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「虫園(むしぞの)の旅人」企画書
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「虫園(むしぞの)の旅人」企画書
*コンテスト応募用に書いた企画です。
●キャッチコピー
料理の道を究めるべく旅をする孤独な青年と、心に傷を負った少女の、『虫』をめぐる王道冒険ファンタジー
●あらすじ
人間が巨大な虫に怯えながら暮らす荒廃世界。青年・アルディは料理の道を究めるために、孤独な旅をしている料理人。アルディにとっては恐ろしい虫も食材。特大の包丁でさばいて食べてしまう変人ぶり。あるとき虫の襲撃によって故郷の村を滅ぼされた少女・リンを助ける。リンは虫を操って悪事を働く怪しげな教団の刺客に狙われていた。教団が探している幻の虫・宝石虫を手に入れるにはリンが必要らしい。アルディにとっても、宝石虫は一度は食べてみたい食材。アルディとリンの二人は、宝石虫と危険な教団について探るため、ともに旅立つ。そしてやがて大陸を揺るがす陰謀と、世界にはびこる巨大な虫たちの謎に迫っていくことに。
●第1話のストーリー
林の中。
狂暴で巨大な虫の、牙が青年(アルディ。18歳)に襲い掛かる。
アルディは背中に背負っていた特大の料理包丁で、虫を一刀両断する。
倒した虫を見て嬉しそうに、「こいつは肉厚でうまそうだ」
そのとき、少女(リン。15歳)の悲鳴が林に響く。リンは巨大な虫に襲われている。
アルディは声のほうへ駆けていき、特大の包丁で虫を倒す。
アルディが手を差し伸べると、リンは泣き出してしまう。
アルディとリンは林の中を歩いている。
虫たちが村を襲ってきた、と怯えながら説明するリン。
林の奥の、その村に着く。
崩れた家、死体。
二人は村の様子を探る。
家々を回るが、生存者なし。リンは家族の遺体を見つけて泣き崩れる。
泣き声が止むと、リンが熱にうなされて倒れている。腕に毒牙による傷。
アルディは薬を調合し、リンに飲ませ、徹夜で看病する。
翌朝、回復したリンは洞穴の中の草のベッドで目覚める。看病の形跡がある。
美味しそうな香りのほうに行くと、アルディが料理中。
「虫の毒でうなされているのを放っておけなかった」とアルディ。
「いっそ私も死ねばよかったのに」自虐的なリン。
アルディは鍋の味見をして「うん、うまい。食べるか?」
リンは断るが、腹が鳴って赤面。鍋を覗くと、毒虫のスープ。
「何これ! 食べるわけない!」リンは激怒。
「毒は処理してある」アルディは平然と食う。
リンは怒って一人林の中へ。
リンは迷い、アルディのところに戻ってくる。
「どうした?」とアルディ。
「迷ったの!」悔しそうなリン。
もう一度、リンの腹が鳴る。
「もうないぞ」空鍋を見せるアルディ。
「いらない!」立ち去ろうとしたリンの、目の前に巨大な虫が出現。
恐怖で動けない。「嫌だ、助けて」
アルディが虫を倒す。
「まだ生きたいなら飯を食え。幸い食材も手に入った」
アルディはその虫を手際よく料理する。顔をしかめて見ているリン。
完成した料理は美味しそうだが、リンは複雑。
覚悟を決めてひと口。
「美味しい!」初めての笑顔。夢中で食べ、涙がボロボロと零れる。抱えていた感情が再び溢れ出す。
「美味しいと言ってもらったのは初めてだ。ずっと一人だったから」とアルディ。
完食したリンは、「私の名前はリン。助けてくれてありがとう」
「俺はアルディ。旅の料理人だ。近くの町まで送ろう」
そんな二人の近くに、ローブで顔を隠した怪しい男の影。
●第2話以降のストーリー
【2~5話】
アルディとリンは近くの町に向かって歩いている。
「どうしてリンの村は虫に襲われたんだろうか」
「分からないけど、虫に襲われる前の日に、村に変な男が泊まった。ローブで顔を隠してた。大量の虫が襲ってきたときには、もういなかった」
二人は無事に町に到着。
身寄りのないリンを引き取ってくれる孤児院を探す。
ある孤児院の院長が、リンを受け入れてくれることになった。
アルディはリンを孤児院に預け、立ち去る。
だがその孤児院を振り返って、何か気にしている様子。懐から小瓶(毒への耐性を作る薬)を取り出す。
