俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第62話 戦いのとき

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 その日の修行は、結局相手の攻撃を避けるのといなす訓練に終始した。そのオルガの判断は正しいと思う。
 たくみを倒す方法も大事だが、大前提として攻撃を受けるわけにはいかない。多分、匠の攻撃を一発でも貰えれば俺は無事では済まないからだ。最悪死ぬ可能性だってある。まずは戦いの目を養わないと。

 その修行に引き続いて協力してくれたジェニーには本当に感謝している。彼女にもいろいろ予定があっただろうに。ジェニーって普段気だるそうに話すもんだから、面倒臭がり屋な印象があるんだが、実際は面倒見がいいんだよな。
 だからメシュとの相性もいいのか?

 メシュも表面上の印象と中身は別物なのかもしれないと、最近思い始めてる。
 定食屋での一言は以外だったし、俺がジェニーを独占してるのに文句を言いつつも無理に止めるようなことはしない。人とか状況とかちゃんと見てるような気がする。
 じゃあ、普段の偉そうなトークはなんだって話だが……。


 そんなことを考えている間に、今日の分の修行は終わった。
 残りのスケジュールはマリンが作ってくれた晩御飯を食べ、トレーニングして、銭湯入って寝るそれだけだ。


 「おかえりなさいませ、ショウマ様」

 「ただいま」

 銭湯から部屋に戻ると、マリンが二人分の布団を用意して出迎えてくれる。ここに住んでからずっと――つまり、最初に会った日からそうしてくれている。
 俺のことは待たず、自分の布団だけ準備して先に寝ててもいいんだぞ、と一度言ったが、ちゃんと俺が帰宅してきたのを確認してからでないと落ち着かないと返され、それ以来このままの流れが続いている。

 「昼は変なのに絡まれて大変だったな。アイツはよく店に来るのか?」

 「いえ、今日初めて見ました」

 「そうか。もしまた来てちょっかい出してくるようなら言ってくれよ」

 「はい」と、マリンは明るい表情で答えるものの、声に元気がない。怖い目にあった後だし当然だよな。

 「んじゃ、電気消すよ」

 マリンが掛け布団を被るのを見送ってから、天井に吊り下げられた照明から伸びる紐を引っ張った。
 部屋は真っ暗になる。

 布団へと入り込みながら、俺は思った。
 マリン、本当に全然聞いてこないな。あれだけ自分に関わる話されてたのに。

 ま、聞き逃してくれたならそれでいいや。
 マリンは知らなくていい。
 俺が何事もなく終わらせてやる。


   *


 それからの一週間はあっという間だった。

 匠に試合を強制された日から一週間、今俺はアリーナの選手専用の入り口前に立っている。
 これから戦うんだ、あの野郎と。
 この日のために、二週間すげぇ痛い思いして特訓を重ねた。やれるだけのことをやった。大丈夫だ、勝てる、必ず。
 自己暗示にも似た祈りをし、入り口を見やる。
 入り口の廊下を照らす天井の光は頼りなく、薄暗い。その薄暗さが自分の未来を暗示ているんじゃないかと、ネガティブな思考に陥りそうになるのを頭を降って防ぐ。

 「例のモノはちゃんと持ってるな?」

 「ああ」

 ここまで付き添ったオルガの質問に、俺はジャージの右ポケットを軽く叩いて答える。

 「この二週間ありがとな。おかげで大分強くなれたよ」

 「気にするな」

 「……なぁ、何でここまで俺に手を貸してくれたんだ? 初めの頃は絶対そんなキャラじゃなかったよな」

 オルガは少しの間黙り、俺から視線を外すと、

 「俺は……同じ過ちを繰り返そうとしているのかもな」

 そう呟いた。
 む。今のは返事か? いや違うな、オルガの瞳は何かを思い出している感じだ。


 「わーたーなーべーくーん!」

 そこへジェニーとメシュがダッシュでやってきた。

 「間に合ったー!」

 「ジェニー、来てくれたのか。メシュも」

 「き、貴様のためではないわ! ジェニーが行きたいと言って聞かないから仕方なくついてきてやっただけだ!」

 メシュは腕を組んで、プイッと顔を背ける。
 わかりやすいやつ。

 「ふふふ、試合頑張ってねー。観客席から応援するから」

 「ああ、ありがとう。二人とも」

 そろそろ時間だな。行かないと。

 「じゃあ、行ってくる」

 俺は三人に背を向け、アリーナへと歩き出した。

 「ナベウマ、約束は守れよ」

 「わかってる」

 背を向けたまま、手を振ってやる。


 そのままアリーナの中へと入り、廊下を進む。

 今頃、マリンは頑張って仕事してるかな。
 マリンはここには来ない。
 今日も、修行するときみたく、クエストがあるから出掛けてくると嘘をついてきた。
 彼女がアリーナのことを知る由もない。


 廊下を歩いていると、奥が四角く光っているのが見えた。試合会場から射し込む光だ。あそこまで進んだとき、戦いが始まるんだ。
 手が震える。心臓の鼓動が早くなる。
 怖がるな渡辺 勝麻。

 出口に向かって歩く途中、鉄格子が行く手を阻む。

 「渡辺 勝麻様でいらっしゃいますか」

 横から声が聞こえ、そちらに目を向けると、穴が空いた窓とその手前に軽く物が置けるぐらいの壁に取り付けられたテーブルがあった。
 窓の奥にはトイレの個室よりは広く、廊下よりも明るい空間があり、そこに女性がいた。

 「ああ」

 俺は頷く。

 「この度はアリーナへ参加していただきありがとうございます。試合を始める前にこちらの書類を記入していただく必要があるのでお願い致します」

 女性はそう言うと、窓の穴から二枚の紙を差し出してきたので、それを受け取り内容を確認する。
 あーはいはい、なるほどね。一枚は同意書だ。内容を一部抜粋すると『怪我や事故など全てのいかなる損害にも責任を持ちます。 私は、この同意書を全て読み、理解した上で、下記に署名いたします』と書かれている。最悪死ぬ可能性だってある催し物だ。怪我一つで一々文句言われてたら切りがないもんな。
 もう一枚は何だ? ……女の子の写真が7枚? あ、この三人、匠が連れていたパートナーたちだ。
 そういうことか、この七人は全員匠のパートナーなんだ。店で会ったときは三人しかいなかったが、他の四人は自宅にいたとか仕事してたとかか。
『一人を選び、写真の下に枠にチェックを入れてください』とある。
 こんなもん適当でいい。俺は前にいる女性からボールペンを借りると何も考えずにチェックを入れ、同意書にもサインし、書類を女性に返した。

 「最後に、持ち物を検査させていただきますので、体全体が見えるように窓から少し離れていただけますか?」

 ふーん、持ち物の確認方法は『透視』か。
 俺は言われたとおりに後ろへ下がる。
 アリーナには装備やアイテムの持込みが可能だ。俺の感覚だとそれってズルじゃないかと思ったが、生産系のチート能力者からしたらアイテムが使えなきゃ戦えないんだから当然のルールだとオルガに言われ納得した。
 ただし、剣や刀、鉄の矢じりなど、明らかに殺傷能力のある武器やアイテムの使用は禁止されている。ここにきて珍しくまともなルールを設けてるなと思った。

 「はい、問題なしです。会場の準備が出来ましたら、格子が開きますので、それまでお待ちください」

 全く、落ち着いた声で言ってくれちゃって。
 俺は鉄格子の先にある出口の光を見る。

 
 『それでは本日、午後の部最初となる第四回戦目の試合を開始します! 実況は私グチタマと、解説はニーモニックが担当していきます!』

 いざ戦う身になってみると、この実況うるせーな……集中力が切れないといいが。

 『赤コーナーより! 『怪力アサルトパワー』のチート能力を持つたくみ!』

 ワアアアァ!!

 歓声が湧き上がった。
 その音により空気がビリビリ振動しているのが体でわかる。

 『青コーナーより! チート能力未だ不明なままのド新人、渡辺 勝間わたなべ しょうま!』

 思わずズッコケそうになる。
 確かにそのとおりだけど、もっとカッコイイ紹介はなかったのかよ。

 ゴゴゴゴゴッ、という重低音を立てながら鉄格子は上に上がり、道が開ける。


 「ご武運を」

 心のこもっていない女性の声を背に、俺は戦場へと歩を進めた。

 さぁ、勝ちにいくぞ。
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