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第3章 たまには勇者っぽいことしたいんですけど…

5話 騎士団と言う名の傭兵団の名コンビ

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「それじゃあ改めて。俺がファルゴでこっちのが、」
「ジャミーだ。怪我を治してもらった上に、馬車にまで乗せてくれてありがとな。」
「いえいえ。元はとえいえば、うちのマイムが悪いんですし気にしないで下さい。」
「ごめんなさい。」

 先程から舞は「私はど阿呆です。気をつけて下さい。」と共通語で書かれた看板を下げて荷台の隅の方で正座をしている。
 さっきまでこっぴどくローズに怒られていたし、結構堪えたんだろうな。

 因みに先ほどから俺達の馬車に乗っているのは20代半ばぐらいの男性のファルゴさんとジャミーさんだ。
 ファルゴさんは短く切り揃えた赤髪が特徴的で、少しチャラい印象を受けるが話してみると結構誠実な人だという印象を受ける。
 もう一方のジャミーさんはこげ茶の肩まであるロン毛の人で、足を怪我していた人だ。
 こっちの人はファルゴさんとは対照的に結構クールな感じ。

 先程事情を聞いたところによると、二人はある魔物の討伐依頼を受けてその魔物を倒したはいいがジャミーさんが足を怪我してしまい近くの村まで帰るのに苦労していたらしい。
 そこへ俺達が馬車でやって来るのが見えたため同乗を頼みに来たとかなんとか。
 まぁ、結果は舞に襲われて正座する羽目になったんだけどな。

「そういえば、お二人はどこかの騎士団の方なんですか?」
「いや、俺達はセイレール騎士団っていう傭兵団の傭兵だ。」
「騎士団なのに傭兵なのかの?」

 引き続き御者をするローズが前を向いたままそう尋ねた。
 さっきまで俺が手綱を握っていたが、俺は賢いファイアー帝王に任せっきりの運転しか出来ないので、二人を乗せてからはまたローズに変わってもらった。
 旅の間にしっかりと馬車を運転出来る様にローズに教えてもらいたいと思う。

「ああ。うちの団長が騎士団に憧れて始めた傭兵団だからな。セイレールって言うのもこの先の村の名前からとったもんだし、騎士団なんて大層な名前がついちゃいるがわりかし小さい傭兵団なんだよ。」
「へぇ、同じ格好してるからてっきり本当に騎士団の人なのかと思いました。」

 ファルゴさんとジャミーさんは二人とも白を基調として青いラインが二本入った軽そうな金属製の部分鎧を着ている。
 騎士団にしては微妙に軽装な気がするが、それでも結構カッコいい部分鎧だし言われなければ血生臭そうな傭兵には見えない。

「ああ、そういう事か。これは俺達の幼馴染が作ってくれた鎧なんだ。ちんちくりんの口うるせぇ奴なんだが、鍛治の腕だけは確かなんだ。」
「あら、口振り的に女性の方なのかしら?」

 どうしてそう思ったのかはわからないが、今まで黙っていた舞が顔を上げてそう質問した。

「ああ。よく分かったな。セイレールの金物店の一人娘で、今は俺達の傭兵団の顧問鍛治職人をしているやつだ。」
「ふふん!やっぱりそうなのね。因みに貴方達は昔はやんちゃしてたんじゃないかしら?」
「いや、別にそんな事はないが、」
「ああいいのよ。皆まで言わないでちょうだい。不良の幼馴染の男の子二人を何だかんだ言いながら様子をみる女の子。よくある話だわ。」

 舞が腕を組んで頷きながらそう言った。
 ファルゴさんとジャミーさんがポカンとした顔で舞のことを見つめている。

「いや、だから俺達は二人とも農家の息子で別にやんちゃしてたことは、」
「ああ、マイムはいつもああなんで気にしないでください。それよりも、ファルゴさんは片手剣を使うんですか?」
「お、フーマも片手剣使いみたいだし、やっぱり気になんのか?」
「はい。俺は剣を持ち始めてまだ3週間くらいなんで、少しでも話を聞いておきたくて。」
「おぉ、そういう事なら任せとけ!なんせ俺は片手剣を使う様になってもうすぐ10年になるし、剣術のLVも6だからな。そこらの奴よりは面白い話が出来ると思うぞ!」
「へぇ、それは楽しみです。」
「おいおい。あまり調子にのるなよ。俺達は団長に比べたら大したことないし、ブルーパンサーに苦戦するようなレベルなんだぞ。」

 ジャミーさんが自信満々に話をしようとしていたファルゴさんをたしなめる様にそう言った。
 ジャミーさんはクールな感じでこれぞ冷静沈着って感じな人だし、性格の正反対なファルゴさんとはデコボコしつつも良いコンビの様に見える。

「バカっ!こういうのはその場の雰囲気が大事なんだよ!フーマだって俺の武勇伝聞きたがってんだからお前は静かにしてろよ!」
「はぁ。うちの馬鹿が悪いな。」
「いえ。俺がファルゴさんの話を聞きたいって言ったんですし、そのブルーパンサーっていう魔物のことも気になるんで気にしないでください。」
「フーマは話がわかる奴だな!それじゃあ先ずは俺達の元に今回の依頼が来たところから話すか。」

