魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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一九章

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「お前、ルウになにをしやがった!?」
「妾はなにも。ただそうさのう。背中を押す手助けはしてやったかのう」

 ふざけたことを。そもそもこいつの狙いはなんだ? ただ単に逆恨みしての騒動にしてはやりすぎだ。こいつに得なんて一つもない。

「お久しぶりね。たしかモリクだったかしら」

 ガーラ様が、俺に控えろとばかりに手で遮りながら前に一歩進みでた。モリクがこのエルフの名前らしい。それとなく警戒と怒りを緩めないまま、ルナとルウをチラリと窺う。

「どうして、あなたは呪詛を残したのですか。そして、どうしてこの街に呪いを。それほどにあなたの誇りを傷つけたのかしら」
「呪詛? はて、なんのことやら」
「? あなたが言い残したのよ。この街に災いがもたらされると」
「呪詛? 災い?」

 モリクには演技ぶったところがなく、素できょとんとしている。ルウの無事をたしかめ終わったとき、おもいあたることがあったのか。ポン、と手を叩いて大笑いをした。

「なるほど。あれを呪詛と捉えたのか。ふふふ。ああ、哀れや。哀れ哀れ。ほんに雑じり者は。愚かよのう」
「どういうことですか? え? え?」

「どうもこうもないわ。妾は呪詛など残しておらぬ。まぁたしかに最初は腹もたった。だが、すぐにこの者が雑じり者であると見抜けた。それゆえに怒りはおさまったわ。ふふふ、妾はマナが見れるゆえにな。色でわかる」

 マナ? 色? エルフ特有の言語か?

「妾はただ予言しただけにすぎぬ。この街はこの者の愚かさによって滅ぶであろう、呪いとなりて災いとなるとな」
「だけど、あなたは実際に呪具を置いていますよね? つまりあなたのせいってことなんじゃ?」
「さにあらず。すべてはこの雑じり者の業。人々に種を植えつけておった」
「え? ええ?」
「ここまで言うてもわからぬか? ほんに人の世の移り変わりは儚く悲しく。一度里より出でれば、言葉の意さえ介さぬほど知性がさがっているとは」

 ルナは俺とモリクを交互に見やるけど、俺も意味がわからん。ただ一つ。このモリクってやつはむかつく。

「仮に、妾が呪具など置かずともここは滅んでおった。それほどに澱んでおった。すべての元凶は、そこの雑じり者よ。世の理から外れ、人のフリをして人の営みの中にいる。己が性さえまともに抑えられぬ歪が、人を導くなど。故に、種が育った。人の心にある悪しき種がな」

「なるほど」

 ガーラ様が神妙に頷いた。え、わかったの? というルナ。ゆっくりだけど、俺も改めて考えてみてわかった。ただ自分はきっかけを作っただけだと。たしかに、モリクが残していた呪具は、人の心に作用するものだった。

 嫉妬、怒り、羨望。そして憎悪。もしガーラ様が恨まれていなかったら。領主代理でなかったら。呪具なんてあっても意味なかった。そして、いずれ住民達の不平が積もりに積もって爆発してしまえば。流民がそのまま放置されていたら。
 
 モリクは、あえて呪具を使って、呪いを住民の手によって引き起こさせて証明したんだ。そして、ルウも。さっき俺にした態度も、攻撃も。俺への感情をモリクに利用された。俺への好意なのか。いや、悪感情なのか。

「私が、混じり者でなかったら。呪いなどおきなかったと?」
「しかり」
「・・・・・・私のせいだと」
「そう申しておろうよ。そも、人と交わりし種の証など。古代ならば既に淘汰され骨さえ残らず潰える宿運よ。弱く、どこの群れからもはずれるゆえな」
「・・・・・・」
「あるべき姿でないのであれば、滅びるのは必然。この街に住まう者が望んだ光景があれよ。ああ、愚かしや。人は人とおればよい。魔物は魔物と。エルフはエルフと。神は神と。それぞれふさわしき番いがある。じゃが、そなたは誰と番いになると?」
「・・・・・・気に入らないな」
「なに?」
「先輩?」
「ずいぶんとべらべら長いこと喋っているけど。あんた、自分のしたことの責任とりたくないだけだろ?」
「・・・・・・ほう?」
「ただ責任転嫁しているだけだ。ただ高みにいるだけで、自分からは動かずこそこそと隠れて。ただ言い訳をしているだけだ」

 ふふふふ、と小馬鹿にした笑い方が癇に障る。『紫炎』を発動、維持したままかまえる。気に入らない。気に入らない。俺の街を、お袋を、ガーラ様の苦労を。見てもいない。

「卑怯者だよ。あんたは。ただの卑怯者。なんの責任も負わないで。なにか重要な仕事一つもしたことないだろ? 無駄に長生きしすぎの皺なし婆じゃないか。定職にもつかないからそんなんになるんだ。親の顔が見てみたいな」
「し、皺なし・・・・・・ブフォッ! お、先輩、こ、こんなときに笑わせないでください・・・・・・」
「魔法士の分際で。自分より上位の者に対しての礼儀がなっておらぬのう」
「礼儀を弁えるべき相手には弁えるさ。敬意も払う。そんな価値のない相手になんてごめんだ。なんの研究の肥やしにもなりはしない。それに、種族しか誇ることないのか?」
「アハハハハハ!」
「・・・・・・まぁ妾はまだ五千年も生きておらぬから礼儀はとやかく言えんか」

 一番気にすることそれ?

「あんたは考えが古い形でとまってるんだ。しかも変に実力があるから変えられない。だから自分だけが正しいっておもいこんでるんだ。研究は、魔法は、魔道士は、過去の積み重ねだ。古くを理解し、新しい物を築きあげる。あるべき姿? いつの時代のあるべき姿だ。ふさわしい番い? なんでお前が断言できる」
「ふふふ・・・・・・・ハハハハハハ。ハハハ! お主、ユーグと言うたか。面白き。ああ、面白き。妾にそこまで大言をほざくとは。かのマーリンでさえ、せなんだぞ? よほどの大うつけか。それともそれほどの器か? なるほど。かの者を奴隷とし、主となるにふさわしいかもしれんな。だのに、まだ甘い」

 後半はなにを言っているのか。どうでもいい。ただ、こいつは許せない相手だ。許しちゃおけない。

「『紫炎』と言うたか?」
「っ!?」

 モリクが無造作に立てた指に、ポッと付いた小さな火。僅かに強く長く大きく。輪郭が徐々に巨大さを増していっている。焔といえる程強くなったところで、色がついたことで驚愕してしまった。

 俺の『紫炎』そのものだ。創りだした本人だからこそ紛い物か本物かすぐに見分けることができる。

 ピュ! と神速の音とともに残像さえ残さず、『紫炎』が消える。肩を貫き、焼け焦げた穴が生じている。血管も焼けて血は出ないものの、骨と神経、痛覚の一部分が抉られて消失するほどの火力。

 なんで、と疑問さえ浮かぶ間もないほどの連続で『天啓』、『炎獣』。俺が操作するより遙かに協力に、素早いアレンジで俺達に襲いかかる。それも、建物に延焼させないほどの精密さで。

「先輩!」

 風の魔法も、同様の技で相殺され、『固定』されていく。模倣じゃない、完璧に理解されて上回る俺の魔法を。

「エルフは、他の種族と違うて見えているものが違う。その奴隷と同じでな。ゆえに、これほどのこと造作もない」

「越えられぬほどの種の違いを、理解できてか? 人の子よ。伊達に古代より生きてはおらぬ」
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