ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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絆編

いけると思ったけどクロノ死す

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 俺のとっておき、【エンチャント・ダークネス】は、赤龍にも通用した。


 あれだけ余裕ぶっこいていた赤龍が、目を見開き、縮こまり、攻撃をせず俺を凝視してくる。これもまた赤龍のハッタリかもしれないが、そのときは素直にぶっ飛ばされるつもりだ。他に方法がないからな。


 その前に、ちょっとくらい煽っても良いではないか!?


「あらあら、僕ちゃぁーん。そんなに縮こまってどうしたのかな? どっか痛いのかな? あぁ、尻尾かな!? おじさんに見せてごらん! 唾くらい吐きかけてあげるよ!!?!?!?」


 赤龍にとって、俺の強さがどうあれ、煽られるのは実に腹が立つだろう。俺が強ければ満足に手を出すことが出来ず、弱ければ顔の周りを飛び回る蚊のように潰したくなる。


 そして何より、俺の挑発には、戦略性がない! 言いたいから言ってるだけで、カウンターを狙っているだとか、次に繋がる行動など何一つ含まれていない!! あとで思い出してめちゃくちゃイライラして欲しい!!


「いやぁー、気分がいい! 清々しい! マウント取り放題!!」


 赤龍は、小さく唸り声を上げ、尻尾を地面に叩きつけた。怪我に活を入れるとは、とんでもない闘志だ……あれ?


「ねぇ、あそこにあった傷……治ってない?」

「当たり前じゃないですか。強力な魔物は、必ずと言っていいほど【自己再生】を持っています。中でも生命力に溢れる赤龍は、顕著ですよ。あの程度の傷なら数分で治るでしょうね」


 赤黒く血が滲んでいたはずの肉に、皮膚が戻っている。弾け飛んだ鱗も、こうして見つめている間にも少しずつ成長している。ダメージを与えてからまだ1分経ったかどうかで、この回復力はズルい。


 一応、図鑑更新を手伝った俺は、【自己再生】の知識は得ている。でもここまで強力なものだとは思っていなかった。脚色だと思っていたのに……。


 ちなみに、俺のヒールはインチキではない。なぜなら、俺は弱いから。弱いからセーフなんだ。ちょっとしぶといだけさ。ゴキ○リみたいなもんさ。でも強いやつが回復まで完備してるなんてそれ完全にインチキですやん。


「いやいや、こんなのどうしろと!?」

「さっきのセオリー覚えてますか。Cランク15人で討伐する話です。アタッカーが9人必要なのは、そういうことですよ」

「回復力を上回るダメージを与え続けろってか? 先に言ってくれよ……」

「いえ、御大層に赤龍を煽っていたので、次の策があったのかと思いまして。まさか、何もなかったんですか? そんなわけ、ないですよねぇ?」

「畜生っ、味方に煽られた……っ」


 でも、赤龍を煽っといて良かったと思う。余裕があるうちに煽る。これ大事。今おじさん冷や汗だらっだらだからね。今から煽る気力は湧かないよ。


「呆れた人ですね。ライオネルさんも何か言ってやってくださいよ」

「んー、別にいいんじゃね? 敵の手は止まってる。攻撃してきたらダメージを与えられる。いいなぁ、その盾ちょっとだけ貸してくれねぇ?」

「やだよ俺が死ぬだろ!?」

「……なるほどね。諦めるぜ」


 あっさりと引き下がったライオネルが、俺にウインクしてくる。何だこいつ、気持ち悪いから止めろ。いや、待てよ……?


 赤龍は人の言葉を理解する。作戦をべらべらと喋ろうものなら、筒抜けになって対策されるだろう。かと言って何も話さなければ、即席パーティーの俺たちは意思の疎通が取れない。


 ライオネルがあっさり引き下がったのは、【エンチャント・ダークネス】を自由に使えないと理解したからか。すぐに赤龍も気付くだろうが、何の制限があるかまでは読めない。


 【エンチャント・ダークネス】の効果時間は1回あたり30分。スキル化によって、残り2回しか使えないというデメリットがある。これをバラせば、少なくとも1時間は時間を稼げることになるが……。


 戦う前に俺は、『2時間で援軍が来る』と言った。あれは口からでまかせだ。早く来るかもしれないし、遅く来るかもしれない。味方が間に合わず、エンチャントも使い果たしていたら、俺たちは確実に死ぬ。


 リスクは冒せない。だから、スキルの説明はしない。


 ライオネルに視線を送る。一瞬の沈黙で、分かってくれたと思う。今は、ライオネルの経験に基づく感を信じるしかない。


 そして、『攻撃に転じる』と言ったファウストのことを……。


「さて、僕の出番ですね。【オブセッション:疫病蝙蝠】」


 俺たちの背後に隠れたファウストの囁き。黒煙の焦げた匂いに混ざり、微かに腐臭を感じた。


 疫病蝙蝠は、ダンジョンや洞窟の最深部付近に生息する魔物だったか。特徴は、飛行と毒……ファウストが走り出したことから、飛行の可能性は消えた。狙いは毒か!


