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幼馴染は魔法使いの弟子
黄色い薔薇の物語編 19
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サフィール視点です。
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この所、毎日幼馴染のアニエスが食事を差し入れてくれるおかげで、サフィールと使い魔猫達の食生活は一気に向上した。
アニエスの作る料理は美味しい。それは、昔自分と師匠に食事を作りに来てくれていた時から変わらず。いや、あの頃よりも腕を上げたとサフィールは思う。
使い魔猫達はすっかりアニエスに懐き、彼女が来る時間になると、そわそわとその訪れを待ちわびる。
そして、使い終わったバスケットと食器をアニエスの滞在する宿屋に届けるのも、使い魔猫達の間で人気の仕事となった。なんでも、その時自分の好きな食材のことを話すと、次の日の食事に必ず使ってくれるらしい。
好きな食材。
サフィールのための食事にも、毎回彼の好物が入っていた。
覚えていてくれたのかと、驚きつつも嬉しく思う。
しかし嬉しく思っているのに、サフィールは中々その気持ちを上手く伝えられずにいた。
初日に、言葉足りずに彼女を傷つけてしまって以来、思うように彼女と話せずにいる。
いや、あの言葉だけが原因ではない。
三年の間にますます美しく成長したアニエスを前にすると、サフィールは平静でいられなくなるような気がするのだ。そして、アニエスもサフィールの仕事の邪魔はするまいと思っているのか、使い魔猫にバスケットを渡すとすぐに帰ってしまう。
使い魔猫達の話では、アニエスはこの島でパン屋を開く準備に追われているのだという。
その合間に、滞在先の宿屋でも働いているのだとか。
働き者の彼女らしいと、サフィールは思った。
夢に向かって、頑張っているのだろう。
アニエスは昔から、一途な性格の少女だった。
サフィールには時にその一途さが眩しく映ったものである。
しかし…。
あの頃の自分は考えもしなかったろう、と彼は思う。
かつて、本当の兄妹のように仲の良かった幼馴染のことを、使い魔猫越しに知る日が来ようとは。
あの頃の自分達には、想像もできなかったことだ。
ある日の夜。
最後の客を帰してから、アニエスが夕食用にと作ってくれたパンとスープを一人食べるサフィール。パンもスープも冷え切っていたけれど、温め直すのが億劫で。
そのまま口に運んで、咀嚼する。
塩味がきいたジャガイモのスープは、冷え切って脂が浮いているのに、不思議と、美味しく感じられた。
腹を満たすと、今度は隣の自宅にシャワーを浴びに戻る。
先に帰していた猫達は、アニエス特製の夕飯を腹いっぱい食べて、幸せそうに丸くなって眠っていた。
彼らを起こさないように、静かに店舗に戻って。
奥の寝床に横になり、薄布の中に潜り込む。
そうしてサフィールは、すぐに眠りの淵に落ちて行った。
夢を、見る。
この所、サフィールが見る夢は決まって。
アニエスの、夢だ。
夢の中で、幼い自分とアニエスが遊んでいる。過去の、幸福な記憶。
どうして、自分達はあの頃のようにいられなかったのだろう。
ただ傍に居るだけで、楽しかった。嬉しかった。幸せだった。
他に、何もいらないと思っていた。
けれど。
年を重ねるごとに、その想いは変わっていって。
彼女を欲しいと。『女』として欲しいと、思ってしまったから。
もうあの頃のようには、いられなかった。
サフィールは何度も何度も、あの時の事を悔やんでいた。
彼女に劣情を抱く自分を抑えられなくて、距離を置いて。
結果、失ってしまったあの時の事を。
あの時自分が、もう少しうまく立ち回れていたら。
そもそも自分が、あんな感情を抱かなければ。
そう悔やむのと、同じだけ。
それが無理だということも、解っていたけれど。
過去は変えられない。それに。
(…きっと、俺は…)
何度も、何度でも。
アニエスに、恋をするだろう。
今なら、わかる。
彼女に優しくしたい、笑わせたい、幸せにしたいと思うのと同じくらい。
彼女にキスをしたい、抱きしめたい、抱きたいと思うのもまた、恋なのだと。
あの頃の自分は、それがひどくいけない感情のように思えて、目を逸らしてしまったけれど。
本当は、その感情を受け入れて。
素直に、彼女に。
アニエスに、想いを伝えるべきだったのだ。
「…サフィール」
夢の中のアニエスが、サフィールの名を呼ぶ。
「アニエス…?」
そして、幼かった彼女の姿は見る見る成長していって。
今の、十八歳のアニエスの姿になった。
「大好きよ、サフィール…」
アニエスの瞳が、切なげに潤んでいる。
そうして囁かれた、言葉に。
夢と、わかっていても。
「…っ」
サフィールは、全身が沸騰するような熱を覚えた。
そして彼は、ぐっと彼女の手を掴むと。
抱き寄せて、その唇にキスを落とした。
(アニエス…)
