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1巻
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しおりを挟む第一話 スキル〈海〉
僕はこの間15歳の誕生日を迎えた。
「今日は鑑定に行く日なんだよね? 兄さま。どんなスキルをもらえるんだろう?」
楽しく会話をしながら朝食をとっている席で、弟のリアムが僕に話しかける。
「アレックスは、我がキャベンディッシュ家の跡取りだ。火魔法の力を授かるだろう」
僕の代わりにキャベンディッシュ侯爵家の当主である父さまが答える。
我が家は代々優秀な魔法使いを輩出している名家で、父さまが火魔法使い、母さまが水魔法使いだ。キャベンディッシュ家の子どもたちは代々火魔法使いであることが多く、僕も当然そうであることを期待されているんだ。
ちなみに祖父の母親は、当時国一番とうたわれた火魔法使いだったそうだ。なんでも国が戦争していた頃に、大活躍していたのだとか。
「でも父さま。この前読んだ本では、貴族の子ども全員が魔法を使えるわけじゃないって書いてありましたよ? 僕や兄さまには魔法の才能がないかもしれないでしょう?」
弟の言葉に父さまは一瞬眉をひそめた。
「確かにそうだな……だが心配はいらない。お前たちには我がキャベンディッシュ家の血が流れている。きっと素晴らしい魔法使いになれるさ」
父さまが元の表情に戻って優しげに言った。
「そうでなくては困りますわ。優秀なリアムを平民にするのですもの。納得出来るだけの結果を残していただかないと」
続けて、リアムの母親である、父さまの後妻のエロイーズさんが言う。
ちなみに僕の母さまは、僕が4歳の時に亡くなっている。
だから弟のリアムは腹違いで、僕とは5つ離れている。とっても可愛い弟だ。
僕は家族の中で唯一リアムのことだけは好きだった。後妻であるエロイーズさんは貴族の娘らしく高慢なところがあり、あまり好きになれなかったし、父さまもそんなエロイーズさんの味方ばかりしていたから。でもリアムだけは違った。いつも僕に優しくしてくれたんだ。だから僕はリアムのことが大好きになった。
リアムは昔からとても賢い子だった。6歳くらいになると大人にも負けない知識を身に付けたけど、それを自慢することなく、ただ黙々と勉強に打ち込んでいた。
その努力のおかげか、みんなからは天才だと騒がれるようになった。でもそれが面白くないのか、一部の貴族の子どもたちからはいじめられていたみたい。
僕はそれを知った時、すぐに助けてあげたかった。けど5つも年齢差のある子どもの喧嘩に僕が口を出すのははばかられた。それに僕が何かすれば、余計に事態が悪化するかもしれない。そう思うと何も出来なかった。ただ見ていることしか出来ない自分が情けなく感じられた。だからせめてもの償いで、僕はずっとリアムの味方でいたいと思ったんだ。
貴族の子どもは跡取り以外は、他の貴族と結婚しない限りは平民になる決まりだ。リアムに貴族との結婚話が来ない限り、リアムは成人後に平民になることになる。そしてその時が来たら、真っ先に僕がリアムを支えるつもりだ。だから今回の鑑定で、少しでもいいスキルをもらいたいんだ。
あ、もちろん亡くなった母さまと、滅多に会えない、父さまの弟であるセオドア叔父さんがいるんだけど、その叔父さんのことも好きだよ。
小さい頃に会ったきりだけど、叔父さんも僕にとても優しくしてくれたんだ。またいつか会えたらいいなって思ってる。
「まだ平民になると決まったわけではないだろう。リアムにも結婚相手を探しているんだ。我が家の跡取りになれずとも、他の貴族に婿入りすれば平民にはならない。リアムは優秀だからな。きっといい縁談が舞い込むことだろう」
父さまがナプキンで口元を拭いながらそう言った。
そうだね、リアムは賢いもの。領地の多い貴族なら、管理する能力のある婿養子を欲しがることだろう。
この国、リシャーラ王国では、15歳で成人になった子どもは、孤児院の子どもをのぞいて、全員それぞれの地域の教会で鑑定を受けることになっている。僕の鑑定ももうすぐだ。
