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第一章 二人の日常 1
使い魔達の協奏曲 カルとジェダ編
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黒猫カルと白ネコジェダの話。カル視点。
********************************************
俺は偉大なる魔法使い、サフィール・アウトーリの使い魔である。
元はただの野良猫だったが、ご主人様と出会い、魔力を与えてもらって使い魔となった。
自慢の毛並みは、奥方様の御髪と同じ漆黒。そして瞳が黄色いから、ご主人様は『イエローカルセドニー(黄玉髄)』から名をとって、『カルセドニー』と名付けてくれた。
でも長いから、奥方様や他の猫達は俺を『カル』と呼ぶ。
俺は奥方様に『カル』と呼ばれるのが好きだ。もちろん、ご主人様に『カルセドニー』と呼ばれるのも好きだが。
ご主人様の元には、俺の他に六匹の使い魔猫がいる。俺が一番の古株だから、自然俺がリーダーになっているが、どいつもこいつもマイペースで自分勝手で、俺はいつも苦労している。
俺達の仕事は、ご主人様と奥方様のお手伝いだ。
掃除をしたりパンや料理を作ったり、菜園の世話をしたり、ご主人様の仕事の手伝いもする。まじない物を作るための材料を集めたり、ご主人様が観測した星図をまとめたり。
仕事が終わると、奥方様が美味しいミルクと美味しいゴハンを用意してくれる。奥方様の作る料理は絶品だ。それに、俺は奥方様から「良い子ね」と優しく頭を撫でてもらうのも好きだ。
今日の仕事は、自宅一階と奥方様が営んでおられるパン屋の掃除である。相棒は白猫のジェダイド。 真っ白い毛並みに翠の瞳をしているから、『ジェダイド(翡翠)』と名付けられた。これまた略して『ジェダ』と呼ばれている。
ジェダはいけすかない奴だ。高慢で、自分が一番だと思っている。
特に、その真っ白い毛並みが自慢らしく、自分が一番美しいと言ってはばからない。
人型になった今も、奴はうっとりと自慢の真っ白い尻尾(俺達は人型になっても耳としっぽは消えないのである)をいじっている。
だが相棒となったからには、協力しなければならない。
「…おいジェダ」
「なんにゃ?」
「水桶に水を汲んでくるから、お前はその間にはたきをかけておけにゃ」
俺は掃除用の水桶を持って、奴にそう言う。が、
「嫌にゃ」
「は?」
奴はツンと拒否する。
「なんでにゃ」
「はたきなんてかけたら僕の自慢の毛に埃がつくにゃ。嫌にゃ」
「…………」
いらっとした。
どうせ掃除をすれば大なり小なり体は汚れるものだ。
「僕はお前と違って真っ白にゃ。だから汚れが目立っちゃうにゃ」
俺の体だって埃がつけば目立つ。
「………わかったにゃ。じゃあお前が水を汲んでくるにゃ」
だが、ここで問答している時間が勿体ない。ここは一つ俺が大人にならねばと、役割を交換して掃除を始めた。
自分の体が汚れないようなやり方であれば、綺麗好きでもあるジェダは他の奴らよりははるかに掃除熱心である。汚れ仕事は俺が一手に引き受けて、俺達は掃除を続けた。
自宅一階部分の床を雑巾で何度も拭くと、あっという間に水桶の水が汚れる。
ジェダに水を交換するように言うと、棚やテーブルを拭いていた奴は素直に水場へ向かった。汚れ仕事は嫌がる癖に、力仕事は厭わないのだ。
その間に俺は、床を拭くために移動していた家具などを元の位置へ戻す。
これで自宅一階部分の掃除は終わりだ。次は奥方様のパン屋だが、ジェダがなかなか戻ってこない。
(…あいつ、なにやってるにゃ…)
仕方がないので俺も水場へ向かうと、ジェダは水のたまった桶をじいっと見つめていた。
「おいジェダ。なにやってるにゃ」
近付いてみると、水面を見つめるジェダの瞳が恍惚と細められている。
あ、ヤバイと俺は思った。
「…僕はなんて美しいんだろうにゃあ…」
うっとりと、奴はそう呟く。
ジェダは高慢で綺麗好きで、何より『美しい自分が大好き』な猫なのだ。
俺は無言で、奴の頭をはたき水桶に沈めた。
「なっ!! なにするにゃ!! せっかく綺麗に毛づくろいしたのに!!」
うるせーにゃ。
俺はそれだけ言うと、片手に水桶、片手にジェダの襟首を掴んで奥方様のパン屋へ向かった。
************************************************
優等生な黒猫カルと、ナルシストな白猫ジェダ。
