俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第54話 人類史

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 「なあ、ジェニー。パートナーが100年以上昔から存在してるってことは、転生者もそれだけ昔からいるってことなのか?」

 この世界に来て転生者の話をされたとき、俺は何となく――先入観で、転生者という存在がこの世界に現れたのは最近のことだと思っていた。
 でも、これまでの話からすると、転生者はもっと昔から――。

 「昔どころか、この世界の人類のルーツは転生者だよー」

 軽い感じで話すジェニーの口から飛び出したのは、俺にとって軽くない事実だった。

 「ルーツは転生者……ってことは、純粋に異世界ウォールガイヤで誕生した人類はいない……とういうことになるのか……それだけじゃない……始祖が転生者なら、ここで産まれた人間たちは皆、複数のチート能力が使える」

 「おー、渡辺君はよーく頭が回るねぇ。そのとーりだよ」


 異世界ウォールガイヤの人類史に興味を持った俺は、それ以降も質問をジェニーに投げかけるが、めぼしい情報が得られることはなかった。

 多くのカルチャーショックの果てに、ようやくラーメン屋に辿り着き、坦々麺にありつけた。
 最初の一口目で「カラッ!」っとなり、水が欲しくなる。俺が特別辛いものが苦手ってわけじゃない。ジェニーやメシュもヒーヒー言っている。それに比べて、マリンはなんて美味そうに食ってやがるんだ。今にも鼻歌を歌い出しそうなくらい幸せそうな顔をしてるぞ。俺もマリンに釣られて目じりが下がる。
 本当、キチガイな文化さえなければ、幸せを噛み締めているところなんだけどな。

 俺は坦々麺をズルズルと啜りながら思う。なぁ、神様。聞こえてるか。
 あんたは何を考えて亡くなった人々をこの世界に送ったんだ? 何を考えてチート能力を与えたんだ?


 昼食を食べ終わった後、俺とマリンはジェニーたちと別れ、真っ直ぐオルガの宿へと帰ってきた。

 「おかえり、お二人さん」

 宿の戸を開けて入ると、座布団にあぐらをかいて新聞を読んでいるいつものオルガの姿があった。

 「マリン、先に上行っててもらえるか?」

 「はいっ」

 マリンが階段を登っていくのを見送った後、俺はオルガの横に立った。


 「…………」

 オルガにはたくさん聞きたいことがあった。
 聞きたいことがありすぎて、何から聞けばいいかわからない程に。

 「オルガって、パートナーいないのか?」

 少し考えてから、一番最初に出てきた問いがそれだった。
 何故そんな問いが出てきたか。それはオルガも転生者であるなら、パートナーがいなきゃおかしいからだ。にも関わらず、朝倉と同じでオルガはいつも一人でいる。


 「俺のパートナーは、25年前の魔人戦争で命を落とした」

 オルガの返事を聞いた瞬間、自分の愚かさを呪った。

 「わりぃ……」

 オルガは新聞を畳むと、俺の方を向く。

 「……ナベウマ、クラコから聞いたぞ。アリーナのこと、知ったんだろ」

 「ああ……オルガ、どうしてもっと早く――」

 「アリーナのことを教えてくれなかったんだ、か? 知っていたところで、何も出来ないからだ。クラコから聞かされなかったか? 転生者のアリーナ初戦の勝率は0だと」

 なっ、勝率0?!
 絶望的な数値に胃が重くなるのを感じた。

 「なら、オルガも負けたっていうのか?」

 「アリーナの制度は23年前に制定されたもので、俺はアリーナの試合には一度も出てはいない。制定された後も、毎月辞退料を払っているしな」

 「アリーナができたのは23年前だって? でも、ジェニーはずっと昔から互いのパートナーを取り合ってるって話してたぞ」

 「取り合い自体は昔からあったさ。が、しかし、国民ほぼ全員を強制参加させるアリーナってもんが造られたのが23年前なんだ」

 あーもう! 100年だの25年だの23年だの情報が多すぎだ! ジェニーとの会話の時点で知恵熱起こしそうだったっていうのに!


 「ま、王国の歴史なんぞ、この際どうだっていいことだ。お前さんはアリーナに向けてこれからどうするつもりなんだ?」

 オルガの言うとおりだ。
 昨日から俺は何のために王国がこんなことをしているのか。それを理解しようと躍起になってばかりいた。いくら真相を知ろうが、結局のところ実際に行動に移さなければ事態は変わらないのにだ。
 けど、俺だって何も考えていないわけじゃない。

 「オルガ、俺に戦い方を教えてくれ」
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