リシャーラ王国は周囲を別の国の領土に囲まれて、海こそないけれど、豊かな山の幸や鉱山資源に恵まれている。その恩恵にあずかろうと、周辺諸国から多くの商人が出入りするようなかなりの商業大国だ。昔は塩を巡って戦争も起きたらしいけど、今は友好国であるレグリオ王国との取り引きのおかげで、供給量も安定してるしね。
ただ1つ問題があるとすれば、魔物の存在だ。
魔物と一口に言っても色々あるけれど、僕の住む王都の近くではゴブリンやスライムなどの弱い魔物が多いらしい。昔家の庭に出た時は、うちの騎士団が倒してたな。
とはいえ、どんな魔物でも油断すれば命を落とす危険がある。だから15歳で成人になると同時に、子どもには必ず鑑定を受けさせるように法律で定められているのだそうだ。
ただし、孤児は教会で鑑定を受けられない。理由はお金が必要だからだ。
──あくまでも名目上は、寄付であって強制ではないけど。
とはいえ、鑑定を受けさせる義務を定められているのは保護者側。
孤児の鑑定分の寄付なんて出来ないから、鑑定なしってことになるんだ。
よその国だと鑑定にお金は一切かからず、孤児の中にも凄いスキルを持つ子どもが見つかることもあるのに。よほどよいスキルじゃないと、剣術と魔法学の学園にも行かれないんだよね。ごくまれに凄いスキルを持つ子どもが見つかって、特待生として編入することがあるくらいかな。
孤児は引き取り手が見つからない限りは、大人になって孤児院を出なくちゃならなくなったタイミングで、大抵が冒険者を目指す。
そこで冒険者ギルドで鑑定してもらって、よいスキルがあれば、基本はそのまま冒険者や商人、鍛冶職人などの工員の道へ。
だけど仕事につながるスキルがなければ、それはもう色んな方法で、生きていく道を模索することになってしまうらしい。
そして今日はその鑑定の日だ。
朝食を終えたあと、父さまに連れられて、王都にあるかなり大きな教会にやって来た。
教会の中に入ると、既に何人もの子どもたちと、その親が集まっていた。みんなワクワクしているらしく、あたりはザワついている。
我が家と同じ侯爵家のサイラスも、両親に連れられてやって来ていた。
僕に気が付くと、フン! とそっぽを向いた。
嫌だなあ。
僕の婚約者であるオフィーリアのことが好きらしく、僕がオフィーリアと婚約してからというもの、何かとつっかかってくるんだ。
侯爵家の長男である僕には、互いの両親が取り決めた、オフィーリアという名の美しい婚約者がいる。
僕の幼馴染で、我が家のメイドの娘のミーニャと、その母親で同じくメイドのマーサの姿も見えた。
ミーニャは僕の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
肩にかかる程度の栗色の髪に、大きな青い瞳。平民の女の子たちがみんな穿いている、膝丈のスカートに半袖姿。
背はあまり高くなくて、華奢な体つきの割に、こう……、豊かな胸元をしている。
笑顔の眩しい、とっても可愛らしい女の子だ。
僕の親同士が決めた婚約者であるオフィーリアは、僕よりも誕生日が早くて、もともと魔力が高い。
魔力の高い魔法使いの配偶者が、喉から手が出るほど欲しいキャベンディッシュ侯爵家としては、理想の婚約者だ。
だけど、僕は小さい頃からずっと、ミーニャのことが好きだった。
彼女は僕の初恋の女の子なんだ。だけど家を継ぐ貴族の子どもや、令嬢たちは、自分で結婚相手を選べない。これも法律で決まっていることなのだ。
だから僕はミーニャに好きだと言う権利すらなかった。遠くからそっと眺めるだけ。
もちろん幼馴染だから、仲はいいけど。ミーニャと結婚出来たらどんなにいいだろう。
僕は別に貴族でなくたっていいんだ。ミーニャと一緒に小さな家で暮らしたい。
ただそれだけなんだ。
ミーニャに似た子どもは可愛いだろうな。ミーニャにそっくりな女の子がいいなあ。将来お父さんと結婚するって言い出して、ミーニャと僕の取り合いになったりするかもね。
想像するだけで幸せな気持ちになる。だけど、それが難しいのも理解しているんだ。
