魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十章

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 モリクを運びながら、ルナとともに屋敷を目指す。『逆探知』では、反応がなかった。つまり、ガーラ様を探せない。ルウとなにかあったのかと、ひとまず屋敷へと戻ることにした。

 悠長にしていることなんてできない。屋敷に戻るのはルナ一人だけで充分だろ。ぶっ殺すぞ。

「どこにいるかわからない以上、ただ闇雲に探したって意味ないでしょう? それに皆さんに知らせないと次の手段だって見つけられませんよ! 先輩こそいいかげんぶっ殺しますよ!?」

 くそ、ルナのくせになんて冷静で的確な判断なんだ。ルナのくせに。

 『念話』でルウに語りかけながら、屋敷を目指すけど焦りだけが強くなる。ルウ、無事でいてくれ。持ちあげているモリクが憎くなっていって、そのたびにルナに怒られて、じれったい。

 屋敷は、静けさを取り戻していた。暴徒達は全員捕らえられていて、情報を交換しあう。モリクを捕まえたというと驚かれたが、それ以上に俺は驚いた。

 ルウとガーラ様が戻っていると聞かされた。流民達とともに。まるで守られるように。

 今ガーラ様は衛兵隊長、そして怪我人と捕まった人達の処置を話しあっている。呪いの件も含めて、そっちはルナに任せる。というかどうでもいい。

「ルウは!? 俺の奴隷はどこにいるんだ! 無事なのか!?」
「え? ルウって?」
「この世で一番かわいい女の子はどこにいるって聞いているんだ!」
「え、ええ~~~~~?」
「ええい、まどろっこしい! ウェアウルフの奴隷の女の子だ!」

 頭のおかしくて理解力の乏しいやつにも伝わりやすいよう言語化するのに手間どったけど、なんとか居場所がわかった。

「あ、ご主人様」

 ルウは調理場で食事をもらっていた。呑気に食べている姿にズッコけそうになったけど、怪我はどこにもなさそうでホッとする。

「ルウ、どうして『念話』で応えなかったんだ?」
「『念話』? ああ、忙しかったので」
「食べるのにか?」

 俺との意志の疎通は食事より優先度低いのか。しょんぼり。

「いえ。お義母様についてガーラ様とお話をしておりました」
「え、お袋?」

 そういえば、暴徒達をガーラ様はどうするんだろう。もしかしたらお袋まで罰せられるんじゃ? 俺がルウのことを心配していたときにルウはお袋のことを不安がって。やだ、健気。自分のことを嫌っている相手になんて優しいんだ。慈悲。圧倒的心の広さ。

「他の暴徒達は情状酌量の余地を与えてどうぞユーグ様のお義母様お一人に罪を被せて処刑されるようにと嘆願しておりました」
「なんておそろしいことを!」
「もしかしたらガーラ様はご主人様への報酬を無しにするかもしれないと。不安でお肉も三つしか食べれないかもしれないなぁ~と」
「打算的! そして食欲優先してるよこの子!」
「あとこの機会に邪魔な人を自分の手を汚さないで消し去れるチャンスかもしれないので」
「狡猾すぎる! お袋のことそんなに許せなかった!? いやだった!?」
「私がお嫌いになりましたか?」
「・・・・・・んんんんんんんううううううんんんん~~~~~~~~~~~!! それでも好きだっっっ・・・・・・」
「最低ですご主人様。自分の肉親より我欲を優先するなんて。明日から話しかけないでください」
「どうしろとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」
「うるさいです静かにしてください。私だけでなく怪我人も多いですし皆様まだ働いていらっしゃるのですよ?」
「うう、俺が悪いの?」

 こんなやりとりをして、二人でガーラ様の元へ。道すがらに暴徒達を罰するつもりはないようだと人づてに聞いた。ルウが言っていたことは完全に冗談だと発覚して、ここでようやく終わったと実感する。
 
「冗談もほどほどにしろよ、まったく・・・・・・・・・」

 軽い気持ちで、窘めるつもりでルウの頭をポン、と叩いた。叩いたっていうよりも置いた。もしくは手を弾ませたくらいの威力だったんだけど。

「・・・・・・初めて、叩きましたね」
「ん?」
「私を、叩きました」

 ・・・・・・なんだかルウの様子が変だ。俺が置いたところをたしかめるように、愛おしそうに手で擦っている。俺を置いてスキップしながらどんどん先に進んでいく。

 なんだ? どうしてあんな変に? 尻尾もブンブンブンと勢いづいているし。

「ご主人様は奴隷である私に手をあげる人です。しょうがない人です。本当に・・・・・・本当にしょうがない人です」

 や、手をあげるって。軽めだぞ? 痛みなんてほぼないくらいだぞ? でありながら、何故か鼻歌でも歌いだしそうなかんじだし。

「あ、先輩。やっと来た~~。まったくどこで道草食ってたんですか? こっちは大変なんですよ? もう私一人じゃどうすればよいのやら。もうへロヘロのクタクタのペコペコです」

 執務室にはプンプン! とばかりに荒ぶるルナとガーラ様。ガーラ様の周りに魔法陣があったりいかつい道具があるところから察するに呪いをなんとかしようとしてるんだろう。

 つまり、俺に手伝えと?