「行くぞライオネル。前線を押し上げる」

「おう! 先頭は任せた!」


 俺を先頭に、ライオネルが続く。ファウストは最後尾だ。


 難しいことは考えなくていい。俺は壁だ。ファウストを赤龍まで運ぶ盾なんだ。まっすぐ走ればいい。あとは経験豊富なふたりが、好きなようにやるだろう。


 シャドーデーモンを通して状況を確認すると、俺たちは縦一列に並んで走っている。俺の無駄にデカイ体も、少しは役に立つようだ。


 赤龍は大きく息を吸い込んだが、びたりと動きを止め、尻尾を俺に差し向ける。当たる直前で足へと軌道を変えるが、黒盾で受け、弾き返す。


 血しぶきが舞う中、赤龍は腕を振るっている。尻尾とほぼ同時だった。尻尾の軌道の反対側から繰り出される攻撃は、俺の盾では防げない。


「【アクセル】【ブースト】【シールドバッシュ】」


 後ろに隠れていたライオネルが、加速して俺を追い抜く。攻撃に合わせて中盾を突き出し、軌道を逸した。さすがは本職だ。


 鱗の一枚一枚が、はっきりと見える。あと少しで赤龍に手が届く。巨体を見上げると、赤龍が大口を開けて、ブレスを吐こうとしている……っ。


 広範囲かつ高火力のブレスは、黒盾でも防げない。バリアも使えない。ナイトスワンプを使えば回避はできるが、赤龍は距離を取るだろう。千載一遇の好機だが、死ねば終わり。ここは引くべきでは……?


 目線を送ろうと後ろを向くと、ファウストが居ない。いや、居る。たった今、俺の右側を、姿勢を低くして走り抜けた。


 俺の巨体を利用して死角を作り、駆け抜けるつもりか!


 ならば俺がやるべきことは、ギリギリまで赤龍の注意を引きつけることだ。タイミングを間違えれば消し炭にされるが……逃げるのは得意だ。後は任せるぞ!


「【ナイトスワンプ】」


 泥沼に染まる視界を切り替え、地上に居るシャドーデーモンの視界を借りる。


 吹き荒れる炎の中、ファウストを見つけた。場所は赤龍の真横……ちょうど、左腕の付け根の辺りだ。


 揺らめくボロ布のローブが裂け、ファウストの腕から翼のようなものが突き出てくる。


「【デスクロー】」


 人間のものとは思えない禍々しい爪が、赤龍を切り裂く。傷口は浅そうだ。ファウストは追撃をすることなく、後方に大きく飛び引いた。


「ぶはぁっ! しんど……っ」


 地上の炎が消え、俺も地上に飛び出る。すぐにふたりが合流する。


「ふたりとも、お疲れ様です。完璧な運び屋でしたよ」

「これだけ体を張ったんだ。何か成果は得られたか?」

「すぐに分かりますよ。とびっきりのやつがね」


 赤龍の体が、大きくよろめいた。無数に生えた牙の端から、ぼたぼたと赤黒い血が流れ出る。


「えっ、見た目の割に威力、高くないか?」

「ありゃ毒だ。それもえげつないやつ。疫病蝙蝠にしては強すぎる」

「ライオネルさんは博識ですね。僕が使ったのは、疫病蝙蝠のユニーク。毒は毒でも、猛毒中の猛毒です」


 ファウストが与えた攻撃は、ちょっとした切り傷だ。【自己再生】がある赤龍なら、瞬時に治る傷。けれど、その傷は塞がるどころか、広がっている。


 真紅の鱗は黒く変色し、剥がれ落ちる。切り口からは黄色く淀んだ液体を滲ませる。極めつけに、周囲の肉が少しずつ腐り落ちていく光景は異常としか言いようがなかった……。
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