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第3章 たまには勇者っぽいことしたいんですけど…

7話 詰所っぽくない

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 風呂を貸してもらう約束をしてから数時間後。
 黙々とファイアー帝王の御者をしていたローズが前方に村を見つけて、ふと声を上げた。

「お、あれがセイレール村じゃな。」
「おお!村って言うから小さいとこなのかと思ってたけど、結構大きい村なんだな。」
「ここはソレイドに一番近いとこにあるし、ここらの村では一番大きいとこなんだぞ。」

 ローズの横から顔を出してセイレール村を見た俺の感想に、ジャミーさんが補足説明をしてくれた。
 ソレイドはダンジョンで手に入る魔物の素材や武器商などで盛り上がった街だから、周りの村と交易をしなくては人々の生活が回らない。
 そんなソレイドとの交易で栄えたのがセイレール村なのだそうだ。

 セイレール村の周りにはソレイドよりも幾分か低いがしっかりとした石の壁があり、壁の外には大規模な畑が広がっている。
 おそらくあの野菜や小麦などをソレイドに売って日々の糧にしているのだろう。
 そういえばファルゴさんもジャミーさんも農家の息子だって言ってたし、農業が盛んな村ということで間違いなさそうな気がする。

 そんな感じでジャミーさんの説明を聞きながら自分なりに考察をしていると、俺の横で幌から顔を出してセイレール村を見ていた舞が俺の方を満面の笑みで見つめながら声をかけてきた。

「もう直ぐ新しい村につくのね。あそこではどんな人達がどんな暮らしをしているのか楽しみだわ!」
「そうだな。俺も少し商店とか市場を周ってみたいし、風呂を借りた後で少しブラついてみようぜ。」
「ええ!是非ともそうしましょう!ね、ミレンちゃんもそれでいいかしら?」
「ふむ。宿も探さんといかんし、それで良いじゃろう。」

 異世界宿か、きっと狭くてボロくてベッドが固くて隙間風が酷いんだろうな。
 すげぇ楽しみだ。
 異世界に来てからは日本にいた頃よりも上等な家でセレブな暮らしをしていたから、そんな普通の異世界生活に少し憧れがあるのである。

「別に宿に止まんなくても、うちの詰所に泊まっていっていいぞ。空き部屋もそこそこあるしな。」
「いえ、結構よ!今日の私は安宿に泊まりたい気分なの!」
「それはどういう気分じゃ。」
「悪いミレン。俺もボロい宿に泊まってみたい。」
「お主もか。」

 そんな感じでローズに呆れられながらも、なんとか説得できた俺達は「今回だけじゃぞ。」とお許しをもらう事ができた。
 今度ローズには何か別の形でお礼をすることにしよう。

 てなやりとりをローズと俺と舞の三人でしている間も、ファイアー帝王は馬車をぱっからぱっからと引っ張り、気づいた頃にはセイレール村が目前に迫っていた。

「よし、それじゃあ俺達で先に行って街に入る手続きをしといてやるから、フーマ達は後から追いついて来てくれ。」
「ああ、わざわざすみません。」
「気にすんな。ここまで乗せてくれた礼の一環だと思えばいい。」
「それじゃあまた後でな。」
「はい、また。」

 ファルゴさんとジャミ―さんは俺達が頷くのを確認すると、馬車から飛び降りて二人で村の方へ走って行った。
 ほへぇ、めちゃんこ足速いな。
 見た感じ舞といい勝負をしそうなぐらいには足が早そうな気がする。

 俺はぐんぐん離れて行くファルゴさんの赤い頭を見て、そういえばローズに聞きたい事があったのを思い出した。

「なぁローズ。この世界で赤髪って珍しいのか?」
「ああ。今朝早くにお主らが話しておった事か。」
「そうだけど、聞いてたんだな。」
「まぁ、流石に外で寝るときは周囲に警戒をしておかんといかんからの。」

