異世界で【まもののおいしゃさん】を開業しました 元Sランク冒険者、故郷の村で一人娘とのんびりスローライフ

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

文字の大きさ
表紙へ
3 / 32
1巻

1-3

しおりを挟む
 俺がガリウスさんに持ってきてもらったのは、大きめのボウルが二つと牛の乳を二リットルほど、お玉、そして剪定せんていバサミだった。

「こんなものを何にお使いに?」

 ガリウスさんは不思議そうにしながら、俺にそれらを渡した。

「まずはナナカンの木の群生地に案内してくれ」

 俺は草木を掻き分け、ナナカンの木の群生地の前に立つと、「本当に切り落としていいんだな?」とガリウスさんに尋ねた。

「奥様に許可はいただきました。ルクシャ様のためであれば、切ってしまっても構わないとのことです」

 俺は丁寧に葉のついている枝だけを切り落とす。

「……この木が原因なのですか?」
「これも原因の一つだな……ナナカンの木は、とある薬の材料になるんだが、その効能を求めて出産後のガラファンのメスが葉を食べることがあるんだ」
「ガラファン、あかちゃんをうんだの?」

 リリアがそう尋ねてくる。

「ああ。そうらしい。落ち着いてからなら、遠くからガラファンの赤ちゃんが見られるかもしれないぞ?」
「あかちゃん、みたい……」

 リリアが興奮したように頬を染めてそう言った。

「また来させてもらえるよう、お父さんがお願いしてみよう」
「ほんと?」

 リリアが嬉しそうに微笑んだので、俺もとても嬉しかった。
「薬……ですか。ガラファンのメスはなんの病気にかかっているのですか?」とガリウスさんが尋ねてくる。

「──いや、ダイエットのために食べるんだよ」
「ダイエット!? ダイエットですか? な、何故魔物がダイエットなど……」
「生きるために必要だからな」

 俺はガラファンがダイエットをする理由と、そもそものガラファンの生態を、みんなに話して聞かせた。
 ガラファンの発情期は秋だ。
 幼体は、親の巨体に似合わず、わずか五百グラム程度で生まれてくる。
 妊娠したガラファンは出産に備えてたくさん食べて脂肪を蓄え、蓄えた脂肪を使いながら、冬の間巣穴にこもって春先に出産する。
 溜めた脂肪から母乳を作るため、腹の中の子どもを育てることにはあまりエネルギーを使わず、それでとても小さな赤ん坊が生まれてくるのだ。短いと二か月程度しか妊娠の期間がない。
 だがその時蓄えた脂肪が減らない個体が存在する。
 ガラファンの妊娠時、増える体重はなんと二百キログラム。
 冬ごもりと母乳に脂肪を使っても、体重が半分も減らなかった場合、筋肉が自分の体重を支えられなくなってしまう。
 そこでナナカンの木だ。
 ナナカンの木の葉っぱは、満腹中枢を刺激し、食べる量を減らす効果がある。
 貴族の女性に人気で、自宅に植えて専属の薬師に調合させている人も多い。
 これを食べることで、体重が減らなかったガラファンは体を元に戻す。
 体重が戻れば通常は食べるのをやめるが、妙にナナカンの木の葉を好む個体がいる。
 普通は食べ続けることで効果を失うはずが、まれに効き続けてしまう個体がいるのだ。
 ナナカンの葉は栄養がほとんどない。
 ましてやナナカンの効果で腹いっぱいだと勘違いしているため、他のものを食べない。
 しばらくは脂肪があるから大丈夫だが、やがて倒れてしまう。
 ガラファンはとてもパートナー思いの魔物で、生涯同じパートナーとしか子を成さない。
 弱ったメスと、生まれたばかりの子どもを守るため、オスは気が立っていたという訳だ。

「ナナカンの葉を切り落としたから、これでガラファンのメスは他のものを食べるようになるはずだ。妊娠、出産と体力を消耗したところに、ナナカンの葉のせいで栄養が足りていない。胃も弱っているから、最初はたっぷりの牛の乳から始めて、たくさん餌を用意してやってくれ」
「かしこまりました」
「──にんしんってなに?」

