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一章

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 目が、醒めた。眠りから起きたのと同じ感覚だけどどこかおかしい。だってついさっきまで俺は死にかけていたはず。あれが夢だったにしてははっきりと残っている記憶が生々しく鮮烈すぎる。だとしたら、今俺はどうなっているんだ?

 手足はある。動かしてみるけどなんだかおかしい。短くて、自分の体より動きが鈍くて自在に動かせない。ふと視界に入った手は細く短く、聖剣を掴み慣れた太く豆だらけな戦士とはかけ離れている。

 首が動かなくてここがどこなのかはっきりとわからないけど、それでも見慣れない家具や室内が巨大すぎる。まさか、ここは巨人の国なんだろうか。魔王に支配されて、俺たち勇者と人間と敵対していた。まさかあのとき俺は死んでいなくて、魔王軍に捕まって巨人の国に移送されたとか?

 仲間達はどうなっているのか。聖剣は。王国は。こうしちゃいられない。けど、起きれない。

 ゴン! と頭に何かが当たる。俺を覆っている木でできた牢屋の一部だ。けど、尋常ではない痛みが生じて我慢できない。

「ふぇ、ふぇええええええええええええええん!!」

 恥も外聞もなく、泣き喚いてしまう。情けない。けど、おもいとは裏腹に感情が制御できない。自分の泣き声を制御できず、逆に喉が痛くなるほど激しくなってしまう。

 というかふぇえええええええええん! ってなんだ。女子供じゃあるまいし。勇者なのに。

「あらら、レオンちゃんどうちたのぉ~~~?」

 いきなり現われた巨大な女性に、いともたやすく抱き上げられる。咄嗟に身を捩り抵抗して暴れるけど為す術もなく、そのまま腕の中へ。

「あらあら~~。頭ごっちんこしちゃったのね。痛いの痛いのとんでいけ~~~」

 不思議とした安心感と体温。そして柔らかさ。今までついぞ味わえなかった暖かさが、自然と俺に落ち着きを取り戻させた。

「どうしたの、ママ?」
「あ、パパ。レオンが頭ぶつけちゃったみたいなの」
「ええ~~~? 本当? 大丈夫、レオン」

 新に現われた男の巨人は、どうやら夫らしい。でも、やっぱりおかしい。服巨人らしからぬほど清潔で、ちゃんとした服装。敵である俺に対して友好的な態度と柔和な笑顔。

「ほ~~~ら、レオン。パパの高い高いだぞ~。ほら、高い高い~!」

 うわ、いきなり天に捧げられるかとおもった。何度も繰りかえされるうちに、股のあたりがひゅんとするからやめてほしい。新手の拷問か? というかレオンってなんだ? 俺は勇者ジンなのに。

「ん~? おかしいなぁ。いつもならこの子、これで喜ぶのに」

 いつも?

「じゃあミルク作りましょ。それなら機嫌も直るわよ」
「あ、そうだね。じゃあ一緒に作ろ」
「はぁ~い♪」

 抱きかかえられ、室内を移動する。その合間にあったある物に、俺は衝撃を受けた。

「だあああ! ぶうううう!」
「あれ、レオンどうしたの? 鏡が面白いの?」

 貴族や王族。裕福な身分しか揃えていない貴重品である鏡。それ自体は今どうでもいい。問題は鏡に映った俺の姿だ。二十歳であったはずの俺の見た目は、どう見ても欠片さえ存在しない。短い手足。あどけない顔。燃えるような赤い髪ではなく、抱きかかえている男と同じく黒い頭髪。

 どう見ても、赤ん坊でしかない。自分でなんとか触ってみるけど、連動して映っている鏡の中の赤ん坊も同じ動作を繰り返している。

「おんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「おいおいレオン?」
「あらあら、パパあやしてあげて?」

 なにかとんでもないことがこの身に降りかかっている。それだけはたしかだった。
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