最後の勇者のレゾンデートル〜スキルなし判定された俺が隠しユニークスキル「ゲノムコントロール」で闇社会の覇王となるまで〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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第3章・血みどろの抗争編

第84話 敵対組織の本拠地②

「ダークウォール。」
 エンリツィオの闇魔法の壁に、ランドルがまともにぶち当たる。

「合成魔法、スティングシェイドエクスプロージョン!!」
「がっ……!!」

 ランドルの体が影から飛び出した漆黒の槍に突き上げられ、空中に浮かび上がると、そのまま爆発にやられて地面に激突する。

「来ると分かってりゃあ、そうそうやられるかってんだ。」
 呆れたようにエンリツィオが言う。

「ちょ、ちょっとは成長してるみてえだな。
 だが覚えとけ、お前らの腕は俺のもんだ。
 いずれまた奪ってやるぜ、必ずな……。」

 そう言って、移動速度強化で風のように消えた。背の高いヌボーっとした男が、慌ててその後を追いかけた。

 いきなり街中で襲ってこられるなんて。やはりここは、エンリツィオ一家の敵対組織、ルドマス一家の本拠地がある場所なのだ。

 俺はまだ奴らに顔を知られていないけど、一緒に行動してることを知られたら、ランドルに腕を切られる可能性がある。

 魔法は左手からでも出せるけど、俺のスキル強奪は、右手からしか発動しないことが、実験の結果で分かっている。

 俺は思わず、震える右腕を左手で掴んで、自分の体ごと抱き寄せた。

 俺たちはさらに、チムチでエンリツィオ一家がシノギにしている娼館や、幾つかの店に連れ回され、最後に酒場のVIPルームのようなところに通された。

 ここは食事もツマミもうまいらしく、今日はここでメシだと言って、俺たちには食事、エンリツィオとアシルさんには、酒とツマミが出された。

 俺たちと離れたところで、エンリツィオとアシルさんは、昼間のランドルの話をしていた。

 更に離れたところでは、アダムさんやカールさんたちが、交代で警備をしながら食事を取っていた。

 これ、美味しいですよ、とアダムさんが俺の前にやってきて、本来酒のツマミで出しているという、この国の名物である、ゾラッカの蜜とナッツをかためた物を分けてくれた。

 お土産物として売る場合は、飴として売られてるらしいけど、実際にはナッツがメインで、ゾラッカの花の蜜でかためられていて、甘じょっぱくて美味しかった。

「……なんで俺に言わなかった。」
「君がさらわれてた時に、見つかった全員が奴に腕を切り落とされてたってこと?

 ……みんな早く忘れたがってたし、話題に出したくなかったんだよ。」
 アシルさんはエンリツィオに冷たくそう言った。

「魔法使いが腕を切り落とされたら、終わりだ。剣士や弓使いは、まだ魔道具の腕があればなんとかなる人もいるけど、魔道具からじゃ、本人の魔法は出せない。

 ましてやボスがそんな目にあってただなんで、知られて得することが何かあるの?」
 アシルさんがエンリツィオを睨む。

「それに、あの現場にいた人間全員が口をつぐんでいることを、僕が聞かれてもないのにペラペラと話すとでも?

 トラウゴットとシュテファンとエックハルトの3人が、現場に来なくなったことを、君がもしも聞いてきたら、──僕もさすがに言おうと思ってたさ。」

 アシルさんは酒を飲みながら言った。

 何やら凄く深刻そうだった。あんな2人を見るのは初めてかも知れない。

「……俺を、見つけたのと、切り落とされた俺の腕を見つけたのは誰だ。」

「──それ、今更聞いちゃう?」
 アシルさんが眉間にシワをよせて皮肉っぽくエンリツィオを見る。

「腕をくっつけたのは僕だけど、君は大量の血液を失って死にかけてた。
 治療した医師が言ってたよ。

 なくなってる血の量からして、君が一番最初に腕を切り落とされたんだろうって。

 君が真っ先にやられちゃったから、みんな次々倒されちゃったんだろうね。……ああ見えて、ランドルは強いから。」

 ランドルの強さはそんなになのか。

「──すぐに腕を見つけてなけりゃあ、命はとりとめてても、腕は壊死してつながらなかった筈だって。

 ……回復魔法は、死んだ者や死にかけてる者には使えない。いくら僕でも、助けられない筈だった。

 君は他の仲間とともに袋をかぶせられて、誰が誰だか分からない状態だった。」
 聞いてるだけで鳥肌の立つ状況だ。

「オマケに君の腕は、その場にいた全員の腕とともに、袋の中の大量の腕の中に、裸のままで混じって、無造作に突っ込まれていたんだ。

 それを、その中から、君だけすぐに特定できそうな人物なんて、僕らの知る限り、1人しかいないでしょ。」

「……マリィか。」
 エンリツィオがアシルさんを見る。

「君も見てたでしょ?
 号泣して君に抱きつく彼女を。
 彼がいたのに、いきなり彼女にキスしようとしてたくらいなんだから。」

「……夢だと……思っていた。」
「ああ。血をかなり失ってたしね。
 君を含め、みんな意識は殆どなかったし。

 けど、マリィが自分から言おうとしないのに、──僕がそれを言ったところでどうなるの?」

 目線を落とすエンリツィオに、アシルさんは肩をすくめながらグラスを揺らす。

「君は彼に夢中だった。
 それを知ったら何か変わった?
 彼女に申し訳ない気持ちでも生まれた?