カルは個性の強い猫達に囲まれて苦労しています(笑)
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俺は偉大なる魔法使い、サフィール・アウトーリの使い魔である。
元はただの野良猫だったが、ご主人様と出会い、魔力を与えてもらって使い魔となった。
自慢の毛並みは、奥方様の御髪と同じ漆黒。そして瞳が黄色いから、ご主人様は『イエローカルセドニー(黄玉髄)』から名をとって、『カルセドニー』と名付けてくれた。
でも長いから、奥方様や他の猫達は俺を『カル』と呼ぶ。
俺は奥方様に『カル』と呼ばれるのが好きだ。もちろん、ご主人様に『カルセドニー』と呼ばれるのも好きだが。
ご主人様の元には、俺の他に六匹の使い魔猫がいる。俺が一番の古株だから、自然俺がリーダーになっているが、どいつもこいつもマイペースで自分勝手で、俺はいつも苦労している。
俺達の仕事は、ご主人様と奥方様のお手伝いだ。
掃除をしたりパンや料理を作ったり、菜園の世話をしたり、ご主人様の仕事の手伝いもする。まじない物を作るための材料を集めたり、ご主人様が観測した星図をまとめたり。
仕事が終わると、奥方様が美味しいミルクと美味しいゴハンを用意してくれる。奥方様の作る料理は絶品だ。それに、俺は奥方様から「良い子ね」と優しく頭を撫でてもらうのも好きだ。
今日の仕事は、自宅一階と奥方様が営んでおられるパン屋の掃除である。相棒は白猫のジェダイド。 真っ白い毛並みに翠の瞳をしているから、『ジェダイド(翡翠)』と名付けられた。これまた略して『ジェダ』と呼ばれている。
ジェダはいけすかない奴だ。高慢で、自分が一番だと思っている。
特に、その真っ白い毛並みが自慢らしく、自分が一番美しいと言ってはばからない。
人型になった今も、奴はうっとりと自慢の真っ白い尻尾(俺達は人型になっても耳としっぽは消えないのである)をいじっている。
だが相棒となったからには、協力しなければならない。
「…おいジェダ」
「なんにゃ?」
「水桶に水を汲んでくるから、お前はその間にはたきをかけておけにゃ」
俺は掃除用の水桶を持って、奴にそう言う。が、
「嫌にゃ」
「は?」
奴はツンと拒否する。
「なんでにゃ」
「はたきなんてかけたら僕の自慢の毛に埃がつくにゃ。嫌にゃ」
「…………」
いらっとした。
どうせ掃除をすれば大なり小なり体は汚れるものだ。
「僕はお前と違って真っ白にゃ。だから汚れが目立っちゃうにゃ」
俺の体だって埃がつけば目立つ。
「………わかったにゃ。じゃあお前が水を汲んでくるにゃ」
だが、ここで問答している時間が勿体ない。ここは一つ俺が大人にならねばと、役割を交換して掃除を始めた。
自分の体が汚れないようなやり方であれば、綺麗好きでもあるジェダは他の奴らよりははるかに掃除熱心である。汚れ仕事は俺が一手に引き受けて、俺達は掃除を続けた。
自宅一階部分の床を雑巾で何度も拭くと、あっという間に水桶の水が汚れる。
ジェダに水を交換するように言うと、棚やテーブルを拭いていた奴は素直に水場へ向かった。汚れ仕事は嫌がる癖に、力仕事は厭わないのだ。
その間に俺は、床を拭くために移動していた家具などを元の位置へ戻す。
これで自宅一階部分の掃除は終わりだ。次は奥方様のパン屋だが、ジェダがなかなか戻ってこない。
(…あいつ、なにやってるにゃ…)
仕方がないので俺も水場へ向かうと、ジェダは水のたまった桶をじいっと見つめていた。
「おいジェダ。なにやってるにゃ」
近付いてみると、水面を見つめるジェダの瞳が恍惚と細められている。
あ、ヤバイと俺は思った。
「…僕はなんて美しいんだろうにゃあ…」
うっとりと、奴はそう呟く。
ジェダは高慢で綺麗好きで、何より『美しい自分が大好き』な猫なのだ。
俺は無言で、奴の頭をはたき水桶に沈めた。
「なっ!! なにするにゃ!! せっかく綺麗に毛づくろいしたのに!!」
うるせーにゃ。
俺はそれだけ言うと、片手に水桶、片手にジェダの襟首を掴んで奥方様のパン屋へ向かった。
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優等生な黒猫カルと、ナルシストな白猫ジェダ。
カルは個性の強い猫達に囲まれて苦労しています(笑)
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