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第75話 カーバンクルの守護②
俺はギルド職員たちと共に、再び雪山に登った。バンカーさんは息も切らさず大したものだったが、男性2人が険しい山道にフウフウ言いながら登っていた。
「お前たち、女性陣に負けて恥ずかしくないのか、しっかり登りなさい。」
「も……、申し訳ありません。日頃事務ばかりで体がなまっていて……。」
バンカーさんに叱咤されて、力を入れようとするも、それでも大変そうだった。
女性陣は若くて身軽そうな体型だったが、男性陣はかなりお腹周りに肉がついているから、そもそも体が重たいんだろうな。
「ここです。」
洞窟の前に付いた時、男性陣はホッとしたような表情を浮かべて、膝に手を突き体を折って、今にも雪の上にも関わらず、その場にしゃがみこんでしまいそうになっていた。
「先に洞窟の中を確認して来ますので、こちらでお待ちいただけますか?」
「お願いします。」
バンカーさんに了承を得て、俺が先に洞窟の中に入る。カーバンクルたちに、俺とカイアが瘴気を払ったことを、冒険者ギルド職員に内緒にしておいて貰う為だ。
カーバンクル自身が自分で払ったことにしてしまったしな。
洞窟の奥に進むと、大人のカーバンクルと子どもたちが、木の枝の巣ではなく、俺の敷いた絨毯の上にいた。
「どうした、先程ぶりだな。」
「それ、気に入っていただけたんですね。残して帰ったのが気になっていたんですが。」
「ああ、よい。とても暖かい。」
カーバンクルの子どもたちは、絨毯の上でコロコロと寝返りをうったり、休んだりしていた。かわいいな。
「実は今、冒険者ギルドの職員たちを、洞窟の外に連れてきているんです。
カーバンクル信仰を再びこの地に広める為に、この目で確認したいのだそうです。」
「人の信仰は我らの力。
会っても構わん。」
「ありがとうございます。実はそれでなんですが、俺は、俺とカイアに瘴気を払う力があることを、隠しておきたいと思っているんです。特にカイアの力を……。」
「お主を守護している木の精霊は、瘴気に取り憑かれない程の力を宿している。
それが知られれば、お主たちを利用して、瘴気を払わせようとする輩も現れよう。
だが、利用されると精霊が汚れてしまう。
いいだろう、我の妻が払ったことにしておこう。本来その力があるのだから。」
「ありがとうございます。
洞窟の中にお呼びしますか?」
「いや、こちらが向かおう。」
そう言って、父親のカーバンクルは立ち上がった。一番大きなオムツウサギの子が、それを見て耳をピッピッと動かした後で、スックと立ち上がった。
「お子さんたちも行かれるのですか?」
「いや。カーバンクルは精霊であると同時に肉の体を持っている。人間から見て、とても手に入れたくなる姿のようだ。
特に子どもたちはな。だから見せるつもりはない。我と妻のみでゆく。」
そう言われて、一番大きなオムツウサギの子はがっかりしたように耳を下げた。
確かにこんな可愛らしい姿の生き物を、飼いたい人間は多いだろうな。それにしても、精霊を手に入れようとした人間が過去にいたのか。不敬にも程があるな。
「では参ろうか。」
俺とカーバンクル夫妻は、オムツウサギの子どもたちに、中で大人しくしているよう言い含めてから、揃って洞窟の外へ出た。
その姿に、ギルド職員たちがザワつく。
「カーバンクル……様……。」
バンカーさんが震えていた。そして雪の上に片膝をつき、胸元に手を当てた。
その姿を見て、他の冒険者ギルド職員もそれに倣って、膝をついて胸に手を当てた。
「私は、キシンの冒険者ギルド副長、セオ・バンカーと申します。
当地を守護する精霊、カーバンクル様にお会い出来て光栄です。」
「堅苦しくせずとも良い。立つといい。」
「ありがとうございます。
……本当に、この山にずっといらしていただいていたのですね。
信仰の途切れた我々を、それでも見守っていて下さったのですね。
これからは、再びカーバンクル様の存在をみんなに広めてゆきます。
どうか我らをお守り下さい。」
「もちろんだ。我の願いはこの地に生きとし生けるものすべての安らぎ。
お前たちが力を与えてくれるのであれば、我はお前たちすべてを守ると誓おう。」
「ありがとう……ございます……!」
バンカーさんも他の職員たちも、この地を守護する聖なる存在を前にして、感動に震えているようだった。
「ところで、我はそこの男に用事がある。
少々借りても構わないだろうか。」
と、父親のカーバンクルが俺を見てきた。
「はい、俺は構いません。
では、ちょっと行ってきますね。」
