養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
文字の大きさ
大中小
110 / 192
第49話 不器用な2人①
しおりを挟む
「ここは……どこだ?」
私のベッドの上でイザークがようやく目を覚ました。額の汗を拭いながら、起き上がってあたりを見回している。
「ここは今の私の家よ。あなた、突然倒れたのよ。この家を借りている工房のお孫さんと工房長がやって来て、あなたをここまで運んで来てくれたのよ。あとでお礼を言って。」
「そうか……。従者をつけずにここに来たんだったな。後で伺わせていただく。」
「それにしてもあなた、猫、苦手だったの?
突然猫に寄られて倒れたけど……。」
「いや……。動物はみんな好きだ。」
「そう?」
ならどうして倒れたのかしら。
ベッドの上に乗っていたザジーが、イザークにその身を擦り寄せている。
「この子は……。」
「この子もずっと心配して、付き添っていてくれたのよ?あなた、猫に好かれるのね。」
猫は優しい人間を見抜くと言うし、イザークも優しいということなのかしら?
「そうか……。昔、こんな感じの茶色と黒のぶちの子猫を飼っていたことがあるんだ。」
穏やかな優しい表情で、ザジーを撫でているイザーク。こんな表情は初めて見る。
「私も昔、拾ったことがあるわ。うちじゃ飼えなくて、お友だちに預けてしまったけど。
お父さまがクシャミが出るから、苦手だと言って飼ってもらえなくて……。」
それを聞いたイザークが、驚いた表情で私をじっと凝視している。
「なに?」
「あれは……、君だったのか?」
「どういうこと?」
「私は小さい頃、女の子に子猫をたくされたんだ。両親に捨てられてしまったが……。」
私は首をひねると、
「……ひょっとして、父に連れられていったおうちの子ども?あれがあなただったの?」
と大きな声をあげた。
「一緒に鳥を見たり、魚を見たりして過ごしたんだ。クッキーをもらったこともある。」
「覚えてるわ……。
あれがあなただったなんて。」
父の仕事の取引先として連れて行かれた家には、きれいな男の子がいた。私はその子と仲良くなって、クッキーをあげたのだ。
「そう、あの子、捨てられたの……。」
「ああ、すまない……。私の目の前で、泥溜めの中に放り込まれた……。」
「泥溜めの中ですって!?
じゃあ、その子は死んでしまったの!?」
「恐らくはな……。誰も助けていなければ。
すまない。君にも頼まれていたのに。」
すまない、ですって?あのイザークが?
本当に悲しげにうなだれるイザークは、まるで別人のようだった。
子猫を泥溜めの中に捨てるだなんて。それも子どもの目の前で。小さいイザークはどれほどショックだったことだろうか。
今もザジーを撫でている様子を見る限り、動物が大好きな筈だ。そんな子どもから子猫を取り上げて、わざと殺すなんて……。
あの義母のやりそうなことだ、と思った。
高貴な血以外を疎む家系。雑種なんてその最たるものなのだろう。
「……イザーク、食事はとったの?」
「いや、まだ食べていない。君を連れ戻してからと思っていたから。」
「それ。」
「それ?」
「そっちのほうがいいわ。お前、って呼ばれるの、私は嫌だったもの。」
「ああ、そうか……。」
うなだれるイザークを放置して、私はキッチンまでオートミールを取りに行った。
「はい、病人食よ。パン粥でも良かったけれど、とってもおいしいパンだったから、そのまま食べたほうがいいと思って。
足りなければそのパンがあるわ。」
「君は……、料理が出来るのか?」
「うちは貧乏子爵家だったもの。
専属料理人なんて高尚なもの、雇えなかったから、自分で作る他なかったのよ。」
「それは以外だ……というか知らなかった。
そうか、料理が出来るのか……。」
私のことをどれだけ無能だと思っているのかしら?料理くらいしていれば出来るわ。
ベーコン、玉ねぎ、しめじをオリーブオイルで炒めたものに、潰したトマトと、野菜の煮汁、オートミールを加えて、塩、コショウで味付けし、柔らかくなるまで煮たものに、さらにチーズを加えて蓋をし、溶かしたものをさっくりと混ぜ合わせたものだ。
本当の病人なら、チーズは重たいから入れないけれど、イザークは顔色もいいし元気そうだったので、その方が美味しくなるので、後から付け加えることにした。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
私のベッドの上でイザークがようやく目を覚ました。額の汗を拭いながら、起き上がってあたりを見回している。
「ここは今の私の家よ。あなた、突然倒れたのよ。この家を借りている工房のお孫さんと工房長がやって来て、あなたをここまで運んで来てくれたのよ。あとでお礼を言って。」
「そうか……。従者をつけずにここに来たんだったな。後で伺わせていただく。」
「それにしてもあなた、猫、苦手だったの?
