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自由編
一流の条件
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怒りのシベリア送り以降、連日の繁盛にも関わらず遅刻者は出ていない。またあれを期待する客も少なくなかったが、一夜の夢とでも思って欲しいものだ。
あれだけ過激なことをしたのは、ちゃんと理由がある。更に店を繁盛させるには増員が必要だ。非認可娼婦の中で光る原石たちを、この店で正式採用するべく準備を進めていた。
そんな中でマリーたちの気が緩んでいた。それでは店を任せられない。先輩として後輩の見本にもならない。だから一度だけ、シベリア送りにしたのだ。ちなみに、もう半分は趣味だった。
「ふたりくらい採用するか。ロックが気になる子は?」
「ひとり追加で。ほっとけねぇ境遇なもんで」
俺は属性で選び、ロックは境遇で選ぶ。俺とロック、ダブル店長体制でやっているうちはいいが、こいつひとりに戻ると、また廃れそうである。それを止められるとしたら、やはりマリーたちだろう。
そういう意味でも教育に力を入れていたのだが……。
「ドゥーエちゃん出勤したよ~!」
手を上げて気さくに挨拶するドゥーエ。今日もおっぱいがデカいぜ。
「はい、おはよう。今日も頑張ってくれ。何か変わったことは?」
「引き抜きされたよ~。でもでも、ちゃんと断ったよ~。ドゥーエちゃんには店長が居るし、契約もあるから~って!」
「アニキの言う通りになりやしたね」
俺が常に危惧していたのは、他店からの引き抜き行為である。当店でくすぶっていた嬢たちは、いずれも磨けば光る素材だった。せっかく育てた人材を引き抜かれまいと、教育の条件として1年間の移籍禁止で双方合意している。
「ドゥーエちゃん残るよ! この店に居るよ! 嬉しい? ねぇ嬉しい~?」
「お前はうちの花形だからな。居なくなられちゃ困るさ」
「今日も1位になるから、またご褒美エッチしてね~!」
シベリア送り以来、ドゥーエが近い。距離が近い。かなり詰め寄ってくる。嬢たちの性感帯開発は今も続けているが、ドゥーエだけは本番を求めてくるようになった。
非効率的という理由で断っていたが、連日の花形により俺が無視できなくなった。今ではドゥーエが花形の日は、ご褒美という名目でスタンダードなプレイをしている。
「あの男嫌いのドゥーエが、変われば変わるもんで。さすがアニキ! お願いですから、アニキの女として引き抜かないでくだせぇ」
「そんな重要な問題を知ってて隠してやがったな。おこ、だぞ」
「いやぁ、俺も半信半疑だったもんで。女好きって噂は聞いてやしたが、経緯が女の同業者のやっかみで追い出されてやすし、何が真実だか。それと、正直に話したら、クビにされちまうかと思ってやして……ははは」
「裏を取るのは大事だ。多めに見てやる。あと、ドゥーエは契約が切れたら引き止めはムリだぞ。分かってるか?」
「もちろんで。それもまた、あいつのためってもんでさ。だからこその新人育成……ですよね?」
「その通りだ。その調子で頼むぞ」
それからしばらくして、マリーがやってきた。場違いに感じるオーラは健在だな。
「ごきげんよう。近頃はわたくしの魅力に気づいた輩が多いけれど、契約は守りますわ。それでは、また」
「おう……何だあいつ、近頃はツンツンしてるな」
「確かに、少し様子が変で。あとでそれとなく話をしてみやす」
人の心に踏み込む行為は、すべてロックに任せている。何だかんだ仲良しだからな。俺の出番がないことを祈るばかりだ。
「ガラナ様のご出勤よ! 聞いてよ店長! 今日、めっちゃ引き抜きされたわ!」
「ほーん、良かったじゃん。契約破るなよ。本物の地獄を見せるぞ」
「あんなのこっちから願い下げよ!!」
「何だどうした? お前の性格なら、飛び跳ねて喜びそうなもんだが」