ミーニャは平民の娘だから、父さまが僕の結婚相手に選ぶことはない。彼女が優秀な魔法使いであれば話は別なんだけど……。
貴族は貴族同士の結婚が当たり前だけど、優秀な魔法使いなら平民と結婚することもある。それくらい魔法の力を大切にしている。
特に、スキルは遺伝しないけど、ステータスは遺伝すると言われてるから、知力やMPが高い相手を我が家では求めてるんだ。
魔法のスキルを与えられた人じゃないと、基本、知力やMPのステータスは高くないから、結果的に魔法スキル持ちを求めることになるんだよね。
僕らは互いに挨拶を交わしたあと、一緒に教会の奥へと進んだ。
教会の1番奥には祭壇があり、その上の台座には大きな水晶玉が置かれていた。
父さまの話によると、あの水晶玉こそが鑑定用の魔道具なのだそうだ。
祭壇に立っていた祭司さまが大きな声でみんなに言った。
「さあ皆さん、順番に並んでください」
僕はミーニャとともに、最後尾に並ぶことにした。前を見ると、みんな緊張した様子で順番を待っている。
前の子が水晶玉に触れると、青白い光が溢れ出した。
それから祭司さまが神さまからのギフトである、スキルの名前を告げる。
あっという間にミーニャの順番になった。
ミーニャはなんと、料理人と、薬師と、弓使いのスキルの3つを与えられていた。
どれも平民として働くのであれば、食いっぱぐれのないスキルばかりだ。
「……あ、ありがとうございます」
祭司さまにお礼を言って、ペコリとお辞儀をするミーニャ。そして頭を上げると同時に今度は僕のほうを見て壇上で手を振ってきた。
もしも何かの魔法使いだったら、身分が平民のままでも、ミーニャを結婚相手に選べるのに……と、コッソリ考えたのはナイショだ。
オーウェンズ伯爵家との婚約を破棄してまで、ミーニャを選べるわけじゃないからね。オフィーリアになんの落ち度もないのに、彼女を社交界で傷物にすることになるし。
「──3つだなんて凄いじゃないか!」
スキルは3つまでもらえることがあると聞いてはいたけど、多くても2つで、1つの人がほとんどだ。
壇上から下りてきたミーニャに駆け寄りそう言うと、ミーニャはえへへ、と、嬉しそうな顔で照れくさそうに笑った。
……かあいい。
「はい、次の方どうぞ!」
祭司さまに呼ばれて、僕も階段を上がり、壇上にのぼると、水晶玉の前に向かった。
「はい、それでは水晶玉に触れてください。神があなたに与えたギフトを教えてくださいますからね」
そう言われて、そっと手をかざしてみた。
すると──水晶玉の中に、小さな光が生まれた。
祭司さまがそれを覗き込む。
「──え? お、おかしい……。これはいったいどういうことでしょうか……?」
戸惑ったような声を上げる祭司さま。
祭司さまは他の祭司さまに声をかけ、2人で水晶玉を覗き込んでいる。そうして次から次へと、大勢の人たちが祭壇の上に集まって、何やら話し合っていた。
何が起こったのか分からず、他の子たちもざわついている。
僕自身も困惑していた。
「──あなたのスキルは、〈海〉とだけ書かれています」
祭司さまが困り顔で言う。
〈海〉ってなんだろ……。
聞いたことのないスキルだった。
皆一様に首をかしげていたけれど、祭司さまに尋ねてみる。
「〈海〉とはなんですか?」
すると、祭司さまも不思議そうな顔をして答えてくれた。
「海というのは、リシャーラ王国のはるか南にあるレグリオ王国の先に広がる、広大な塩水のたまる場所のことです。昔からそこに存在し続けていると言われていて、我々に魚や塩をもたらしてくれます。リシャーラ王国に住む人々は皆、親しみを込めて〝母なる海〟と呼んでいますよ」
「いや、海の意味は分かるんです。僕のスキルが〈海〉ってどういうことでしょうか?」
僕の問いかけに、祭司さまは困った表情を浮かべた。それから少し考えてから口を開く。
「おそらく、あなたは特殊なユニークスキルを持っているんだと思います。かつて聞いたことがないため、発動条件は分かりません」
「そんな……」
よく分からないものを、どうやって使ったらいいんだ?