その頃、孤児院の子になったリンは、院長から「この部屋で待つように」と言われ、一人になる。院長はなぜか申し訳なさそう。
部屋の外で物音(院長が倒れた音)がして、ローブに身を包んだ男が入ってくる。
リンは青ざめ、悲鳴をあげようとした口を塞がれる。
「大声を出せば殺す。裏切り者よ。宝石虫をどこに隠した?」
怯え、泣きながら、無言で首を左右に振るリン。
ローブの裾からは不気味な小型の毒虫の姿が見える。
「来い。宝石虫が見つかったら解放してやる」
リンは猿ぐつわを噛まされ、男に乱暴に引っぱられ、裏口から外に出る。
そこにはアルディが立っていた。
ローブの男は警戒態勢。
「その子をどうする気だ」とアルディ。「あの院長、毒虫の匂いがしていたが、おまえの虫だな?」
「まさか気づくヤツがいるとは驚いた。だが余計なことに首を突っ込むのは寿命を縮めることになるぞ」
「何っ?」
忍び寄っていた小さな毒虫がアルディの足に噛みつく。アルディはその虫を踏み潰したが、顔をしかめて片膝を突いてしまう。
「そいつは小さいが、大男をもたちまち動けなくするほど強力な麻痺毒を持っている」
勝利を確信したローブの男。絶望するリン。
不意にアルディは懐から小型ナイフを抜いてローブの男を切りつける。
男はかろうじて避けたが、顔の独特な刺青が見える。この隙にアルディはリンの身柄を確保。
「バカなっ。なぜ動ける!?」
「毒を使う不審な輩がいると分かった時点で、毒への耐性を作る薬は飲んださ」
ローブの男は舌打ちして逃げる。
リンは猿ぐつわを自分で外し、「あいつが村に泊まった男」
「捕まえて尋問する」アルディはローブの男を追う。
リンもアルディを追って表通りに飛び出す。
空から巨大な虫――ダイヤモンドマンティス(以下、マンティス)が飛来し、アルディとリンの前に降り立つ。
町の人々は悲鳴をあげ、混乱に陥る。
「どうして町の中に虫が!?」とリン。
マンティスの背後にローブの男が立って、アルディを見ている。「貴様は我々の脅威となり得る。ここで殺す」
止まれずにマンティスに突っ込んでいった馬車を、マンティスが鎌のひと振りで真っ二つにする。
「さあ、その無敵の鎌であの男の首を落とせ」
マンティスの鎌がアルディとリンを襲う。
死を覚悟したリンは、直後、キーンという甲高い音を聞く。
マンティスの鎌を、アルディが特大の包丁で弾き返したのだ。
ローブの男は驚愕する。「あり得ない。そんな包丁ごときで。マンティスの鎌に勝る刃物なんて」
「当然のことだ。この包丁もマンティスの鎌で出来ているんだからな」とアルディ。「リン、俺から離れるな」
マンティスが鎌の連続攻撃を繰り出してくる。
アルディはそれを弾き返すが、防戦一方。「ふたつの鎌は厄介だ。隙ができるまで耐えるしかない」
リンはアルディの背後で恐怖に震えているだけ。
ここで自分も死ぬのか。村の仲間や両親や祖母の顔が思い浮かぶ。祖母の教えが断片的に頭をよぎる。
――遥か昔、人間と虫は共存していたのじゃ。
――人間は、生命の禁忌に手を出してしもうた。
――リン、虫に罪はない。虫を憎むな。
「虫なんて大嫌いだ」リンは思う。「虫に、村の皆は殺された」
――カマキリという虫は、根っからのハンターじゃ。ゆえに……。
リンはハッと思い出し、目を開ける。
アルディはマンティスの攻撃を防ぎ続けているが、旗色は悪い。
リンは恐怖で身がすくむ。だが、勇気を出して辺りを見る。使えそうなものはない。
あきらめかけたとき、自分が着ている上着に目が行く。母が編んでくれたお気に入りの服。
リンは上着を脱いで丸めて、思い切り空に投げ上げた。「お願い!」
マンティスは宙を舞う服に目を留めたかと思うと、反射的にその服を鎌で切り刻む。
その隙を突いて、アルディはマンティスの懐に潜り込んで包丁で一閃し、マンティスを倒した。
それを見て、ローブの男は舌打ちして路地に消える。
「待て」アルディは追いかけようとするが、小さな羽虫の群れが邪魔をして、ローブの男を見失う。
「くそっ、見失った」アルディはリンのもとへ戻る。「リンのおかげで助かった。カマキリが動くものを餌とみなす習性をよく知っていたな」
「小さい頃、おばあちゃんが虫のこと、いろいろ教えてくれたのを思い出したの」
アルディとリンは再び孤児院の院長と会う。
リンは孤児院の院長と並び、去っていくアルディに手を振る。
夕方。
アルディは町の外で野宿。火を起こし、料理中。
