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第86話 叔父と愛人の末路③
「うるさいわね!いいから、いったん帰るから、部屋掃除しといてよね!」
奈津子はデパートのトイレでメイクを直しながら、実家の母に電話をかけていた。
隣の洗面所にツインテールの美少女がやってきて、女の子がつけるにしては大ぶりの銀色の指環を外して手を洗うと、そのまま指環を忘れて出ていってしまった。
電話の向こうから、ちょっと奈津子、聞いてるの!?と叫ぶ母の声がしたが、奈津子の耳には届いていなかった。
奈津子の意識は隣の洗面所に置き忘れられた指環に集中していた。どう見ても銀ではない。プラチナだろうか?
羽の意匠がついた指環で、ノーブランドであっても、あれだけの量のプラチナであれば、それなりの値段で質屋に売れそうだ。
奈津子は指環を掴み、ポケットにそれを押し込むと、トイレの周囲を伺って、さっきの女の子が戻って来ていないかを確認した。
どうやらあのままどこかに行ってしまったようだ。奈津子は足早にデパートを出て、男に貢がれた物を売るのによく使っていた質屋へと急いだのだった。
結果として、指環は銀でもプラチナでもないとのことで、買い取っては貰えなかった。ガッカリしたが、今更トイレに戻しに行くのも怖い。そのまま指環を持って実家に向かうことにした。
実家に戻った奈津子は、引越し業者を手配して、マンションを解約することにした。
もうあの家に住む気はしなかった。
雇用保険ギリギリまでのんびりして、それから仕事を探そう。寝るところと食べるものは実家なのでどうとでもなる、と思った。
そこに、母親のスマホに何やら電話がかかってきて、驚愕した表情を浮かべている。
「な、奈津子……。お父さんが保証人になってた静岡の叔父さんが、事業に失敗して逃げたって……。この家も抵当に入っていたから、手放さなきゃいけないって……。」
「──は?」
奈津子は手にしていたポテトチップスを食べようとしてたが、そのままポトリと取り落としてしまった。
そこにピンポーンとチャイムが鳴る。出てみると、スーツに中折れ帽をかぶった老人が立っていて、その帽子を脱いで胸に当て、
「お嬢さんですか?先日亡くなられたお祖父様の友人なのですが、親御さんはいらっしゃいますかな?」
と聞いてきた。
母が家にあげてお茶を出すと、老人はスッと1枚の借用書を出してきた。額面は3千万だった。
「生前お祖父さまに、息子さんの事業に使うとのことで、お貸ししたお金です。事業を行っていた息子さんのほうをお尋ねしたのですが、既に夜逃げした後でして。こちらにまいった次第です。」
「な……奈津子、あんたにこないだあげたおじいちゃんの遺産、ちょっと貸してくれない?とりあえずはそれで……。」
母は恐れたように奈津子を見た。
「そ、そんな泡銭、もうとっくに使っちゃたわよ!!」
奈津子は思わず叫んだ。
実家がなくなることになり、家族はバラバラに暮らすことになった。仕方がなしに奈津子は寮のある夜職につとめることにした。
そこで1人の太客を掴んだ。金払いがよく顔もいい。おまけに若い。
何よ、あたしの人生、やっぱりイージーモードじゃん。奈津子はそう思った。
外車を乗り回し、ブランド物のバッグをプレゼントしてくれる。高級レストランでごちそうしてくれる。奈津子はすっかり男に夢中だった。
だがそれもつかの間の夢だった。男は奈津子にプロポーズしてくれたが、それからというもの、段々と逆に金をせびるようになってきた。
投資するのにもう少し金が欲しいんだ。ちょっと現金が足らなくてね。僕の資産はすぐに現金化出来ないものが多いから。
そんな言葉に、気がつけばかなりの金を貸していた。それでも外車で迎えに来てくれるイケメンだ。他のキャバ嬢たちから羨ましがられる男を、奈津子は手放す気はなかった。
久しぶりに呼び出された時、男は普段よりも深刻そうな表情で言った。金が払えないとせっかくのチャンスを逃してしまうと。
「今回の仕事がうまくいけば、安定して、もう君を悩ませることもない。そうなったら結婚しよう。将来の夫である僕を助けてくれるよね?」
そう言われた奈津子は、思わず、
「あたしがなんとかするよ!」
と言っていたのだった。
「君ならそう言ってくれると思ってた。紹介したい人がいるんだ。」
そう微笑んだ男の顔はとても色っぽくて、やっぱりあたしの男は最高だわ、と思った。
婚約者は奈津子をとある四国の島に連れて行った。婚前旅行は海外が良かったが、まあ国内も悪くないわね、と思った。
島に渡ると、そこは今どきタバコを吸いまくる人間がたくさんいる宿屋で、賭け事をしている男たちが大勢いた。
「そいつか。」
「はい、ちょっと年はいってますけど、スタイルとあっちの具合はなかなかです。」
婚約者の言葉に、ちょっとイラッとした。年がいってるって何よ!と思ったが、すぐにそんな考えは意識から吹っ飛んだ。
婚約者の希望で着てきたキャミソールワンピースを、いきなり目の前の男が脱がしてきたのだ。奈津子は悲鳴をあげた。
「ふん、悪くねえな。」
「じゃ、金はいつも通りに。」
そう言って、婚約者は奈津子を置いてその場から立ち去ろうとする。
「ね、ねえ、待ってよ!助けて……!」
振り返った婚約者は、わずらわしそうな冷たい目で奈津子を睨んだ。思わずかたまる奈津子。
「まだわからねえのか。あいつは女衒だ。あんたの店で使った金も、あんたの借金になってる。あんたは一生、ここであいつに支払った金と、その金を返すんだ。」
「う、嘘よ。嘘よぉ~!」
「ほら来い!」
下着姿のまま、男に引きずられていく奈津子。バッグに入れたままだった筈の、羽の意匠のついた指環は、いつの間にかなくなっていた。
「──1人だけ助かるなんて、許されないですよねえ。」
美織は手元に戻って来た祈りの指環を指にはめ直すと、配信の準備をした。
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奈津子はデパートのトイレでメイクを直しながら、実家の母に電話をかけていた。
隣の洗面所にツインテールの美少女がやってきて、女の子がつけるにしては大ぶりの銀色の指環を外して手を洗うと、そのまま指環を忘れて出ていってしまった。
電話の向こうから、ちょっと奈津子、聞いてるの!?と叫ぶ母の声がしたが、奈津子の耳には届いていなかった。
奈津子の意識は隣の洗面所に置き忘れられた指環に集中していた。どう見ても銀ではない。プラチナだろうか?
羽の意匠がついた指環で、ノーブランドであっても、あれだけの量のプラチナであれば、それなりの値段で質屋に売れそうだ。
奈津子は指環を掴み、ポケットにそれを押し込むと、トイレの周囲を伺って、さっきの女の子が戻って来ていないかを確認した。
どうやらあのままどこかに行ってしまったようだ。奈津子は足早にデパートを出て、男に貢がれた物を売るのによく使っていた質屋へと急いだのだった。
結果として、指環は銀でもプラチナでもないとのことで、買い取っては貰えなかった。ガッカリしたが、今更トイレに戻しに行くのも怖い。そのまま指環を持って実家に向かうことにした。
実家に戻った奈津子は、引越し業者を手配して、マンションを解約することにした。
もうあの家に住む気はしなかった。
雇用保険ギリギリまでのんびりして、それから仕事を探そう。寝るところと食べるものは実家なのでどうとでもなる、と思った。
そこに、母親のスマホに何やら電話がかかってきて、驚愕した表情を浮かべている。
「な、奈津子……。お父さんが保証人になってた静岡の叔父さんが、事業に失敗して逃げたって……。この家も抵当に入っていたから、手放さなきゃいけないって……。」
「──は?」