 でも、それは恋じゃないでしょ。
 ──彼女はそんなもの求めてなかった。

 別れることは了承しても、君のボディーガードを続けたいと言って、なかなか離れようとはしなくて大変だったのも、君がチムチでルドマス一家のランドルに狙われてるって、具体的な情報が入ってたからさ。」

 アシルさんが手を上げて、新しい酒を注文する。

「単にボディーガードってだけなら、マリィは他の奴らより確かに強いけど、彼女が君についてたからって、君がさらわれなかったかどうかまでは分からない。

 ──けど、事実、彼女がそのまま離れてたとしたら、君は腕をなくすか、そのまま死んでたところだった。

 まさか、バラバラにされても、どこかに隠されても、君を見つける自信があったからだなんて、僕も思いもしなかったけど。」
 店員が新しい酒をアシルさんに手渡す。

「君を助ける事ができて、しばらくは安全だと分かって。ようやく彼女は、納得して君から離れたんだよ。」

 誰よりも強いエンリツィオが、そんな目に合わされたことがあるなんて、俺たちにとってもかなり衝撃的な話だった。

「……それを何だと思ってた?
 単に聞き分けの悪い女だとでも思ってた?
 今回だってそうだったじゃない。

 君に引かれようが、どう思われようが、君を助けることを優先してたでしょう?
 あの国で、君に出来ること、全部終わったから、諦めて離れていったでしょう?

 君の望むとおりにしたんだから、それでいいじゃない。」

 アシルさんはグラスの中の酒を一気に飲み干すと、テーブルに、ダンッ!とグラスを叩きつける。

「──言っとくけど、君に彼女に引く権利なんてないからね。
 愛してもやらない、愛人としてヨリすら戻さらない。

 だったらもう、放っといてやれば?
 君がどれだけ言葉で忘れろって言ったところで、抱いてりゃ世話ないよ。」

 豹変したアシルさんに、俺と恭司がビクッとする。

「僕は前から何度も言ってるけど、マリィに生きて幸せでいて欲しいんだよ。

 守る気も、愛する気もない君のそばにおいて、君の為に生きることが彼女の為になるとは思ってないんだ。」

 酒が入っているからか、少し呂律が回らないのに、アシルさんは妙に饒舌だった。

 マリィさんが袋に突っ込まれた、たくさんの腕の中から、エンリツィオの腕だけを見つけ出せる自信があったというのは、江野沢を知る俺からすると、特に不思議じゃないエピソードだった。

 だって江野沢がまったく同じことを、俺の腕でやってみせたことがあるから。

「言っとくけどね、君が知らないだけで、マリィのおかげで組織や君が救われたことなんて、両手じゃ数え切れないよ。

 まだまだたくさん、馬鹿みたいに凄いエピソードがあるけど、知っても仕方のないことばかりだから言わない。」

 エンリツィオが聞かなければ、これすら言うつもりがなかったのだろう。

「だからマリィがいてくれる方が、僕だって有り難いけど、マリィの為を思ったら、君といない方がいいと思うから。

 元々、愛人が大勢いる状態を受け入れて、君の一番の理解者であろうとしてるマリィなら、何をしても自分からいなくならなくて、振るのは自分の方だけだとでも思ってた?」

 アシルさんが首を傾げてエンリツィオを見る。

「君ホント、女をちょっとナメすぎ。
 僕そういうの、ほんとは嫌いなんだよね。
 僕、奥さんにしかキョーミないし。

 ──うちにいる男たちは、ことマリィに関しちゃ、君よりもマリィの味方だってこと、覚えておいた方が君の為だと思うな。」

 確かにそうだけど、こんなに感情的に喋るアシルさんは初めてだ。みんな、シン、としている。

「組織の連中はみんな知ってる。
 マリィがどれだけ健気で、どれだけ君と組織に尽くして来たかをね。

 ……知らないのも、知ろうともしなかったのも、君だけだよ。
 ──じゃあね、僕もう行くよ。
 子どもが寝る前に顔が見たいし。」

 アシルさんはそう言って、奥さんと子どもの待つ自分の家へと帰って行った。

 エンリツィオは、何事かを考えるかのように、目線を下に落として、手にしていた酒のグラスの中の氷が、カラリと小さく音を立てた。

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