そばには引き取ったマンティスの残骸。
食べられる部位は、ぐつぐつと煮える鍋の中。
そこへ人影が現われる。
警戒するアルディだが、人影の正体はリンだった。
「何か用か?」とアルディ。
「それ、あのカマキリ? どうして虫なんて食べるの」引き気味のリン。
「料理人としての興味と探究。虫は嫌われ者だが、意外にも優秀な食材だ。料理の可能性を広げてくれる。自分の手で新しい道を切り開くのはワクワクしないか?」
「分からないけど、意外とマジメな理由なんだね。そのカマキリ料理、ひと口もらっていい?」
リンは料理を恐る恐る食べ、「悔しいけど、すっごく美味しい。魚の肉と似てる。この香草でクセを消したの? この肉はどの部位?」虫料理に興味がわく。
「黙って食べて、食べたら帰れ」アルディはそっけなく振舞うが、リンに質問されて内心ちょっと嬉しい。
「実は私、町を出ることにしたの」
「そうか」
「あの男、宝石虫っていう虫の居場所を私が知ってると思い込んでた。また襲われるかもしれないから、町には居られない」
「宝石虫。幻の虫だ。一度は食べてみたい」
「あなたも宝石虫を探しているなら、私、何かの役に立つかも。旅に連れていって」
「ダメだ。孤児院に戻れ」
リンは立ち去らない。しつこく追いすがる。「お願い。他に行く宛てがない。荷物持ちでもなんでもするから」
アルディはため息を吐く。「たまに料理の感想をくれ。それがリンの仕事だ」
「うん、がんばる!」
【6話~】
二人は、ローブの男の顔の刺青から、男はニレグ教団の者だと推測。
ニレグ教団は、西方に本拠地を持ち、虫を神と崇める組織。
ゆえに、西へ向かう。
道中で、虫に関するトラブルを解決したり、教団の刺客を倒したりする。そして教団の情報を集め、虫料理にも挑戦する。次第にアルディとリンの絆も深まっていく。
さらに、志を同じくする新たな仲間(スパイスの専門家や、火を自在に操る者など)を加える。
だんだんと教団の野望(虫を利用した世界の支配)や、リンの謎(リンの村は宝石虫を盗んだ元教団メンバーの隠れ里)、世界の秘密(虫は野生化した生物兵器。宝石虫は特に危険)なども明らかになる。
*コンテスト応募用に書いた企画です。
●キャッチコピー
料理の道を究めるべく旅をする孤独な青年と、心に傷を負った少女の、『虫』をめぐる王道冒険ファンタジー
●あらすじ
人間が巨大な虫に怯えながら暮らす荒廃世界。青年・アルディは料理の道を究めるために、孤独な旅をしている料理人。アルディにとっては恐ろしい虫も食材。特大の包丁でさばいて食べてしまう変人ぶり。あるとき虫の襲撃によって故郷の村を滅ぼされた少女・リンを助ける。リンは虫を操って悪事を働く怪しげな教団の刺客に狙われていた。教団が探している幻の虫・宝石虫を手に入れるにはリンが必要らしい。アルディにとっても、宝石虫は一度は食べてみたい食材。アルディとリンの二人は、宝石虫と危険な教団について探るため、ともに旅立つ。そしてやがて大陸を揺るがす陰謀と、世界にはびこる巨大な虫たちの謎に迫っていくことに。
●第1話のストーリー
林の中。
狂暴で巨大な虫の、牙が青年(アルディ。18歳)に襲い掛かる。
アルディは背中に背負っていた特大の料理包丁で、虫を一刀両断する。
倒した虫を見て嬉しそうに、「こいつは肉厚でうまそうだ」
そのとき、少女(リン。15歳)の悲鳴が林に響く。リンは巨大な虫に襲われている。
アルディは声のほうへ駆けていき、特大の包丁で虫を倒す。
アルディが手を差し伸べると、リンは泣き出してしまう。
アルディとリンは林の中を歩いている。
虫たちが村を襲ってきた、と怯えながら説明するリン。
林の奥の、その村に着く。
崩れた家、死体。
二人は村の様子を探る。
家々を回るが、生存者なし。リンは家族の遺体を見つけて泣き崩れる。
泣き声が止むと、リンが熱にうなされて倒れている。腕に毒牙による傷。
アルディは薬を調合し、リンに飲ませ、徹夜で看病する。
翌朝、回復したリンは洞穴の中の草のベッドで目覚める。看病の形跡がある。
美味しそうな香りのほうに行くと、アルディが料理中。
「虫の毒でうなされているのを放っておけなかった」とアルディ。
「いっそ私も死ねばよかったのに」自虐的なリン。
アルディは鍋の味見をして「うん、うまい。食べるか?」
