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本編
魔女は全てを支配する-1
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土曜日、午前、オカ研一行は荷物を持って学校に集合していた。
練習にきた運動部の人間がちらりと盗み見ては、見てはいけないものを見てしまったように、関わりたくないとばかりに足早に過ぎ去って行く。
普段、休日に集まるような部ではないからだ。
これから、オカ研にとって重要な行事の一つ、新入生の歓迎会が行われるのだが、それを嬉しそうに待っているのはリアムだけだった。
紗綾は歓迎会の実態を知り、洗礼と称するからこそ、何度圭斗に聞かれても黙っていた。
大方、彼も察しているようだったが、本当の恐怖は知らない。
先日、サイキックであることを紗綾だけに明かした彼にとっては歓迎できない行事になることは間違いない。
二人だけの秘密のリミットは既に近付いているとも言えるのかもしれなかった。
一行の元へやってきたのは視線を奪う真っ赤なセダン、運転席から出てくる女にまた釘付けになる。
腰まで伸びる漆黒の羽のような髪、黒いパンツスーツ、まるで生き血のような真紅のルージュとネイル。
魔女とは言っても、帽子やマントを羽織っているわけでもなく、現代的でいつもお洒落だと紗綾は思っていた。
毒島鈴子、オカルト研究部初代部長にして支配者、最強の女とも言われ、嵐さえ恐れているという危険人物でもある。
紗綾も彼女に会う度にひどく緊張する。あるいは、初対面の時の恐怖が未だに深く刻まれているのかもしれない。
鈴子はじっと紗綾を見て、十夜を見る。
その細く整えられた眉がぴくりと動く。
「あら、あなた達、未だにくっついていないの? 信じられない」
会う度に言われていることだった。反論したいが、できない。
それは十夜への非難であって、自分の意思は完全に無視されていることに紗綾は気付いていた。
なぜか魔女はキューピットになりたがり、十夜に何度も働きかけている。ありえないと紗綾は思っているのに、魔女はなぜかいつも妙な自信に満ちている。
「素直になりなさいよ、クロ。このあたしがうまくいくって言っているのに」
魔女が魔王に躙り寄る、不愉快そうに十夜が顔を顰めるが、鈴子にとっては彼など子供に過ぎないようだ。
「早く認めちゃいなさいよ、そうすればすぐに楽になれる。あなたをその苦悩から解き放つ鍵はすぐ側にあるのよ? ねぇ、クロ、よく考えてみなさいよ」
「俺は信じない。全ては俺が決める」
魔女には何か他人には見えないものを視る力がある。
尤も、サイキックとはそういうものだ。何か常人にはない力を持っている。
将仁も霊を見ることだけはできるし、十夜や嵐はそれ以上の力を持っている。
だが、彼女は別格なのだ。彼ら以上に強い力を持つ。
嵐が言うには三人の中では十夜が一番弱いということだった。
力で劣るからこそ、自分も十夜も逆らえないのだと、どこか苦痛を感じさせられる表情で語ったのを紗綾は鮮明に覚えている。
「運命は既に決まっているわ。あとは、あなたが受け入れるだけ。いつまでも立ち止まっていては駄目、前に進むのよ。自分の手で扉を開けるの。重ければ、彼女が手伝ってくれる」
運命が見えると魔女は言う。
それが真実なのかは紗綾にはわからない。
けれど、彼女はその言葉によって運命に導くのではなく、従わせようとしているようにも見えた。
現に、紗綾は十夜に対して特別な感情を抱いているわけでもなく、彼と付き合うなどとはとても考えられないことなのだが、そんなことは彼女にとってはどうでもいいことになってしまうのだ。
「運命なんて俺は信じない」
もう一度、支配者としての魔女の言葉を十夜ははね除ける。
彼は素直に従うような男ではない。
支配者ではあっても、部員は従順なしもべではない。従うべきところでは渋々従うだけだ。
尤も、黙っていることの方が賢明である。
つまり、魔女と部員の関係はその程度のもので、信頼があると言えば語弊がある。
魔女との関わりは一種のビジネスだとも言える。
特に紗綾は魔女に従う理由がない。
