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本編
昼休みに降臨する大天使-2
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「あぁ、田端君。僕は君の敵、なかなか悪くないと思うけど」
話題を変えるように、思い出したように、将也は言う。
だが、それには香澄が顔を顰めた。圭斗のことは禁句なのだ。
「どこがですか? 物凄く生意気ですよ?」
険しい顔をする香澄に対して、将也は面白そうににこにこと笑い、紗綾はどうしていいかわからなくなる。
「強い、いい目をしているからね」
「うわっ、部長ってああいうのが好みなんですか?」
信じられないと香澄が言えば、将也は困り顔で肩を竦めた。
「嫌な言い方をしないでくれるかな? 田端君」
「そう受け取れましたけど、何か?」
「君がそういうこと言うから、僕が変な疑惑をかけられるんだよ。大体、君は例の噂だって……」
「別に深い意味なんてないですよ。部長の受け取り方が偏ってるんだと私は思いますけどね」
部内でも、将也にこれほど言える人間はいないと言う。
香澄は凄いな、と思いながら紗綾はぼんやり二人を眺めていることにした。
「少なくとも黒羽や九鬼先生よりはいいと思っただけだよ」
「まあ、あの性悪男はありえないですし、クッキーは絶対ダメですけどね」
二人は勝手なことを言っている。それもいつものことなのだが、視線が自分に向けられて紗綾はドキリとした。
「本当にあの二人に何もされてない?」
「言ったら呪うとか口止めされていないかな?」
「黒羽部長は私のことはただの役に立たない生贄としか思ってないですし、先生はああいう冗談が好きなだけですから……」
二人の心配に紗綾は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。部には心配されるようなことはないのだ。
「それとね……昨日、君が変な外国人の男の子に追いかけ回されていたのを見たってやつがいるんだけどね……いくら派手に染めてるからって、あの子じゃないみたいだしね」
「何っ、誰よ、そいつ? 私がぶっ殺してやる!」
またも思い出したように将也が言えば、香澄が即座に反応する。
その問い詰めるような眼差しに紗綾は取り調べをされているような気持ちになる。
しかし、一方で、そう言えば最近カツ丼食べてないなぁ、などと考えるような緊張感のなさも持ち合わせていた。
「ちょっと色々あって……」
「色々って何? 親友の私に言えないことなの?」
「まあまあ、田端君、君が怖がらせちゃいけないよ。きっと、言いにくいことなんだろうね。でも、僕たちは力になりたいと思っているから、だから、話してくれないかい?」
話すと面倒なことになりそうだが、話さないともっと大変な事になる。
意を決して紗綾は口を開いた。
「天使みたいな男の子がいて、凄く日本語が上手な外国人の子で、一年生で、凄く困ってて……」
紗綾の説明は明らかに要領が悪かったが、二人は真剣な表情で聞いてくれていた。
いつだって、二人はそうだった。何度か他人を苛立たせたことがある紗綾だが、二人はそういうところを見せない。
「紗綾はお人好しだから助けてあげたと」
「だって、声かけられたから……」
何に困っていたのかは省いてしまったが、紗綾の性格を熟知しているからこそ、香澄はおおよそのことを悟ったようだった。
「それで? 困っている子を助けただけじゃ追いかけ回されたりしないよね?」
気は全く進まないが、将也に促されて、紗綾は答えるしかなかった。
「その……結婚を前提にとか、婿養子とか言われて」
「はぁ? いきなりプロポーズ!?」
「大和撫子とか……何か勘違いしちゃってるのかも……」
非常に言いにくい。紗綾はぼそぼそと小さな声で答えたが、香澄の耳にはしっかりと届いていた。
彼女は険しい表情をしていて、そっと見た将也もまた難しい表情をしている。
「……あんたって、ほんと変な男に好かれるわよね。まあ、会わなきゃいいのよね。一年でしょ? 私が全力で遠ざけてあげる!」
避けてしまうのは申し訳ない気もする。でも、近付くのは怖い。
いつでも香澄が側にいれば上手くやってくれるのかもしれないが、紗綾は放課後が不安だった。
「でも、黒羽部長が喜んでたし、先生と面接してたからサイキックかもしれないし……」
サイキック、その言葉に二人は顔色を変えた。
本来オカ研の悪魔二人が欲しがる人材はそれだ。彼らもそうだからであるが、信じていない生徒も多い。
香澄もまた認めたがらないが、わかってはいる。
将也は兄将仁のことがあり、彼らのこともある程度は理解しているからこそ、その一言で通じる。
「あんたさ、絶対お祓いしてもらった方がいいって。いや、でも、絶対、あいつらの邪念の方が強い! ああ、もうっ! サイキックなんて大嫌い!」
「落ち着きなよ、田端君――まあ、困ったことがあったらいつでも相談してね」
憤慨する香澄と父親というよりは母親のようにも思える穏やかな将也を交互に見ながら紗綾は笑ってみた。
「大丈夫ですよ」
