旦那様は魔法使い

なかゆんきなこ

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幼馴染は魔法使いの弟子

黄色い薔薇の物語編 7

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 またまたちょっと時が過ぎて、クレス島へ向かうアニエス。
 その心境は…。

 短いです。
********************************************



 アニエスは一人、海上を行く船の甲板に立っていた。
 懐かしい、潮の匂い。
「三年ぶりね…」
 遠くに微かに見える、島影。
 この船は、クレス島へ向かう定期便だ。
 パン屋の仕事を辞めたアニエスは、三年間働いて貯めた給金を元手にパン屋を開こうと、故郷のクレス島を目指した。と言っても、すぐに移り住むわけではない。
 今回は、その下準備のための帰郷だ。
 まずは島に渡り、パン屋を開く場所を探す。それから、住む家も。
 それに材料の仕入れ先や諸々の手配や、手続きもある。
 アニエスがクレス島に帰ってパン屋を開きたいと言った時、両親は応援してくれた。
 パン屋で修行するアニエスの努力を、いつかクレス島に帰りたいという願いを、二人は認めてくれていたらしい。
 親元を離れるのは不安で、心細いけれど。
 同じだけ、胸には希望があった。
「…………」
 潮風に吹かれながら、海を見つめる。
 その視線の先には、懐かしの故郷。
 あの場所には、たくさんの思い出が詰まっている。
 楽しい、幸せな記憶。そして…、
(…サフィール…)
 ほろ苦い、初恋の記憶も。
 彼は今、どうしているだろう。
 今も変わらず、あの森の中で。
 魔法使い様と一緒に、暮らしているのだろうか。
(…もし、サフィールに会ったら…)
 自分はなんて、彼に声を掛けるだろう。
『久しぶりね、元気だった?』
 そんな風に、自然に。
 元の仲の良い幼馴染のように、振る舞えるだろうか。
 彼はそんな自分に、なんと声を掛けるだろう。
 もう何年も会っていない幼馴染の姿が、浮かぶ。
『久しぶり、元気だった?』
 そう言ってくれるだろうか。
 彼もまた、昔のように。
 何事も無かったかのように。
 自分に声を、掛けてくれるのだろうか。

『私…、サフィールの事が…』

 寄せては返す波のように、アニエスの心を騒がせる記憶。
 自分はまだ、あの失恋から立ち直っていないのだと、思い知らされる。
 サフィール以上に、好きになれる相手なんていなかった。
 新しい恋に踏み出せない自分に、年上の従姉は。
 なんでも相談している、実の姉のように慕う彼女は。
『それはアニエスが、ちゃんと彼の言葉で、答えを聞いていないからだ』
 と言った。
 無言の拒絶。それが答えじゃ、頭は納得しても心が納得しないのだと。
『アニエスはまだ、終わった恋から抜け出せないでいる。でもそれも良いんじゃないか? いつか自然と、彼以上に心惹かれる相手と出会うかもしれない。新しい物語の始まりだ。でも、もしかしたら……』

『最初の恋の物語はまだ、終わっていないのかもしれないな』

(…終わっていない、物語…)
 そうなのかもしれない。自分はまだ、彼への想いを断ち切れないでいるから。
 まだ彼に、恋をしている。
 だからこそ、もし、サフィールに会えたら。
 はっきりと、言葉で、その声で。
 言って欲しい。物語を終わらせる、言葉を。




************************************************
先にこっちに出ました。『王太子妃殿下~』とのコラボ。
といってもほんのちょっとですが(^_^;)二人は仲が良いです。

そして。アニエスの気持ち。
アニエスはまだ、サフィールのことがふっきれない。
だから、もし会うことがあったら、この中途半端な状態から抜け出せるよう、『終わらせる言葉』が欲しい。

それが拒絶を現すのか、愛情を示すのかはサフィール次第、というお話です。

次話は同じく三年後のサフィールのお話になります。
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