「SM関係の店だったのよ! しかも全部よ!? この美尻が爆発しちゃうわ!」
「お前は契約が切れても、この店に居たほうがいいな。ロックしか守ってくれないぞ……」
「あたしもそう思った! だからロック副店長に、このアイスあげる! それじゃあね! 今日こそ花形取るわよーっ!」
「食べかけじゃねーか! 新品をよこしやがれ!」
ガラナのメスガキ属性は、お叱りの翌日には復活してるからな。良くも悪くも懲りない。それがまた、メスガキ感を加速させ、物好きから人気がある。あとガラナと同年代の、若いやつからも地味に人気だ。
「そう怒るな。人によっては、新品より価値がある」
「えぇ……物好きもいたもんで……」
「んー、ガラナ限定オプション追加するか。アイス一緒に食べるオプ」
「甘やかしすぎじゃないですかい?」
「アイスって腐らないからな。当たれば儲けもんだ。甘やかすか決めるのは客だし、オプションは自由に攻めていこう」
「アニキがそう言うのなら……もし、あいつにお灸を据えるとしたら、どうすりゃいいんで?」
「その時は、お叱りオプも解禁しろ。スライム浣腸だ。サモンされたやつな。ピュアスライムは危ないから、使ったら殺すぞ。もし客がこっそり持ち込んだら、ボコって裏に捨てとけ」
「がってんで。舎弟にサモナー居るんで、それとなく声をかけておきやす。スライムくらいなら、アニキの力を借りずとも、便所に居るんで」
生意気で可愛くないけどほっとけない。それがまた可愛い。ときに優しく、ときに泣かせたい。それもまた、メスガキの魅力だろう。他店なら腹パンルートだな。
「最後はアーネか。いつもより遅いが……」
「おはざーす。はぁ、もう、疲れた」
「引き抜きは売れっ子になった証拠だ。我慢しろ」
「いやいや、違くて。近頃、客にデートに誘われるんよ。うちって出張しないっしょ?」
「しない。いざというとき、お前らを守れない。あまり酷いなら俺かロックに相談しろ。自由恋愛なら、こっそりやれ。舎弟とも仲良しだし、こっそり守って貰ってもいいが」
「まぁ、今の所は話が通じる男だけだからいいかな」
「優しいのは結構だが、判断を誤るなよ。店としては、お前が花形になるべく頑張ってくれるためなら努力は惜しまない」
「あざっす。何かあったら、そんときはよろしく」
アーネには、熱心な客が付いている。ほとんどが同年代の男だ。行為そっちのけで、恋愛相談や人生相談をされている。男たらしと言うよりは、聞き上手が光っている。もちろん、最後にはヤる。それがプロのプライドだ。
こっそり覗いたときは、客が気になる女の子を落とせるように、デートプランを練っていた。褒められたことではないが、ロックとも相談し、今のスタイルを認めることとなった。
アーネを指名する客は、長時間の会話を望む。割高になっても延長を望む客も多いため、店に貢献していると判断したのだ。もはやセックスが出来るひとりキャバクラだな。最後にはちゃんとヤるアーネのプライドが、延長の秘訣かな。
「アーネは残りやすかねぇ」
「分からん。あの手のタイプは、実は器用だ。力の抜き方を分かっている。地位よりも厄介事を嫌う調和型……逆に言えば、お前が頼み倒せば流されるはずだ。その時は、アーネに副店長をさせるといい」
「押しに弱いのは何となく分かりやしたが、副店長ですかい? 断られそうなもんですが……」
「無駄を嫌うんだよ。面倒だから。それが結果的に、効率を良くするはずだ。俺が抜けて、お前の我が通せるのも最初だけ。長期を見越せば、誰かの意見は必ず必要なんだ。それを言える立場の人間を、ひとり置いておけ」
「うぅ、アニキ……ずっと、この店に居てくだせぇ!」
「やかましい。俺にも都合がある……おい、ロック。ちょっと外の様子を見てこい。客の入りが悪い」
ロックがレンジャーの舎弟たちと店を出る。それを見送って、俺は腕を組んで唸っていた。
俺が新店長になって、もう2ヶ月か。店の知名度は高まり、今では屈指の人気店だ。回転率を重視していても、行列が起こるほど。常連客だって大勢いる。
その行列に目をつけた飲食店が、小さな出店で稼ぐ。ヘイト管理のために、協力体制という名目で持ちつ持たれつやっている。
我ながら、上手くやっている。その蚊帳の外に居る同業者は、面白くないだろうが――。
「アニキ! 大変で! 同業者が、うちのサービスを意識させるのぼり旗を出してやす。手コキ・口技! それも、一斉に!!」
「……来たか。第二ラウンドの始まりだ」
「俺たちが必死に考えたサービスを、盗もうなんざ筋が通らねぇ! 俺、話付けてきやす――」
「このバカ野郎がぁぁぁ!」
「ぐぅっ、はぁぁぁ!? アニキ、何で殴るんで!?」
「これは世界中の男を代表して振り上げた拳だ……性行為は、お前が考えたのか?」
「!!」
「誰かに見聞きしたものだろ。難癖を付けたところで、筋が通らない。お前も店長なら、ドンと構えておけばいいんだよ」
「アニキは優しすぎやす! 何もしなきゃ、つけあがるばかりですぜ!? この商売、舐められちまったらお終いなんでさぁ!」
「お前は大事なことを見落としている。俺たちの店は、誰を相手にやってるんだ? 客商売だろうがっ!!」
「だ、だったら尚更ってもんで! 他店のまがい物のサービスに騙されちまえば、それこそ客のためにならねぇ!!」
「それが分かっているなら、問題ない。本物は残り、偽物は淘汰される」
「それでもっ、我慢ならねぇんでさぁ!! アニキと、嬢たち、舎弟のみんなで磨き上げてきた誇りで! それを汚されたとあっちゃぁ、黙ってられやせん!」
ふむ、言うようになったじゃないか。ロックのそういうところは、嫌いじゃない。しかし、まだまだひよっこだ。同時に、俺も熱くなっていた。少し頭を冷やそう。
「お前は良い店長になろうと、必死で努力している。だが、今は忘れろ。ひとりの男として、考えるんだ」
「ひとりの、男……」
「いいか、ロック。ち○ぽをま○こに突っ込めばセックスだ。初めはそれでいい。だが、慣れていくうちに物足りなくなる。別の何かが欲しくなる。それが性癖ってもんだ……分かるか?」
「うす。分かりやす!」
「世界が主神アルフレイア様に創造されてから何億年。人間が生まれてまた何億年……この途方も無い時間のなかで、人と性行為は、手を取り合いながら進化してきた」
「ご、ごくり……」
「人の数だけ性癖がある。大まかにジャンル分けしようとも、その下には、無数に枝分かれしている……性癖は、未来だ。可能性なんだ」
「べ、勉強になりやす!」
「お前の言う通り、同業者はうちの人気に嫉妬して、サービスをパクったのかもしれん。だが、客にとっては関係がない。むしろ、喜ばしいことだと思う人も多いだろう」
「な、何故なんで!? 劣化サービスを受けるかもしれないんですぜ!?」
「お前の言う通り、まがい物の劣化サービスだろう。だが、大局を見ろ。俺たちがどん底からここまで上がってきたように、彼らもまた、成長する。同時に、俺たちの苦労を知るだろう。そうしてひとつ、良い店が増える」
俺は贅沢だ。客は贅沢だ。最高のサービスを、お求めやすい価格で、いつどこでも受けれる。それが何よりの望みである。
「うちじゃ捌けないから、見逃せってことですかい……?」
「違う。同業者は敵ではなく、ライバルだ。互いに競い合い、高め合う。そうやって、少しずつ洗練されたサービスが生まれる。その一方で、別の道を歩む友が、新たなサービスを思いつく」
「文句を言う暇があるなら、自分を磨けと、そう仰るんで!?」
「少し違うな。うちの店は最高だ……そう言うのは簡単だ。実際に人気店だしな。でも、お山の大将に過ぎない。どうせならもっとデカい夢を持とうぜ」
「デカい夢……?」
「この娼館ゾーンを、国で一番のすけべエリアにしよう。いや、世界屈指のすけべエリアにする……その中で、うちの店は最高だ! そう言えたなら、凄く気持ちがいいと思わんか?」