 そうリリアが尋ねてくる。
 出産は分かっているのに、妊娠は分からないのか。村で子どもを生む女性たちがいるから、赤ちゃんが生まれることは分かるのかな。だが性教育は大切だからな。
 とはいえ俺は思わずギョッとしながら、なんと答えたものか思案した。

「うーん、そうだなあ。お腹の中で卵を育てること、だな」
「おなかのなかで、たまごをそだてる……?」
「ああ。魚や鳥が卵を産むことは知ってるか? リリア」

 リリアがコックリと頷く。

「あれは体の外に卵を出して、外で赤ちゃんを育てる生き物なんだ。でも、人間もガラファンも、本当は卵があるんだぞ?」
「そうなの!?」
「ああ。鳥みたいに硬くて丈夫な卵じゃないから、体の外に出して育てることができないんだ。だからお腹の中で赤ちゃんを育てるんだよ。それが妊娠だな」
「ふうん……分かった」

 リリアはそう言って頷いた。
 俺はすべての葉を切り終えると、ガラファンのところへと戻った。
 そしてボウルの中に、牛の乳を半分と、売り物にするために持ってきたスイートビーの蜂蜜をたっぷりと入れ、お玉でかき混ぜる。なんでもいいから混ぜるのに使えるものをと言ったらお玉を持ってこられただけで、特にお玉でなくてもいい。

「フォウッ! フォウッ! フォウッ!」

 俺は、敵じゃないぞ、攻撃の意思はないぞ、ということをアピールする時の、ガラファンの鳴き声を真似る。ゆっくりと近付き、オスの前に蜂蜜入りの牛の乳の入ったボウルを置いた。
 オスのガラファンがビクッとする。
 スイートビーの蜂蜜は栄養が豊富で、ガラファンの大好物だ。
 味方をアピールされたあとでこれを出されたら警戒を緩めてくれるだろう。
 ガラファンのオスがボウルに頭を突っ込んで牛の乳を飲み始めた。
 これなら大丈夫だ。俺はオスのガラファンの後ろに回ると、背の高い草を掻き分けた。
 そこは洞穴ほらあなだった。奥に進むと、メスのガラファンと二体の幼体がいた。
 メスはかなり弱っているのか、ぐったりと横になっている。
 俺は再び味方だぞ、と鳴き声を真似る。
 残りの牛の乳とスイートビーの蜂蜜をボウルに混ぜ、メスの顔の前に置いてやった。
 よろよろとメスが立ち上がり、ふんふんとボウルの匂いをぐ。
 やがて頭を突っ込むと、牛の乳を飲み始めた。はじめは警戒していた子どもたちも、母親が飲んでいるのを見て、争うようにボウルに頭を突っ込んだ。
 俺は洞穴から出ると、「もう大丈夫だ。これで普通の食事も取るようになる」と言った。

「……これで元気になる?」

 ルクシャくんが心配そうに俺を見上げる。

「ああ、もちろんだ」

 ルクシャくんがパアッと顔を明るくした。

「よかった……本当にありがとうございます! あの蜂蜜は……売り物だったのでは?」

 ガリウスさんが申し訳なさそうに言う。

「何、大したことはない。しかし……今回は解決することができたが、あんまり魔物を飼うのは感心しないな」

 俺は魔物の専門家として、ガリウスさんに注意した。

「ガラファンは自分のテリトリーに侵入されない限り襲ってこない魔物だが、それでも魔物は魔物だ。いつこのお坊ちゃんが危ない目に遭わないとも限らないんだからな」

「肝に銘じておきます」とガリウスさんは言った。
 ガラファンが元気になったら、子どもを見に、遊びにこさせてほしいとお願いしたところ、快諾してもらえた。リリアにそれを伝えると凄く喜んでくれた。
 ガリウスさんとルクシャくんに見送られ、ベルエンテール家の馬車に乗ってニマンドの道具屋に戻ると、会計はベルエンテール公爵家で持つことになったとニマンドに聞かされた。
 おまけに丈夫でデカい木の板付きだ。
 板まで買うと高いので、森の木を切り出すつもりでいたのだが、これなら森を傷めずスイートビーの巣箱を作ることができる。
 ガリウスさんから話を聞いたベルエンテール公爵が、御者にニマンド宛ての手紙を渡してくれたらしい。


