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幼馴染は魔法使いの弟子
黄色い薔薇の物語編 1
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二人の過去編です。
幼馴染が夫婦になるまでの、ちょっと長い物語。
この物語は、本編(夫婦編)とは雰囲気が異なる、切ない、すれ違い、シリアス…なお話になります。ご注意ください。
この時の二人の年齢は、アニエスが10歳。サフィールが12歳です。
********************************************
約束を、した。
他愛もない約束を。
でもアニエスは、ずっと、ずっと。
その約束のことを、覚えていた。待って、いた。
それは、いつものように二人で森で遊んでいた時のこと。
秋の森の中で、アニエスとサフィールは落ち葉拾いに夢中になっていた。
どちらが綺麗な落ち葉を見つけられるか、競争していたのだ。
アニエスは、綺麗な赤い落ち葉を見つけた。
欠けているところもなく、鮮やかな赤の葉っぱだった。
「サフィール!! 私、これにするわ」
立ち上がって、アニエスはサフィールを振り返る。
サフィールはまだ、しゃがみ込んで、落ち葉を探しているようだった。
今日こそ勝てる! アニエスは思った。いつも、落ち葉探し競争ではサフィールに負けているのだ。
「…うん。これでいいや」
サフィールは一枚の葉っぱを手にとって、立ち上がった。
二人はいつものように、「「せーの」」と互いの落ち葉を見せ合う。
「……うう…」
アニエスは唸った。サフィールの、手の上の黄色い落ち葉。
もちろん、欠けているところもない、汚れもない。とても綺麗な黄色のイチョウの葉っぱだ。
自分が持っている赤い落ち葉より、ずっと素敵に見える。
アニエスはしばらく唸った後、「負けたわ!」と宣言した。
サフィールは苦笑して、アニエスの手の落ち葉と、自分の手にしたイチョウの葉っぱとを見やる。
別に、自分の拾ってくる葉っぱが特別綺麗なわけではない。アニエスのあれは、「他人の持っている物の方が良く見える」という、思い込みだ。
アニエスの拾ってきた落ち葉だって、十分魅力的だった。紙に張り付けて、栞にしようとサフィールは思う。
「とっても綺麗な葉っぱね。ねえサフィール。今度はこのイチョウの葉っぱを集めましょうよ。いっぱい」
「いっぱい?」
サフィールは首を傾げる。
いっぱい集めて、何に使うんだろう。
「そう! いっぱい集めたら、とっても綺麗だと思うわ!!」
ああ、と。サフィールは思った。
アニエスの提案は、いつも何かを深く考えてのものではない。
ただ綺麗だから集めたい。それだけである。何かに使うために、集めるのではない。
集めるのが楽しいから、集めるのだ。
サフィールは微笑って、アニエスの手を引いた。
「じゃあ、こっち」
こっちに行けば、大きなイチョウの木がある。
その下にはきっと、綺麗な葉っぱがいっぱい落ちているだろうと、思ったのだ。
アニエスと二人、夢中になってイチョウの葉を集める。
左手には、もう何枚もの葉っぱが握られていた。それをふと見やって、サフィールはあることを思い付く。
そして、葉っぱを探す手を止めて、いそいそと何かをし始めた。
そんな幼馴染の様子に気付いたアニエスが、そろそろと彼に近付く。
サフィールは集めたイチョウの葉を重ねるようにゆるりと巻いて、何かを作っているようだった。
「…わあ…」
そうして、サフィールの手の中で形作られたものに、アニエスは感嘆のため息を吐く。
「すごい! すごいわサフィール!! とっても綺麗」
それは、黄色いイチョウの葉で作られた花だった。
薔薇に似た形の、黄色い花。
予想以上の出来に、サフィールは満足気に頷く。そして、出来上がったそれをそっと、アニエスの頭にあててみた。
「可愛いよ、アニエス」
「ありがとう! サフィール!!」
アニエスはばっと、目の前の幼馴染に抱きついた。
拍子、サフィールの手から花の形になっていたイチョウの葉が零れ落ちる。
「「あっ」」
黄色い花は、サフィールが手で押さえていただけで、しっかりと結ばれていたわけではなかったのだ。
葉は花びらのように、ぱらぱらと二人に降りかかる。
「「っぷっ」」
二人は揃って、吹き出した。
「ごめんね、サフィール。せっかく作ったのに」
「ううん、いいんだ。今度はちゃんと、糸か紐で結ぶようにするよ」