ちらりと父さまを振り返ると、何やら難しい表情を浮かべている。少なくとも、父さまが望んでいた火魔法じゃない。しかもそれどころか、魔法スキルですらないなんて。
「ユニークスキルの中には、固有の能力とは別に、特定の条件を満たした時にしか発動しないものがあるのです」
祭司さまに話しかけられ、そちらに向き直る。
「あなたの能力はおそらくそれかと。塩や魚を手に入れられるのかもしれませんね。この国にとって必要な能力です。発動出来るようになれば国から保護されるかもしれませんよ?」
確かに、海のないリシャーラ王国で、塩や魚を出せる能力は、重宝されることだろう。
けど……。
「でも……。発動条件が分かりません」
泣きそうになっている僕に、若い祭司さまたちが話しかけてきた。
「例えば、火魔法のスキルを得たとしても、それだけでは火魔法を使うことは出来ませんよね。普通は学園で学んでから使います」
「……はい……」
「でも、もしもその人の心の中に、元々炎に対する強いイメージがあったとしたら、その人は火魔法のスキルを得ると同時に、火魔法を使うことが出来ます」
「学園の授業は、そうしたイメージを具体化させ、体の中で魔力循環をしやすくさせるのです。属性の素養のない人は、それで魔法が使えるようになるのです」
「つまり……?」
「素養がある人には、本人は無意識でもその人と関係のあるギフトが与えられる場合があるのです」
「え」
「あなたの場合だと、海や水に対して特別な思い入れやイメージを膨らませれば、使えるようになるかもしれませんね」
そう言って、若い祭司さまは微笑みかけてきた。
海や水に対する、特別な思い入れやイメージを膨らませる……。
なるほど、僕がこのスキルを授かった理由がぼんやりとだが分かった気がする。
水魔法使いだった母さま。そんな母さまと唯一出かけた、レグリオ王国の海への避暑旅行。僕の大切な思い出だ。
それに僕自身、小さい頃から水遊びが好きでよく川や湖で遊んでいた。
水と火のどっちに思い入れがあるかと言われれば、断然水だと言わざるをえない。
だからきっと、それが関係しているに違いない。自分の持っているユニークスキルについて、色々と分かった気がする。
ただ、まだ完全に納得出来たわけでもないけれど……。せめて水魔法だったら……。
そんなことを考えていた時、ふいに別の祭司さまたちの声が聞こえてきた。
「しかし、この子は将来有望な才能の持ち主かもしれません。ユニークスキルには他にも様々な種類があって、中にはかなり珍しいものもあるんですよ」
「そういったスキルが手に入れば、冒険者として大成出来る可能性もありますからねえ。まぁ、もちろん本人の努力次第ですが」
冒険者か。そういえば父さまの弟である叔父さんも、昔冒険者をやっていて、その時の話を聞かせてもらったことがある。とても危険な仕事らしくて、時には命を落とすこともあるみたいだ。
僕には絶対に無理だな……。
ガックリと肩を落として祭壇から下りる僕を、サイラスがニヤニヤしながら見ていた。
親と一緒に来ているから大人しくしてるけど、今度会ったら何か言われるんだろうな。
落ち込む僕を見て、心配そうな表情を浮かべるミーニャに挨拶をして、父さまとともに侯爵家の馬車で帰ったのだった。
次の日の朝食の時間に、事態は急変した。
父さまが突然、話がある、と神妙な顔つきで切り出した。
「──昨日エロイーズとも一晩話し合ったんだがな。……この家は今日より、リアムに継がせることとする」
「え」
僕は驚きのあまり、持っていたフォークを皿の上に落とした。
カシャンという音が虚しく響く。
でも、父さまのその言葉に1番驚いたのは僕ではなく、リアムだった。
「どういうことなの!? 父さま!!」
寝耳に水だったらしいリアムが問いただす。
「……昨日屋敷に戻ってすぐ、オーウェンズ伯爵家より、オフィーリア嬢の婚約者をリアムに変更しないのであれば、婚約破棄させてほしいとの打診があったのだ」
苦虫を噛み潰したような顔でそう言った父さまがため息をつく横で、エロイーズさんはどこか誇らしげだった。
「……どうやら、オーウェンズ伯爵家の関係者があの場にいたようだな」
──……サイラスだ!!
