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5、調査
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柏崎家の家の敷地には立派な蔵がある。退魔師として名高い名家だけあって、霊的な力を持った道具や武具、妖魔に関する古い資料などが、大切に保管されている。とはいえ、二人が幼いとき、蔵でかくれんぼをしたり、霊的な道具をおもちゃにして遊んでいたこともあるのだが。
土曜日、凜と雪菜は母に許可を得て、久しぶりに蔵に踏み入った。雪菜の呪いを解く方法を見つけるためだ。母に相談すれば、あっさりと教えてもらえる可能性もあるが、「母には何も言わない」が、あの水泳の時間の一件以来、二人の約束だった。
蔵の中はどこもかしこも厚くほこりが積もっていて、黴臭かった。段ボールを一つ一つ開けて、詰め込まれている古書を確認していくと、妖術や呪いへの対処法が詳しく解説されている本を発見した。
裸電球の明かりの下、二人で額を突き合わせて紙面をのぞき込む。
「あ、これじゃない?」
凜が指差したところには、性器が肥大化したり奇形化した人間のイラストが描かれていた。
「うん、これだね……」
「読めるか?」
「大丈夫」
古文の成績がいい雪菜が文章を解読する。
「なんて書いてあった?」
凜の質問に、雪菜はすぐには答えず、視線を泳がせた。
「いちおう、三つあるって」
「三つもあるのか。ラッキーだな。それで?」
「一つ目は、方法というか、放っておけば自然に元に戻るみたい」
「なんだ、自然に治るのか」凜は何か特別な薬でも必要になるかと想像していたので、回答を聞いてほっとした。
「それで、他は?」
「二つ目は、呪いを編んだ妖魔を殺す」
「ん? スライムはあたしがやっつけたぞ?」
「スライムは呪いの運び屋みたいなものだったのかも。あれが呪いを編めるほどの知能を持っているとも思えないし。だからたぶん、呪いを編んだのは、スライムじゃないんだと思う」
「そうか。そうなると、妖魔の王が犯人だな? あれを倒さなきゃならないわけだ」
これは大変だな、と凜は思った。
「で? あと一つは?」
「ええと……それが……」雪菜が急にそわそわ、もじもじし始めた。「三つ目は、せ、精子を、全部吐き出させることだって、書いてある」
「それって……」凜は妹の顔を、間近でまじまじと見つめた。「この前みたいなことを、どんどんやればいいってわけだな?」
「それは、だめ」
雪菜がぶんぶん首を振って拒否した。
「なんで? 妖魔の王と戦うより安全だし、ただ待つだけより、早いだろ?」
「それはそうだけど……さすがに……ちょっと……」
雪菜の顔は真っ赤だ。あの日の行為を思い出したのかもしれない。呪いのせいだとはいえ、毎日のように、自分の股間に生えた立派なものをしごいているのに、相変わらずそっちの話は苦手らしい。
「あたしは、全然構わないけど? むしろ、それが雪菜のためになるなら、協力する」
「……だめ。恥ずかしすぎるから」
凜は、消えそうな声で拒否する雪菜を、本当に可愛いと思って、ちょっとドキドキした。仕切りなおすように、古書の一か所を指差す。
「ところでさ、この説明はなんなの?」
「これは……呪いの説明。この呪いで生えた……アレには、女性を妊娠させる力はないんだって。毒もないし、呪いがうつるようなこともないって」
「じゃあ飲んでも大丈夫なわけだ?」
「の、飲む!?」雪菜が嫌悪と驚愕で複雑な顔をした。潔癖で、そういう行為に疎い雪菜が嫌がるのも無理はないだろう。もしかしたら、全く知らないのかもしれない。
「飲みたいわけじゃない。例えばの話だ」
「変なこと言わないでよ」
「まあ、これで解決策は分かった。一番早くて分かりやすいのは、妖魔の王を退治することだけど、居場所も分からないしな」