 ローズが別に普通のことじゃろとでも言いそうな顔でそう言った。
 そんなローズに御車席の端っこに座っていた爆睡女王の舞が俺達の方を向いて疑問を投げかける。

「今朝の話ってなんの事かしら?」
「ああ。どうやらファルゴさんの話的には赤髪の人は魔法が使えない人が多いらしい。」
「あら、そうなのね。突然変異とか染色体異常の一種かしら。」
「染色体が妾には何かわからんが、その解釈で問題ないと思うぞ。この世界での赤髪は特殊な意味を持つものじゃしの。」
「特殊な意味って?」
「うむ。これは人族にも魔族にもあることなのじゃが、まったく異なる髪の色をした両親から極稀に赤い髪の子供が生まれる事があるのじゃ。その子供は異常なまでに高い身体能力を有しておるが、その代わりに魔力がほとんどなく魔法は一切使えぬ。人族には赤い狂人と呼ばれて忌み嫌われておるの。」
「ふーん。嫌な話ね。それで、ファルゴさんもその赤い狂人…は嫌だから、赤い脳筋の一人なのかしら?」

 えぇ、狂人は駄目で脳筋はいいのかよ。
 舞の判断基準が今一わからん。

「流石に脳筋はないじゃろう。じゃが、あの小僧はどうやら違うようじゃな。赤い…髪のやつらは本来もっと明るい色の髪をしておるし、あやつは魔法が使える。おそらく自分で赤く染めたんじゃろう。」
「へぇ、赤い髪だと赤い狂人と勘違いされるだろうに。なんで態々赤くしてんだろうな。」
「さぁ、それは本人にしか分らんじゃろうな。」
「きっと溢れる中二心が抑えられなかったのよ。ファルゴさんにはダークヒーローに憧れがあるのね。私も最近まではダークヒーローに憧れていたし、ファルゴさんの気持ちがよくわかるわ。」

 そう言って腕を組みながらうんうん頷く舞。
 いや、確証はないけどそれは違うんじゃないか。
 今日も舞さんは相変わらず絶好調である。

 そんな舞を横目に俺とローズで他愛無い話をしていると、セイレール村の門の前で待っていてくれたファルゴさんとジャミ―さんが声をかけてきた。

「おーい。こっちだこっち。手続きは終わってるからそのまま入って来てくれ。俺達の詰め所まで案内する!」

 腕をブンブン振りながらそう俺達に呼びかけるファルゴさん。
 俺達はファルゴさんの言う通りに門を通って、セイレール村へと入った。

「おお、ここがセイレール村か。ソレイドと違って道も一部しか舗装されてないし、これぞ村って感じだな。」
「そうね。ソレイドは冒険者の人が多かったから、こうして普通の村人が沢山歩いているのを見るのはなんだか新鮮な気分だわ。」
「ふむ。治安も良さそうじゃし、なかなか良い村みたいじゃな。」

 そんな感じで俺達がそれぞれの感想を言い合っていると、ファルゴさんとジャミーさんが御者席の近くへ寄って来て俺達に軽くセイレール村の説明をしてくれた。

「俺達の詰所はこっから三つ目の角を曲がったとこにあるんだ。で、あっちの煙が出てるところが昨日言ってた幼馴染んところ金物屋だな。」

 ファルゴさんが指を指す方を見てみると、結構近くに煙突から煙が上がっている建物があった。
 村に入ってすぐの所にあるんだな。

「そこは武器とかも置いてるのかしら?」
「ああ。確か隅の方に剣が数本立てかけてあったはずだ。ただ、あそこは鍋とかナイフとか村人が使うものがメインだから、そういうのは少ないと思うぞ。」

 舞の質問にジャミーさんがこちらを振り向きながらそう答える。
 そっか、それじゃあ俺の鎧はここでは新調出来なさそうだな。
 ローズが危険度の高い戦闘になりそうだったら、またレッドドラゴンの鎧を貸してくれるって言っているが、そろそろブラックオークに変わる自分の鎧を新調したいと思ってたから少し残念だ。

 そんな事を考えながら奥の方に見える金物屋を眺めていると、馬車がゆっくりと右折し割と早くファルゴさん達のセイレール騎士団の詰め所についた。
 まぁ、いくらセイレール村が大きいとは言ってもそこまでじゃないし、こんなもんだろう。

「なんか、傭兵団の詰め所っていうからもっと大きくてむさ苦しい所を予想していたけれど、普通の建物ね。庭にお花も飾ってあるし。」

 いつの間にか馬車から降りて隣を歩いていた舞が詰め所を見ながらそう感想を漏らした。
 俺も詰め所というからもっと物々しい雰囲気の建物を予想したが、小さい庭付きの2階建ての普通の一軒家で少し意外である。

「まぁ、うちは傭兵団とは言っても団長を含めて4人しかメンバーがいないし、ここに住んでるのは俺と団長とあともう一人だからな。普通の家に見えんのも無理ないだろ。」

 ファルゴさんが詰め所の鍵を取り出して、ドアの鍵を開けながらそう言った。

「ジャミーさんはここに住んでないんですか?」
「ああ。俺の実家はすぐそこだし、新婚の夫婦が住んでるところに住むのは気まずいからな。」
「ああ、なるほど。それじゃあそのもう一人のメンバーって誰なんですか?幼馴染の人ではないんですよね?」
「ああ。最後の一人は団長の追っかけのうるさい女だ。いつも団長の周りをうろちょろしていてファルゴともよく喧嘩してるから、見ればわかると思うぞ。」

 ジャミ―さんが心労を吐露するかの様にそう言った。
 ああ、真面目そうなジャミ―さんがこういう顔をするって事は相当厄介な人なのか。
 できれば会いたくない。

 そんなセイレール騎士団の団員の事情を聞いた後、馬車の荷物を一度詰め所の敷地内に置かせてもらって、ファイアー帝王を近くの木に繋がせてもらった俺達は、木の椅子と大きなテーブルが置かれた会議室の様な部屋に案内された。
 因みにファルゴさんとジャミ―さんは一度鎧を置いてくると言って別の部屋に向かっている。

 そんな待ち時間でローズの髪をいじって遊んでいる舞を横目に、やっぱり普通の家だなぁとか思いながらキョロキョロしていると、鎧を脱いだファルゴさんがひょっこりと部屋の入り口から顔をのぞかせた。

「まだ団長は帰ってないみたいだからフーマ達が先に風呂に入っていいぞ。」
「本当にまだ帰ってないんですよね。」
「ああ。家の鍵も開いてなかったし、…気配もしないから間違いないぞ。」

 目を瞑って家の中の気配を確認したファルゴさんがそう言った。
 一応ローズの方をちらりと見ても頷いてるし、どうやら本当にいないようだ。
 よし、ここまで確認しておけば人妻混浴ルートは回避できるだろう。

「それじゃあお借りします。団長さんが帰ってきたら俺達が風呂をお借りしてるってしっかり言ってくださいね。」
「わかったわかった。あ、そうだ。風呂は突き当りを左だから自由に使ってくれ。」

 ファルゴさんは手をひらひらと振りながらそう言うと、また別の部屋へと戻って行った。
 ファルゴさんの姿が完全に見えなくなったのを確認して舞が俺に声をかけてくる。

「いよいよお風呂ねフーマくん。今日こそは一緒に入りましょうね。」
「え、嫌なんだけど。」
「あら、フーマくんは私にいくつ借りがあるのか忘れたのかしら?」

 舞が顔を赤くしながら俺に詰め寄って来る。
 恥ずかしいならやんなきゃいいのに。
 正直俺も舞と混浴とかすごい恥ずかしいから、今急にやろうとか言われても心の準備ができていない。
 とはいえ、アセイダル戦では舞にも散々お世話になったのもまた事実な訳で。

 そんな感じで微妙に断りづらい俺はローズに救援依頼を出すことにした。

「覚えてるけど、流石に人様の家で混浴はまずいだろ。なぁローズ?」
「む?何をしておるのじゃ?今日はフウマに髪を洗って貰う予定じゃから、早く風呂に行くぞ。」

 そう言って俺の背中をぐいぐい押してくるローズ。
 そういえばお前は俺が風呂に入ってると何食わぬ顔で入って来る暴君だったな。
 俺がそんな事を考えながら圧倒的なステータス差でローズに担がれてえっさほいさと廊下を運ばれていると、舞が俺の顔を覗き込んできてにんまりと笑いながら口を開いた。

「ふふ。私も風舞くんのシャンプーテクが楽しみだわ。」
「マジかいな。」

 俺はスケベ心と理性を自分の中で戦わせながらそう呟いた。


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