最後の勇者のレゾンデートル〜スキルなし判定された俺が隠しユニークスキル「ゲノムコントロール」で闇社会の覇王となるまで〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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第2章・勇者召喚の秘密編

第81話 ひとひらの愛②

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 マリィさんは、最後まで、エンリツィオを責めようとはしなかった。
 どんな酷いことをされても、それすら愛おしいのだと告げるかのように、マリィさんの目には、たくさんの想いがあふれていた。

 愛おしさがダダ漏れで、エンリツィオがこの世に存在すること自体が、エンリツィオが自分のそばにいてくれるというただそれだけのことが、嬉しくてたまらないのが丸出しの表情で。

 ああ。
 この目だ。
 俺が江野沢を思い出した目。

 ヤクリディア王女は江野沢じゃないと、俺の違和感を確信に変えた、江野沢が俺を見る時の眼差し。

 エンリツィオが見てない時にだけ、いつも後ろから、……この目で見つめてた。

 どうしてこんな目をするクセに、自分から離れようと出来るのだろう。
 江野沢は、それでも、俺を追いかけた。

 マリィさんだって、きっとそれは、同じな筈なのに。
 マリィさんと再会したあの日。

 振り向きもせずに、諦めろと告げたエンリツィオに、マリィさんはあの目で、地獄を語った。

 けど、江野沢が見つめていたのは、いつだって俺の目の奥で。
 マリィさんが見つめていたのは、いつだってエンリツィオの後ろ姿だった。

 ──2人に違う点があるとすれば、……ただそれだけ。
 江野沢は俺を諦めなくて。
 マリィさんは最初から諦めた恋をしてた。

 エンリツィオが恋人を口説く為に別れを告げた時ですら、きっとこんな感じだったのだろう。

 こんな目をして、人を愛することが出来るのに、自ら手放せる人を、俺は見たことがない。この先もきっと、見ることはないとすら思えた。

 多分、こんなことをマリィさんからされるのなんて、初めてのことなのだろう。エンリツィオの目が、ちょっと見開く。

 マリィさんは、本気でエンリツィオから離れるつもりなのだと、エンリツィオにもそれが分かったのだろう。

 愛人の数も。エンリツィオの気持ちも。
 何1つこれまで聞いて来なかった、マリィさんが。

 ダダ漏れでバレバレだったけど、疑いようもないくらい気持ちがあふれていたけど。
 好きだとすら告げて来なかった、マリィさんが。

 エンリツィオに今、答えを求めている。

 フリーになったクセに、中途半端に関係だけ持ち続けて、ちゃんと振ってすらくれないエンリツィオから、自分の気持ちを切り離す為の、それは別れの儀式だった。

 ここまで自分を想ってくれる相手なんて、普通の人間なら、一生に1人、出会えるか出会えないかだ。

 今までに、人を本気で好きになったことがなかったり、その有難みが分からない人間には、決して響くことのない気持ち。

 けど、今のエンリツィオは、マリィさんと別れる前と違って、真剣に人を愛する気持ちを知った。

 別の人のおかげではあるけれど、マリィさんがどれだけの想いでエンリツィオを愛してきたか、今のエンリツィオに分からない筈がなかった。

 だって、自分と同じだから。
 それをエンリツィオも認めていたから。
 俺が、俺を想う江野沢の気持ちに惹かれたように、エンリツィオにだって、それが伝わらない筈がないのだ。

 それはここ最近の様子がおかしいエンリツィオの姿にも、顕著にあらわれていた。きっと、別れる前よりもずっと、2人の距離は縮まっていたと思う。

 それでも心は恋人に囚われたままで、既に亡くなっているにも関わらず、エンリツィオはマリィさんよりも恋人への想いを選んだ。

 心を欲しがる限り、応えてはやれない。
 そして、マリィさんは、その気持ちが誰よりも分かる人だった。

 エンリツィオは、そっとその花を受け取ると、スピリアの花を持って、マリィさんを見つめた。
 花は鮮やかな、──黄色に変わった。

 だけど不思議なことに、まるでレインボーの薔薇みたく、そこに違う色の花びらが混じっていた。

 相手に対して複数の感情があると、色が混ざる訳じゃなく、まるで脳内の割合を数字にしたみたいに、花びらごとに色付くのだと、その時誰もが初めて知ったと思う。

 黄色を基調にしたスピリアの花は、その内3枚が青く染まり、──たった一片《ひとひら》の花弁だけれど、確かに赤く染まっていた。

 だけど赤と青の部分は、マリィさんからは見えていなかった。
 エンリツィオは、ほんの少しだけ表情を動かして、その赤の花弁が混じったスピリアの花を、瞬きもせずに見ていた。