「アニキ……かっけぇ! かっけぇよぉ!」
男泣きするロック。自分の地位に固執する小さな男は死んだ。今なら、純粋だったあの頃の心を取り戻しているに違いない。
「今なら分かるんじゃないか? パクった店も、今そこに並んでいる客も、あの頃のロックと同じだってことにな」
「……分かりやす。現状を変えたくても、方法が分からねぇ。でも立ち止まれねぇから、もがき続けた……あの頃の俺でさぁ!!」
「分かってくれたか。見逃すのは、勝者の余裕からではない。先駆者だけが知る成功に至る苦悩と、この2ヶ月というアドバンテージがあるからだ! それを活かすも殺すもお前次第だ」
あれだけ過激なことをしたのは、ちゃんと理由がある。更に店を繁盛させるには増員が必要だ。非認可娼婦の中で光る原石たちを、この店で正式採用するべく準備を進めていた。
そんな中でマリーたちの気が緩んでいた。それでは店を任せられない。先輩として後輩の見本にもならない。だから一度だけ、シベリア送りにしたのだ。ちなみに、もう半分は趣味だった。
「ふたりくらい採用するか。ロックが気になる子は?」
「ひとり追加で。ほっとけねぇ境遇なもんで」
俺は属性で選び、ロックは境遇で選ぶ。俺とロック、ダブル店長体制でやっているうちはいいが、こいつひとりに戻ると、また廃れそうである。それを止められるとしたら、やはりマリーたちだろう。
そういう意味でも教育に力を入れていたのだが……。
「ドゥーエちゃん出勤したよ~!」
手を上げて気さくに挨拶するドゥーエ。今日もおっぱいがデカいぜ。
「はい、おはよう。今日も頑張ってくれ。何か変わったことは?」
「引き抜きされたよ~。でもでも、ちゃんと断ったよ~。ドゥーエちゃんには店長が居るし、契約もあるから~って!」
「アニキの言う通りになりやしたね」
俺が常に危惧していたのは、他店からの引き抜き行為である。当店でくすぶっていた嬢たちは、いずれも磨けば光る素材だった。せっかく育てた人材を引き抜かれまいと、教育の条件として1年間の移籍禁止で双方合意している。
「ドゥーエちゃん残るよ! この店に居るよ! 嬉しい? ねぇ嬉しい~?」
「お前はうちの花形だからな。居なくなられちゃ困るさ」
「今日も1位になるから、またご褒美エッチしてね~!」
シベリア送り以来、ドゥーエが近い。距離が近い。かなり詰め寄ってくる。嬢たちの性感帯開発は今も続けているが、ドゥーエだけは本番を求めてくるようになった。
非効率的という理由で断っていたが、連日の花形により俺が無視できなくなった。今ではドゥーエが花形の日は、ご褒美という名目でスタンダードなプレイをしている。
「あの男嫌いのドゥーエが、変われば変わるもんで。さすがアニキ! お願いですから、アニキの女として引き抜かないでくだせぇ」
「そんな重要な問題を知ってて隠してやがったな。おこ、だぞ」
「いやぁ、俺も半信半疑だったもんで。女好きって噂は聞いてやしたが、経緯が女の同業者のやっかみで追い出されてやすし、何が真実だか。それと、正直に話したら、クビにされちまうかと思ってやして……ははは」
「裏を取るのは大事だ。多めに見てやる。あと、ドゥーエは契約が切れたら引き止めはムリだぞ。分かってるか?」
「もちろんで。それもまた、あいつのためってもんでさ。だからこその新人育成……ですよね?」
「その通りだ。その調子で頼むぞ」
それからしばらくして、マリーがやってきた。場違いに感じるオーラは健在だな。
「ごきげんよう。近頃はわたくしの魅力に気づいた輩が多いけれど、契約は守りますわ。それでは、また」
「おう……何だあいつ、近頃はツンツンしてるな」
「確かに、少し様子が変で。あとでそれとなく話をしてみやす」
人の心に踏み込む行為は、すべてロックに任せている。何だかんだ仲良しだからな。俺の出番がないことを祈るばかりだ。
「ガラナ様のご出勤よ! 聞いてよ店長! 今日、めっちゃ引き抜きされたわ!」
