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プロローグ

はじまりのおわり

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 憎悪と怨嗟。執念と未練。この世のものとはおもえない怪物は、身の毛もよだつ唸り声をあげつつ、体中から黒い霧状の魔力を噴出しながら、急速に萎んでく。

「オオオオオオ・・・・・・・・・・・・オノレエエエエエエエエエ・・・・・・・・・・・・許さぬ、許さぬぞ貴様らああ・・・・・・!」

 雷鳴が轟き、火山からあがるマグマの火柱が激戦が終わった玉座の間を照らしている。人間の美意識からはかけ離れた黒と赤、そして紫で埋め尽くされ、ところどころ理解できない調度品と配置。侵入した当初とは逆に、すべて破壊され、瓦礫と残骸まみれとなっている空間を眺めて感慨に浸る余力がない。

 魔王。魔界に君臨し、魔族の頂点に座する恐怖の象徴。この世界を我が物にすべく、争いと残虐のかぎりを尽くした宿敵は、惨めに倒れ伏し、俺の前でただ最後のときを迎えつつある。

 長かった。

「我はここで死すとも、未来永劫貴様らを呪ってやろう! 復讐の念をこの世界に残し、いつしか復活しいくたびも侵略しよう! 今度こそ貴様らのすべてを奪ってやる!」

 いまだ喚いている魔王に、ボロボロとなった俺は最後の使命をまっとうすべく、歩み寄る。女神より賜った聖剣を携え、残りわずかな体力と気力を保つ。

「呪われろ! 呪われろ女神! 滅びよ勇者! これで終わりではない!」

 聖剣をかまえ、そして振り下ろす。いくたびもの戦闘を重ね、体にしみついた斬撃は意識せずとも、魔王の頭蓋骨にめり込む。刃が煌びやかに明滅し、魔王を真っ二つに裂いていく。

 黒い光が弾けた。魔王が肉片一つ残さず消滅したのを確認して、緩んだ。そのまま仰向けのまま倒れていく。

「ジン様!」

 仲間達が、駆け寄ってくる。魔王を倒すために冒険をしてきた同士。俺以上に負傷しているのにも関わらず、悲しそうな表情を浮かべている者。悔しそうに歯を食いしばる者。泣きながら回復魔法で再生を試みる者。なんとなく、わかっている。俺はもう死ぬ。

「どうか諦めないでください! すぐに治します!」
「そうだ、皆で国に帰ろうぜ!」
「私たちにはまだあんたが必要なんだよ!」
「「「「勇者様!」」」」

 勇者。女神に選ばれた聖剣を扱える唯一の存在。英雄。皆の希望。最初は重すぎる呼び名だった。魔王軍に故郷を追われて孤児として育った俺が、なんの因果か勇者に選ばれた。世界を救う使命と聖剣を女神より与えられて、戦ってきた。いいことばかりじゃなかった。魔王軍によって苦しんでいる人を救えなかったこともあった。負け続けで、ふさわしいのかと悩んだこともあった。

「なぁ、皆。俺、勇者としてちゃんとできたかな?」
「当たり前だろ! 誰がなんと言おうと、お前は立派な勇者だ!」
「世界を救うなんてこと、あんた以外に誰ができたのさ!」
「魔王を倒したのだってあなたです! あなたが勇者だったから勝てたんです!」

 そっか。それが聞けただけでも、もう満足かな。やりたいこととかできなかったこと。たくさんあるけど。

「おい、ジン!」

 仲間の呼びかけが、遠のいていく。体の感覚が消失して意識が遠ざかっていく。死ぬんだ。こわくはなかった。死んだらどうなるんだろう。ただそんな疑問が浮かんで。

 勇者ジンは、命を落とした。
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