【完結】JK退魔師と解呪師の罠 ~天才姉妹・凜と雪菜は二人溶け合いながら堕ちていく~

吉田定理

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11,エピローグ:家

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 暗い。何も見えない。真っ暗だ。闇、闇、闇。ここはどこか。
 声がしている。若い女の声だ。「あ」。声というより音といったほうがいい。単調に繰り返される「あ」。驚いたような「あ」。切なさに濡れた「あ」。苦しげに漏れる「あ」。
 ここは暖かくて寒い。いや、体は熱い。奥底から湧き上がってくる熱が、絶え間なく全身に供給されて、熱い。それなのに心は冷たい。
 目を凝らすと、誰かがいた。「あ」の女性だ。異様なシルエットが見える。腹が膨らんで、まるで卵がいっぱい詰まっている魚の腹みたいだ。魚のような女は、ゼリー状の玉座に腰を沈めて、股を大きく開いて、局部には太い触手が出たり入ったりして、淫靡な水音を響かせている。「あ」「あ」「あ」。
 自分がいるところも玉座だ。揺り籠のようでもある。ゼリー状の椅子のようなものに触手が絡み合って、自分の体を包み込むようにして支えている。下を向くと、露出した胸があって、触手が巻き付いて、食いついていた。いつ開いたか分からない脚と脚の間には、やはり太い触手が三本か四本もあって、それが動くと、下腹部、体内で、何かが動いて、気持ち悪いような心地よいような、妙な感覚だった。「あ」という声が自分の口から漏れた。「あ」。
「せつな」
 唐突にそんな音が口から飛び出した。それが何か特別な意味を持っていたような気がするが、本当かどうか自信はない。「せつな」もう一度口の中で転がしてみた。口の中が少しだけ甘くなったような気がした。きっと素敵な意味を持っていたに違いない。
「ああああああああっ!!」
 女の声が叫んだ。叫ぶ力の残っていない者が、無理やり叫んだみたいな、かすれ声だった。それを聞いたら、だんだんと自分の体の中に散在していた熱が一か所に集まってきて、もうすぐ何かを叫び出しそうな感じがしてきた。それは苦しくはなく、むしろ幸福な感覚がした。何かが来る。
「イッくぅううううううう!!」
 「あ」ではない音が勝手にのどの奥から出てきたが、その意味するところを考えようとする前に、頭の中が一瞬真っ白になって、時間が止まって、それからだんだんと真っ白の世界が真っ暗の世界に塗り替わっていって、十秒後か一分後か五分後か、今いるゼリーと触手の玉座に戻ってくることができた。ほんの刹那だけ見えた、その純白な世界は、脳がとろけそうなほど、安らかで、穏やかで、またのぞいてみたいと思った。
 ここに光はない。だが幸せな場所には違いない。いつまでも続く「あ」と、闇と、体の底の熱と、白の世界。
 そして「せつな」。
 せつな。
 せつな。
 その甘さが、どうしてか忘れられない。

<了>
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