14 / 73
幼馴染は魔法使いの弟子
黄色い薔薇の物語編 7
しおりを挟む
またまたちょっと時が過ぎて、クレス島へ向かうアニエス。
その心境は…。
短いです。
********************************************
アニエスは一人、海上を行く船の甲板に立っていた。
懐かしい、潮の匂い。
「三年ぶりね…」
遠くに微かに見える、島影。
この船は、クレス島へ向かう定期便だ。
パン屋の仕事を辞めたアニエスは、三年間働いて貯めた給金を元手にパン屋を開こうと、故郷のクレス島を目指した。と言っても、すぐに移り住むわけではない。
今回は、その下準備のための帰郷だ。
まずは島に渡り、パン屋を開く場所を探す。それから、住む家も。
それに材料の仕入れ先や諸々の手配や、手続きもある。
アニエスがクレス島に帰ってパン屋を開きたいと言った時、両親は応援してくれた。
パン屋で修行するアニエスの努力を、いつかクレス島に帰りたいという願いを、二人は認めてくれていたらしい。
親元を離れるのは不安で、心細いけれど。
同じだけ、胸には希望があった。
「…………」
潮風に吹かれながら、海を見つめる。
その視線の先には、懐かしの故郷。
あの場所には、たくさんの思い出が詰まっている。
楽しい、幸せな記憶。そして…、
(…サフィール…)
ほろ苦い、初恋の記憶も。
彼は今、どうしているだろう。
今も変わらず、あの森の中で。
魔法使い様と一緒に、暮らしているのだろうか。
(…もし、サフィールに会ったら…)
自分はなんて、彼に声を掛けるだろう。
『久しぶりね、元気だった?』
そんな風に、自然に。
元の仲の良い幼馴染のように、振る舞えるだろうか。
彼はそんな自分に、なんと声を掛けるだろう。
もう何年も会っていない幼馴染の姿が、浮かぶ。
『久しぶり、元気だった?』
そう言ってくれるだろうか。
彼もまた、昔のように。
何事も無かったかのように。
自分に声を、掛けてくれるのだろうか。
『私…、サフィールの事が…』
寄せては返す波のように、アニエスの心を騒がせる記憶。
自分はまだ、あの失恋から立ち直っていないのだと、思い知らされる。
サフィール以上に、好きになれる相手なんていなかった。
新しい恋に踏み出せない自分に、年上の従姉は。
なんでも相談している、実の姉のように慕う彼女は。
『それはアニエスが、ちゃんと彼の言葉で、答えを聞いていないからだ』
と言った。
無言の拒絶。それが答えじゃ、頭は納得しても心が納得しないのだと。
『アニエスはまだ、終わった恋から抜け出せないでいる。でもそれも良いんじゃないか? いつか自然と、彼以上に心惹かれる相手と出会うかもしれない。新しい物語の始まりだ。でも、もしかしたら……』
『最初の恋の物語はまだ、終わっていないのかもしれないな』
(…終わっていない、物語…)
そうなのかもしれない。自分はまだ、彼への想いを断ち切れないでいるから。
まだ彼に、恋をしている。
だからこそ、もし、サフィールに会えたら。
はっきりと、言葉で、その声で。
言って欲しい。物語を終わらせる、言葉を。
************************************************
先にこっちに出ました。『王太子妃殿下~』とのコラボ。
といってもほんのちょっとですが(^_^;)二人は仲が良いです。
そして。アニエスの気持ち。
アニエスはまだ、サフィールのことがふっきれない。
だから、もし会うことがあったら、この中途半端な状態から抜け出せるよう、『終わらせる言葉』が欲しい。
それが拒絶を現すのか、愛情を示すのかはサフィール次第、というお話です。
次話は同じく三年後のサフィールのお話になります。
その心境は…。
短いです。
********************************************
アニエスは一人、海上を行く船の甲板に立っていた。
懐かしい、潮の匂い。
「三年ぶりね…」
遠くに微かに見える、島影。
この船は、クレス島へ向かう定期便だ。
パン屋の仕事を辞めたアニエスは、三年間働いて貯めた給金を元手にパン屋を開こうと、故郷のクレス島を目指した。と言っても、すぐに移り住むわけではない。
今回は、その下準備のための帰郷だ。
まずは島に渡り、パン屋を開く場所を探す。それから、住む家も。
それに材料の仕入れ先や諸々の手配や、手続きもある。
アニエスがクレス島に帰ってパン屋を開きたいと言った時、両親は応援してくれた。
パン屋で修行するアニエスの努力を、いつかクレス島に帰りたいという願いを、二人は認めてくれていたらしい。
親元を離れるのは不安で、心細いけれど。
同じだけ、胸には希望があった。
「…………」
潮風に吹かれながら、海を見つめる。
その視線の先には、懐かしの故郷。
あの場所には、たくさんの思い出が詰まっている。
楽しい、幸せな記憶。そして…、
(…サフィール…)
ほろ苦い、初恋の記憶も。
彼は今、どうしているだろう。
今も変わらず、あの森の中で。
魔法使い様と一緒に、暮らしているのだろうか。
(…もし、サフィールに会ったら…)
自分はなんて、彼に声を掛けるだろう。
『久しぶりね、元気だった?』
そんな風に、自然に。
元の仲の良い幼馴染のように、振る舞えるだろうか。
彼はそんな自分に、なんと声を掛けるだろう。
もう何年も会っていない幼馴染の姿が、浮かぶ。
『久しぶり、元気だった?』
そう言ってくれるだろうか。
彼もまた、昔のように。
何事も無かったかのように。
自分に声を、掛けてくれるのだろうか。
『私…、サフィールの事が…』
寄せては返す波のように、アニエスの心を騒がせる記憶。
自分はまだ、あの失恋から立ち直っていないのだと、思い知らされる。
サフィール以上に、好きになれる相手なんていなかった。
新しい恋に踏み出せない自分に、年上の従姉は。
なんでも相談している、実の姉のように慕う彼女は。
『それはアニエスが、ちゃんと彼の言葉で、答えを聞いていないからだ』
と言った。
無言の拒絶。それが答えじゃ、頭は納得しても心が納得しないのだと。
『アニエスはまだ、終わった恋から抜け出せないでいる。でもそれも良いんじゃないか? いつか自然と、彼以上に心惹かれる相手と出会うかもしれない。新しい物語の始まりだ。でも、もしかしたら……』
『最初の恋の物語はまだ、終わっていないのかもしれないな』
(…終わっていない、物語…)
そうなのかもしれない。自分はまだ、彼への想いを断ち切れないでいるから。
まだ彼に、恋をしている。
だからこそ、もし、サフィールに会えたら。
はっきりと、言葉で、その声で。
言って欲しい。物語を終わらせる、言葉を。
************************************************
先にこっちに出ました。『王太子妃殿下~』とのコラボ。
といってもほんのちょっとですが(^_^;)二人は仲が良いです。
そして。アニエスの気持ち。
アニエスはまだ、サフィールのことがふっきれない。
だから、もし会うことがあったら、この中途半端な状態から抜け出せるよう、『終わらせる言葉』が欲しい。
それが拒絶を現すのか、愛情を示すのかはサフィール次第、というお話です。
次話は同じく三年後のサフィールのお話になります。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる