養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
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第48話 イザークの過去②
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「ほんと、良かった!」
そして子猫の頭や首を撫でて、
「良かったね。飼ってもらえるかもよ?」
と嬉しそうに言った。
イザークは、少女のお願いをなんとしても叶えてあげたいと思った。そして子猫を抱いて両親に会いに行った。
「──駄目にきまっているでしょう?雑種だなんて汚らしい……。そんなに猫が欲しいなら、ちゃんと血統書付きを飼ってあげます。だからその猫は諦めなさい。」
「でも、お母さま、僕はこの猫が……。」
イザークの頭に、少女との約束が浮かぶ。
あの子にも、約束したんだ。
「──いいか、イザーク。」
父親は冷たく声を低めた。
イザークはビクリと身をすくめた。
これは機嫌が悪くなった時の合図だった。
「貴族にとって最も大切なものは、何よりも血統だ。我々のこの青い血こそが、何よりも尊ばれるもの。貴族にとって、汚れた血と交わることが何より疎まれる。雑種というのはその最たるものだ。わかるな?」
「……。」
こうなると何を言っても無駄だった。
両親にとって大切なのは、より格上の相手と血縁関係を結ぶことであり、そこにイザークの意思など入り込む余地はなかった。
子猫は両親の指示で、従者が外に捨てに行った。だがイザークはこっそり子猫を見つけてかくまうと、毎日ミルクや餌をやった。
またあの子が来た時に、飼ってもらえなかったと謝ろう。そして一緒にここで飼おうと言おうと心に決めていた。
──だがある日、少女が来る前に、子猫が隠していた場所から消えた。冷たい笑顔の母親が、あなたに大切なことを教えるからお出かけしましょう、とイザークの肩を掴んだ。
肩に食い込む爪が痛い。だが、イザークはそれに黙って耐えつつ、はい、と答えた。
ロイエンタール伯爵家の馬車が、人気のない山へと登っていく。
どこに連れて行かれるのだろう、と不安になった。馬車は山の上の開けた場所に到着すると止まった。外に降りなくてもわかる、異臭がする。ここはどこなのだろうか?
「さあ、降りなさい、イザーク。
あなたに見せたいものがあります。」
母親にそう言われては降りるしかない。
嫌な匂いに顔を歪ませながら、ハンカチで鼻を覆いつつも、母親はイザークとともに異臭の発生源へと近付いていった。
そこにミャーミャーと鳴き声をあげて、カリカリと爪音を立てる籠を手にした従者が、泥がたまったような池の前に立っていた。
イザークの背筋がスッと冷たくなる。
「ここは捨てるのに困るものを捨てる場所なのですよ。普段はこんなところ、近寄らないのだけれど、あなたには一度きちんとわからせなくてはいけませんからね。」
「お、お母さま……。」
「雑種はおやめなさいと、言いましたね?
こっそり飼っていたのね。
本当に聞き分けのない子だこと。」
「ご、ごめんなさい……。だから……。」
「いいですか?雑種というのは“くだらないもの”。“くだらないもの”はいけないものなのですよ?今後関わらないようになさいね。」
そう言ってスッと手を上げた。
従者が子猫の入った籠を、──泥溜まりの中に放り投げた。
「やめてえええええええええええ!」
走り寄ろうとしたイザークを、従者が力付くで引き止める。その間にも、子猫の入った籠は泥溜まりの中へとゆっくり沈んでいく。
「やめてええええ!やめてえええええ!」
──パアン……!!
乾いた音が響く。やめてと泣き叫ぶイザークの頬を、母親が張り倒した。
「おやめなさい、みっともない!
貴族ならば、雑種がこの世からひとつ消える事実を喜びなさい!