「それ、良い! 黄色いお花、いっぱい作れるわね」
私も作りたい、というアニエスの手を引いて、サフィールが「そろそろ帰ろうか」と言う。秋の夕暮れは早いのだ。暗くなる前に、帰らなければ。
「うん」
二人は仲良く手を繋いで、森の道を歩いた。
その途中、アニエスが思いだしたように、言う。
「ねえサフィール。さっきの葉っぱのお花、薔薇みたいだったわね」
「うん」
「黄色い薔薇みたいだったわ」
そうだね、とサフィールも頷く。幾重にも葉っぱを重ねて作った花は、同じく何枚もの花びらが重なった薔薇の花によく似ていた。
とっても綺麗、と、アニエスは言う。
少女はよほど、あの黄色い花が気に入ったらしい。
「アニエスは、薔薇の花が好きなの?」
「うん! だって、とっても可愛くて綺麗なんだもの!!」
彼女は綺麗な物と、可愛い物が大好きだ。
それから、美味しい物も。
サフィールは微笑んで、「それなら、」と言った。
「いつかアニエスに、たくさんの黄色い薔薇をあげる。今日作った花より、ずっと綺麗な花を。たくさん」
アニエスは目を丸くして、「本当に?」とサフィールの顔を見つめる。
サフィールは、「本当に」と頷いた。
「いつかって、いつ?」
アニエスはわくわくしながら、サフィールにそう尋ねた。
サフィールは、「そうだなあ…」と、真剣に考えながら、呟く。
薔薇の花は、結構高いのだ。特に黄色い薔薇は、あまり花屋で見かけないから。普通の薔薇よりも高いのかもしれない。
「…俺が一人前の魔法使いになったら、かな」
一人前の魔法使いになって、大人になったら。
大人になったアニエスに、黄色い薔薇の花をたくさん贈るよ、と。
サフィールは微笑んだ。
アニエスも、にっこりと笑った。
この頃の二人には、黄色い薔薇が何を意味するのかなんて、関係無かった。
二人はまだ幼くて、自分達の未来がどうなるかなんて、想像もつかなかった。
ただ、大人になっても、自分達は一緒に居るのだろうと。
そんな未来を、ぼんやりと思い浮かべていただけで。
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イチョウの葉っぱで花を作るのは、作者が子供の頃にやった遊びです。
子供の目には、薔薇の花のように映ったのでした。今はどうかわからないですが(^_^;)
幼馴染が夫婦になるまでの、ちょっと長い物語。
この物語は、本編(夫婦編)とは雰囲気が異なる、切ない、すれ違い、シリアス…なお話になります。ご注意ください。
この時の二人の年齢は、アニエスが10歳。サフィールが12歳です。
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約束を、した。
他愛もない約束を。
でもアニエスは、ずっと、ずっと。
その約束のことを、覚えていた。待って、いた。
それは、いつものように二人で森で遊んでいた時のこと。
秋の森の中で、アニエスとサフィールは落ち葉拾いに夢中になっていた。
どちらが綺麗な落ち葉を見つけられるか、競争していたのだ。
アニエスは、綺麗な赤い落ち葉を見つけた。
欠けているところもなく、鮮やかな赤の葉っぱだった。
「サフィール!! 私、これにするわ」
立ち上がって、アニエスはサフィールを振り返る。
サフィールはまだ、しゃがみ込んで、落ち葉を探しているようだった。
今日こそ勝てる! アニエスは思った。いつも、落ち葉探し競争ではサフィールに負けているのだ。
「…うん。これでいいや」
サフィールは一枚の葉っぱを手にとって、立ち上がった。
二人はいつものように、「「せーの」」と互いの落ち葉を見せ合う。
「……うう…」
アニエスは唸った。サフィールの、手の上の黄色い落ち葉。
もちろん、欠けているところもない、汚れもない。とても綺麗な黄色のイチョウの葉っぱだ。
自分が持っている赤い落ち葉より、ずっと素敵に見える。
アニエスはしばらく唸った後、「負けたわ!」と宣言した。
サフィールは苦笑して、アニエスの手の落ち葉と、自分の手にしたイチョウの葉っぱとを見やる。
別に、自分の拾ってくる葉っぱが特別綺麗なわけではない。アニエスのあれは、「他人の持っている物の方が良く見える」という、思い込みだ。
アニエスの拾ってきた落ち葉だって、十分魅力的だった。紙に張り付けて、栞にしようとサフィールは思う。
「とっても綺麗な葉っぱね。ねえサフィール。今度はこのイチョウの葉っぱを集めましょうよ。いっぱい」