「黄色って……妹みたいってこと?
 だったら、最初から、ホントの妹に産まれたかったわ。

 ──そうしたら、こんなにも、貴方を好きにならずに済んだもの。」

 微笑みながらマリィさんの目から涙が溢れる。
「マリィ……。」
 エンリツィオが、涙をすくうように、目元にキスをした。

「お前のことを、大事に思ってねえわけじゃねえんだ。
 けど……俺の心はやれない。

 俺の一番は、アイツに決まっちまった。
 もう誰も入ってこれねえ。

 お前は男に振り回されるような女じゃねえ筈だ。
 幸せになれよ、マリィ。」

「──酷いことを言うのね。
 貴方なしで幸せになれだなんて。」
「はじめから酷い男だったろ?」

「そうね……。
 でも、それでも、──どんな形でもいいから、貴方の側《そば》にいたかった。」

 とめどなく涙を流すマリィさんに、エンリツィオは、今度は重ねるだけの優しいキスをした。

「身を引いてあげるわ。
 私だけが、一方的に、好きだった訳じゃないって。

 貴方の中に、私の居場所もあるんだって、分かったから。
 けど、幸せは無理よ。

 私の中の一番も、決まってしまったわ。
 もう誰も、入って来られない。
 けど、それでいいの。

 私にとって、貴方以上の人なんて、この世にいる筈がないんだから。
 ……お願い、最後に。
 ──うんとだけ、言って。」

 エンリツィオは何も答えなかった。

「……好きよ。」
「うん。」

「……好きよ。」
「うん。」

「……好き……!!」
「……うん。」

「もう、好きでもない女に、──あんまり優しくしたら、駄目だからね?」
「……ああ。」

 泣きながら、好きだと繰り返すマリィさんに、エンリツィオは、うなずくたびに、マリィさんの頬に、小さくキスをした。

 マリィさんの、生まれて初めての告白は、愛する男に、さよならを告げる為のものだった。

 滲み出るマリィさんの複雑な心を表すかのように、マリィさんの側《そば》にあるスピリアの花たちが、赤を基調に、青、黄色、の花びらを持つ混合色に染まって、どこまでも広がって行った。

 その中には、ただの1輪ですら、黒に染まる花がなかった。

 アプリティオを離れる為に、エンリツィオの船に乗り込んだ俺は、マガを経由してチムチに向かう連絡船の中に、その人物が乗り込んだことを、千里眼と心眼で検索し、エンリツィオとアシルさんに伝えた。

「……乗り込んだよ、管轄祭司が2人。
 そのうち1人は、レベル9の聖魔法と、復活と、殺人鬼のスキルを持ってた。
 間違いない。」

「──ハッ。やっぱりついて来やがる気か、殺人祭司。
 上等だ、テメエともそこで決着をつけてやるぜ。」

 エンリツィオ一家と敵対する犯罪組織、ルドマス一家の本拠地がある国、チムチ。
 エンリツィオとアシルさんを狙う、レベル9の聖魔法使いである、殺人祭司がそこについてくる。

 チムチを経由しないとたどり着けない、エルフの国のその先に、江野沢を元に戻せるかも知れない、妖精女王が待っている。
 果たして無事に全員でたどり着けるのだろうか。

 俺は、エンリツィオ、アシルさん、恭司、ユニフェイ、そしてアダムさんやカールさんを中心とした、エンリツィオの部下の人たちを順繰りに眺めた。

 誰一人、欠けて欲しくなんてないけど。
 血を流さずに切り抜けられるとは、とうてい思えない状況だと思えた。

 ──俺はまだ知らなかった。この中の1人が突然姿を消して、裏切り者になることに。

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