大丈夫、きっと大丈夫。
紗綾は何度も自分に言い聞かせる。
今度こそ逃げてはいけないのだと自分を叱咤しながら。
話題を変えるように、思い出したように、将也は言う。
だが、それには香澄が顔を顰めた。圭斗のことは禁句なのだ。
「どこがですか? 物凄く生意気ですよ?」
険しい顔をする香澄に対して、将也は面白そうににこにこと笑い、紗綾はどうしていいかわからなくなる。
「強い、いい目をしているからね」
「うわっ、部長ってああいうのが好みなんですか?」
信じられないと香澄が言えば、将也は困り顔で肩を竦めた。
「嫌な言い方をしないでくれるかな? 田端君」
「そう受け取れましたけど、何か?」
「君がそういうこと言うから、僕が変な疑惑をかけられるんだよ。大体、君は例の噂だって……」
「別に深い意味なんてないですよ。部長の受け取り方が偏ってるんだと私は思いますけどね」
部内でも、将也にこれほど言える人間はいないと言う。
香澄は凄いな、と思いながら紗綾はぼんやり二人を眺めていることにした。
「少なくとも黒羽や九鬼先生よりはいいと思っただけだよ」
「まあ、あの性悪男はありえないですし、クッキーは絶対ダメですけどね」
二人は勝手なことを言っている。それもいつものことなのだが、視線が自分に向けられて紗綾はドキリとした。
「本当にあの二人に何もされてない?」
「言ったら呪うとか口止めされていないかな?」
「黒羽部長は私のことはただの役に立たない生贄としか思ってないですし、先生はああいう冗談が好きなだけですから……」
二人の心配に紗綾は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。部には心配されるようなことはないのだ。
「それとね……昨日、君が変な外国人の男の子に追いかけ回されていたのを見たってやつがいるんだけどね……いくら派手に染めてるからって、あの子じゃないみたいだしね」
「何っ、誰よ、そいつ? 私がぶっ殺してやる!」
またも思い出したように将也が言えば、香澄が即座に反応する。
その問い詰めるような眼差しに紗綾は取り調べをされているような気持ちになる。
しかし、一方で、そう言えば最近カツ丼食べてないなぁ、などと考えるような緊張感のなさも持ち合わせていた。
「ちょっと色々あって……」
「色々って何? 親友の私に言えないことなの?」
「まあまあ、田端君、君が怖がらせちゃいけないよ。きっと、言いにくいことなんだろうね。でも、僕たちは力になりたいと思っているから、だから、話してくれないかい?」
話すと面倒なことになりそうだが、話さないともっと大変な事になる。
意を決して紗綾は口を開いた。
「天使みたいな男の子がいて、凄く日本語が上手な外国人の子で、一年生で、凄く困ってて……」
紗綾の説明は明らかに要領が悪かったが、二人は真剣な表情で聞いてくれていた。
いつだって、二人はそうだった。何度か他人を苛立たせたことがある紗綾だが、二人はそういうところを見せない。
「紗綾はお人好しだから助けてあげたと」
「だって、声かけられたから……」
何に困っていたのかは省いてしまったが、紗綾の性格を熟知しているからこそ、香澄はおおよそのことを悟ったようだった。
「それで? 困っている子を助けただけじゃ追いかけ回されたりしないよね?」
気は全く進まないが、将也に促されて、紗綾は答えるしかなかった。
「その……結婚を前提にとか、婿養子とか言われて」
「はぁ? いきなりプロポーズ!?」
「大和撫子とか……何か勘違いしちゃってるのかも……」
非常に言いにくい。紗綾はぼそぼそと小さな声で答えたが、香澄の耳にはしっかりと届いていた。
彼女は険しい表情をしていて、そっと見た将也もまた難しい表情をしている。
「……あんたって、ほんと変な男に好かれるわよね。まあ、会わなきゃいいのよね。一年でしょ? 私が全力で遠ざけてあげる!」
避けてしまうのは申し訳ない気もする。でも、近付くのは怖い。
いつでも香澄が側にいれば上手くやってくれるのかもしれないが、紗綾は放課後が不安だった。
「でも、黒羽部長が喜んでたし、先生と面接してたからサイキックかもしれないし……」
サイキック、その言葉に二人は顔色を変えた。
本来オカ研の悪魔二人が欲しがる人材はそれだ。彼らもそうだからであるが、信じていない生徒も多い。
香澄もまた認めたがらないが、わかってはいる。
将也は兄将仁のことがあり、彼らのこともある程度は理解しているからこそ、その一言で通じる。
「あんたさ、絶対お祓いしてもらった方がいいって。いや、でも、絶対、あいつらの邪念の方が強い! ああ、もうっ! サイキックなんて大嫌い!」
「落ち着きなよ、田端君――まあ、困ったことがあったらいつでも相談してね」
憤慨する香澄と父親というよりは母親のようにも思える穏やかな将也を交互に見ながら紗綾は笑ってみた。
「大丈夫ですよ」
大丈夫、きっと大丈夫。
紗綾は何度も自分に言い聞かせる。
今度こそ逃げてはいけないのだと自分を叱咤しながら。
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