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第2章 やっぱり俺の仲間が優秀なんですけど…

16話 小心者

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「さて、今後の方針だがどうしたもんか。」
「そうねぇ、最終目標はソレイドにいる悪魔の叡智を潰す事なんだけれど、どこから手を付ければ良いかわからないわね。」

 現在、食堂にて俺と舞とローズ、それにボタンさんとシルビアさんを含めた計5名で昼食を食べながら話し合いを進めていた。
 現状では悪魔の叡智をバックから支えている貴族を抑えただけで、まだ悪魔の叡智自体には何のダメージを与えられていない。
 シルビアさんは悪魔の叡智に追われている身だし、アンさん救出作戦であちら側に負傷者が出ている事も既に気づかれているはずだ。
 早急な事態の解決を図る必要があるだろう。

「それなんやけど、まずはこの前話した自警団の警邏隊長か冒険者ギルドの副ギルドマスターからボスの位置を直接聞き出すんが早いと思うんよ。」
「そうじゃな。組織を潰す一番楽な方法は長を討ち取ることじゃが、現状ではその長の居場所すら掴めておらん。悪魔の叡智の中でも地位が高いであろう其奴らからなら、何か新しい情報を入手できるかもしれんの。」
「しかし、どの様にしてその二人に接触しましょうか。どちらもそう簡単に話をさせてもらえる相手ではないと思いますが。」

 確かにシルビアさんの言う様に相手は悪魔の叡智の幹部の様な立場の人間である為、そう安安と拉致られてくれる様な容易い相手ではない気がする。
 副ギルドマスターの方は俺の転移魔法で一緒に跳んで連れてくれば良いだろうからまだしも、どう考えても俺より強い警邏隊長を拉致ってくるのは中々に骨が折れそうだ。

「警邏隊長の方はうちに任せてくれれば問題あらへんよ。この前自警団長はんに話を通しておいたから、もう動き始めてるはずやしなぁ。」
「おお、それならそっちは大丈夫そうだな。となると問題は副ギルドマスターの方か。」
「そうね。冒険者ギルドには悪魔の叡智に入っている冒険者や職員がそれなりにいるみたいだし、勤務時間後も護衛をつけているでしょうから隙がなさそうよね。」
「まあ、妾と舞で強襲をかければ何とかなるじゃろうが、それでは悪魔の叡智に関わっておる者共を縛りあげられんしの。」

 確かに悪魔の叡智を潰すだけならトップを取ればいいのだが、それでは残党がそのまま残ってしまう。
 相手には呪術を使う奴もいるしもう悪さしないように、できるなら全員をお縄にかけたいところだ。
 それなら、

「なあ、被害がどのくらい出るか分かんなくて全員は捕まえられないだろうけど、副ギルドマスターと悪魔の叡智に関わってる奴らを一気にぶん殴れて、最高にスカッとする策があるんだが聞くか?」
「あら、それは面白そうね。是非とも教えて頂戴。」

 舞がそう言ってニヤリと笑った。
 この作戦が上手くいくかはあのおっさんが本気を出してくれるかにかかってるんだが大丈夫だろうか。
 そんな事を考えつつも俺はたった今思い付いた最高にくだらない作戦を説明した。



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 ランチミーティング終了後、俺は一人で冒険者ギルドへとテクテク向かっていた。

「あー今日もいい天気だなぁ。こんなに晴れ続きで水不足になんないのかね。」
「ああ。ソレイドは地下水が豊富にあるしいざとなれば冒険者に水魔法を使わせればいいから問題ねぇんだ。」

 俺の独り言に反応する声がしたので振り返ってみると、悪魔の叡智に所属しているダビルがそこにいた。

「ちっ。お前か。」
「何だ?ルーキー。俺がこうしてわざわざ会いに来てやったのに不服なのか?」
「ああ。おっさんに話しかけられて喜べる様な感性は俺にはないんでな。」
「けっ。相変わらず可愛くねえ野郎だ。」
「お前に可愛がられるなんざ反吐がでる。話がねえなら失せろ。」

 俺はそう言って再度冒険者ギルドへ歩き始めた。

「まぁ待て。お前に頼んだ件忘れてねえだろうな?ここんとこ引き篭もりっぱなしだったんだ。しっかりと働けよ?」
「ああ。今日はダンジョンを探してみるつもりだ。どうせお前らが町中を調べてんだろうから、空きはダンジョンしかねえだろうしな。」
「ほう。いい心がけじゃねぇか。」
「そりゃどうも。今度こそもういいな。お前見てると何か禿げそうで嫌なんだよ。」
「んだとゴラァ!」