だが、従わない理由もなく、大抵は流されている。遊ばれている、ただそれだけのことなのだから。
練習にきた運動部の人間がちらりと盗み見ては、見てはいけないものを見てしまったように、関わりたくないとばかりに足早に過ぎ去って行く。
普段、休日に集まるような部ではないからだ。
これから、オカ研にとって重要な行事の一つ、新入生の歓迎会が行われるのだが、それを嬉しそうに待っているのはリアムだけだった。
紗綾は歓迎会の実態を知り、洗礼と称するからこそ、何度圭斗に聞かれても黙っていた。
大方、彼も察しているようだったが、本当の恐怖は知らない。
先日、サイキックであることを紗綾だけに明かした彼にとっては歓迎できない行事になることは間違いない。
二人だけの秘密のリミットは既に近付いているとも言えるのかもしれなかった。
一行の元へやってきたのは視線を奪う真っ赤なセダン、運転席から出てくる女にまた釘付けになる。
腰まで伸びる漆黒の羽のような髪、黒いパンツスーツ、まるで生き血のような真紅のルージュとネイル。
魔女とは言っても、帽子やマントを羽織っているわけでもなく、現代的でいつもお洒落だと紗綾は思っていた。
毒島鈴子、オカルト研究部初代部長にして支配者、最強の女とも言われ、嵐さえ恐れているという危険人物でもある。
紗綾も彼女に会う度にひどく緊張する。あるいは、初対面の時の恐怖が未だに深く刻まれているのかもしれない。
鈴子はじっと紗綾を見て、十夜を見る。
その細く整えられた眉がぴくりと動く。
「あら、あなた達、未だにくっついていないの? 信じられない」
会う度に言われていることだった。反論したいが、できない。
それは十夜への非難であって、自分の意思は完全に無視されていることに紗綾は気付いていた。
なぜか魔女はキューピットになりたがり、十夜に何度も働きかけている。ありえないと紗綾は思っているのに、魔女はなぜかいつも妙な自信に満ちている。
「素直になりなさいよ、クロ。このあたしがうまくいくって言っているのに」
魔女が魔王に躙り寄る、不愉快そうに十夜が顔を顰めるが、鈴子にとっては彼など子供に過ぎないようだ。
「早く認めちゃいなさいよ、そうすればすぐに楽になれる。あなたをその苦悩から解き放つ鍵はすぐ側にあるのよ? ねぇ、クロ、よく考えてみなさいよ」
「俺は信じない。全ては俺が決める」
魔女には何か他人には見えないものを視る力がある。
尤も、サイキックとはそういうものだ。何か常人にはない力を持っている。
将仁も霊を見ることだけはできるし、十夜や嵐はそれ以上の力を持っている。
だが、彼女は別格なのだ。彼ら以上に強い力を持つ。
嵐が言うには三人の中では十夜が一番弱いということだった。
力で劣るからこそ、自分も十夜も逆らえないのだと、どこか苦痛を感じさせられる表情で語ったのを紗綾は鮮明に覚えている。
「運命は既に決まっているわ。あとは、あなたが受け入れるだけ。いつまでも立ち止まっていては駄目、前に進むのよ。自分の手で扉を開けるの。重ければ、彼女が手伝ってくれる」
運命が見えると魔女は言う。
それが真実なのかは紗綾にはわからない。
けれど、彼女はその言葉によって運命に導くのではなく、従わせようとしているようにも見えた。
現に、紗綾は十夜に対して特別な感情を抱いているわけでもなく、彼と付き合うなどとはとても考えられないことなのだが、そんなことは彼女にとってはどうでもいいことになってしまうのだ。
「運命なんて俺は信じない」
もう一度、支配者としての魔女の言葉を十夜ははね除ける。
彼は素直に従うような男ではない。
支配者ではあっても、部員は従順なしもべではない。従うべきところでは渋々従うだけだ。
尤も、黙っていることの方が賢明である。
つまり、魔女と部員の関係はその程度のもので、信頼があると言えば語弊がある。
魔女との関わりは一種のビジネスだとも言える。
特に紗綾は魔女に従う理由がない。
だが、従わない理由もなく、大抵は流されている。遊ばれている、ただそれだけのことなのだから。
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