「木材は量が多くて倉庫に取りに行くことになるからあとで届けておくよ」とニマンドに言われて、俺はリリアを肩車しながら、村への道を歩いていた。
 二人きりになると会話がもたない。
 このままじゃ駄目だな、と俺は思った。

「リリア……お父さんがいなくて、寂しかったか?」
「……」
「今までお母さんもいないのに、ずっと一人にしてごめんな……お父さん失格だよな」

 リリアは何も答えてはくれなかった。

「でも、これからはずっとお父さんと一緒だ。リリアに頼ってもらえるいいお父さんになれるよう頑張るからな」

 仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだ。放っておいたツケなのだから仕方がない、と思う。

「……おとうさん」

 ふいにリリアが呟いた。

「なんだ?」
「──おとうさん、まもののおいしゃさんみたいだった……カッコよかった」

 リリアが嬉しそうな声で言う。
 初めて自分から、こんなにたくさん話してくれた。
 俺は泣きそうになり、鼻をすすった。

「そうか、カッコよかったか」
「うん……リリアね、おとうさんと、ずっといっしょにいたい」
「……ああ。そうだな。これからは、ずっと一緒だ」

 俺は鼻水を軽くすすりつつ、そう答えた。
 まもののおいしゃさん、か。
 リリアが喜んでくれるなら、それも悪くないかもしれないな。


     ★  ★  ★


「よーし、それをそこに置いてくれ!」

 昨日は街から帰ってきたら夕方になってしまったので、そのまま夕飯を食べて寝てしまった。
 リリアと初めての食卓は、まだどこかぎこちなくて、お互いあんまり会話はなかった。でも俺が村人のくれた川魚を焼いて、身をほぐしてやると、リリアは嬉しそうにそれをスプーンで食べた。
 こうして少しずつ、リリアと関わる時間を増やしていこう。
 そうすれば、いつかきっと、リリアも心を開いてくれるはずだ。
 日頃大工として街に働きに行っているマイガーの指示で、村のみんながスイートビーの養蜂のための巨大な巣箱を作る。
 巣箱の場所は森の中の、村人が立ち入らない場所に決めた。
 ここは少し飛び出した崖のおかげで、雨も当たりにくい場所だ。人も充分雨宿りでき、生い茂る木々が、風や直射日光も防いでくれる。見晴らしがよい場所であること。強い風や直射日光が当たらない。巣箱の上に飛び立てるだけのスペースがある。屋根があればなおいい。
 スイートビーの養蜂をするにあたり、巣箱の設置に適した場所はいくつかあるが、基本、この条件に当てはまればどこだって構わない。
 そして、引っ越しをするスイートビーは、元の巣からあまり離れたところには巣を作らない。大体一キロ程度。
 移動してきてくれそうな範囲で決めた場所に、たくさん巣箱を設置しておく。
 本当に来てくれるかどうかは俺にも分からない。正直気長に待つしかない。
 巣から離れて分蜂ぶんぽうしたスイートビーが巣を作ってくれるのを待つのがいいのだ。
 それをみんなに伝えたら、すぐに養蜂が開始できると思っていたらしく、最初がっかりしていた。しかし、村人の安全と、スイートビーにストレスを与えないためと伝えたところ納得してくれた。
 スイートビーは、長い距離を飛ぶことができ、なんと最大移動距離は百キロを記録したケースもある。知らない土地にある知らない花の蜂蜜も楽しめる。楽しみでしかない。
 いくつもの巣箱を設置していると、突然村人のアントと、彼に肩を抱えられた同じく村人のジャンが、「大変だ!」と叫びながら俺たちのもとへ駆けてきた。
 みんな、手を止めて、なんだなんだと駆け寄る。
 ジャンには酷い火傷やけどと殴打されたような傷があり、失明まではしていないようだが、片目をやられて目が開けられなくなっていた。