「退魔師協会の人たちが早く動いてくれるといいんだけど……」
「年寄りってフットワークがないからなぁ。何もしないで待つくらいなら、やっぱり精を吐き出させて……」
凜が視線を雪菜の下半身に向けると、雪菜は「だめっ! そんなこと、だめ!」と再び顔を赤らめた。「わたしのことは、わたしが何とかする」
「それが苦しいから、あたしが手伝ってるんだろ? 全部雪菜一人でやらなきゃって、思わなくていいんだ。あたしら、双子の姉妹だろ?」
「お姉ちゃん……」雪菜はハッとして、それから子犬のようにしゅんとした。「ごめんなさい」
「そうだ。あたしらも、妖魔の王を探そう。そうすれば、協会に任せておくより、早く解決するだろ?」
「でも……」
「深追いしなきゃ大丈夫だ。あたしらで王を見つけて、有力な情報を協会に持っていけば、評価してもらえるはずだ。今度こそ、母さんの期待に応えられる」
「お母さんの期待に……」雪菜は遠くを見るような目で呟いた。不意に顔を上げて、意志ある目で凜を見た。「わたし、期待に応えたいよ」
「じゃあ、午後は妖魔の王の居場所を突き止めようか。何かいい方法ない?」二人は蔵を出て、部屋に戻った。考えるのは雪菜のほうが得意だ。
「うーん……。わたしたちは何も情報を持ってないし、とりあえず、最近の妖魔の出没情報を集めて、地図にプロットしてみるとか。他には、妖魔との関連が分かっていない事件や異変を、調べてみるとか」
「地図とか新聞とかは雪菜の得意分野だな。あたしは何ができる?」
「お姉ちゃんは、教会関係者にそれとなく聞き込みできる?」
「オーケー、やってみる。じゃ、昼ご飯食べたら、さっそく始めようか」
その後、地道な調査によって、二人は妖魔の王が潜んでいそうな場所に当たりをつけた。ほとんど人が立ち入りそうにない、さびれた場所だ。母や協会にこのことを打ち明ける前に、二人で確かめに行くことにした。ただの推測ではなく、確実な、価値ある情報を提供したかったからだ。
「……お姉ちゃん」
その日の夜、凜がお風呂から上がって、髪を乾かし終わった頃。雪菜が部屋にやってきた。
「明日のこと、最後に確認しておこうと思って。……入ってもいい?」
「入りな」
ドアがためらいがちに開き、夏用のパジャマ姿で、髪を一つにまとめた雪菜が入ってきた。
姉妹のパジャマはおそろいの色違いだ。凜が水色、雪菜がピンク。前にボタンが並んでいて、そでやすそには白のフリルが可愛らしくあしらわれている。襟元から少しだけのぞく雪菜の鎖骨や首筋は、新雪のように滑らかで綺麗だ。
二人はテーブルを挟んで座り、明日の行動予定を確認した。次に雪菜がごちゃごちゃとプロットした地図を広げた。移動ルートや周囲の地形などを確認しておくためだ。
「雪菜、サカサマじゃ見づらいからこっち来な」
「う、うん」
雪菜がずいぶん距離を開けて、凜の隣に腰を下ろした。
たかだが数十センチの距離だが、これがいつの間にかできてしまった、雪菜と自分の距離なのだな、と凜は思った。
その後も二人は微妙な距離を保ったまま、全ての確認を滞りなく終えた。
「……お姉ちゃん、わたしなんかのために、ごめんなさい」
雪菜が申し訳なさそうに言った。
「双子の姉妹なんだから。このくらい当たり前だ。遠慮するな」凜は妹の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でてやった。「ところで、どうなんだ? 弓は当たるようになったか?」
「弓は、まだだめ。当たる日もあるけど、当たらない日もあるよ」
「当たる日と当たらない日は何が違う?」
「それは……」雪菜が顔を背ける。頬が赤くなっている。「…………」
「明日、妖魔に出くわす可能性もなくはないだろ? だから、大事だと思ってな」
「そうだね。そうだよね」雪菜は消えそうな声で繰り返したあと、たっぷり二十秒ほど沈黙し、ようやく口を開いた。「あれのせいで、集中力が散漫になるの。今までみたいに、透明で澄んだ心を取り戻そうとするんだけど、うまくできない。わたし、やらしいことを考えてる。穢れた心で弓を引くから、当たらないんだって、自分でも分かる」
「性欲がコントロールできないってこと?」
「コントロール、できてないと思う。いっぱい、出すと、少しの間は、おさまってくれるんだけど。だんだんまた、おさえられなくなる。わたし、スライムみたいな下級の妖魔に、こんなに心を乱されて、もう退魔師なんて名乗れないよ」雪菜が両手で顔を抑えた。指の間から、ぽたりぽたりと、大粒の涙が零れ落ちる。「授業の間も、友達とおしゃべりしてるときも、弓を握っているときも……やらしいことばっかり考えてる自分がいるの。あれを触りたいって思っている、最低な自分がいるの。本当のわたしが何なのか、わたしはもう、分からない。自分が大嫌いになりそう……」
「本当の雪菜……」凜は自分が想像していた以上に、雪菜が追い込まれていると知って、自分のことのように、胸の奥が痛んだ。「あたしにとっての雪菜は、雪菜だ。どんな雪菜だって、雪菜だ」
「こんなに、やらしいことばっかり考えてる、わたしも?」
「そうだ。あたしはどんな雪菜だって受け入れる。みんなが雪菜を否定して、遠ざけても、あたしだけは、ずっと隣にいてやる」凜は雪菜の背中に手を回し、体を引き寄せた。甘く、青い香りが、鼻孔をくすぐる。「だから、心配するな。大丈夫だ、きっと」
腕の中で、雪菜が頷いた。
「お姉ちゃん……」
雪菜は声を上げて泣いた。
ああ、こうして、妹を抱きしめたのは、何年振りだろうか――。
凜は、雪菜が泣き止むまで、抱きしめ、頭を撫で、背中をさすっていた。
やがて嗚咽が聞こえなくなると、体を離し、ティッシュで涙の跡と鼻水を拭いてやる。
「あーあ、赤ちゃんみたいな顔になっちゃって」
「お姉ちゃんのパジャマ、染みちゃった」
「あたしのほうは別に構わない」
「でも……」
雪菜が腰を浮かせて、前かがみになって、ティッシュに手を伸ばした。緩い襟元から、控えめな膨らみを包む下着が見えたとき、凜は自分の体の奥底に、熱いものが生まれたのを感じた。反射的に、雪菜の体を後ろから抱きしめた。
「みゃっ!?」雪菜が子猫みたいな声を出した。「お姉ちゃん!?」
「雪菜の体、柔らかくて、温かくて、女の子って感じ」
「だって、女の子だよ」
「でも、今は、これが生えてる」
「あっ……」凜の右手が、雪菜の体の唯一男らしい部分をなぞると、雪菜は鼻に詰まったような声をこぼした。
「おっきくなってる」凜はパジャマ越しに指を這わせ、大きさと形を確かめた。「それに、硬いな」
「それ、ちがうっ……」
「違うって、何が?」硬いものに沿って、凜は指先を往復させた。とくん、とそれが動いた。「いま、感じたんだな?」
「そんなこと、ない」雪菜が足を閉じる。凜の手は太ももに挟まれて動かせなくなった。
「もし今ここに、妖魔が出たとして、弓を引いたら、当てられる?」
雪菜は問に答えなかった。
体を重ねた二人の顔は間近にあって、凜には、雪菜の蒸気した頬の、その熱まで感じられそうなくらいだった。
「明日のためにも、今晩のうちに、多めに出しておいたほうがいい」
「で、でも……」
雪菜が否定しようとして口を開いたとき、凜は自由なほうの手で、雪菜の胸を鷲掴みにした。
「ひゃうぅ!?」
雪菜が飛び上がりそうになって、足が開いて、止めていたほうの手も再び動かせるようになった。アレを包み込むようにして、手のひら全体で、上から下まで、さする。雪菜のパジャマに、その形が、浮き上がるくらいに。
「おねえ、ちゃん……!?」
「何? 痛い?」
「そうじゃ、……ぁ……ん……、なくて……。んぁ……、待って……、はぁ……、すこしだけ……待って……、っ……」
「待たない。だって、ちゃんと睡眠も必要だし。時間は大事だぞ」
「んあぁ……」
