魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十章

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「ウオオオオオ・・・・・・オオオオ・・・・・・」
「こ、これがエルフの真の姿なのですか!?」
「せ、先輩先輩! 起きてください!」

 目を覚ますと、ルナに往復ビンタをされていた。痛みの強さと激しさが段々と増していく。

「オオオ、オノレエエエ・・・・・・妾の顔を見たなああああ・・・・・・・・・」
「あ、先輩おはようございます! なに呑気に寝ているのですか! 私もガーラ様もプンプン&ブルブルだというのに!」

 まるで眠ってたみたいに、記憶が鮮明に戻っていく。ルナ、ガーラ様。そして嗄れて掠れた声でこちらを睥睨している存在。蜥蜴か蛇か。不自然なほど痩せ細って長く、しわくちゃな相貌。肌は緑がかった黄土色。でこぼこに折れ曲がった鼻。ぼさぼさで癖だらけで波打っている白い髪は艶がなくてカサカサ。

「う、うう・・・・・・」
「ルウ!?」
「きっと呪い返しが成功して――――」
「うるせぇどけ!」
「ぎゃん!?」

 隣で目を覚ましたルウに、声をかける。ホッ。どうやら無事みたいだ。

「ちょ、先輩!? ひどいですよ!」
「大丈夫か? なにか覚えているか?」
「・・・・・・・・・(ポッ)」
「呪い返し成功です! けどその反動かどうかわからないけどエルフの見た目が――――」
「どうしたルウ! どうして赤くなって俺から顔を背けるんだ!」
「呪ってやる・・・・・・・・・貴様らに永遠の苦しみををををを・・・・・・」
「いえ、その」
「くそ! エルフのやろう絶対許さねぇ! どこにいやがるエルフ・・・・・・ってなんだあいつは!」
「だからあれがエルフなんですってば! 人の言うこと聞いてください!」

 呪具は一つだけじゃない。俺とルナ達が屋敷から回収していた分、ガーラ様自身も含めて全部で三つあった。それを、呪具にした張本人のすぐそばで、張本人が壊したら。

 呪い返し。呪いの影響と怨念。それが壊した本人に反動として降りかかる。俺とルナが持ってきていた呪具。それをモリク本人が壊した。だとすれば、なんらかのダメージを与えられるのではないか? 

 まだ未確定だった。なにしろエルフの呪いはルナでも解析できず、なんとか押えこんで放置していただけ。本当にエルフにダメージを与えられるのか。なんらかの対策を施しているんじゃないか。

 だからこそガーラ様を連れていった。そして、ガーラ様をモリクは殺さなかった。呪いそのものであるガーラ様を殺すのは、自分にとって好ましくないから。

 つまり、呪い返しはモリクにとっても有効だと確信した。そこまではいい。けど、まさかあんな見た目が変ってしまうなんて。まさかそれだけで終わりか? なんらかの呪いの作用なのか?

「なぁ、ルナ。あいつあのままの状態で生け捕りできないかな?(ゴクリ・・・・・・)」
「(ゴクリ・・・・・・)じゃないですよ! なに研究欲に囚われてんですかああ!」
「オノレ・・・・・・・・・オノレオノレオノレエエエエエエ・・・・・・・・・」
「ああああ! ほらあああ! せ、せせせせ先輩どうしましょう!? エルフめっちゃ怒ってますよ!? ダメージ喰らってないんじゃないですか!? だから行き当たりばったりの作戦なんて嫌だったんですよおおおお!」
「△○○×※◇◆■●▼Δ!」
「ひぃ!?」
「くそ!」
「きゃ!」

 黒い炎をモリクが放った。咄嗟に魔法で防いだけど、『紫炎』がずぶずぶと浸食されて、貫通した。咄嗟にルウとルナ、ガーラ様を抱えて横に飛ぶ。

「ほらああああああ! まだ全然じゃないですかあああああ! ピンピンしてるじゃないですかああ! きっとあれエルフの呪い+魔法ですよおおおお! 見た目が変っちゃっただけじゃないですかあああ!」
「ユーグ殿。どうするの?」

 くそ、考えろ。考えろ俺。

「皆様なにをおっしゃっているので?」

 まだ寝ぼけ状態のルウが、ある意味呑気なことを言ってるけど。 

「エルフの見た目あれ、元からでしょう?」
「「「え???」」」

 紅の雷が床を消滅させながら迸る。それだけじゃなくて建物自体が崩れるほどの攻勢に逃げ惑う。

「どういうことだ、ルウ!?」
「どうもこうも。私があのエルフと会ったときからあの見た目でしたと。ですから今更なにを見た目のことで驚いているのかと」
「え? え? どういうことかしら?」
「・・・・・・なるほど。合点がいきました」
 
 ポン、と手を打って納得してるルナに視線が集中する。説明を求める前にモリクの奇声と魔法が同時に襲いかかってくる。

「呪いの反動です! 今は説明できませんけど、やっぱり呪い返しの影響が出ていたんですよ! 先輩いきましょう! 勝ち確です勝ち確!」

「へいへいへいへ~~~い! このくそエルフ~~~! そんなもんですかあああ!? 貴方の魔法なんてなんぼのもんじゃいですよおおおお!!」
「△○○×※◇◆■●▼Δ!」
「ってユーグ大先輩が言ってましたあああああ!」
「てめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 モリクの魔法が俺に集中している。必死に防ぎ、避けながらルナへの怒りとともに対抗策をこうじる。ルナは言った。呪いと魔法が混ざっている攻撃だと。今までモリクは呪いは呪い、魔法は魔法と別々に使っていた。俺とルナが協力した『逆探知』と同じやり方を。易々と我がものにしている。