「街道に、ラヴァロックが出たんだ……」

 その言葉に、みんなが一斉にザワザワし出す。
 ラヴァロック。漬物石サイズのゴツゴツした岩石の魔物。
 下手に攻撃すると破裂し、高熱を帯びた石をぶつけてくる、初心者の冒険者や村人が苦しめられる魔物だ。
 多くは群れを作って、溶岩の流れる地下のダンジョンなどに巣くうが、まれに単体でこうして、人里近くや森の中に現れることがあるのだ。
 本来溶岩地帯に好んで棲息する魔物だが、個体差があり、魔核まかく――魔物の急所となる部分――の熱耐久度の低い個体は、棲息地から離れていく性質を持っている。
 これはオーバーヒートによる魔核破壊死を避けるためで、溶岩の熱に耐えられない個体は、中心部の体温が上がりすぎると、魔核がやられてしまうのだ。熱が体内にこもりすぎると、脳や臓器に影響が出るのと同じだ。
 そして、移動方法は自爆。バラバラになったラヴァロックは、一番遠くに飛んだ大きな破片に向けて集まっていく。そして自分で移動する方向を決めることはできない。なので移動中の事故死もよくあるのだとか。
 ラヴァロックが自爆する時にタイミング悪くその近くを通ると、いきなり被弾して、大人でも一回の破裂で死に至ることもある危険な魔物だ。
 この村は街に行くにもどこに行くにも一本道で、どうしてもその街道を通らなくてはならない。破裂するラヴァロックに怯えながら生活することになるのだ。
 街道の脇の草原は、この村の子どもたちの貴重な遊び場でもある。
 子どものいる親たちは戦慄せんりつした。

「スイートビーの問題が片付こうとしている矢先になんてこと……」
「この村は呪われてるんじゃないのか……?」

 みんなが口々にそう言って落ち込んだ。

「だ……だいじょうぶだよ」

 声を上げたのはリリアだった。

「だっておとうさんは、まもののおいしゃさんだもの」

 みんな日頃ほとんど声を発しないリリアの声だとすぐには気付かず、キョトンとする。

「そうだ! この村にはアスガルドがいるじゃないか!」
「頼むアスガルド、なんとかしてくれ!」

 そして、数人が我に返り、俺にそう言った。
 俺はうーんと首を捻る。
 別にラヴァロック程度俺一人でも退治はできるが、問題は、一度倒しても、しばらくしたらまた湧いてくる可能性が高いということだ。
 出産などを経ず、ダンジョン内に突如魔物が現れる現象のことを『湧く』という。そして湧くタイプの魔物がダンジョンを出て人里近くに現れることも同様に『湧く』という。
 ラヴァロックは初心者向けの魔物ながら、不死再生の能力を持っている。
 そして、一度湧いたら、その近くで何度も湧くようになるのだ。
 おそらく最適な住処として、気に入ってしまうのだろう。

「……まあ、ともかく、まずは状況を見てみないことには始まらないな。アント、悪いがラヴァロックのところまで、案内してくれないか?」


 俺はジャンの怪我の治療を村人に頼むと、アントを連れてラヴァロックの湧いたところへとやってきた。

「……これだよ」

 ラヴァロックは村から街へ向かう街道のど真ん中に鎮座していた。
 一見ただの石か岩に見えるため、こんなところにあっても、破裂するまで魔物とは気付けない。
 ジャンも破裂されて初めてラヴァロックだと気付いたのだろう。

「こんなものがいたら、恐ろしくて通れないよ。早くなんとかしてくれよアスガルド」

 アントは怯えて俺を急かす。

「待て待て、退治するのは構わんが、ラヴァロックは倒したところで、時間が経てばまた同じように湧いてくるぞ?」
「じゃあ、その都度倒せばいいじゃないか」
「──って、いやいや、それ、倒さなくとも、なんとかなるぞ?」
「どういうことだ?」
「ここが草むらなんかじゃなく、街道のど真ん中ってのがよかった。丁度スイートビーの巣箱に使った木材の余りもある。ちょっとラヴァロックにも仕事を与えて、この村の役に立ってもらおう」

