最後の勇者のレゾンデートル〜スキルなし判定された俺が隠しユニークスキル「ゲノムコントロール」で闇社会の覇王となるまで〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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プロローグ・すべての始まり編

第1話 俺だけ無能判定④

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 子どもの泣きじゃくる声と大勢の大人の男の声。痛い。痛い。俺は体を丸くして、内蔵を守るので精一杯だった。
 俺はすぐに近くの男たちに捕らえられ、ボコボコに蹴られて身動きが取れなくなってしまった。
 男たちの1人が俺を抱えあげると、どこかに連れて行こうとする。そして何事かを別の誰かと話した後、俺は突然何かの上に乱暴におろされた。

 何かに乗せられたのだという事までは分かったが、それが何かはすぐに分からなかった。鞭を叩くような音と蹄の音で、それが馬車であることを知った。
 ゴトンゴトンと体の下の木の板が振動で揺れ、それが直接体に当たって痛い。床に横たわったまま、薄く開けた目の端に、動いて遠ざかってゆく星空と景色が見える。

「──まったくふてえ野郎だ!」
「盗人は街に置いとけねえんだ、子どもだから直接命までは取らねえが、悪く思うなよ!」
 身動きが出来ないまま、俺を馬車に乗せた男と、御者らしき男2人がかりで、馬車の荷台から地面に放り出される。
 草の上なのがせめてもの救いだったが、痛いことに変わりはなかった。

 この世界の人間は、直接命を奪いさえしなければ、結果死んでも自分たちに何の責任もないと考えているのだろうか。
 万引きした子どもを店から放り出したとしても、その子には帰る家があるが、俺にはそんなものはない。
 ましてや王宮にいた時に、外には魔物がたくさんいて危険だと聞かされていた。

 だから元クラスメートたちも、外に行く際は必ず騎士団なり魔法師団が同行する。
 それなのに、いきなり外に放り出しておいて、命だけは取らない?──それが一体何になると言うのだ。
 俺は王宮の奴らと街の奴らが重なって、この世界の人間すべてに吐き気がした。

 ここは……どこだ。
 草と血の匂い。
 目を閉じたままの俺に分かるのはそれだけ。
 早く起き上がらなくてはならないのに、体が動かない。眠い。もうこのまま寝てしまいたい。目を閉じたまま、意識を手放そうとした時だった。

 突如響いた複数の唸り声に、俺ははっと目をあけた。何かいる。近付いてくる。俺は改めて、ここは魔物のいる外の世界であることを思い出す。
 既にあたりは暗く、何も見えない。無理やり体を起こすと、手探りで何か少しでも武器になるようなものを探す。
 何か。何か何か何か。

 すると、手に固く冷たいぬるっとした何かが触れた。手元が明るくなり、雲が切れて月明かりが射し込んだのに気付く。
 俺が触れていたものが何か見ることが出来た。
 ──人だ。
 死にかけている。というか、ほんの少しだけ体温が残り、口元に手をかざすと、うっすらと呼吸をしている気はするが、それはあまりに弱々しく、ほぼ死んでいるに近い。

 俺と一緒に連れて来られたのだろうか。馬車に乗せらていた際、横に誰かいたかを思い出そうとするも分からなかった。
 手についたものが血だとわかり、俺は地面にへたり込んだ。
 すると、雲の隙間から射し込む月明かりの中に、暗闇から1匹の犬のような、銀色の毛並みの生き物が現れて近付いてくる。
 さっきの唸り声の主だろうか?

「く、くるな……!」
 俺は後ずさりしたが、犬が近付いてくる速度に当然敵わない。俺はギュッと目をつぶった──顔が温かい何かに舐められている。
 恐る恐る目をあけると、さっきの犬が、俺の顔を舐めてきれいにしていた。
「お、お前……。」
 とても可愛らしい、ただの犬だった。

 俺は思わずホッとするも、先程まで聞こえていた唸り声が、突如咆哮になった。
 銀色の犬が庇うように俺の前に立つ。
 銀色の犬よりも更に大きな燃えるような赤い毛並みの犬──犬というより、オオカミ?頭に小さな角のようなコブのようなものが幾つも飛び出た化け物が、3体俺を取り囲むように近付いてくる。

「お前!危ないから前に出るな!」
 俺は銀色の犬を庇おうと体を掴んだが、銀色の犬はスルリと俺の腕を抜けると、口元から赤毛のオオカミに何かを放った。
 真ん中の赤毛のオオカミの首筋が、見えない何かに切り裂かれ、悲鳴をあげて赤毛のオオカミが倒れる。
 それを見た他の2体が尻込みをする。

 銀色の犬が唸り声をあげて前に進むと、赤毛のオオカミの残り2頭は、尻尾を丸めて去って行った。
「……助かったよ。お前、強いんだな。」
 多分こいつも魔物なのだろう。さっきの見えない何かはきっと魔法だ。けど、不思議と怖くはなかった。

 何故だかコイツが、俺を守ろうとしてくれていたのが分かったから。
 頭を撫でてやると、銀色の犬が体ごと擦り寄せるように甘えてくる。懐いてくれているのが、普通の犬のようでとても可愛い。
 この世界に来て、初めて優しさに触れた気がした。悔しくて、嬉しくて、自然と涙があふれた。
 その日俺は、銀色の犬を抱きかかえて眠った。

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