 あ、やべ、おちょくり過ぎた。
 生え際が後退しているダビルに禿げは禁句だったか。
 ダビルが俺の襟元を掴んで今にも殴りそうな顔をしている。
 ビビるな。ゴブリンキングのパンチに比べたら大したことない筈だ。
 ここはクールにいこう。

「おい、こんな街中で騒ぎを起こすのか?お互い目立ちたくねぇだろ?」
「クソッ。次調子こいた真似してみろ。お前のお仲間を全員残らず犯し殺してやるからな。」

 ダビルがドスの効いた声で俺に顔を近づけてそう言うと襟元を話してくれた。

「それじゃあな。」
「おい、まだ話は終わってねぇぞ。」
「はぁ、何だよ。」
「お前星の宿り木の娼婦をしらねぇか?」
「は?」

 え、マジで何の話だ?
 何でこいつは娼婦がどうとか脈絡のない話を始めたんだよ。
 それに星の宿り木って何だよ。
 娼館の名前かなんかか?

「チッ。その様子じゃ何も知らねぇみてぇだな。さっさと失せろ。」

 えー、そっちから話しかけてきたんじゃんと思ったが俺は大人しくその場を去ることにした。
 はぁ、すげぇ緊張した。
 一人でいるし来るだろうなとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思わなかった。
 多分今もどっかから見張られてるんだろうな。


 そんな感じで悪魔の叡智に微妙に怯えながらも、俺はその後おっさんに絡まれることもなく、無事に冒険者ギルドにたどり着いた。
 俺が受付の方に歩いて行くとミレイユさんが俺に気がついて話しかけてくれた。
 今日もステキなウサミミだ。

「お久しぶりぶりですフーマさん。もう怪我は大丈夫ですか?」
「久しぶりって言っても三日ぶりぐらいじゃないか?怪我の方はもう大丈夫だ。ありがとな。」
「それは良かったです。それで、本日はどうなさいましたか?」
「ああ。ちょっとミレイユさんとギルマスのおっさんに大事な話があってな。ここじゃ何だしちょっと良いか?」

 どうせだし俺はこの前ぶん殴った男性職員を笑顔で見つめながらそう言った。



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 そして、たしか3回目になる談話室で、俺とミレイユさんとギルドマスターのおっさんはソファーに揃って腰掛けていた。
 以前ミレイユさんに聞いた話だが、この部屋の防音はしっかりとされているらしい。
 秘密のお話には最適だな。

「お時間を取らせてすみません。」
「いや、俺の仕事は冒険者のサポートだからな。若いもんがそんな事気にすんな!」

 ギルドマスターのおっさんがいつものいかつい顔でガッハッハと豪快に笑った。
 最近になってようやく分かってきたが、この人は結構優しい人らしい。
 見た目は完全に悪人なのに、人は見かけによらないな。

「それじゃあ単刀直入に言います。悪魔の祝福を売り捌いている組織である、悪魔の叡智の主要メンバーの一人が冒険者ギルドの副ギルドマスターである事が発覚しました。彼を捕まえる協力をして下さい。」

 俺がそう話を切り出すとギルドマスターのおっさんは笑うのをピタリとやめて、俺の事をじっと見つめてきた。
 おっさんが低い声で俺に声をかける。

「おい、どうしてお前は俺が掴んでない様な情報まで知っている。」

 俺はここ数日あった事をボタンさんやアンさんの個人名を伏せて全て話した。
 シルビアさんと出会った所から今日に至るまでの全てだ。

「そうか。お前達には随分と苦労をかけたんだな。」
「俺の話を信じるんですか?」
「ああ。お前が嘘をつく意味がねぇし、俺が高く買っているミレイユのお気に入りがお前なんだ。俺はどうやら人を見る目がねぇようだが、俺はお前が信用に足る人物だと思う。それにこんな物を見せられちゃあな。」

 ギルドマスターさんは俺がボタンさんから預かって来たレイズニウム公爵さん直筆の公文書を手にとってそう言った。
 彼は苦い顔をしながら自嘲するかの様に薄い笑みを浮かべながらがっくりとうなだれている。
 悪魔の叡智のメンバーに自分の信頼する部下がいる事は知っていたらしいが、ここまでの人数が所属しているとは思っていなかったのだろう。

 ギルドマスターさんからしたら今回の件はかなり堪えるはずだ。
 何せかなりの人数のギルド職員と冒険者が、彼の人の良さにつけ込むかのように裏切っていたのだ。
 信頼を裏切られて辛くない人間なんていないし、彼の様な心優しき人物なら尚更だ。
 俺がそう考えていると黙って話を聞いていたミレイユさんが口を開いた。