 俺はいぶかしむアントを連れて戻ると、早速ラヴァロックの活用方法について、村人に話をした。


 俺は村人にスイートビーの巣箱を作るのに余った木材と、すきを何本か、炭、まき、桶、柄杓ひしゃく、金ダライを持ってきてもらった。

「ラヴァロックに仕事を与えるだって?」
「今度は何をするっていうんだ?」

 ラヴァロックに戦々恐々としていた村人たちだったが、俺が何やら始めるというので、興味津々の表情になっている。

「──まずはマイガーに設計してもらった通りに小屋を建てよう」

 俺はみんなを村の近くの川に連れて行った。
 上流には小さな橋がかけられていて、普段はそこで生活用水などを汲んでいる。
 地面の石をどかして水平にして、簡素な小屋を建てる。
 小屋のすぐ脇が川になっていて、小屋から川へ素足で行っても問題ないよう、川まで板を渡した。
 川の中にどかした石を並べ、ちょっとした囲いを作る。
 飲み水を汲む場所より下流なので、生活するのにも特に問題はない。
 小屋の中には対面で何人かが腰掛けられる木の椅子を、壁にくっついて飛び出したような形で作った。
 更に小屋の奥に木の囲いを作り、そこに金ダライを置き、すぐ脇に水の入った桶と柄杓を置いた。

「──よし、準備はいいな。ラヴァロックを連れてこよう」

 俺はアントとマイガーに鋤を手渡した。
 炭と薪で火をおこし、俺とアントとマイガーで鋤の刃の部分を炭に当てて熱すると、刃の部分の色が変わりアツアツになった。

「こんなものだろう。冷めないうちに急ぐぞ」

 俺たちは街道にたたずむラヴァロックの周りを取り囲んだ。

「そっと、そーっと、地面との隙間に刃を入れるんだ。全員入れ終わったら一斉に持ち上げるぞ」
「入ったよ」
「こっちも大丈夫だ」
「よし、いっせーの!!」

 声をかけて鋤を持ち上げると、ラヴァロックは大人しく鋤の刃の上に鎮座していた。
 慎重に、だができるだけ早足で俺たちは小屋へと向かう。
 鋤の熱が冷めたらアウトだ。川の脇の小屋に到着し、金ダライの上に鉄の網を敷き、無事ラヴァロックを下ろした。
 近くに冷たい川があり、ここには冷めない高温の石がある。
 考えることは一つしかなかった。
 そう、俺はラヴァロックを利用した、石が冷めないサウナを作ったのである。
 サウナを作るのは実に簡単だ。なんならテントと熱した石があるだけで作ることができる。
 ただし普通の石をただ熱しただけのサウナでは、石の熱がすぐに冷めてしまう。
 その点ラヴァロックは常に高熱を発している岩石の魔物だ。
 放っておいても熱が冷めない。小屋に閉じ込めた場合の室温は最高で百度。
 ラヴァロックの好む場所は、高温と湿度が保たれているところだ。
 俺はラヴァロックが草むらにいたら、この方法を取るつもりはなかった。
 ラヴァロックは自分から熱を発し、地面を熱することで快適な環境を整えるのだが、草むらにいると草の水分で温度が上がりにくい。
 そこが気に入らないラヴァロックは、移動目的ですぐに爆発してしまうのだ。
 いつ爆発するか分からない状態では、さすがに村人を近付ける訳にはいかない。
 熱いものに接していてリラックスできる環境であれば、ラヴァロックは大人しくしてくれる。
 俺は手を入れて小屋の温度を確認すると、早速服を脱いでタオルを腰に巻き、サウナ小屋に入った。
 高温の小屋とアツアツになった鉄の網が気に入ったのか、ラヴァロックは大人しくしている。
 俺はラヴァロックに、桶に入った水を柄杓ですくってかける。