リンは断るが、腹が鳴って赤面。鍋を覗くと、毒虫のスープ。
「何これ! 食べるわけない!」リンは激怒。
「毒は処理してある」アルディは平然と食う。
リンは怒って一人林の中へ。
リンは迷い、アルディのところに戻ってくる。
「どうした?」とアルディ。
「迷ったの!」悔しそうなリン。
もう一度、リンの腹が鳴る。
「もうないぞ」空鍋を見せるアルディ。
「いらない!」立ち去ろうとしたリンの、目の前に巨大な虫が出現。
恐怖で動けない。「嫌だ、助けて」
アルディが虫を倒す。
「まだ生きたいなら飯を食え。幸い食材も手に入った」
アルディはその虫を手際よく料理する。顔をしかめて見ているリン。
完成した料理は美味しそうだが、リンは複雑。
覚悟を決めてひと口。
「美味しい!」初めての笑顔。夢中で食べ、涙がボロボロと零れる。抱えていた感情が再び溢れ出す。
「美味しいと言ってもらったのは初めてだ。ずっと一人だったから」とアルディ。
完食したリンは、「私の名前はリン。助けてくれてありがとう」
「俺はアルディ。旅の料理人だ。近くの町まで送ろう」
そんな二人の近くに、ローブで顔を隠した怪しい男の影。
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【2~5話】
アルディとリンは近くの町に向かって歩いている。
「どうしてリンの村は虫に襲われたんだろうか」
「分からないけど、虫に襲われる前の日に、村に変な男が泊まった。ローブで顔を隠してた。大量の虫が襲ってきたときには、もういなかった」
二人は無事に町に到着。
身寄りのないリンを引き取ってくれる孤児院を探す。
ある孤児院の院長が、リンを受け入れてくれることになった。
アルディはリンを孤児院に預け、立ち去る。
だがその孤児院を振り返って、何か気にしている様子。懐から小瓶(毒への耐性を作る薬)を取り出す。
その頃、孤児院の子になったリンは、院長から「この部屋で待つように」と言われ、一人になる。院長はなぜか申し訳なさそう。
部屋の外で物音(院長が倒れた音)がして、ローブに身を包んだ男が入ってくる。
リンは青ざめ、悲鳴をあげようとした口を塞がれる。
「大声を出せば殺す。裏切り者よ。宝石虫をどこに隠した?」
怯え、泣きながら、無言で首を左右に振るリン。
ローブの裾からは不気味な小型の毒虫の姿が見える。
「来い。宝石虫が見つかったら解放してやる」
リンは猿ぐつわを噛まされ、男に乱暴に引っぱられ、裏口から外に出る。
そこにはアルディが立っていた。
ローブの男は警戒態勢。
「その子をどうする気だ」とアルディ。「あの院長、毒虫の匂いがしていたが、おまえの虫だな?」
「まさか気づくヤツがいるとは驚いた。だが余計なことに首を突っ込むのは寿命を縮めることになるぞ」
「何っ?」
忍び寄っていた小さな毒虫がアルディの足に噛みつく。アルディはその虫を踏み潰したが、顔をしかめて片膝を突いてしまう。
「そいつは小さいが、大男をもたちまち動けなくするほど強力な麻痺毒を持っている」
勝利を確信したローブの男。絶望するリン。
不意にアルディは懐から小型ナイフを抜いてローブの男を切りつける。
男はかろうじて避けたが、顔の独特な刺青が見える。この隙にアルディはリンの身柄を確保。
「バカなっ。なぜ動ける!?」
「毒を使う不審な輩がいると分かった時点で、毒への耐性を作る薬は飲んださ」
ローブの男は舌打ちして逃げる。
リンは猿ぐつわを自分で外し、「あいつが村に泊まった男」
「捕まえて尋問する」アルディはローブの男を追う。
リンもアルディを追って表通りに飛び出す。
空から巨大な虫――ダイヤモンドマンティス(以下、マンティス)が飛来し、アルディとリンの前に降り立つ。
町の人々は悲鳴をあげ、混乱に陥る。
「どうして町の中に虫が!?」とリン。
マンティスの背後にローブの男が立って、アルディを見ている。「貴様は我々の脅威となり得る。ここで殺す」
止まれずにマンティスに突っ込んでいった馬車を、マンティスが鎌のひと振りで真っ二つにする。
「さあ、その無敵の鎌であの男の首を落とせ」
マンティスの鎌がアルディとリンを襲う。
死を覚悟したリンは、直後、キーンという甲高い音を聞く。
マンティスの鎌を、アルディが特大の包丁で弾き返したのだ。
ローブの男は驚愕する。「あり得ない。そんな包丁ごときで。マンティスの鎌に勝る刃物なんて」