「それで、フーマさんはどうするのですか?」
「ああ。今から冒険者ギルドのど真ん中で悪魔の叡智の話を大声で話して、絡んでくる奴と逃げようとする奴を全員ぶん殴る。」
「しょ、正気ですか?今の時間帯でも敵は30人以上はいるんですよ?」
「ああ。俺一人でやるわけじゃなくてこれからマイムとシルビアさんを連れてくるつもりだから何とかなるだろ。それに、自分でも愚策もいいとこなのは分かってるんだが、あいつらをギャフンと言わせるには一番だと思ってな。」

 これが俺の考えた作戦『冒険者ギルドに閉じ込めて片っ端からボコっちゃえば良いじゃないの大作戦』だ。
 この時間帯なら冒険者はともかく職員は、ダンジョンの方で働いている以外の殆どが揃っている為、悪魔の叡智のメンバーの多くを洗い出せると見込んでの策である。
 総指揮官のローズからすると確実性に欠けるし、リスクも高いからオススメは出来ないが爽快感は一押しじゃろうなという評価をいただいた。
 何よりもシルビアさんがこの作戦に乗り気であったのが、俺達がこうしてこの作戦を決行しようと思った理由である。
 これまで悪魔の叡智に酷い目にあわされて来たんだから存分に復讐したいだろうしな。
 ていうか、俺もぶん殴りたい。

「そ、それはそうですが。冒険者ギルドには悪魔の叡智に関係していない人達も大勢いるんですよ?」
「ああ。だからそこは冒険者ギルドマスターであるガンビルドさんに協力してもらいたいんです。」
「俺か?」

 ギルドマスターのガンビルドさんがうなだれていた顔を上げて俺の方を向いた。
 わがままな話だとは思うが、俺はガンビルドさんに協力して貰いたいのだ。
 ローズ曰く彼は結構な実力者らしいし。

「はい。ガンビルドさんなら無関係な冒険者や職員を守れるはずです。」
「だが、俺は冒険者ギルドの面子ばかりを考えて冒険者自身の事を考えてやれていなかった。そんな俺に今さら出来る事なんて、」
「そんな事ありません!ギルマスはいつも私達職員や冒険者の皆さんの事を一番に考えてくれていました。ソレイドで働く冒険者や職員のために大きく動けなかったのであって、ギルマスは面子なんかにこだわる小さい人じゃありません!」

 落ち込みっぱなしのガンビルドさんを見兼ねたからか、ミレイユさんが立ち上がって力強くそう言った。
 ぽっと出の俺なんかよりも長く一緒に働いてきたミレイユさんの方がガンビルドさんの事をよく分かっているのだろう。

「しかし、」
「勝手なお願いなのは重々承知しています。でも、俺の仲間の為にも、悪魔の祝福の被害にあっている新人冒険者の為にもてっとり早くなんとか出来るのがこの作戦だと思うんです。」
「わ、私でも守れるのだろうか?」

 ガンビルドさんがそう言いながら俺の顔を見上げた。
 どうやら本来の彼はかなりの小心者で、皆が頼りやすい様にと豪快で漢気のあるキャラを演じていた様である。
 この人もいろいろな苦悩と共に生きて来たのだろう。
 だからこそこんなに優しくてカッコいい人には、こんなちっさい事でいつまでも落ち込んでなんかいて欲しくない。

「俺みたいな弱っちい奴にはギルドマスターの重圧なんて分かんないですけど、俺が初めてここに来た時に話しかけてくれたガンビルドさんなら出来ると思いますよ。そんなにイカツイ顔してるのに、数回話しただけで優しい人だとわかるくらいに良い人なんですから。」
「私もギルマスなら出来ると信じています。何せギルマスは私達の最高のギルマスなんですから!」

 バシン!!

 そのミレイユさんの言葉を聞いたガンビルドさんは自分の顔を両手で思いっきり叩くとソファーからガバッと立ち上がって豪快に笑った。

「ガッハッハッ!!!俺は冒険者ギルドマスターのガンビルドだ!!悪魔の叡智だか何だか知らんが、俺の可愛い職員や冒険者にはもうこれ以上手出しはさせねぇ!!行くぞフーマ!!思いっきりやってやれ!!」
「やっぱ、あんたは最高のギルマスだよ。」
「はい!やっぱりギルマスは私の一番尊敬するギルドマスターです!!」

 俺は立ち上がる男を見て、俺自身も覚悟を決めなくちゃなと思った。
 こんなにカッコいい男が目の前にいるのに、俺だけ手を抜く訳にはいかないからな。

 さて、さっさと舞とシルビアさんを呼んできてこんなくだらない仕事は手早く済ませてやろう。
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