「ほーん、良かったじゃん。契約破るなよ。本物の地獄を見せるぞ」
「あんなのこっちから願い下げよ!!」
「何だどうした? お前の性格なら、飛び跳ねて喜びそうなもんだが」
「SM関係の店だったのよ! しかも全部よ!? この美尻が爆発しちゃうわ!」
「お前は契約が切れても、この店に居たほうがいいな。ロックしか守ってくれないぞ……」
「あたしもそう思った! だからロック副店長に、このアイスあげる! それじゃあね! 今日こそ花形取るわよーっ!」
「食べかけじゃねーか! 新品をよこしやがれ!」
ガラナのメスガキ属性は、お叱りの翌日には復活してるからな。良くも悪くも懲りない。それがまた、メスガキ感を加速させ、物好きから人気がある。あとガラナと同年代の、若いやつからも地味に人気だ。
「そう怒るな。人によっては、新品より価値がある」
「えぇ……物好きもいたもんで……」
「んー、ガラナ限定オプション追加するか。アイス一緒に食べるオプ」
「甘やかしすぎじゃないですかい?」
「アイスって腐らないからな。当たれば儲けもんだ。甘やかすか決めるのは客だし、オプションは自由に攻めていこう」
「アニキがそう言うのなら……もし、あいつにお灸を据えるとしたら、どうすりゃいいんで?」
「その時は、お叱りオプも解禁しろ。スライム浣腸だ。サモンされたやつな。ピュアスライムは危ないから、使ったら殺すぞ。もし客がこっそり持ち込んだら、ボコって裏に捨てとけ」
「がってんで。舎弟にサモナー居るんで、それとなく声をかけておきやす。スライムくらいなら、アニキの力を借りずとも、便所に居るんで」
生意気で可愛くないけどほっとけない。それがまた可愛い。ときに優しく、ときに泣かせたい。それもまた、メスガキの魅力だろう。他店なら腹パンルートだな。
「最後はアーネか。いつもより遅いが……」
「おはざーす。はぁ、もう、疲れた」
「引き抜きは売れっ子になった証拠だ。我慢しろ」
「いやいや、違くて。近頃、客にデートに誘われるんよ。うちって出張しないっしょ?」
「しない。いざというとき、お前らを守れない。あまり酷いなら俺かロックに相談しろ。自由恋愛なら、こっそりやれ。舎弟とも仲良しだし、こっそり守って貰ってもいいが」
「まぁ、今の所は話が通じる男だけだからいいかな」
「優しいのは結構だが、判断を誤るなよ。店としては、お前が花形になるべく頑張ってくれるためなら努力は惜しまない」
「あざっす。何かあったら、そんときはよろしく」
アーネには、熱心な客が付いている。ほとんどが同年代の男だ。行為そっちのけで、恋愛相談や人生相談をされている。男たらしと言うよりは、聞き上手が光っている。もちろん、最後にはヤる。それがプロのプライドだ。
こっそり覗いたときは、客が気になる女の子を落とせるように、デートプランを練っていた。褒められたことではないが、ロックとも相談し、今のスタイルを認めることとなった。
アーネを指名する客は、長時間の会話を望む。割高になっても延長を望む客も多いため、店に貢献していると判断したのだ。もはやセックスが出来るひとりキャバクラだな。最後にはちゃんとヤるアーネのプライドが、延長の秘訣かな。
「アーネは残りやすかねぇ」
「分からん。あの手のタイプは、実は器用だ。力の抜き方を分かっている。地位よりも厄介事を嫌う調和型……逆に言えば、お前が頼み倒せば流されるはずだ。その時は、アーネに副店長をさせるといい」
「押しに弱いのは何となく分かりやしたが、副店長ですかい? 断られそうなもんですが……」
「無駄を嫌うんだよ。面倒だから。それが結果的に、効率を良くするはずだ。俺が抜けて、お前の我が通せるのも最初だけ。長期を見越せば、誰かの意見は必ず必要なんだ。それを言える立場の人間を、ひとり置いておけ」
「うぅ、アニキ……ずっと、この店に居てくだせぇ!」
