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第1章 俺もチートキャラになりたいんですけど…
34話 彼女が先に進む理由
しおりを挟む「私は、親に捨てられて、ソレイドの近くにある孤児院で…育ちました。幼い頃から、融通が利かず孤児院に馴染めなかった私に良くしてくれた同い年の女の子、それがアンでした。」
「なるほどな。アンっていうのは友達の名前から引っ張ってきた偽名だったのか。」
「はい。私の本当の名前は、シルビアと言います。貴方を騙してしまい申し訳…ありません。」
「気にするな。シルビアさんの状態なら誰も信用できないだろうしな。」
俺はそう言いながら息切れの激しいシルビアさんを一度壁際に座らせた。
彼女もあきらめてくれたのか大人しく従ってくれた。
「ありがとう、ございます。」
「それで、どうしてシルビアさんは悪魔の祝福を使ってまでゴブリンキングを倒しに行く事になったんだ?」
「やはり、知っていたのですね。」
「まあ、最初に気づいたのは俺と一緒にいた金髪の娘だけどな。」
「そうでしたか。」
シルビアさんはそう言って一度顔を伏せてからもう一度俺の方を向いて話し始めた。
「私とアンは孤児院を出た後、一緒にソレイドでパン屋を営業していました。」
「ん?シルビアさんは冒険者じゃなかったのか?」
「はい。私が冒険者登録をしたのは、…一月ほど前です。その時のレベルは3でした。」
「レベル3の状態でダンジョンに入り始めたのか。大分無茶したんだな。」
一月で第8階層まで到達していたのか。
それで今のレベルが16。
シルビアさんは一人で探索をしているみたいだし、かなりの無茶をしないとそんな短期間でここまで到達できないだろう。
転移魔法が初めから使える俺でもマッピングの事とか考えると無理な気がする。
戦闘面はローズの指導もあるわけだし。
なんて事を俺が考えている間にも、シルビアさんは辛そうな顔をしながら話を続ける。
「そうしなくては、ならない理由があるのです。」
「理由か。」
「3か月程前のことです。私とアンは、いつも通りパン屋の開店準備をしていたのですが、急にアンが倒れ…ました。私が彼女の下に…駆け寄ってみると、アンはかなりの高熱でした。そのため私は急いで治療院にアンを連れて行ったのですが、只の風邪であると診断されました。しかし、一月たってもアンの容態は…悪いままでした。私はアンの為に、少しでも多くの情報を集めたのですが…原因がわかりませんでした。」
いまいち話が見えないな。アンさんの原因不明の病を治すことが目的ならゴブリンキングを倒しに行く理由には繋がらない。シルビアさんは金が必要なわけでも素材が必要な訳でもないと言っていた。それでは、ゴブリンキングを倒しに行く事自体に意味があるみたいな言い方だ。
「私がアンの、看病をしながら病の原因解明の為に奔走していた…ある日の事です。私のもとに、」
シルビアさんの話が急に途切れてしまった。
彼女は言葉を紡ごうとしているが、声にならない。
そんな感じだ。
これがミレイユさんの言っていた呪術による行動の制約か。
しかし、これじゃあ全く何があったか判らないぞ。
てっきり容姿とか名前とかを言えないだけだと思っていたがその人の行動も言えないのか。
これ詰んでね?
とは思うが、とりあえず無難な所から聞いてみるか。
「シルビアさんには多分呪術の制約がかかっている。これから俺が制約にかからなそうな質問をするから答えてくれ。」
「呪術、ですか。わかりました。」
「シルビアさんは今もパン屋で働いてるのか?」
「いえ、冒険者登録をしてから店は開いていません。」
「金には困っているのか?」
「はい。もともとそこまで、蓄えもありませんでしたし装備を整えるのにも結構お金を使いましたから、稼ぎの少ない冒険者としての生活をする今、私とアンの食費を稼ぐだけでも、結構大変です。」
収入源になる店を閉めて金に困りながらも冒険者をする理由ってなんだ?