凜は雪菜の背中に胸を押しつける格好で、片手で胸を、片手で男の部分を刺激する。雪菜は言葉では抵抗を示すが、暴れたり逃げようとしたりせず、時折刺激に反応して、小刻みに全身を震わせた。
土曜日、凜と雪菜は母に許可を得て、久しぶりに蔵に踏み入った。雪菜の呪いを解く方法を見つけるためだ。母に相談すれば、あっさりと教えてもらえる可能性もあるが、「母には何も言わない」が、あの水泳の時間の一件以来、二人の約束だった。
蔵の中はどこもかしこも厚くほこりが積もっていて、黴臭かった。段ボールを一つ一つ開けて、詰め込まれている古書を確認していくと、妖術や呪いへの対処法が詳しく解説されている本を発見した。
裸電球の明かりの下、二人で額を突き合わせて紙面をのぞき込む。
「あ、これじゃない?」
凜が指差したところには、性器が肥大化したり奇形化した人間のイラストが描かれていた。
「うん、これだね……」
「読めるか?」
「大丈夫」
古文の成績がいい雪菜が文章を解読する。
「なんて書いてあった?」
凜の質問に、雪菜はすぐには答えず、視線を泳がせた。
「いちおう、三つあるって」
「三つもあるのか。ラッキーだな。それで?」
「一つ目は、方法というか、放っておけば自然に元に戻るみたい」
「なんだ、自然に治るのか」凜は何か特別な薬でも必要になるかと想像していたので、回答を聞いてほっとした。
「それで、他は?」
「二つ目は、呪いを編んだ妖魔を殺す」
「ん? スライムはあたしがやっつけたぞ?」
「スライムは呪いの運び屋みたいなものだったのかも。あれが呪いを編めるほどの知能を持っているとも思えないし。だからたぶん、呪いを編んだのは、スライムじゃないんだと思う」
「そうか。そうなると、妖魔の王が犯人だな? あれを倒さなきゃならないわけだ」
これは大変だな、と凜は思った。
「で? あと一つは?」
「ええと……それが……」雪菜が急にそわそわ、もじもじし始めた。「三つ目は、せ、精子を、全部吐き出させることだって、書いてある」
「それって……」凜は妹の顔を、間近でまじまじと見つめた。「この前みたいなことを、どんどんやればいいってわけだな?」
「それは、だめ」
雪菜がぶんぶん首を振って拒否した。
「なんで? 妖魔の王と戦うより安全だし、ただ待つだけより、早いだろ?」
「それはそうだけど……さすがに……ちょっと……」
雪菜の顔は真っ赤だ。あの日の行為を思い出したのかもしれない。呪いのせいだとはいえ、毎日のように、自分の股間に生えた立派なものをしごいているのに、相変わらずそっちの話は苦手らしい。
「あたしは、全然構わないけど? むしろ、それが雪菜のためになるなら、協力する」
「……だめ。恥ずかしすぎるから」
凜は、消えそうな声で拒否する雪菜を、本当に可愛いと思って、ちょっとドキドキした。仕切りなおすように、古書の一か所を指差す。
「ところでさ、この説明はなんなの?」
「これは……呪いの説明。この呪いで生えた……アレには、女性を妊娠させる力はないんだって。毒もないし、呪いがうつるようなこともないって」
「じゃあ飲んでも大丈夫なわけだ?」
「の、飲む!?」雪菜が嫌悪と驚愕で複雑な顔をした。潔癖で、そういう行為に疎い雪菜が嫌がるのも無理はないだろう。もしかしたら、全く知らないのかもしれない。
「飲みたいわけじゃない。例えばの話だ」
「変なこと言わないでよ」
「まあ、これで解決策は分かった。一番早くて分かりやすいのは、妖魔の王を退治することだけど、居場所も分からないしな」
「退魔師協会の人たちが早く動いてくれるといいんだけど……」
「年寄りってフットワークがないからなぁ。何もしないで待つくらいなら、やっぱり精を吐き出させて……」
凜が視線を雪菜の下半身に向けると、雪菜は「だめっ! そんなこと、だめ!」と再び顔を赤らめた。「わたしのことは、わたしが何とかする」
「それが苦しいから、あたしが手伝ってるんだろ? 全部雪菜一人でやらなきゃって、思わなくていいんだ。あたしら、双子の姉妹だろ?」
「お姉ちゃん……」雪菜はハッとして、それから子犬のようにしゅんとした。「ごめんなさい」
「そうだ。あたしらも、妖魔の王を探そう。そうすれば、協会に任せておくより、早く解決するだろ?」
「でも……」
「深追いしなきゃ大丈夫だ。あたしらで王を見つけて、有力な情報を協会に持っていけば、評価してもらえるはずだ。今度こそ、母さんの期待に応えられる」
「お母さんの期待に……」雪菜は遠くを見るような目で呟いた。不意に顔を上げて、意志ある目で凜を見た。「わたし、期待に応えたいよ」
「じゃあ、午後は妖魔の王の居場所を突き止めようか。何かいい方法ない?」二人は蔵を出て、部屋に戻った。考えるのは雪菜のほうが得意だ。
「うーん……。わたしたちは何も情報を持ってないし、とりあえず、最近の妖魔の出没情報を集めて、地図にプロットしてみるとか。他には、妖魔との関連が分かっていない事件や異変を、調べてみるとか」
「地図とか新聞とかは雪菜の得意分野だな。あたしは何ができる?」
「お姉ちゃんは、教会関係者にそれとなく聞き込みできる?」
「オーケー、やってみる。じゃ、昼ご飯食べたら、さっそく始めようか」
その後、地道な調査によって、二人は妖魔の王が潜んでいそうな場所に当たりをつけた。ほとんど人が立ち入りそうにない、さびれた場所だ。母や協会にこのことを打ち明ける前に、二人で確かめに行くことにした。ただの推測ではなく、確実な、価値ある情報を提供したかったからだ。
「……お姉ちゃん」
その日の夜、凜がお風呂から上がって、髪を乾かし終わった頃。雪菜が部屋にやってきた。
「明日のこと、最後に確認しておこうと思って。……入ってもいい?」
「入りな」
ドアがためらいがちに開き、夏用のパジャマ姿で、髪を一つにまとめた雪菜が入ってきた。
姉妹のパジャマはおそろいの色違いだ。凜が水色、雪菜がピンク。前にボタンが並んでいて、そでやすそには白のフリルが可愛らしくあしらわれている。襟元から少しだけのぞく雪菜の鎖骨や首筋は、新雪のように滑らかで綺麗だ。
二人はテーブルを挟んで座り、明日の行動予定を確認した。次に雪菜がごちゃごちゃとプロットした地図を広げた。移動ルートや周囲の地形などを確認しておくためだ。
「雪菜、サカサマじゃ見づらいからこっち来な」
「う、うん」
雪菜がずいぶん距離を開けて、凜の隣に腰を下ろした。
たかだが数十センチの距離だが、これがいつの間にかできてしまった、雪菜と自分の距離なのだな、と凜は思った。
その後も二人は微妙な距離を保ったまま、全ての確認を滞りなく終えた。
「……お姉ちゃん、わたしなんかのために、ごめんなさい」
雪菜が申し訳なさそうに言った。
「双子の姉妹なんだから。このくらい当たり前だ。遠慮するな」凜は妹の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でてやった。「ところで、どうなんだ? 弓は当たるようになったか?」
「弓は、まだだめ。当たる日もあるけど、当たらない日もあるよ」
「当たる日と当たらない日は何が違う?」
「それは……」雪菜が顔を背ける。頬が赤くなっている。「…………」
「明日、妖魔に出くわす可能性もなくはないだろ? だから、大事だと思ってな」
「そうだね。そうだよね」雪菜は消えそうな声で繰り返したあと、たっぷり二十秒ほど沈黙し、ようやく口を開いた。「あれのせいで、集中力が散漫になるの。今までみたいに、透明で澄んだ心を取り戻そうとするんだけど、うまくできない。わたし、やらしいことを考えてる。穢れた心で弓を引くから、当たらないんだって、自分でも分かる」
「性欲がコントロールできないってこと?」
