいすぎか、この子。多分今一瞬心臓がとまったぞ。
「そういえば、ご主人様。朝申していたことはなんだったのですか?」
「あ、あれはだな、はぁはぁ・・・・・・・・・」
「息を荒げないでください。気持ち悪いです」
まだ動悸がおさまっていないんだからしょうがないじゃん。
「あれのせいで、一日中気になって危うくお義母様のお洋服を一枚だめにしてしまいました」
なんかお袋とのバトルの原因にもなっているみたいで罪悪感が。けど、今はまだ言えない。今のルウに良い影響か悪い影響が出ることを、こんななし崩し的に伝えたくはない。
それに、ダグに注文した物もできてないし。それにシチュエーションも台詞だってまだ決めていない。そういう人生を左右するのはちゃんとしたい。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 誰かあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
などと悶えていたら、屋敷中に響き渡る絶叫。咄嗟にルナの声だと気づいて、ルウと顔を見合わせる。まさか、エルフか? と一気に二人で警戒態勢に。部屋を出ると、ルウが戦闘に立ってずんずんと走っていく。音か匂いか。とにかくルナの位置は把握できた。
屋敷の灯りはすべてが消えていた。『紫炎』で自らを照らし、『炎獣』をルウの隣で走らせる。大きすぎる階段を駆け上がり、尻餅をついているルナと、その側で倒れているなにか。丸っこい耳と、女性用の寝間着を着ていて獣に
近いけど、人らしさを存分に残している。虎に似ているけど、体躯が大きすぎるしなにより体表には毛が一切なく不気味な外見を有している。
咄嗟に魔物かと攻撃のモーションに。
「ま、待ってください先輩!」
「お待ちくださいご主人様」
二人の鋭い制止が、耳朶を揺らした。
「そ、その人はえっと。ごめんなさい。どこから説明すればいいか」
「ああ? どういうことだ?」
ルウ、ルナ、魔物を交互に見やる。さっきまでの狼狽の気配はなく、あちゃぁやっちまったって苦笑顔。そして魔物は、どういうことだろう。怯えている。
「あ~~。これはですね。え~~~っと」
「いかがされましたか!?」
下の階で何人かの慌ただしい気配。衛兵隊長が剣を手に持って真っ先にやってきた。怪訝気味だった衛兵隊長は、魔物を見るや緊張が解けた様子に。なにがなんだかわからない。
「いかがされましたか? 皆様。ガーラ様も」
ん? きょろきょろと周囲をたしかめるけど、ガーラ様なんてどこにもいない。
「今ガーラ様って?」
「はい。そこにおられるでしょう」
「え? どこに?」
「ユーグ殿も知っておられたのでは? たしかガーラ様は魔法士の方に説明済みだと」
「あ~~~。それは。先輩にはまだだったのですよ。ははは、はは」
「???」
なんだか二人とも、ひそひそと話している。
「いえ、もういいわ。隊長」
ぎょっとした。魔物だとおもっていた生き物が、女性の口調で言葉を発したのだから。
「すみません。私のせいで」
「隠していた私にも、原因があります。申し訳ありません。ユーグ殿。驚かせてしまったわね。無理もないわ」
直立歩行して、居住まいを直して恭しくお辞儀をする。その挨拶と声が、よく知っている人と重なった。
「改めて、私がガーラです。この姿でお会いするのは初めましてになるのだけれど」
部屋の隅で体育座りをして、俺の脱いだ服を頭から被っているルウは顔を見せずに一頻り罵倒してくる。俺もさっきのことは恥ずかしくて、やりすぎたって後悔している。流れとか雰囲気で抱きしめちゃったけど、うん。すごい恥ずかしい。
「ご主人様にあのようなことを。ウェアウルフとしてあるまじき振る舞いです。奴隷として正しくありません」
「その、なんだ。ドンマイ?」
場にそぐわない励ましも聞こえたのかどうか。
「自戒としてご主人様の汗と様々な雑多塗れの衣服をあえて被っているものの、まだ足りません」
それ、俺にとってもダメージになってるよ? とは言えなかった。今のルウに対してなにがショックになるのか未知数だ。
「ご主人様。下着もかぶせて――――」
「流石に渡さねぇよ?」
「・・・・・・・・・チッ。かまととぶって。乙女ですか」
なに? 逆にほしいの?