これはしつけですよ、イザーク。」
「うわあああああああああ!!」
イザークはそれでも、大声で泣くのをやめなかった。過呼吸になるほど、泣いて、泣いて、そして倒れてしまった。
「雑種の……何が悪い……。」
そう呟いたイザークに、母親は呆れたように首を振った。
そうしてしばらくして、意識を取り戻したイザークは、感情の死んだ子どもになっていた。両親が“くだらない”、というものに関わろうとするたび吐き気をもよおした。
大人になるにつれて自然と、過去の出来事に心で蓋をしたが、“くだらないもの”に関わるとこみ上げる吐き気だけは消えなかった。
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そして子猫の頭や首を撫でて、
「良かったね。飼ってもらえるかもよ?」
と嬉しそうに言った。
イザークは、少女のお願いをなんとしても叶えてあげたいと思った。そして子猫を抱いて両親に会いに行った。
「──駄目にきまっているでしょう?雑種だなんて汚らしい……。そんなに猫が欲しいなら、ちゃんと血統書付きを飼ってあげます。だからその猫は諦めなさい。」
「でも、お母さま、僕はこの猫が……。」
イザークの頭に、少女との約束が浮かぶ。
あの子にも、約束したんだ。
「──いいか、イザーク。」
父親は冷たく声を低めた。
イザークはビクリと身をすくめた。
これは機嫌が悪くなった時の合図だった。
「貴族にとって最も大切なものは、何よりも血統だ。我々のこの青い血こそが、何よりも尊ばれるもの。貴族にとって、汚れた血と交わることが何より疎まれる。雑種というのはその最たるものだ。わかるな?」
「……。」
こうなると何を言っても無駄だった。
両親にとって大切なのは、より格上の相手と血縁関係を結ぶことであり、そこにイザークの意思など入り込む余地はなかった。
子猫は両親の指示で、従者が外に捨てに行った。だがイザークはこっそり子猫を見つけてかくまうと、毎日ミルクや餌をやった。
またあの子が来た時に、飼ってもらえなかったと謝ろう。そして一緒にここで飼おうと言おうと心に決めていた。
──だがある日、少女が来る前に、子猫が隠していた場所から消えた。冷たい笑顔の母親が、あなたに大切なことを教えるからお出かけしましょう、とイザークの肩を掴んだ。
肩に食い込む爪が痛い。だが、イザークはそれに黙って耐えつつ、はい、と答えた。
ロイエンタール伯爵家の馬車が、人気のない山へと登っていく。
どこに連れて行かれるのだろう、と不安になった。馬車は山の上の開けた場所に到着すると止まった。外に降りなくてもわかる、異臭がする。ここはどこなのだろうか?
「さあ、降りなさい、イザーク。
あなたに見せたいものがあります。」
母親にそう言われては降りるしかない。
嫌な匂いに顔を歪ませながら、ハンカチで鼻を覆いつつも、母親はイザークとともに異臭の発生源へと近付いていった。
そこにミャーミャーと鳴き声をあげて、カリカリと爪音を立てる籠を手にした従者が、泥がたまったような池の前に立っていた。
イザークの背筋がスッと冷たくなる。
「ここは捨てるのに困るものを捨てる場所なのですよ。普段はこんなところ、近寄らないのだけれど、あなたには一度きちんとわからせなくてはいけませんからね。」
「お、お母さま……。」
「雑種はおやめなさいと、言いましたね?
こっそり飼っていたのね。
本当に聞き分けのない子だこと。」
「ご、ごめんなさい……。だから……。」
「いいですか?雑種というのは“くだらないもの”。“くだらないもの”はいけないものなのですよ?今後関わらないようになさいね。」
そう言ってスッと手を上げた。
従者が子猫の入った籠を、──泥溜まりの中に放り投げた。
「やめてえええええええええええ!」
走り寄ろうとしたイザークを、従者が力付くで引き止める。その間にも、子猫の入った籠は泥溜まりの中へとゆっくり沈んでいく。
「やめてええええ!やめてえええええ!」
──パアン……!!
乾いた音が響く。やめてと泣き叫ぶイザークの頬を、母親が張り倒した。
「おやめなさい、みっともない!
貴族ならば、雑種がこの世からひとつ消える事実を喜びなさい!
これはしつけですよ、イザーク。」
「うわあああああああああ!!」
イザークはそれでも、大声で泣くのをやめなかった。過呼吸になるほど、泣いて、泣いて、そして倒れてしまった。
「雑種の……何が悪い……。」
そう呟いたイザークに、母親は呆れたように首を振った。
そうしてしばらくして、意識を取り戻したイザークは、感情の死んだ子どもになっていた。両親が“くだらない”、というものに関わろうとするたび吐き気をもよおした。
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2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
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