 それはいい。技術と研鑽については今することじゃない。そうだとしたら魔法と呪いを組み合わせなければいけないほど弱体化しているということだ。

 そして、俺達にもそれができる。

「なら・・・・・・!」



 ――――――――――――ルウ。ガーラ様を一旦安全な場所へ――――――――――――



      ――――――――――かしこまりました――――――――――――



 駆け出し、同時に義眼を作動させる。『炎獣』、『天啓』。サポートに回す。赤き閃光が足を掠める。焼け焦げる痛みじゃない。吐き気をもよおす負の感情。義眼を作動させて、次に迫りくる攻撃を、『固定』。エルフ独特の技術によるものなのか、含まれている呪いの影響か。徐々に『固定』が解けていく。

 けど、通じる。俺の魔法は。明らかに魔法の威力も呪いの力も弱まっていると実感できるだけじゃない。義眼を作動させる。

「無駄だ無駄だ無駄だ無駄だああああああ!」

 制御できない。そうするより先に呪いが義眼を通じて俺に降りかかってくる。処置されている呪いと違って生の呪詛が苛む。

 俺が制御できるのはあくまで魔法だけ。呪いについてはどうにもできない。だから、呪いの苦しみだけはどうにもできない。制御しきる前に、襲いかかってくる怨念。どんな呪いか。全身の血という血が沸騰しそうな苦しみに阻まれる。

 そうだ、最初からわかっている。ただエルフの魔法を制御できるかどうかたしかめるだけだ。

 さっきは家屋だったこと。ルウがいたこと。モリクを油断させて『呪い返し』を誘発が目的だったこと。だから義眼をあえて使わなかった。けど、今は違う。

「な、に?」

 モリクの様子が変る。奇声が、悲鳴に変る。膝をつく。同時に双方の魔法が、フッと消えた。

「ぐぎぎぎぎぃ、き、貴様あああ! なにをしおったか!?」
「ご、ごおおお、ぐはっ!」

 一体どんな呪いなのか。まるで病に等しい発作めいた衝動。心臓の血管が逆流してそのまま喀血したほうがましな症状に見舞われる。

「なにをしおったか!? 答えよ!」
「はぁ、はぁ・・・・・・! 呪い返しだよ、さっきと同じことだ!」

 モリクと同様の苦しみを味わっている俺に、新たな魔法が迫る。さっきよりもだいぶ小さい。『天啓』が防ぎ、『固定』した上で義眼を使う。モリクが苦しみ、のたうつ。さっきよりもだいぶましになった、義眼を通して流れこんでくる呪いの影響から一足早く脱する。

「馬鹿な! ぐ、なぜそなた如きがまた・・・・・・!? いつ!?」
「俺より長生きで物知りなんだろ!? ちったぁ考えろ!」

 徐々に、弱くなっていく魔法。それに反比例するモリクへの呪い返し。そして和らいでいく俺への反動。

「ルナアア! 風えええええ!」
「は、はいい!」

 『炎塊』。ルナの魔法で勢いを増し、何倍にも膨れていく。ターゲットを変えられた攻撃が、ルナに迫る。『天啓』と『炎獣』が前もって指示していたとおりにルナを遮る。モリクが、初めて防御をした。明らかに、弱すぎる魔法。当初のエルフらしい尊大さと強さの欠片なんてどこにもない小さな抵抗。呪いすら含まれていない力。炎に呑込まれた。

「な、なぜ。妾の、エルフの秘術が・・・・・・」
「うらああああああああああああ!!」

 『紫炎』を纏った拳で、モリクに追撃する。今の攻撃だけではない。圧倒的疲労と氏に体で、芋虫みたいな体勢で転げ回る余力さえない。ただ喉が擦り切れるかとおもうほどの甲高い悲鳴。

 哀れみすらない。こいつのせいで、どれだけ俺達が振り回されたか。
 
「げせぬ。げせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬげせぬ。人の子の分際で。百年も生きられぬ弱く愚かしく無様な人間風情が・・・・・・」
「人間ってのはなぁ。成長する生き物なんだよ・・・・・・」
「おもいしったかぁ、です!」

 いつの間にか俺の隣に立っているルナは無視。モリクを追う。

「この傷が、見えるか? ああ? この失敗があったから、傷ができたから前に進めるんだよ!」
「そうです! そのとおり!」
「わ、妾が。妾が。これは嘘じゃ。嘘じゃ嘘じゃ」
「ええい往生際が悪いぞぉです! とっとと大人しくお縄につきやがれいです! やっちゃってください先輩! それとも私がやっちゃってもいいですか!?」
「ぐ、ぬ、ぬ、ぬううう・・・・・・! キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 モリクが、最後の力を振り絞ったのか。俺目掛けて飛びこんできた。

「よこせ・・・・・・それさえあれば妾は・・・・・・。妾はああああああ・・・・・・」
「こ、この! ぐ!?」

 すぐに『紫炎』でこうげきしようとしたが、モリクのまさかの挙動に、大きく動揺してしまった。

「先輩! 『風陣』!」

 烈風に巻きこまれたモリクは、そのまま地面に激突。一度、二度、三度。まだ終わらない。

「ちょ、先輩なにやってんですかああ! もうちょっとで危ないところでしたよ!? 私がいなかったらどうなっていたか! もう!」
「あ、ああ」
「えい、この! この! このおおおお! お前なんかもうこわくないもんね~~~! こうだ! えい!」

 ルナが念入りにモリクを攻撃していく様をぼんやりと眺めながら、顔半分の戒めを戻すことも布で隠すこともできずにいる。

 モリクがなんらかの動きをしてくるのは想定できていた。呪いか、魔法か。けど、どれでもなかった。案外シンプルな動きすぎて拍子抜けしたくらいだった。

 けど、そこじゃない。明らかに俺の義眼を奪いにきた。
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