「なぁ、ルウ。好きな子の苦しみを取り除けない魔法士が、魔道士になれるか?」
「いえ、別になれるのでは――――」
「断言しよう、なれない!」
「ご主人様の中ではすでに事実になっているのですね」
「なぁ、ルウ。俺さ。今はルウが苦しんでいる理由を教えられる魔法、持ってないけどさ。創るよ。魔法」
元々、魔法とは新しい発見。知識と探求を追う者が築きあげてきた技術と能力だ。だったら、そんな魔法だって創れるはずだ。
「例え魔法を発明したとしても。私がご主人様の気持ちには応えない可能性もありますが」
「それでもいいさ。絶対に後悔はしない。自分の創った魔法を後悔している魔道士がいるとおもうか?」
「実際にご主人様は魔法に失敗してお顔に傷が――――」
「いや、いない!」
「断言なさるのならなにゆえ一度聞いたのですか。それ以外にも多々問題がありますが。それともそれらも全部解決する魔法を創ると?」
「いや。そんな魔法じゃ生温い」
他種族婚も。親との確執も。嫁姑問題も。この世界の仕組みも、理も。身分も立場も種族も。ありとあらゆる事象も、事柄も。根本から変える。そんな魔法を創れれば。それは大魔道士すら成し遂げられなかった偉業。
生涯をかけて研究するに足る研究テーマだ。
「途方もない壮大なテーマですね。魔導書何冊作成するおつもりですか? しかもきっかけが好きになった相手だなんて。大魔道士も呆れるに違いありません」
「いや、きっかけなんていいんだよ。それくらいルウのことが好きだし」
「恋心ゆえに世界を変えるなんて大それたこと、恐怖心が勝ります。ですが・・・・・・」
言葉をきったルウは、中々続きを喋ろうとしない。
「あ、ありがとうございます。一応お礼を述べておきます」
「はうっっっっぅっっっ」
チラッと見えた目。ちょっと照れたような仕草。控えめなルウ。かわいすぎか、この子。多分今一瞬心臓がとまったぞ。
「そういえば、ご主人様。朝申していたことはなんだったのですか?」
「あ、あれはだな、はぁはぁ・・・・・・・・・」
「息を荒げないでください。気持ち悪いです」
まだ動悸がおさまっていないんだからしょうがないじゃん。
「あれのせいで、一日中気になって危うくお義母様のお洋服を一枚だめにしてしまいました」
なんかお袋とのバトルの原因にもなっているみたいで罪悪感が。けど、今はまだ言えない。今のルウに良い影響か悪い影響が出ることを、こんななし崩し的に伝えたくはない。
それに、ダグに注文した物もできてないし。それにシチュエーションも台詞だってまだ決めていない。そういう人生を左右するのはちゃんとしたい。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 誰かあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
などと悶えていたら、屋敷中に響き渡る絶叫。咄嗟にルナの声だと気づいて、ルウと顔を見合わせる。まさか、エルフか? と一気に二人で警戒態勢に。部屋を出ると、ルウが戦闘に立ってずんずんと走っていく。音か匂いか。とにかくルナの位置は把握できた。
屋敷の灯りはすべてが消えていた。『紫炎』で自らを照らし、『炎獣』をルウの隣で走らせる。大きすぎる階段を駆け上がり、尻餅をついているルナと、その側で倒れているなにか。丸っこい耳と、女性用の寝間着を着ていて獣に
近いけど、人らしさを存分に残している。虎に似ているけど、体躯が大きすぎるしなにより体表には毛が一切なく不気味な外見を有している。
咄嗟に魔物かと攻撃のモーションに。
「ま、待ってください先輩!」
「お待ちくださいご主人様」
二人の鋭い制止が、耳朶を揺らした。
「そ、その人はえっと。ごめんなさい。どこから説明すればいいか」
「ああ? どういうことだ?」
ルウ、ルナ、魔物を交互に見やる。さっきまでの狼狽の気配はなく、あちゃぁやっちまったって苦笑顔。そして魔物は、どういうことだろう。怯えている。
「あ~~。これはですね。え~~~っと」
「いかがされましたか!?」
下の階で何人かの慌ただしい気配。衛兵隊長が剣を手に持って真っ先にやってきた。怪訝気味だった衛兵隊長は、魔物を見るや緊張が解けた様子に。なにがなんだかわからない。
「いかがされましたか? 皆様。ガーラ様も」
ん? きょろきょろと周囲をたしかめるけど、ガーラ様なんてどこにもいない。
「今ガーラ様って?」
「はい。そこにおられるでしょう」
「え? どこに?」
「ユーグ殿も知っておられたのでは? たしかガーラ様は魔法士の方に説明済みだと」
「あ~~~。それは。先輩にはまだだったのですよ。ははは、はは」
「???」
なんだか二人とも、ひそひそと話している。
「いえ、もういいわ。隊長」
ぎょっとした。魔物だとおもっていた生き物が、女性の口調で言葉を発したのだから。
「すみません。私のせいで」
「隠していた私にも、原因があります。申し訳ありません。ユーグ殿。驚かせてしまったわね。無理もないわ」
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