「コントロール、できてないと思う。いっぱい、出すと、少しの間は、おさまってくれるんだけど。だんだんまた、おさえられなくなる。わたし、スライムみたいな下級の妖魔に、こんなに心を乱されて、もう退魔師なんて名乗れないよ」雪菜が両手で顔を抑えた。指の間から、ぽたりぽたりと、大粒の涙が零れ落ちる。「授業の間も、友達とおしゃべりしてるときも、弓を握っているときも……やらしいことばっかり考えてる自分がいるの。あれを触りたいって思っている、最低な自分がいるの。本当のわたしが何なのか、わたしはもう、分からない。自分が大嫌いになりそう……」
「本当の雪菜……」凜は自分が想像していた以上に、雪菜が追い込まれていると知って、自分のことのように、胸の奥が痛んだ。「あたしにとっての雪菜は、雪菜だ。どんな雪菜だって、雪菜だ」
「こんなに、やらしいことばっかり考えてる、わたしも?」
「そうだ。あたしはどんな雪菜だって受け入れる。みんなが雪菜を否定して、遠ざけても、あたしだけは、ずっと隣にいてやる」凜は雪菜の背中に手を回し、体を引き寄せた。甘く、青い香りが、鼻孔をくすぐる。「だから、心配するな。大丈夫だ、きっと」
腕の中で、雪菜が頷いた。
「お姉ちゃん……」
雪菜は声を上げて泣いた。
ああ、こうして、妹を抱きしめたのは、何年振りだろうか――。
凜は、雪菜が泣き止むまで、抱きしめ、頭を撫で、背中をさすっていた。
やがて嗚咽が聞こえなくなると、体を離し、ティッシュで涙の跡と鼻水を拭いてやる。
「あーあ、赤ちゃんみたいな顔になっちゃって」
「お姉ちゃんのパジャマ、染みちゃった」
「あたしのほうは別に構わない」
「でも……」
雪菜が腰を浮かせて、前かがみになって、ティッシュに手を伸ばした。緩い襟元から、控えめな膨らみを包む下着が見えたとき、凜は自分の体の奥底に、熱いものが生まれたのを感じた。反射的に、雪菜の体を後ろから抱きしめた。
「みゃっ!?」雪菜が子猫みたいな声を出した。「お姉ちゃん!?」
「雪菜の体、柔らかくて、温かくて、女の子って感じ」
「だって、女の子だよ」
「でも、今は、これが生えてる」
「あっ……」凜の右手が、雪菜の体の唯一男らしい部分をなぞると、雪菜は鼻に詰まったような声をこぼした。
「おっきくなってる」凜はパジャマ越しに指を這わせ、大きさと形を確かめた。「それに、硬いな」
「それ、ちがうっ……」
「違うって、何が?」硬いものに沿って、凜は指先を往復させた。とくん、とそれが動いた。「いま、感じたんだな?」
「そんなこと、ない」雪菜が足を閉じる。凜の手は太ももに挟まれて動かせなくなった。
「もし今ここに、妖魔が出たとして、弓を引いたら、当てられる?」
雪菜は問に答えなかった。
体を重ねた二人の顔は間近にあって、凜には、雪菜の蒸気した頬の、その熱まで感じられそうなくらいだった。
「明日のためにも、今晩のうちに、多めに出しておいたほうがいい」
「で、でも……」
雪菜が否定しようとして口を開いたとき、凜は自由なほうの手で、雪菜の胸を鷲掴みにした。
「ひゃうぅ!?」
雪菜が飛び上がりそうになって、足が開いて、止めていたほうの手も再び動かせるようになった。アレを包み込むようにして、手のひら全体で、上から下まで、さする。雪菜のパジャマに、その形が、浮き上がるくらいに。
「おねえ、ちゃん……!?」
「何? 痛い?」
「そうじゃ、……ぁ……ん……、なくて……。んぁ……、待って……、はぁ……、すこしだけ……待って……、っ……」
「待たない。だって、ちゃんと睡眠も必要だし。時間は大事だぞ」
「んあぁ……」
凜は雪菜の背中に胸を押しつける格好で、片手で胸を、片手で男の部分を刺激する。雪菜は言葉では抵抗を示すが、暴れたり逃げようとしたりせず、時折刺激に反応して、小刻みに全身を震わせた。
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