俺はバンカーさんにそう告げると、カーバンクル夫妻と共に洞窟の中に戻った。
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「お前たち、女性陣に負けて恥ずかしくないのか、しっかり登りなさい。」
「も……、申し訳ありません。日頃事務ばかりで体がなまっていて……。」
バンカーさんに叱咤されて、力を入れようとするも、それでも大変そうだった。
女性陣は若くて身軽そうな体型だったが、男性陣はかなりお腹周りに肉がついているから、そもそも体が重たいんだろうな。
「ここです。」
洞窟の前に付いた時、男性陣はホッとしたような表情を浮かべて、膝に手を突き体を折って、今にも雪の上にも関わらず、その場にしゃがみこんでしまいそうになっていた。
「先に洞窟の中を確認して来ますので、こちらでお待ちいただけますか?」
「お願いします。」
バンカーさんに了承を得て、俺が先に洞窟の中に入る。カーバンクルたちに、俺とカイアが瘴気を払ったことを、冒険者ギルド職員に内緒にしておいて貰う為だ。
カーバンクル自身が自分で払ったことにしてしまったしな。
洞窟の奥に進むと、大人のカーバンクルと子どもたちが、木の枝の巣ではなく、俺の敷いた絨毯の上にいた。
「どうした、先程ぶりだな。」
「それ、気に入っていただけたんですね。残して帰ったのが気になっていたんですが。」
「ああ、よい。とても暖かい。」
カーバンクルの子どもたちは、絨毯の上でコロコロと寝返りをうったり、休んだりしていた。かわいいな。
「実は今、冒険者ギルドの職員たちを、洞窟の外に連れてきているんです。
カーバンクル信仰を再びこの地に広める為に、この目で確認したいのだそうです。」
「人の信仰は我らの力。
会っても構わん。」
「ありがとうございます。実はそれでなんですが、俺は、俺とカイアに瘴気を払う力があることを、隠しておきたいと思っているんです。特にカイアの力を……。」
「お主を守護している木の精霊は、瘴気に取り憑かれない程の力を宿している。
それが知られれば、お主たちを利用して、瘴気を払わせようとする輩も現れよう。
だが、利用されると精霊が汚れてしまう。
いいだろう、我の妻が払ったことにしておこう。本来その力があるのだから。」
「ありがとうございます。
洞窟の中にお呼びしますか?」
「いや、こちらが向かおう。」
そう言って、父親のカーバンクルは立ち上がった。一番大きなオムツウサギの子が、それを見て耳をピッピッと動かした後で、スックと立ち上がった。
「お子さんたちも行かれるのですか?」
「いや。カーバンクルは精霊であると同時に肉の体を持っている。人間から見て、とても手に入れたくなる姿のようだ。
特に子どもたちはな。だから見せるつもりはない。我と妻のみでゆく。」
そう言われて、一番大きなオムツウサギの子はがっかりしたように耳を下げた。
確かにこんな可愛らしい姿の生き物を、飼いたい人間は多いだろうな。それにしても、精霊を手に入れようとした人間が過去にいたのか。不敬にも程があるな。
「では参ろうか。」
俺とカーバンクル夫妻は、オムツウサギの子どもたちに、中で大人しくしているよう言い含めてから、揃って洞窟の外へ出た。
その姿に、ギルド職員たちがザワつく。
「カーバンクル……様……。」
バンカーさんが震えていた。そして雪の上に片膝をつき、胸元に手を当てた。
その姿を見て、他の冒険者ギルド職員もそれに倣って、膝をついて胸に手を当てた。
「私は、キシンの冒険者ギルド副長、セオ・バンカーと申します。
当地を守護する精霊、カーバンクル様にお会い出来て光栄です。」
「堅苦しくせずとも良い。立つといい。」
「ありがとうございます。
……本当に、この山にずっといらしていただいていたのですね。
信仰の途切れた我々を、それでも見守っていて下さったのですね。
これからは、再びカーバンクル様の存在をみんなに広めてゆきます。
どうか我らをお守り下さい。」
「もちろんだ。我の願いはこの地に生きとし生けるものすべての安らぎ。
お前たちが力を与えてくれるのであれば、我はお前たちすべてを守ると誓おう。」
「ありがとう……ございます……!」
バンカーさんも他の職員たちも、この地を守護する聖なる存在を前にして、感動に震えているようだった。
「ところで、我はそこの男に用事がある。
少々借りても構わないだろうか。」
と、父親のカーバンクルが俺を見てきた。
「はい、俺は構いません。
では、ちょっと行ってきますね。」
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R8.1.20 投稿開始