 ラヴァロックは好みの環境で落ち着いているので、水をかけても問題ない。
 水蒸気を発生させ、よりラヴァロックの好む環境にしつつ、ロウリュウを楽しむ。
 砂時計で計って、たっぷり八分、汗をかいたあとに、すぐに近くの川に飛び込む!
 俺は勝手に、サウナのあとにそのまま大自然の水にかることは、全世界のサウナバカの夢だと思っている。前世の俺の夢は、できることなら、湖畔こはんにサウナを作って、そのまま湖に飛び込みたいというものだった。

「ああ~、最高だ……」

 気持ちのよさそうな俺を見てたまらなくなった村の男たちが、次々と服を脱いでサウナに入る。
 タオルが足りずにそのまま裸で入る奴も現れ、女性たちが悲鳴を上げた。

「いいな、このサウナっての」

 アントも早速サウナにはまったらしい。
 俺の教えに従い、砂時計で計ってサウナに八分入って、川に浸かり、再びサウナで八分、を繰り返す。

「スイートビーの養蜂を本格的に開始するまで時間がかかる。このサウナで人が呼べたら、こっちでも稼げるかもしれないな」

 すぐには養蜂で稼げないと知ってがっかりしていた村人も、俺のその言葉に沸き立つ。
 石を何度も熱するには、かなりの薪と炭がいるので経済的ではない
 村では毎日風呂に入る奴はいない。
 たまに入る時も当然沸かし直しなんてしないので、家族全員で一気に入るし、直接お湯に浸かることもない。洗った体を流すのに使うのみだ。
 薪や炭を使ってサウナを商売でやるには、かなりのお金を取らなくては元が取れないが、ラヴァロックを使えば元手はタダだ。
 ちなみにラヴァロックを直接水に入れて風呂を沸かすことはできない。
 水の中で呼吸ができず死んでしまうからだ。
 ただし、鍋などをラヴァロックの上に乗せて湯を沸かすことは可能だ。
 冒険者時代は、コイツを見つけては湯を沸かして料理をしたり、沸かした湯を耐水性のある布に入れ、木から吊るしてシャワーを楽しんだりしたものだ。
 俺たちがサウナを楽しんでいると、女性たちが焦れて、物干し台とシーツを大量に持ってきて、小屋の近くに囲いを作った。

「いい加減代わりなさいよ」

 村で一番の肝っ玉母ちゃん、ナディに言われて、男たちがすごすごとサウナから出る。

「リリアちゃんもおいで、おばちゃんと一緒にサウナに入ろう?」

 ナディに笑顔で手を差し出され、リリアはコックリと頷いた。

「すまん、リリアを頼んだ」

 俺がナディにそう言うと、「任しといて!」と、ナディが胸を叩いて、笑顔で請け負ってくれた。
 女性たちはシーツの向こうで裸になり、バスタオルを巻いてサウナに入った。
 中から楽しそうな女性陣の声に交じって、リリアの笑い声も聞こえてくる。
 しばらくしてサウナから出てくると、ナディがリリアを前に抱っこする形で一緒に川に浸って、お喋りをしていた。楽しそうだな、リリア。俺には見せたことのない笑顔をしている気がする。

「そこ! 娘が気になるからってあんまり見ない!」

 ビシッとナディに指をさされ、俺はバッと背中を向けたのだった。
 川から上がってリリアに服を着せたナディが、リリアの髪を拭いてくれている。

「すまない、ナディ。リリアを見てくれて助かった。代わるよ」

「はい、じゃあこれ」とナディがタオルを俺に渡してくる。

「どうだ? リリア。サウナ気持ちよかったか?」

 俺がそう尋ねると、「うん! きもちよかった!」と嬉しそうにリリアが笑った。
 俺にもそんな顔を見せてくれるのかリリア……
 俺は思わず泣き笑いのような顔をした。
 本来汗をお湯で流すだけで日々の汚れは取れる。
 サウナで温まって川で汗を流せば、風呂に入らなくとも問題ないし、その点でも経済的だ。男女共に好評で、俺はこれからサウナが流行ることを確信した。


しおりを挟む
表紙へ
感想 26

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◇2025年02月18日に1巻発売! ◆2025年06月16日に2巻発売! ◇05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。