俺のチートって何?

臙脂色

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第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第83話 梅雨

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 ディックがそれ以上オルガに聞くことはなかった。オルガは求めている情報を持っていないと判断されたのだろう。
 そんなこんなで自己紹介タイムは終わり、それ以降は駆ける馬車の中で各々自由な時間を過ごした。

 オルガとエマは隅っこで黙って座っている。エマは相変わらずローブで顔を隠したままで、まだ顔が戻ってないものとみられる。可哀想。ディックと知世は談笑している。あの二人は仲が良いみたいだな。俺、マリン、ミカはというと昼飯にマリンが作ってくれた唐揚げ弁当を食べながら、ジェニーとメシュを交えてアイリスの話を聴いていた。

 どうやらアイリスは新しい薬品を調合するのが趣味らしく、さっきエマに注入した液体も自作したんだそう。さっきのビューティーフルな笑顔にする薬以外にも、どれだけ落ち込んでいてもハイになる薬だったり、どんな荒くれ者も穏やかになる薬、惚れ薬などなど、ヤバそうなモノばかりを作っているらしい。


 「それででーすね! 最近はエッチな気分になる薬を……おーう」

 ハツラツと楽しげにしゃべっていたアイリスの口の動きが止まる。
 何だ?

 「ディック、進行方向から梅雨が迫ってまーす」

 「ん、どれどれ」

 ディックが馬車の前方を覗き込むように、目を細める。
 俺も同様にして前を見るが、深い森の中に細い砂利道が続いてるだけだ。

 「確かに梅雨が来てやがるな。ったく運がねぇなぁ」

 ディックが片手を上に掲げた。
 謎の行動に、俺は質問したい欲求を抑えられなかった。

 「何してるんだ?」

 「何って見ればわかるだろ」

 「わからないから聞いてるんだ」

 「やれやれ何だったらわかるんだ。もうすぐザーザー降りの雨が来るから『風魔法ウィンド マジック』で屋根を作ってんだよ」

 さっきから言ってる梅雨って通り雨のことか?

 「ナベウマ、こっちの世界で言う梅雨は俺たちの世界の梅雨とは違うぞ」

 毎度お馴染みのように、俺の心の声を読み解いてくるなオルガは。

 「ウォールガイヤには決して消えない巨大な雨雲があってな、時速300キロ前後のスピードで世界中をランダムに移動している」

 「その雨雲を梅雨と呼ぶわけか」

 「そうだ」

 ドジャアッ!

 と、突然、水の弾ける音が森中に響いた。
 言ってるそばから来たようだ。

 ディックが『風魔法ウィンド マジック』で馬車の上に降り注ぐ雨粒を弾いているのか、馬車の天井は静かなものだった。けど、馬車の前と後ろでは見てるだけでうるさいと感じるような大量の雨が降り注いでいた。

 雨音はどんどん大きくなり、雨は勢いを増す……ってホントにすげぇ雨量だ。遠くの景色が雨で見えない。バケツの水をひっくり返したようなっていうのはこういうのを言うんだろうな。

 「……そろそろ来やがるな。おい、オメーら五人とももっと頭下げとけ、でないとぶつかるぞ」

 は? 雨ならもう来てるが……というか、ぶつかるってどういう――。

 目と鼻の先で、人と同じぐらいの大きさはある巨大なトンボが、ブオオという羽音とともに通過していった。

 「ドワァッ!」

 驚いて後ろへ仰け反る俺に。

 「キャアッ!」
 「うわっ!」

 左右からマリンとミカがくっついてきて、サンドイッチにされる。

 むにっ。

 「おわぁ……」

 マリン側からのたわわな感触にも驚かされた俺は変な声を出してしまう。

 って! そんな場合じゃねぇ!

 トンボだけじゃない。
 俺の胴回りぐらいの太いムカデが前から入ってきたのだが、このムカデはトンボの羽と似た透明な羽を体の両側一列に生やしており、その羽でニョロニョロと空中を這うように移動しながら、後ろへ通り抜けていく。

 「わぁ、なーにこれー」

 メシュに引っ付かれているジェニーが言うと、ディックが答える。

 「梅雨に惹かれたモンスター共だ。梅雨は普通の雨と違って雨粒に魔力を含んでるせいか、やたらとモンスターを引き連れてきやがるんだ」

 腹が異常に膨らんでいる巨大なハチ、前の脚がカニのハサミになっている巨大ハエなど、次から次へと多種多様な虫モンスターらが馬車内を前から後ろへ通り抜けて行く。
 俺たちに対して敵意はないようだが、姿勢を低くしてないと接触事故を起こしそうだ。

 「手を出すなよ。ほとんどはレベル20から40の雑魚ばかりだが、稀に100レベルに近いやつが混じってるからな。そんなのにここで暴れられたら俺のマイカーがおしゃかになる」

 俺だって面倒はごめんだ。ディックに言われなくとも、手を出す気はない。過ぎ去るのを待つのみだ。

 そんな俺の考えに反して、前から入ってきた一匹のモンスターが俺の前の床に落ちた。手のひらサイズの魚の見た目をしたモンスター。ただし、尾ビレが異常に長く、パッと見の体の長さは1メートル以上はあった。その尾ビレ使って、魚モンスターが大きく飛び上がる。
 その動きにマリンとミカはさらに驚きを重ね、俺にくっつく力を強くする。

 りょ、両サイドから柔らかな物体(主にマリン側)が!
 ふわふわドリームな感触に俺の頭もふわふわしそうになるが、頭上の虫モンスターの大行列というグロテスクな光景がそれを阻む。

 「スカイフィッシュには気をつけてくださーい! そいつは梅雨の中を長い尾ビレを使って泳ぐ魚で、尾で叩かれるとメチャクチャ痛いでーす!」

 「あべし!」

 言ってるそばから、メシュが新たに馬車へ侵入してきた別のスカイフィッシュに尻尾ビンタをお見舞いされた。

 それからも、スカイフィッシュはどんどん前方から大量に入ってきて床を埋め尽くしていく。

 「皆さん、動かないでください」

 そう言ったのは、知世。
 いつの間にか、刃渡り40センチ程の短い刀を取り出していた。
 目の前で跳ねるスカイフィッシュたちに刀を一振りした後、馬車上部の虫の大行進を刺激しないよう低姿勢を維持した状態で席を立ち、前部と後部で跳ねているスカイフィッシュにもそれぞれ一回ずつ刀を振るった。
 馬車内で跳ねていた全てのスカイフィッシュの尾ビレの付け根部分が切断される。

 は、速ぇ、刀身の動きが全く見えなかった。

 「このモンスターは尾さえ切ってしまえば驚異はありません。もう安全ですよ」

 知世は刀の刀身を紙で拭くと、それを鞘に戻す。

 「どうやら虫共のパレードも終いみてぇだな」

 ディックの言うとおり、濁流のように馬車上部を通過していた虫の大群は大分数を減らしていた。

 「「 ホッ 」」と、マリンとミカが安堵のため息を漏らす。落ち着いたところで言うべきことを言うか。

 「あの、離れてもらってもいい? 苦しくて」

 「「 ご、ごめんなさい! 」」

 二人とも顔を赤くして素早く俺から離れた。

 「今回は大分早く過ぎましたね。きっと梅雨の端側だったのでしょう。ディック、今切った尾ですが――」

 「ああ、持ってけ持ってけ、代わりに胴部分はこっちがもらうぞ」

 「はい、それで構いません」

 「え? 何で胴体じゃなく尻尾を? 胴体は食材として売れるだろうからわかるけど、尾ビレは?」

 俺が疑問をそのまま口にすると、知世は答えてくれる。

 「スカイフィッシュの尾ビレは高級品なんですよ。ゼラチン質を豊富に含んでいて、お酒やスープに使うととてもまろやかな味わいになるんです」

 「へぇ、フカヒレみたいなもんか」


 知世は紫色の魔法石を取り出すと、その突起部分を引き抜き魔法を発動させた。
 知世の傍らに、バスケットボールぐらいの紫色の丸い物体が空中に浮かんで――いや、これは物体じゃない……穴だ! 空間に穴が出来てる!

 「知世、その穴って」

 「もしや、見るのは初めてですか? これが『道具収納アイテムボックス』ですよ」

 「へぇ、これが皆が金やら物を保管するのに使ってるっていう」

 穴の奥はどうなってるんだろ?
 ……んー、紫色の空間が広がってるだけで、あまり特徴はないな。

 その穴に知世が尾ビレを片っ端から入れていく中、ディックも動き出す。
 ディックが手のひらを下に向けて前に出すと、床が急激に冷えてきた。
 『氷魔法アイス マジック』だ。
 こいつ、『地魔法アース マジック』『風魔法ウィンド マジック』だけじゃなく『氷魔法アイス マジック』まで使えるのか。この流れでいくと全属性魔法が使えるんじゃ……まぁ、チート能力を32種類も持ってるなら当たり前っちゃ当たり前か。

 「エマ、ちょっくら魚を市場に売ってきてもらえるか」

 ディックは『氷魔法アイス マジック』で魚モンスターをカチンコチンに凍結させると、モンスターの突然の襲来にも一切の反応をみせないままでいたエマに声をかけた。

 「この顔を戻してもらわないと行く気にはなれない」

 「あーそうだったな。アイリス戻してやれ」

 「仕方ありませんねー」

 アイリスがエマの首元に注射した。
 エマは顔に当てていたローブを退ける。そこには元の不機嫌そうなエマの表情があった。

 「行くのはいいけど、馬車止めてもらわなきゃ戻れなくなるよ」

 「わーってるって。エボニー、アイボリー。止まれ」

 ディックがそう言うと、馬車を引いていたユニコーンっぽい馬二頭がゆっくりと走る速度落として止まった。

 エマも知世同様に紫の魔法石で『道具収納アイテムボックス』を展開し、全てのスカイフィッシュを穴に放り込んでいった。

 「じゃ、行って来る」

 エマがその場から忽然と消えた。
 すげぇ、マジで『瞬間移動テレポート』したのか。


 「エマが戻ってくるまで10分程度はかかる。その間にこっちもやること済ませるぞ。ついてこい」

 ディックが馬車から降りる。
 何だろう。
 言われるがままに、全員がそれに続いた。
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