 そうしてファルゴさんによってブルーパンサー討伐依頼の冒険譚が語られた。
 冒険譚とは言っても、昨日の晩にセイレール村を出て俺達が途中で通る予定の、グラズス山脈から逸はぐれて来たブルーパンサー一匹を倒すだけの話だったのだが、ファルゴさんは話し上手だし臨場感一杯に話してくれるもんだから結構面白かった。

「という訳で、俺達はジャミーの足一本を引き換えにブルーパンサーを倒したって訳だ。」
「へぇ、凄い面白かったです。」
「まぁ、俺の足は別にブルーパンサーに喰われたって訳じゃないんだけどな。」
「またジャミーはそう言う事言う!フーマが面白かったって言ってるんだし良いだろ!こういうのは脚色って言うんだ。キャクショク!」

 ファルゴさんがジャミーさんを羽交い締めにしながら頭をペシペシ叩く。
 本当にこの二人は仲が良いな。
 俺がそんな事を思っていると、黙って話を聞いていたローズが俺達の方を振り返って口を開いた。

「しかし、ブルーパンサーがグラズス山脈から逃げて来たというのは間違いないのかの?ここからは10日以上馬車で行った先だったと思うのじゃが。」
「ああ。村に来た行商人の話だとグラズス山脈から次々に魔物が出て来てるって話だから、今回のブルーパンサーも同じ件だと思うぞ。まぁ、俺達傭兵からすると仕事が増えて嬉しい限りだけどな。」
「おい、不謹慎だぞ。」
「そうは言うけど、団長だって稼ぎ時だって言ってたじゃねぇか。」
「それはそうだが。」

 ジャミーさんはそう口にすると、それ以上反論する事なく引き下がった。

 しかし、これから俺達が向かうグラズス山脈から魔物がどんどん出て来てるのか。
 世界樹ユグドラシルはグラズス山脈の洞窟を抜けて10日ほど行ったところにあるらしいし、もしかすると何か関係があるのかもしれない。
 話を聞いたローズも何やら考え事をしているし、この事は頭の片隅にでも置いておいた方がいいかもしれない。

 俺がそんな事を考えていると、ジャミーさんを解放したファルゴさんがそういえばと言った感じで俺に質問をしてきた。

「フーマ達に会った時から気になってたんだが、フーマとマイムは恋人同士なのか?」
「な、ななな、何を言ってるのかしら!?」

 今の今までファルゴさんとジャミーさんと幼馴染さんの妄想ラブストーリーを一人で語っていた舞がばっと立ち上がって顔を赤くしながらそう声を上げた。

「ん?違うのか?てっきり二人とも珍しい黒髪だし、気の置けない仲みたいだったからそういう関係だと思ったんだが。」

 ファルゴさんが俺の方を見ながら、軽く首を傾げつつそう質問する。
 俺が何と返せばいいのか分からずに、舞の方を向いてみると同じくこちらを向いていた舞と目があった。

「え、えーと。私達はどういう関係なのかしらね。」
「さ、さぁ。そういえば、この前ソウルメイトとか言ってなかったか?」
「ああ、そう言えばそうだったわね!そういう事よファルゴさん!私とフーマくんはソウルメイト。心の深いところで繋がっているパートナーなのよ!」

 舞が気恥ずかしさを誤魔化す様に、堂々と胸を張りながらそう言った。
 俺もなんだか恥ずかしくなってついつい舞から目を逸らしてしまう。
 そうして舞から目をそらした先で、ファルゴさんがニヤニヤとした目で俺達を見ている事に気がついた。
 あ、デジャヴ。
 これソレイドを出発する日にもあったやつだわ。

「かぁぁっ!甘酢っぺぇぇ!聞いたかジャミー。こいつらソウルメイトだってよ。ああ、俺にもこんな時期があったんだなぁ。」
「失礼だぞファルゴ。すまないな。うちの馬鹿はいつもこうなんだ。後でこいつの恥ずかしい話を教えてやるから、それで勘弁してくれ。」
「ああ、はい。別に全然気にしてませんから。」
「フーマくんもこう言ってるし、私も許してあげるわ。」

 舞が忙しなく耳に髪をかけながら顔を顔を真っ赤にしつつそう言う。
 お嬢様の舞は今までからかわれた事など殆ど無かっただろうし、こういうのは結構効くのだろう。

 俺がそんな事を思いながら恥ずかしがる舞を見て、何とか自分自身の気恥ずかしさを抑えていると、ジャミーさんに解放されたファルゴさんが少し慌てた様子で口を開いた。

「おい!俺の恥ずかしい話ってなんだよ!」
「団長に告白しに行ったら顔面をぶん殴られた話だ。」
「おいっ!それはもう言わないって約束だろ!」
「ええっ!団長って女性の方なんですか!?」
「ああ結構な美人だぞ。それに、今はこいつの嫁だ。」
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
「なんだよ。悪いかよ。」

 鼻の頭をかきながら照れ臭そうにそう言うファルゴさん。
 てっきりセイレール騎士団なんて名前の傭兵団を創るくらいだから、筋骨隆々の脳筋が団長だと思っていたがそうではなかったらしい。

 ていうか、ファルゴさんだって結構甘酸っぱそうな恋をしてるじゃないですか。
 俺はそんな事を思いながら舞と一緒にニヤニヤした目でファルゴさんを見つめ返してやった。
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