「やかましい。俺にも都合がある……おい、ロック。ちょっと外の様子を見てこい。客の入りが悪い」
ロックがレンジャーの舎弟たちと店を出る。それを見送って、俺は腕を組んで唸っていた。
俺が新店長になって、もう2ヶ月か。店の知名度は高まり、今では屈指の人気店だ。回転率を重視していても、行列が起こるほど。常連客だって大勢いる。
その行列に目をつけた飲食店が、小さな出店で稼ぐ。ヘイト管理のために、協力体制という名目で持ちつ持たれつやっている。
我ながら、上手くやっている。その蚊帳の外に居る同業者は、面白くないだろうが――。
「アニキ! 大変で! 同業者が、うちのサービスを意識させるのぼり旗を出してやす。手コキ・口技! それも、一斉に!!」
「……来たか。第二ラウンドの始まりだ」
「俺たちが必死に考えたサービスを、盗もうなんざ筋が通らねぇ! 俺、話付けてきやす――」
「このバカ野郎がぁぁぁ!」
「ぐぅっ、はぁぁぁ!? アニキ、何で殴るんで!?」
「これは世界中の男を代表して振り上げた拳だ……性行為は、お前が考えたのか?」
「!!」
「誰かに見聞きしたものだろ。難癖を付けたところで、筋が通らない。お前も店長なら、ドンと構えておけばいいんだよ」
「アニキは優しすぎやす! 何もしなきゃ、つけあがるばかりですぜ!? この商売、舐められちまったらお終いなんでさぁ!」
「お前は大事なことを見落としている。俺たちの店は、誰を相手にやってるんだ? 客商売だろうがっ!!」
「だ、だったら尚更ってもんで! 他店のまがい物のサービスに騙されちまえば、それこそ客のためにならねぇ!!」
「それが分かっているなら、問題ない。本物は残り、偽物は淘汰される」
「それでもっ、我慢ならねぇんでさぁ!! アニキと、嬢たち、舎弟のみんなで磨き上げてきた誇りで! それを汚されたとあっちゃぁ、黙ってられやせん!」
ふむ、言うようになったじゃないか。ロックのそういうところは、嫌いじゃない。しかし、まだまだひよっこだ。同時に、俺も熱くなっていた。少し頭を冷やそう。
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「ひとりの、男……」
「いいか、ロック。ち○ぽをま○こに突っ込めばセックスだ。初めはそれでいい。だが、慣れていくうちに物足りなくなる。別の何かが欲しくなる。それが性癖ってもんだ……分かるか?」
「うす。分かりやす!」
「世界が主神アルフレイア様に創造されてから何億年。人間が生まれてまた何億年……この途方も無い時間のなかで、人と性行為は、手を取り合いながら進化してきた」
「ご、ごくり……」
「人の数だけ性癖がある。大まかにジャンル分けしようとも、その下には、無数に枝分かれしている……性癖は、未来だ。可能性なんだ」
「べ、勉強になりやす!」
「お前の言う通り、同業者はうちの人気に嫉妬して、サービスをパクったのかもしれん。だが、客にとっては関係がない。むしろ、喜ばしいことだと思う人も多いだろう」
「な、何故なんで!? 劣化サービスを受けるかもしれないんですぜ!?」
「お前の言う通り、まがい物の劣化サービスだろう。だが、大局を見ろ。俺たちがどん底からここまで上がってきたように、彼らもまた、成長する。同時に、俺たちの苦労を知るだろう。そうしてひとつ、良い店が増える」
俺は贅沢だ。客は贅沢だ。最高のサービスを、お求めやすい価格で、いつどこでも受けれる。それが何よりの望みである。
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「違う。同業者は敵ではなく、ライバルだ。互いに競い合い、高め合う。そうやって、少しずつ洗練されたサービスが生まれる。その一方で、別の道を歩む友が、新たなサービスを思いつく」
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