「当然のことだ。この包丁もマンティスの鎌で出来ているんだからな」とアルディ。「リン、俺から離れるな」
マンティスが鎌の連続攻撃を繰り出してくる。
アルディはそれを弾き返すが、防戦一方。「ふたつの鎌は厄介だ。隙ができるまで耐えるしかない」
リンはアルディの背後で恐怖に震えているだけ。
ここで自分も死ぬのか。村の仲間や両親や祖母の顔が思い浮かぶ。祖母の教えが断片的に頭をよぎる。
――遥か昔、人間と虫は共存していたのじゃ。
――人間は、生命の禁忌に手を出してしもうた。
――リン、虫に罪はない。虫を憎むな。
「虫なんて大嫌いだ」リンは思う。「虫に、村の皆は殺された」
――カマキリという虫は、根っからのハンターじゃ。ゆえに……。
リンはハッと思い出し、目を開ける。
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リンは恐怖で身がすくむ。だが、勇気を出して辺りを見る。使えそうなものはない。
あきらめかけたとき、自分が着ている上着に目が行く。母が編んでくれたお気に入りの服。
リンは上着を脱いで丸めて、思い切り空に投げ上げた。「お願い!」
マンティスは宙を舞う服に目を留めたかと思うと、反射的にその服を鎌で切り刻む。
その隙を突いて、アルディはマンティスの懐に潜り込んで包丁で一閃し、マンティスを倒した。
それを見て、ローブの男は舌打ちして路地に消える。
「待て」アルディは追いかけようとするが、小さな羽虫の群れが邪魔をして、ローブの男を見失う。
「くそっ、見失った」アルディはリンのもとへ戻る。「リンのおかげで助かった。カマキリが動くものを餌とみなす習性をよく知っていたな」
「小さい頃、おばあちゃんが虫のこと、いろいろ教えてくれたのを思い出したの」
アルディとリンは再び孤児院の院長と会う。
リンは孤児院の院長と並び、去っていくアルディに手を振る。
夕方。
アルディは町の外で野宿。火を起こし、料理中。
そばには引き取ったマンティスの残骸。
食べられる部位は、ぐつぐつと煮える鍋の中。
そこへ人影が現われる。
警戒するアルディだが、人影の正体はリンだった。
「何か用か?」とアルディ。
「それ、あのカマキリ? どうして虫なんて食べるの」引き気味のリン。
「料理人としての興味と探究。虫は嫌われ者だが、意外にも優秀な食材だ。料理の可能性を広げてくれる。自分の手で新しい道を切り開くのはワクワクしないか?」
「分からないけど、意外とマジメな理由なんだね。そのカマキリ料理、ひと口もらっていい?」
リンは料理を恐る恐る食べ、「悔しいけど、すっごく美味しい。魚の肉と似てる。この香草でクセを消したの? この肉はどの部位?」虫料理に興味がわく。
「黙って食べて、食べたら帰れ」アルディはそっけなく振舞うが、リンに質問されて内心ちょっと嬉しい。
「実は私、町を出ることにしたの」
「そうか」
「あの男、宝石虫っていう虫の居場所を私が知ってると思い込んでた。また襲われるかもしれないから、町には居られない」
「宝石虫。幻の虫だ。一度は食べてみたい」
「あなたも宝石虫を探しているなら、私、何かの役に立つかも。旅に連れていって」
「ダメだ。孤児院に戻れ」
リンは立ち去らない。しつこく追いすがる。「お願い。他に行く宛てがない。荷物持ちでもなんでもするから」
アルディはため息を吐く。「たまに料理の感想をくれ。それがリンの仕事だ」
「うん、がんばる!」
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ニレグ教団は、西方に本拠地を持ち、虫を神と崇める組織。
ゆえに、西へ向かう。
道中で、虫に関するトラブルを解決したり、教団の刺客を倒したりする。そして教団の情報を集め、虫料理にも挑戦する。次第にアルディとリンの絆も深まっていく。
さらに、志を同じくする新たな仲間(スパイスの専門家や、火を自在に操る者など)を加える。
だんだんと教団の野望(虫を利用した世界の支配)や、リンの謎(リンの村は宝石虫を盗んだ元教団メンバーの隠れ里)、世界の秘密(虫は野生化した生物兵器。宝石虫は特に危険)なども明らかになる。
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