奈津子は手にしていたポテトチップスを食べようとしてたが、そのままポトリと取り落としてしまった。
そこにピンポーンとチャイムが鳴る。出てみると、スーツに中折れ帽をかぶった老人が立っていて、その帽子を脱いで胸に当て、
「お嬢さんですか?先日亡くなられたお祖父様の友人なのですが、親御さんはいらっしゃいますかな?」
と聞いてきた。
母が家にあげてお茶を出すと、老人はスッと1枚の借用書を出してきた。額面は3千万だった。
「生前お祖父さまに、息子さんの事業に使うとのことで、お貸ししたお金です。事業を行っていた息子さんのほうをお尋ねしたのですが、既に夜逃げした後でして。こちらにまいった次第です。」
「な……奈津子、あんたにこないだあげたおじいちゃんの遺産、ちょっと貸してくれない?とりあえずはそれで……。」
母は恐れたように奈津子を見た。
「そ、そんな泡銭、もうとっくに使っちゃたわよ!!」
奈津子は思わず叫んだ。
実家がなくなることになり、家族はバラバラに暮らすことになった。仕方がなしに奈津子は寮のある夜職につとめることにした。
そこで1人の太客を掴んだ。金払いがよく顔もいい。おまけに若い。
何よ、あたしの人生、やっぱりイージーモードじゃん。奈津子はそう思った。
外車を乗り回し、ブランド物のバッグをプレゼントしてくれる。高級レストランでごちそうしてくれる。奈津子はすっかり男に夢中だった。
だがそれもつかの間の夢だった。男は奈津子にプロポーズしてくれたが、それからというもの、段々と逆に金をせびるようになってきた。
投資するのにもう少し金が欲しいんだ。ちょっと現金が足らなくてね。僕の資産はすぐに現金化出来ないものが多いから。
そんな言葉に、気がつけばかなりの金を貸していた。それでも外車で迎えに来てくれるイケメンだ。他のキャバ嬢たちから羨ましがられる男を、奈津子は手放す気はなかった。
久しぶりに呼び出された時、男は普段よりも深刻そうな表情で言った。金が払えないとせっかくのチャンスを逃してしまうと。
「今回の仕事がうまくいけば、安定して、もう君を悩ませることもない。そうなったら結婚しよう。将来の夫である僕を助けてくれるよね?」
そう言われた奈津子は、思わず、
「あたしがなんとかするよ!」
と言っていたのだった。
「君ならそう言ってくれると思ってた。紹介したい人がいるんだ。」
そう微笑んだ男の顔はとても色っぽくて、やっぱりあたしの男は最高だわ、と思った。
婚約者は奈津子をとある四国の島に連れて行った。婚前旅行は海外が良かったが、まあ国内も悪くないわね、と思った。
島に渡ると、そこは今どきタバコを吸いまくる人間がたくさんいる宿屋で、賭け事をしている男たちが大勢いた。
「そいつか。」
「はい、ちょっと年はいってますけど、スタイルとあっちの具合はなかなかです。」
婚約者の言葉に、ちょっとイラッとした。年がいってるって何よ!と思ったが、すぐにそんな考えは意識から吹っ飛んだ。
婚約者の希望で着てきたキャミソールワンピースを、いきなり目の前の男が脱がしてきたのだ。奈津子は悲鳴をあげた。
「ふん、悪くねえな。」
「じゃ、金はいつも通りに。」
そう言って、婚約者は奈津子を置いてその場から立ち去ろうとする。
「ね、ねえ、待ってよ!助けて……!」
振り返った婚約者は、わずらわしそうな冷たい目で奈津子を睨んだ。思わずかたまる奈津子。
「まだわからねえのか。あいつは女衒だ。あんたの店で使った金も、あんたの借金になってる。あんたは一生、ここであいつに支払った金と、その金を返すんだ。」
「う、嘘よ。嘘よぉ~!」
「ほら来い!」
下着姿のまま、男に引きずられていく奈津子。バッグに入れたままだった筈の、羽の意匠のついた指環は、いつの間にかなくなっていた。
「──1人だけ助かるなんて、許されないですよねえ。」
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