たぶん僕と婚約破棄させようとして、オーウェンズ伯爵に報告したに違いない。自分が取って代わろうとしたのだろう。
残念ながら、オーウェンズ伯爵は、キャベンディッシュ家の財産と名声が目当てでリアムもいるから、サイラスの思うようにはいかなかったけど。
「当家としてはオフィーリア嬢をぜひとも娶りたい。だが欲しいのはキャベンディッシュ家の跡継ぎを生むのが目的だ」
……まあ、そうだろうね。当主になれないとなると、オーウェンズ伯爵家にリアムは婿入りすることになるもの。オフィーリア嬢をキャベンディッシュ家の当主と結婚させるつもりの伯爵も、そういうつもりでリアムをと言ってきたんだろうし。
「──オフィーリア嬢は、僕より5つもお姉さんですよ!?」
「貴族間の結婚に、5つ差なんて大したことじゃありませんよリアム」
エロイーズさんが、婉然と微笑みながらリアムに言う。
家同士のつながりだから、歳の近い子どもがいなければそういうこともある。
「リアムに魔法のスキルがギフトとして付与されるかは分からないが、今の優秀さからすればほぼ確実だろう。いずれにせよ、オフィーリア嬢がいれば、次世代は間違いなくステータスの高い魔法使いが生まれるだろうからな」
ステータスは遺伝すると言われているので、魔力が高い人特有の金色の目をした子どもが、生まれる可能性がかなり高くなる。
ようするに、オフィーリア嬢のような瞳の色の子どもがね。そうして生まれた子は、魔力量も多くて魔法も使える可能性が高いし、将来有望な貴族になれるってわけだ。
「そう……ですか……」
僕はそう呟いた。
「キャベンディッシュ家の跡継ぎとして、必要なスキルがないのですから、仕方がないと分かりますわよね?」
自分の息子であるリアムを、跡継ぎにしたがっていたエロイーズさんは、勝ち誇った表情で僕に言った。
「お前は既に15歳になり、成人だ。他の貴族から婿入りの打診がなければ、平民として放逐することとなる。それがこの国の法律だ。分かるな?」
「はい……。分かりました……」
「兄さま! 出ていっちゃうの!? 僕が大人になるまでいてくれないの?」
リアムが泣きそうな表情で、驚いて僕を見つめる。
「僕に婚約の話があればいられるんだけどね。使えないスキルを持つ僕を、わざわざ欲しがる貴族なんてないさ」
寂しがるリアムに微笑んだ。
リアムみたいに優秀じゃないから、キャベンディッシュ侯爵家の跡取りじゃなくなった僕に、魅力を感じる貴族はいないよね。
「それに平民も悪くないよ?」
笑顔の僕の言葉に、リアムは納得がいかなそうな顔をする。
うん、平民。悪くない。これで僕ははれて自由だ!!
悪くないどころか最高じゃないか。だってこれでミーニャに結婚を申し込める! ああ、なんて素晴らしいんだろう。ミーニャとの結婚生活が今から楽しみで仕方がないよ!
ミーニャ待っててね! 独り立ち出来たらすぐにでもプロポーズしに行くからね!!
「兄さまは能天気過ぎますよ……」
リアムが困惑しながらそう言う。
まあ、侯爵家の跡継ぎから、いきなり放逐と決まったんだもんね、普通はもっと嘆いてもおかしくない。エロイーズさんですら、僕のガッカリした顔を期待してたのか、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で僕を見ている。
「──そ、そうかな?」
平民になれるのが楽しみ過ぎて、もろに顔に出ちゃってたみたいだ。
気を付けないとなあ。気を抜いたら小躍りしだしそうだもの。
それにしてもどうせ放逐されるならもう少し早く言ってほしかったな。そしたらもっとたくさんミーニャとの時間が過ごせたのに。
まあそんなこと言っても始まらないよね。これからたくさんの時間を一緒に過ごせるようになるんだし、今に感謝しないとね!
心残りなのは、まだ小さいリアムを守ってやれなくなることくらいだ。
ごめんね、君が成人するまでそばにいたかったけど、元貴族の人間は貴族と関わることが許されないんだ。
「……まあ、ただ、ここまで跡継ぎとして育ててきたんだ。まったく役に立たないこともないだろう。分け与えてやれるような領地はないが、私の弟が管理している土地に住めるよう打診しよう」
冒険者を引退した叔父さんは、土地を購入してそこで細々と暮らしているらしい。
叔父さんの家は我が家からはかなり遠い。ミーニャにも簡単には会えなくなってしまう。
でも、何はなくとも、住むところの確保は必須だ。
その提案に僕は飛びついた。
本来なら騎士団だとか、先に就職先を見つけておくものなのに、僕には急過ぎて何もないからね。
このままじゃ行くあてもなくて、冒険者になって細々と採集クエストをこなすか物乞いになるかしかなくなっちゃう。
僕の反応を見て満足したのか、父さまは話を続けた。
「弟からの返事があるまでに、荷物の整理をしておきなさい。持ち出せる物は限られているから、注意するように」
貴族の子どもの持ち物は、当主である親が貸し与えた物ということになっている。
だから家を出るとなると、色々と返さなくちゃならなくなるんだ。
「分かりました」
そこで話は終わり、叔父さんから返事があるまで、部屋でのんびりと過ごすことになった。
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