悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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第16話 ルーパート王国の王子

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「君こそ誰?メイベリン候爵家の子じゃないよね。僕は今ここにお世話になっているけど、君みたいな子は見たことがないよ。」

「俺の母さまがメイベリン候爵家の出身だ。俺は隣のローゼンハイデン公爵家の次男、クリスティアンさ。」

「そうなんだ!親戚が隣にいるって聞いてはいたけれど、君がそうなんだね。僕はルーパート王国の王子、ランディ・ルガル・フォスターだよ。よろしくね。」

 ランディーは目を細めて、悪戯っぽく笑った。春の風が二人の間を抜け、風に散った木の葉とともに、新しい出会いの予感を運んでいった。

「実は僕、暇なんだ。僕と同い年の子どもが、メイベリン候爵家にはいなくてね。君さえよかったら、僕と遊んでくれない?」

 微笑んだランディーに、クリスティアンは首をかしげる。
「従者はどうしたんだよ?それか、従者候補の友だちがついて来てる筈だろ?」

 クリスティアンは、本来王子であれば、それも大国ルーパート王国ともなれば、取り巻きレベルでついて来ているであろう、従者やお友だち候補たちが、ランディーの近くにいないことを訝しみ、周囲をキョロキョロと見回した。

 貴族の子どもは狙われやすい。人質にして身代金を要求されたりすることもあれば、女の子であれば、貴族の令嬢を手に入れようとする人間がいるので、より危険だというのもなんとなく知っている。

 だから1人で行動することは基本ない。こうしてクリスティアンのように、こっそり家族と離れるのでもない限り。

 だが誰もクリスティアンがいなくなったことに気が付かなかった。それくらい、自分の家族の間での影が薄いということだ。

 ひょっとして目の前の男の子も自分と同じで、王位継承戦が低いか何かで、あまり重要しされていないのだろうか、と考える。

 ルーパート王国は一夫多妻制なので、何人も妃がいる。当然、王子王女の数もその分だけ多い。王妃の実家の力が弱ければ、後ろ盾がないので第一王子であっても、国王になれない国なのだと聞いたことがある。

「みんな仕事をしているよ。僕の遊び相手になってくれることはないかな。僕がこうして外に抜け出していることも、本当は秘密なんだ。こっそり出てきたんだよ。」

 少しも悪びれた様子がなくランディーがそう言った。国王になる可能性のある王子に、遊び相手や面倒を見る相手が1人もついていないなんてことはありえない。

 今のうちに媚を売っておく意味でも、命を守る重要性からも。つまりはクリスティアンの想像通り、ランディーはあまり立場の強くない王子だということなのだろう。

 クリスティアンの心にわずかな好奇心が芽生える。王族の幼少期の友人というものは、本来王族が許可を出して、将来の従者候補として育てることを兼ねて選ばれるものだ。

 クリスティアンの兄のアレクシスも、将来の従者候補として選ばれ、アンバスター王国の第一王子の友人である。

 アレクシスが選ばれたので、年の近い王子が他にもいたが、貴族間のパワーバランスの都合から、クリスティアンは王子の友人には選ばれなかった。

 特にそれはミリアムが生まれたことにより更に確実なものとして確定した。貴重な上位貴族の、それも筆頭公爵家の令嬢ともなると、将来王子妃になる可能性が高い。

 ひとつの家から3人も王族と近しくさせるわけにはいかないからだ。本来であればアレクシスが選ばれた時点で、ミリアムを王子妃に選ぶのでも多過ぎるくらいだが、第三王子のフィリップの後ろ盾の為には、より力のある貴族の令嬢が求められていた。

 だから本来なら、同じ学園の生徒として以上に王族に近づくことはない筈だったクリスティアンだが、他国の王子で、かつ近くに従者もおらず、しかもおそらく一時的にメイベリン侯爵家に身を寄せているのであろうランディーは、この先当分関わることがないであろう、後腐れのない相手だった。

 それでいて、ルーパート王国はアンバスター王国よりもかなりの大国である。たとえ立場の弱い王子であっても、ルーパート王国の王族は、アンバスター王国の王族よりも、国際社会で重要視されているのだ。

 王族と親しくなることが許されないクリスティアンを尻目に、年の近い貴族の令息たちは、第二王子に近付こう、友人候補に選ばれよう、とやっきになっている。

 そんな同年代の子どもたちから、頭ひとつ飛び出ることが出来るのだ。
 そんな国の王子と親しくなっておいて、損があろう筈がなかった。

 剣の才能を秘め、あまり智に秀でることのないクリスティアンは、前世でもまったく候補に上がっていなかった、外交担当の仕事につける可能性を想像していた。

 家族に一切期待されていない自分が、ルーパート王国との橋渡しをする未来を思い描いて、武者震いをしていた。

 もしかしたら、この出会いが、自分の孤独を埋めてくれるのかもしれない。そんな淡い期待が、胸の奥で揺れていた。

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