いや、待てよ。
シルビアさんは一月ほど前に誰かが来たか手紙が来たみたいな話をするところで声を出せなくなった。
そう考えると、何者かに指示されてダンジョンに入っていることになる。
「アンさんには会えているか?」
「はい。今も私と二人で、暮らしている家で…寝ているはずです。」
「そうか。」
アンさんの病を治すための薬か治療法を黒幕がシルビアさんにちらつかせて、シルビアさんはその見返りの為にゴブリンキングを倒す事になったって感じか。
アンさんが倒れた後に人質にされている訳ではないだろうし、この線であってるだろう。
それに加えてシルビアさんは危険なのにも関わらず一人で探索をしていた。
これも黒幕の要求である可能性が高い。
大方こっちには冒険者ギルド職員の協力者がいるから監視はできるとでも言ったのだろう。
ミレイユさんの話では実際に職員の中に麻薬組織と繋がっている人間がいるらしいしな。
しかし、そうなると今度は黒幕の狙いが判らなくなる。
ゴブリンキングの魔石や素材が目的ではないとすると残るは金だが、それならば初めから治療法や薬の見返りに金を求めておけば良いはずだ。
わざわざシルビアさんをもとのパン屋より稼ぎの少ない冒険者にさせる必要がない。
俺は今の考えを整理するために考えていたことを口にした。
「シルビアさんはアンさんの治療法か治療薬をある人物に提示されて、それを手に入れる見返りにゴブリンキングを一人で倒しに行く事を命じられた。誰かに助けを求めようにも相手は冒険者ギルドの中にまで協力者がいると言っていたため、どこに監視の目があるか判らない状態では助けを求められない。俺とパーティーを組めたのも周りに人がいないダンジョンの中だったからだ。流石にダンジョンの中まで監視するのは無理だろうしな。そして、シルビアさんが悪魔の祝福を使ったのは恐らく期限が設定されているからだ。その薬をシルビアさんに売った人がシルビアさんの下に訪ねて来た人と同じ人かは分からないが、シルビアさんが話せない事からも同じ組織の人間で間違いないだろう。」
俺がここまで話した辺りでシルビアさんが驚いた顔をしている事に気が付いた。
どうやら当たっていたらしい。
無意識の行動までは呪術で縛る事はできないようだ。
シルビアさんが何かを言いたげな目で硬直しているが、大方頷こうとでもしたのだろう。
しかし、これではどうすれば解決できるのかわからないな。
仮にシルビアさんが相手の依頼を達成したとしてもアンさんの治療法を相手が素直に教えてくれるかも分らないし、それでアンさんが治る保証もない。
ローズにアンさんの様態を診てもらえばわかるかもしれないが、そうならない可能性も十分にある。
とはいえ、シルビアさんを見た感じ期限が迫っている今は、ゴブリンキングを倒しに行くことしかする事も無いわけで。
「よし、俺がシルビアさんをおぶってこのまま先に進んでゴブリンキングを倒そう。あちらさんの確認方法はゴブリンキングの討伐報告がないタイミングでシルビアさんが第10階層の転移魔法陣を使って出てくることだろうからな。それで問題ないはずだ。」
「いえ、私の事情で貴方を…危険に晒す事はでき、ません。それに、私は戦えます。」
「それは悪魔の祝福を飲んだらの話だろ?気づいてると思うがあれには毒が入っていて飲めば飲むほど体が壊れていくぞ?悪魔の祝福を飲めば一時的には回復するだろうが、それは麻薬の効果で体を誤魔化しているだけだ。」
「それでも、私は、アンのため…に。」
「はいはい。とりあえずこれは没収な。」
俺はそう言ってシルビアさんの荷物から悪魔の祝福が入っている皮袋を取り上げてアイテムボックスに入れた。
既に死人同然の様な顔をしているシルビアさんがこれ以上悪魔の祝福を飲んでいては死にかねない。
「さて、そうと決まればさっさと行くぞ。」
俺はシルビアさんを転移魔法で背中に乗せて歩き始めた。
俺のステータスが上がっているのもあるだろうが、鎧と剣を着ている割には凄い軽く感じる。
「な、何が。」
シルビアさんが急に転移させられて驚いている。
どうせシルビアさんをおぶって進むのだから転移魔法は必ず使う事になる。
今更出し惜しみをしても仕方ないだろう。
「もう抵抗する力も出ないんだろ?大人しく休んでろ。」
「そういう、訳には。」
「ほら、喋ってると舌かむぞ。」
俺は非常食をアイテムボックスから口元に取り出してそれを食べながら走り始めた。
大分腹減って来たしもう昼になったよなぁ。
帰ったらなんて謝るか考えておかねば。
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