夜のサーカス

HARU

文字の大きさ
1 / 1
出会い

私は孤独

しおりを挟む
馬車が行き交う。
人々の声が聞こえる。
自分の部屋として与えられた屋根裏の窓からそれを眺める。
それが、彼女の日常だった。

とある街に建つ一つの屋敷。
そこに、少女が働いていた。
名前はリズ。
白く美しい肌とそれとは真逆の黒い髪と瞳を持つ、いたって普通の少女だ。
彼女は、物心付いた時からここにいた。
理由や意味すらも感じたことはなかったが、ここを出たところで、帰る場所や住む場所すらもない。だから彼女はここにいた。
「あっち行こ!」
外で聞こえる子供たちの声。あんな風に自分も走り回ってみたいと、そう願っても叶うことはないと分かっていた。

「あんたってホントノロマでグズね!!」
あぁ、また始まった。
リズが皿洗いをしていた時。この屋敷に住む召使いの中でボス格のような少女がリズに向かってそんな言葉を投げかけた。
「ここのテーブルも綺麗にしとけって言ったのに、まだ皿なんか洗ってたの!?私が怒られたらどうすんのよ!」
彼女はクロエと言い、リズと同期の召使いなのだが、自分が1歳年上だからと言ってリズに何かと自分の仕事を押し付けてくる。
先ほどテーブル掃除を言われてからまだ3分も、経っていないのだが…。
「すみません、クロエさん」
年は上だが、仕事上は同期なのになぜ相手を「さん」呼びしなければならないのか、そう思いもしたが、逆らうとまた余計に面倒くさいことになると分かっていたので、何も言わず、ただ言うことを聞いていた。
そしてフンと鼻で笑うクロエの後ろにはニーナ、エミルという同じく同期の召使いがクスクスと笑っている。

リズが常に一人でいることを良いことに、彼女たちはリズに様々な嫌がらせをしている。
リズ自身はもう慣れたことだが…。
掃除、洗濯、裁縫、配膳に至っても、領主がいない時は常にリズ1人で行うのが日常で、たまに1歳年下の後輩召使いのテレサが、自分の仕事が終わり次第手伝ってくれる程度だ。
「リズさん、何かあったら言ってくださいね」
メガネ越しに細まるテレサの目はとても優しいがリズは、きっと彼女も自分から離れていくものだ、と思っていたので、
「大丈夫、ありがとう」
とだけ言って、彼女の前を去るのだった。

自分のことを知る人はあの人だけ。
彼女しかいないのだ。
私は召使い仲間の中では1人だが、私を理解してくれる人はちゃんといる。
いつかまた捨てられるかも知れないが、あの人になら別に良い。

そう思いながら、リズは今日もこの窓から1人孤独を感じるのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...