上 下
9 / 49
二章

しおりを挟む
 そして、数年が経った。

「あ、このやろうあかり! 勝手に地雷設置すんじゃねぇよ!」
『うっさいわね。あんたがもたもたしてるからでしょ』

 勇者をひとまず休んだ俺は、中学生になった。

「あ、田中@氏! そこ危ない! 待って今俺突るから!」
『乙で~す』
『というかお前ら受験生なのに勉強しないでいいのか?』
「ふはは。なにそれうける」

 かつてやっていた聖剣の鍛錬もやらなくなって、どれくらいか。勇者としての使命も責務も完全に消失して、全力で遊びまくっていた。毎夜の恒例となったFPSのオンラインで先輩・友人一同で盛り上がっている。炭酸飲料とポテトチップスを合間に摘まんで。
 
「ちょっとレオン! 夕ご飯よ! 早く来なさい!」
「へぇ~い、ちょっと待ってママ~!」
『え、あんたまだママ呼びしてんの!?」
『まだってことは昔からママ呼び? キモ」
「うっせぇ! 癖になってんだから仕方ねぇだろ! このくそあかり!」
『『うわ~~。草生える』』
「うっせぇほっとけ! というかあかり! お前だって未だにお父さんとお風呂入ってんじゃねぇか!」
「あ! ちょ、あんたそれ言わないって!」
『詳細キボンヌ』
『詳細キボンヌ』
「隙ありぃ!」
「あ、ちょっと狡いわよ!」
「ははっははっは! ざまぁ! 勝てばいいんだよ勝てばぁ!」

 どこにでもいる十代の男の子として生きていた。演じているんじゃない。自分の気持ちに素直に生きている。勇者らしさなんてどこにも微塵もない。

「あ、そうだ。今度の土曜日買い物付き合ってくれない?」
『私パス。美容院いくから』
「うっわ、ノリ悪」
『俺いいよ。カラオケ行きたいし』
『小生も』
「じゃああかりを除いて、十時に駅集合でおけ? 三時頃からカラオケってかんじで」

 どこにでもいる平凡な日本の男の子として。

 等身大の自分で。全力の本気で。完全にこの世界の人間として。

 青井レオンとして生きている。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

好いたの惚れたの恋茶屋通り

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:221

執事物語

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ソウル

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

僕らが生きるのは夜の街。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

未姫(ひつじひめ)の困惑  

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

風邪っぴき紅と甘えんぼ空君

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:4

主を待つスリッパ

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

無責任な大人達

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

おかたつけ

絵本 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...