「いっぱい?」
サフィールは首を傾げる。
いっぱい集めて、何に使うんだろう。
「そう! いっぱい集めたら、とっても綺麗だと思うわ!!」
ああ、と。サフィールは思った。
アニエスの提案は、いつも何かを深く考えてのものではない。
ただ綺麗だから集めたい。それだけである。何かに使うために、集めるのではない。
集めるのが楽しいから、集めるのだ。
サフィールは微笑って、アニエスの手を引いた。
「じゃあ、こっち」
こっちに行けば、大きなイチョウの木がある。
その下にはきっと、綺麗な葉っぱがいっぱい落ちているだろうと、思ったのだ。
アニエスと二人、夢中になってイチョウの葉を集める。
左手には、もう何枚もの葉っぱが握られていた。それをふと見やって、サフィールはあることを思い付く。
そして、葉っぱを探す手を止めて、いそいそと何かをし始めた。
そんな幼馴染の様子に気付いたアニエスが、そろそろと彼に近付く。
サフィールは集めたイチョウの葉を重ねるようにゆるりと巻いて、何かを作っているようだった。
「…わあ…」
そうして、サフィールの手の中で形作られたものに、アニエスは感嘆のため息を吐く。
「すごい! すごいわサフィール!! とっても綺麗」
それは、黄色いイチョウの葉で作られた花だった。
薔薇に似た形の、黄色い花。
予想以上の出来に、サフィールは満足気に頷く。そして、出来上がったそれをそっと、アニエスの頭にあててみた。
「可愛いよ、アニエス」
「ありがとう! サフィール!!」
アニエスはばっと、目の前の幼馴染に抱きついた。
拍子、サフィールの手から花の形になっていたイチョウの葉が零れ落ちる。
「「あっ」」
黄色い花は、サフィールが手で押さえていただけで、しっかりと結ばれていたわけではなかったのだ。
葉は花びらのように、ぱらぱらと二人に降りかかる。
「「っぷっ」」
二人は揃って、吹き出した。
「ごめんね、サフィール。せっかく作ったのに」
「ううん、いいんだ。今度はちゃんと、糸か紐で結ぶようにするよ」
「それ、良い! 黄色いお花、いっぱい作れるわね」
私も作りたい、というアニエスの手を引いて、サフィールが「そろそろ帰ろうか」と言う。秋の夕暮れは早いのだ。暗くなる前に、帰らなければ。
「うん」
二人は仲良く手を繋いで、森の道を歩いた。
その途中、アニエスが思いだしたように、言う。
「ねえサフィール。さっきの葉っぱのお花、薔薇みたいだったわね」
「うん」
「黄色い薔薇みたいだったわ」
そうだね、とサフィールも頷く。幾重にも葉っぱを重ねて作った花は、同じく何枚もの花びらが重なった薔薇の花によく似ていた。
とっても綺麗、と、アニエスは言う。
少女はよほど、あの黄色い花が気に入ったらしい。
「アニエスは、薔薇の花が好きなの?」
「うん! だって、とっても可愛くて綺麗なんだもの!!」
彼女は綺麗な物と、可愛い物が大好きだ。
それから、美味しい物も。
サフィールは微笑んで、「それなら、」と言った。
「いつかアニエスに、たくさんの黄色い薔薇をあげる。今日作った花より、ずっと綺麗な花を。たくさん」
アニエスは目を丸くして、「本当に?」とサフィールの顔を見つめる。
サフィールは、「本当に」と頷いた。
「いつかって、いつ?」
アニエスはわくわくしながら、サフィールにそう尋ねた。
サフィールは、「そうだなあ…」と、真剣に考えながら、呟く。
薔薇の花は、結構高いのだ。特に黄色い薔薇は、あまり花屋で見かけないから。普通の薔薇よりも高いのかもしれない。
「…俺が一人前の魔法使いになったら、かな」
一人前の魔法使いになって、大人になったら。
大人になったアニエスに、黄色い薔薇の花をたくさん贈るよ、と。
サフィールは微笑んだ。
アニエスも、にっこりと笑った。
この頃の二人には、黄色い薔薇が何を意味するのかなんて、関係無かった。
二人はまだ幼くて、自分達の未来がどうなるかなんて、想像もつかなかった。
ただ、大人になっても、自分達は一緒に居るのだろうと。
そんな未来を、ぼんやりと思い浮かべていただけで。
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イチョウの葉っぱで花を作るのは、作者が子供の頃にやった遊びです。
子供の目には、薔薇の花のように映ったのでした。今はどうかわからないですが(^_^;)
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