「はぁぁ~~~? 先輩なんて呪いに関してトーシローの雑魚のいかれポンチに手伝ってもらってたら時間がいくつあっても足りませんよ。あほですか?」

 殴りたい、この女の子。

「呪いが勝手になくなちゃっているから焦っているんですよぅ~~。ちんぷんかんぷんのはてなです」
「は?」

 ガーラ様の呪いがなくなっている? 本当ならたしかにおかしい。モリクを倒して封じたとはいえ、それだけで解ける代物じゃない。あれはガーラ様が自分でなんとかしなければいけないことで。

「ねぇねぇ。ガーラ様。一体どうしちゃったんですか~~? なにがあったんですか~?」
「それは、ええっと」

 ちらり、と。俺ではなく後ろにいる子に対する意味深な視線。俺が遮っている位置にいることに気づいてサッと視線を戻した。気になって振り返ると、決して顔を合せまいと頑ななルウ。

 二人の反応っぷりに、「ああ~」と確信する。

「いや、ルナ。とりあえず今はモリクだ。こいつをどうするか決めよう」
「ええ!? いやややや! こんなこと放置していていいわけないですよう!」
「ユーグ殿に賛成」
「差出がましいですが私も」
「まさかの満場一致!? 数の横暴です~~!」

 ルナが不平をブーブーと垂れながら、それでも話が続く。彼女もこのままだったら時間の無駄だって自ずと理解できたらしい。 

「そうだな。できれば標本に――――」
「「「却下」」」
「じゃあ暗示・幻惑の魔法をかけ――――」
「「「却下」」」
「じゃあ
「「「却下」」」
「理由くらい言わせろよ!?」
「数の多さは絶対ですよご主人様。戦争の勝敗と世間と同じです」

 くそ、この子はシビアで現実的なことを。

「だって先輩絶対エルフの魔法と呪いが知りたいんでしょう?」

 ギク。

「やれやれです。やはりご主人様は期待通りの考えで。がっかりです」
「そんなことでもしまたモリクが同じ事したり逃げだしたりしたらいけないものねぇ」
「とりあえず、刑罰が決まるまでこのまま牢屋にぶちこんでおけませんか?」
「すぐに処刑されては? ルナ様が」
「処刑するにしても、場所の用意や準備も必要よ。すぐにはできないわ」
「けど、下手に生かしておくのも不安だしなぁ。ルナ。あの封印と拘束はどれだけ保つ?」
「あ、それに関しては当分大丈夫かと」

 う~ん、と。あ~でもない、こ~でもない、と四人で知恵を捻る。それでも、具体的に今すぐどうにかする方法も理由もない。

「ひとまず、今日はこの辺で終わりにしたいのだけれど。私もやらなければいけないことが残っているのだし」

 その一言で、解散になった。お袋を背負って、ルウと二人で帰宅の途につく。きっとこのままモリクはこの街にとってよくない存在として罰せられるだろう。けど、そうなるともったいない。エルフの魔法、呪いの秘密。やつは秘術・禁術とも言っていた。その一端を知れるかも?

 なんて考えながら門を潜ったとき、ガーラ様がルウにありがとう、と手を握ってお礼を言っていた。なんだか俺まで嬉しくなってエルフのことが今はどうでもよくなった。

 なんだかんだで戦いの負傷が響いてきたのかあちこち痛んできた。

 ルウのことが心配で麻痺していた感覚、疲労が今になってどっと広がっていく。

「ご主人様。お義母様を背負うのを代わります」
「いや、それは」
「なんですか? 私がお義母様を背負うのは許さん! という亭主関白を発揮したいのですか? それともマザー・コンプレックスを発症したのですか?」
「どっちも違うよ! ルウだって疲れてるだろってことだ!」
「いい加減にしてください」
「どこで怒った!?」
「私がお義母様のような老いぼれを背負えぬほど無力だと? たしかに握力も今不安ですし足もなんだかんだでがくがくですし膝も割れてるかとおもうほど熱を帯びていますが。今までの仕返しとしてわざと落としかねないとは言い切れませんが」
「させられねぇよ!? いろんな意味で!」
「・・・・・・叩きますか?」
「叩けねぇよ!? 物理的にも!」
「ちっ」
「なに? 叩かれたいの?」
「セクハラはやめてください殺しますよ」
 
 はぁ~、と大きく脱力。お袋を落としそうになって体勢と共に持ち直す。しかし、まさかお袋を俺が持つ日が来るとは。小さい頃は俺より大きくて重かったのに。いつの間にかこんなに小さくなったんだ?

「お義母様が操られていたのは、この街への不満だけではないのですよね」
「・・・・・・そうかもな」

 お袋に襲われたときの光景。あれはお袋が操られた理由だ。ガーラ様への不満。俺への不満。街が変っていなくなっていく不安。家族への不満。そして、ルウへの不満。

 憎悪、恨みとは信じたくない感情。けど、ルウはわかっている。お袋に対するやりとりをおもいかえせば複雑だろう。どう声をかければいいのか。

「これはバトルのしがいがあります」

 ・・・・・・・・・。

「ばと、え? なに?」
「お義母様を屈服させる。お義母様を認めさせるバトルです」

 フン、とどことなく鼻息が荒く、ワクワクとしているルウ。

「は、ははは・・・・・・。うん。うん、そうだな」

 ルウは、そういう子だ。
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