それはとても幸福な夢で。
今だけは、こうして。
仮初でも良い。この幸せを、噛みしめていたかった。
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この所、毎日幼馴染のアニエスが食事を差し入れてくれるおかげで、サフィールと使い魔猫達の食生活は一気に向上した。
アニエスの作る料理は美味しい。それは、昔自分と師匠に食事を作りに来てくれていた時から変わらず。いや、あの頃よりも腕を上げたとサフィールは思う。
使い魔猫達はすっかりアニエスに懐き、彼女が来る時間になると、そわそわとその訪れを待ちわびる。
そして、使い終わったバスケットと食器をアニエスの滞在する宿屋に届けるのも、使い魔猫達の間で人気の仕事となった。なんでも、その時自分の好きな食材のことを話すと、次の日の食事に必ず使ってくれるらしい。
好きな食材。
サフィールのための食事にも、毎回彼の好物が入っていた。
覚えていてくれたのかと、驚きつつも嬉しく思う。
しかし嬉しく思っているのに、サフィールは中々その気持ちを上手く伝えられずにいた。
初日に、言葉足りずに彼女を傷つけてしまって以来、思うように彼女と話せずにいる。
いや、あの言葉だけが原因ではない。
三年の間にますます美しく成長したアニエスを前にすると、サフィールは平静でいられなくなるような気がするのだ。そして、アニエスもサフィールの仕事の邪魔はするまいと思っているのか、使い魔猫にバスケットを渡すとすぐに帰ってしまう。
使い魔猫達の話では、アニエスはこの島でパン屋を開く準備に追われているのだという。
その合間に、滞在先の宿屋でも働いているのだとか。
働き者の彼女らしいと、サフィールは思った。
夢に向かって、頑張っているのだろう。
アニエスは昔から、一途な性格の少女だった。
サフィールには時にその一途さが眩しく映ったものである。
しかし…。
あの頃の自分は考えもしなかったろう、と彼は思う。
かつて、本当の兄妹のように仲の良かった幼馴染のことを、使い魔猫越しに知る日が来ようとは。
あの頃の自分達には、想像もできなかったことだ。
ある日の夜。
最後の客を帰してから、アニエスが夕食用にと作ってくれたパンとスープを一人食べるサフィール。パンもスープも冷え切っていたけれど、温め直すのが億劫で。
そのまま口に運んで、咀嚼する。
塩味がきいたジャガイモのスープは、冷え切って脂が浮いているのに、不思議と、美味しく感じられた。
腹を満たすと、今度は隣の自宅にシャワーを浴びに戻る。
先に帰していた猫達は、アニエス特製の夕飯を腹いっぱい食べて、幸せそうに丸くなって眠っていた。
彼らを起こさないように、静かに店舗に戻って。
奥の寝床に横になり、薄布の中に潜り込む。
そうしてサフィールは、すぐに眠りの淵に落ちて行った。
夢を、見る。
この所、サフィールが見る夢は決まって。
アニエスの、夢だ。
夢の中で、幼い自分とアニエスが遊んでいる。過去の、幸福な記憶。
どうして、自分達はあの頃のようにいられなかったのだろう。
ただ傍に居るだけで、楽しかった。嬉しかった。幸せだった。
他に、何もいらないと思っていた。
けれど。
年を重ねるごとに、その想いは変わっていって。
彼女を欲しいと。『女』として欲しいと、思ってしまったから。
もうあの頃のようには、いられなかった。
サフィールは何度も何度も、あの時の事を悔やんでいた。
彼女に劣情を抱く自分を抑えられなくて、距離を置いて。
結果、失ってしまったあの時の事を。
あの時自分が、もう少しうまく立ち回れていたら。
そもそも自分が、あんな感情を抱かなければ。
そう悔やむのと、同じだけ。
それが無理だということも、解っていたけれど。
過去は変えられない。それに。
(…きっと、俺は…)
何度も、何度でも。
アニエスに、恋をするだろう。
今なら、わかる。
彼女に優しくしたい、笑わせたい、幸せにしたいと思うのと同じくらい。
彼女にキスをしたい、抱きしめたい、抱きたいと思うのもまた、恋なのだと。
あの頃の自分は、それがひどくいけない感情のように思えて、目を逸らしてしまったけれど。
本当は、その感情を受け入れて。
素直に、彼女に。
アニエスに、想いを伝えるべきだったのだ。
「…サフィール」
夢の中のアニエスが、サフィールの名を呼ぶ。
「アニエス…?」
そして、幼かった彼女の姿は見る見る成長していって。
今の、十八歳のアニエスの姿になった。
「大好きよ、サフィール…」
アニエスの瞳が、切なげに潤んでいる。
そうして囁かれた、言葉に。
夢と、わかっていても。
「…っ」
サフィールは、全身が沸騰するような熱を覚えた。
そして彼は、ぐっと彼女の手を掴むと。
抱き寄せて、その唇にキスを落とした。
(アニエス…)
それはとても幸福な夢で。
今だけは、こうして。
仮初でも良い。この幸せを、噛みしめていたかった。
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