突然猫に寄られて倒れたけど……。」
「いや……。動物はみんな好きだ。」
「そう?」
ならどうして倒れたのかしら。
ベッドの上に乗っていたザジーが、イザークにその身を擦り寄せている。
「この子は……。」
「この子もずっと心配して、付き添っていてくれたのよ?あなた、猫に好かれるのね。」
猫は優しい人間を見抜くと言うし、イザークも優しいということなのかしら?
「そうか……。昔、こんな感じの茶色と黒のぶちの子猫を飼っていたことがあるんだ。」
穏やかな優しい表情で、ザジーを撫でているイザーク。こんな表情は初めて見る。
「私も昔、拾ったことがあるわ。うちじゃ飼えなくて、お友だちに預けてしまったけど。
お父さまがクシャミが出るから、苦手だと言って飼ってもらえなくて……。」
それを聞いたイザークが、驚いた表情で私をじっと凝視している。
「なに?」
「あれは……、君だったのか?」
「どういうこと?」
「私は小さい頃、女の子に子猫をたくされたんだ。両親に捨てられてしまったが……。」
私は首をひねると、
「……ひょっとして、父に連れられていったおうちの子ども?あれがあなただったの?」
と大きな声をあげた。
「一緒に鳥を見たり、魚を見たりして過ごしたんだ。クッキーをもらったこともある。」
「覚えてるわ……。
あれがあなただったなんて。」
父の仕事の取引先として連れて行かれた家には、きれいな男の子がいた。私はその子と仲良くなって、クッキーをあげたのだ。
「そう、あの子、捨てられたの……。」
「ああ、すまない……。私の目の前で、泥溜めの中に放り込まれた……。」
「泥溜めの中ですって!?
じゃあ、その子は死んでしまったの!?」
「恐らくはな……。誰も助けていなければ。
すまない。君にも頼まれていたのに。」
すまない、ですって?あのイザークが?
本当に悲しげにうなだれるイザークは、まるで別人のようだった。
子猫を泥溜めの中に捨てるだなんて。それも子どもの目の前で。小さいイザークはどれほどショックだったことだろうか。
今もザジーを撫でている様子を見る限り、動物が大好きな筈だ。そんな子どもから子猫を取り上げて、わざと殺すなんて……。
あの義母のやりそうなことだ、と思った。
高貴な血以外を疎む家系。雑種なんてその最たるものなのだろう。
「……イザーク、食事はとったの?」
「いや、まだ食べていない。君を連れ戻してからと思っていたから。」
「それ。」
「それ?」
「そっちのほうがいいわ。お前、って呼ばれるの、私は嫌だったもの。」
「ああ、そうか……。」
うなだれるイザークを放置して、私はキッチンまでオートミールを取りに行った。
「はい、病人食よ。パン粥でも良かったけれど、とってもおいしいパンだったから、そのまま食べたほうがいいと思って。
足りなければそのパンがあるわ。」
「君は……、料理が出来るのか?」
「うちは貧乏子爵家だったもの。
専属料理人なんて高尚なもの、雇えなかったから、自分で作る他なかったのよ。」
「それは以外だ……というか知らなかった。
そうか、料理が出来るのか……。」
私のことをどれだけ無能だと思っているのかしら?料理くらいしていれば出来るわ。
ベーコン、玉ねぎ、しめじをオリーブオイルで炒めたものに、潰したトマトと、野菜の煮汁、オートミールを加えて、塩、コショウで味付けし、柔らかくなるまで煮たものに、さらにチーズを加えて蓋をし、溶かしたものをさっくりと混ぜ合わせたものだ。
本当の病人なら、チーズは重たいから入れないけれど、イザークは顔色もいいし元気そうだったので、その方が美味しくなるので、後から付け加えることにした。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
389
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる