俺のチートって何?

臙脂色

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第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第90話 市川 結

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 急ぎエボニーとアイボリーに止まるように指示を出すと馬車がゆっくりと減速して止まった。
 俺たちは馬車後部から降りてオルガを追いかける。

 「転生者ってどういうことだ?! 空の穴と何か関係があるのか?!」

 俺の疑問に、並んで走るミカが答える。

 「授業で習ったよ! 空に穴が出てきたときはそこに転生者が現れるんだって」

 「そういうことか! 俺がこの世界にやってきた日もオルガはあれを見つけて!」

 オルガが柵を飛び越えて森の中へと侵入した。俺たちも後に続く。
 速く駆けつけないと、出くわしたモンスターに襲われるかもしれない! 間に合ってくれよ!


 程なくして、空の穴が消えて青空だけが残った。
 穴を目印に進むことはもうできない。あとは前進するオルガの空間把握力を信じるのみだ。

 そして、それはいた。
 しかも二人。
 地面に横たわっている。

 一人は小さな男の子だ。
 もう一人は顔が向こうを向いてるからハッキリしないが、服装からして女の子っぽい。というか、あの服どっかで見たような。

 先に到着したオルガが男の子の容体を診ている。

 「男の子は無事か?!」

 「そうやら、気を失っているだけだ」

 男の子のもとへ駆け寄った俺は、片膝をついて自分でも男の子の様子を確認した。
 見た目からしてまだ10歳ぐらいだろうか。
 オルガの言うとおり息はある。良かった……ん? この子……泣いてるのか?
 男の子の片方の目尻に涙と思われる水滴が付いていた。
 怖い夢でも見ているんだろうか。

 そう考えている間に、オルガが近くに倒れ伏していた女の子を仰向けの状態にした。

 「……へ?」

 俺はその女の子の顔を見て素っ頓狂な声をあげてしまった。

 「知っている方ですか?」

 マリンが俺に聞く。

 「……ああ、知ってる。前の世界の高校でクラスメイトの女の子だ」

 

 彼女の名前は市川 結いちかわ ゆい
 高校一年から三年までずっと同じクラスだった女子だ。
 だからといって特別仲が良いわけでもなく、そんなに話す間柄でもなかった。
 ただ不思議と行く先々で出くわすことが多かったから挨拶をよく交わしてた覚えがある。

 というような感じに、市川と俺の関係をざっくりと皆に説明しつつ、二人を馬車の長椅子の上に寝かせた。

 改めて彼女を見る。
 ショートの黒髪に丸いレンズの眼鏡。
 昔は両サイドで三つ編みが出来るくらい長い髪だったはずなんだが……ずいぶんとバッサリ切ったんだな。

 学校の制服を着ていることから、登校時か下校時に不運に遭遇してしまったのだろう。

 「……ぅ……うーん……」

 市川がもぞもぞと体を動かし始めたかと思えば、目を覚ました。
 目の焦点が合っていないのか初めは眼鏡越しにボーっと辺りを見回していたが、次第に真っ直ぐ俺に目を向けるようになる。

 「よっ、市川。具合はどうだ?」

 「…………っ」

 無言のまま、市川がまた気を失った。

 「何でだよ! おい、市川!」

 「無理もない。死んだはずの人間がいきなり目の前に現れれば、誰だって動揺するだろう」

 オルガの言うことももっともだが、気絶するほど驚かなくてもいいだろうに。

 「……そういえば、市川は気の小さいヤツだったな」

 「とにかく、このまま硬い板の上で寝かせるわけにもいくまい。バミューダまで行って宿へ運ぶとしよう」

 オルガの提案に従い、俺たちはバミューダ港へと進み始めた。


 *


 馬車の前方にその景色は見え始めた。

 「わぁ!」

 マリンが感嘆のため息を漏らす。
 俺も同じ心境だった。

 脇にあった森は無くなり、代わりに草原が現れる。その草原の先が下り坂で、そこに中世ヨーロッパ風の巨大な港街が築かれていた。港街というだけあって、眼前には星の光を散りばめたかのように日の光を反射している海原が存在している。

 異世界でも海の表情は変わらないな。
 見てるだけで心が洗われるようだ。


 そんな海を飽きもせず眺めている内に、俺たちはバミューダの門の前に到着した。

 バミューダを外界から守る城壁はフィラディルフィアと比べるとずいぶん小さい。多分5m、フィラデルフィアの4分の1くらいしかない。

 門には騎士が三人と杖を持った女性。四人の人物がいて、そいつらが俺たちの馬車に注目している。

 エボニーとアイボリーの歩みを止めた後、俺たちは馬車から降りて騎士たちのもとまで移動した。

 「身分証を」

 どうやら、フィラディルフィア東区から南区へ小旅行したときと同様の手続きが必要らしかった。
 俺たちは身分証を騎士たちに見せ、一週間滞在する予定であることを伝えた。ここまでは滞りなく手続きが進んだのだが、荷物検査の段階で問題が発生した。

 「この者たちは?」

 馬車の中を覗いた騎士が言った。
 市川と男の子だ。

 「その子たちは、先程転生してきたばかりの子たちだ」

 オルガが答える。

 「『階層跳躍レベルジャンプ』の確認をしたいのだが、起こしてもらえるか」

 『階層跳躍レベルジャンプ』……どこかで聞いた覚えが……あれか!
 俺がウォールガイヤに転生してきた日、フィラディルフィア王国に入国するために必要な手続きとか言われて強制的にネズミモンスターを殺させたやつだ!

 「待てよ。気絶してるヤツをわざわざ叩き起こしてまでやらなきゃいけないことなのかよ」

 俺は騎士に文句を言ってやる。
 異世界に転生させられたってだけで本人にはかなりのショックがあるだろうに。その上で、いきなり動物を殺せだなんて、気の小さい市川にはヘビー過ぎる。

 「これも仕事の内なのでね」

 「今である必要もないだろう。『階層跳躍レベルジャンプ』の確認には一週間の猶予があるはずだ。俺はフィラディルフィアで初心者サポートをやっている。お前さんたちの都合はよく理解している。一週間以内には必ず確認作業をしてもらうことを約束しよう」

 おお、ナイスオルガ! 俺とマリンのときはそんな気遣い全くしなかったくせに、良いこと言うじゃないか。

 「……いいだろう。だが何か問題があったときの責任は――」

 「俺が負うさ」


 馬車が移動を再開する。
 俺たちはついにバミューダ港に到着した。
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