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春の章
2 G=肉球 × 新郎④
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飲み会の主役は確かに新入生の僕である。
席順はこうだ。僕のいる側が、先輩、僕、凜ちゃんの順。向かい側が石橋さん、斎藤さん、須藤教授。つまり両手に花なのだ。
最初は極度の緊張でなかなか料理がのどを通らなかったけど、時間が経つにつれて雰囲気に慣れてきた。お酒はまだ飲めないのでコーラだけど。
「はい、じゃあそろそろ偉い会長によるお話の続きをやります!」
ビールの三杯目が来た頃、先輩が立ち上がった。
「やってていいぞ。その代わり酢豚はおまえ以外の全員で食っておくからな」
斎藤さんが太い腕で酢豚の皿を引き寄せ、僕の皿にどかっと盛り付けてくれた。さらに斎藤さん自身の皿にも。
「えー! 斎藤くんひどっ! それ私が食べたくて頼んだのに!」
「遠慮なくいただくっす」石橋さんは箸でひょいひょいと取っていく。
「よし、いただこうか」「いただきます」須藤教授と凜ちゃんも次々と酢豚を取り始めたので、一気に酢豚が減っていく。
「みんなダメ! 偉い会長によるお話はあとでやります!」
先輩も酢豚の取り合いに加わって、卓上は壮絶だ。どうやらみんな先輩の演説は遠慮したいらしい。
「ハイ、タコカラダヨ」中国人の店員さんがタコの唐揚げを持ってきた。
「私のだ! 斎藤くんにはあげません!」
「てめえ、それは俺が頼んだんだぞ!?」
先輩と斎藤さんが争奪戦を始める。さっきからそんなことばかりである。この二人は特に酒が進んでいる。
「この二人、めっちゃ飲みますね」心配になって向かいのイケメン――石橋さんに声をかけた。
「毎回こんな感じっす」石橋さんはのんきに戦いを眺めながら、マイペースにちびちびとカシスオレンジをなめている。それだけで絵になる人だ。
僕が骨付きチキンを食っていると、凜ちゃんが枝豆を差し出してきた。争奪戦の隙を突いてちょこちょこと食べ物を盗んできては、僕にくれるのである。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
「これもどうぞ」今度は春巻き。
「ああ、どうも……」
「渡辺さん」
「な、何?」
「その骨、ください」
「ほね……?」
僕がしゃぶった後の、チキンの骨を指差す凜ちゃん。
「えっと、チキンならこっちに……」
「チキンではないです。この骨がいいです」
「な、な、なんでそれ!?」
「お願いします」
なにこの女子高生!? 僕が食った後の骨をどうする気なのか? 怖い。怖すぎる……!
「か、考えさせてください……」
僕は春巻きをモシャモシャとかじった。
「あー! 私が取っておいた春巻きがない!」
先輩の悲鳴。僕は盛大にむせた。
「渡辺くんが食べてる!? なんで!? 枝豆も消えてるし!」
「いや、これは、その……」凜ちゃん、先輩の皿から取ったのかよ!?
「私が取りました。渡辺さんは悪くないです」悪びれる様子もなく手をあげる凜ちゃん。「猪俣先輩、どんくさかったので」
さらっとすごいこと言ったし……。
「ど、どんくさい!? 渡辺くんは主役だから許すけど、凜ちゃんは許すまじ! くすぐりの刑に処す!」
「渡辺さんが盗んだのを見ました」そう言って僕を引っつかみ、後ろに隠れて盾にする凜ちゃん。
秒で売りやがった!? 先輩がニヤニヤして襲い掛かってくる! 僕は女子高生と先輩に挟まれて、抱き着かれて、押し倒されて、もみくちゃにされた。
僕の顔面に押し付けられている柔らかくて温かい何か……。ほのかな甘い香り……。息が苦しい……。
席順はこうだ。僕のいる側が、先輩、僕、凜ちゃんの順。向かい側が石橋さん、斎藤さん、須藤教授。つまり両手に花なのだ。
最初は極度の緊張でなかなか料理がのどを通らなかったけど、時間が経つにつれて雰囲気に慣れてきた。お酒はまだ飲めないのでコーラだけど。
「はい、じゃあそろそろ偉い会長によるお話の続きをやります!」
ビールの三杯目が来た頃、先輩が立ち上がった。
「やってていいぞ。その代わり酢豚はおまえ以外の全員で食っておくからな」
斎藤さんが太い腕で酢豚の皿を引き寄せ、僕の皿にどかっと盛り付けてくれた。さらに斎藤さん自身の皿にも。
「えー! 斎藤くんひどっ! それ私が食べたくて頼んだのに!」
「遠慮なくいただくっす」石橋さんは箸でひょいひょいと取っていく。
「よし、いただこうか」「いただきます」須藤教授と凜ちゃんも次々と酢豚を取り始めたので、一気に酢豚が減っていく。
「みんなダメ! 偉い会長によるお話はあとでやります!」
先輩も酢豚の取り合いに加わって、卓上は壮絶だ。どうやらみんな先輩の演説は遠慮したいらしい。
「ハイ、タコカラダヨ」中国人の店員さんがタコの唐揚げを持ってきた。
「私のだ! 斎藤くんにはあげません!」
「てめえ、それは俺が頼んだんだぞ!?」
先輩と斎藤さんが争奪戦を始める。さっきからそんなことばかりである。この二人は特に酒が進んでいる。
「この二人、めっちゃ飲みますね」心配になって向かいのイケメン――石橋さんに声をかけた。
「毎回こんな感じっす」石橋さんはのんきに戦いを眺めながら、マイペースにちびちびとカシスオレンジをなめている。それだけで絵になる人だ。
僕が骨付きチキンを食っていると、凜ちゃんが枝豆を差し出してきた。争奪戦の隙を突いてちょこちょこと食べ物を盗んできては、僕にくれるのである。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
「これもどうぞ」今度は春巻き。
「ああ、どうも……」
「渡辺さん」
「な、何?」
「その骨、ください」
「ほね……?」
僕がしゃぶった後の、チキンの骨を指差す凜ちゃん。
「えっと、チキンならこっちに……」
「チキンではないです。この骨がいいです」
「な、な、なんでそれ!?」
「お願いします」
なにこの女子高生!? 僕が食った後の骨をどうする気なのか? 怖い。怖すぎる……!
「か、考えさせてください……」
僕は春巻きをモシャモシャとかじった。
「あー! 私が取っておいた春巻きがない!」
先輩の悲鳴。僕は盛大にむせた。
「渡辺くんが食べてる!? なんで!? 枝豆も消えてるし!」
「いや、これは、その……」凜ちゃん、先輩の皿から取ったのかよ!?
「私が取りました。渡辺さんは悪くないです」悪びれる様子もなく手をあげる凜ちゃん。「猪俣先輩、どんくさかったので」
さらっとすごいこと言ったし……。
「ど、どんくさい!? 渡辺くんは主役だから許すけど、凜ちゃんは許すまじ! くすぐりの刑に処す!」
「渡辺さんが盗んだのを見ました」そう言って僕を引っつかみ、後ろに隠れて盾にする凜ちゃん。
秒で売りやがった!? 先輩がニヤニヤして襲い掛かってくる! 僕は女子高生と先輩に挟まれて、抱き着かれて、押し倒されて、もみくちゃにされた。
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