俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
100 / 172
第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第97話 Lv151 千頭 vs Lv151オルガ

しおりを挟む
 な! どうなってやがる! 急に辺り一面紫色になって――っうわ!

 謎の空間に迷い込んでしまったと思っていたら、どこかに背中から落ちる。
 やわらか! 地面の上じゃない?!

 『拘束魔法レストレイント マジック』によって首が動かしにくいため、目だけを動かして状況を探った。

 かなり狭い空間……四方に窓……ドゥルルルと異世界に似つかわしくない自動車のエンジンみたいな音が聞こえて……って、車の中じゃねぇか!

 俺は自動車の左後部座席に座っていた。

 さっきまで旅館にいたはずなのに。 ん、待てよ、車のすぐ近くに旅館があるぞ。
 てっきり、めちゃくちゃ遠くに移動させられたかと思ったがそうじゃないのか。


 車がグラッと揺れた。いつの間にか、運転席に千頭の姿があった。
 コイツの能力はもしかして『瞬間移動テレポート』?

 「さて、ドライブといこうか」

 エンジン回転数が上がる音とともに、千頭が左手でシフトレバーを動かしギアを変速させると、車が一気に加速して発進した。
 
 「うわっ!」

 普段の日常生活では、まず味わわないであろう急加速に驚きの声が漏れる。
 その後もぐんぐんスピードを上げていくため、夜道を照らす街灯が矢のよう流れていく。
 おいおい、どこまで速度を上げるつもりだ?!

 「ま、街中で!」

 チッ! 『拘束魔法レストレイント マジック』のせいで舌が上手く動かねえ!

 「街中でこの、スピード、正気、かよ!」

 「ハハハ、この状況で他人の心配かい? 安心するといい、この辺りは皆眠っている」

 「へ?」

 「僕の組織には『催眠魔法ヒプノティズム マジック』の能力持ちが何人かいてね。ここら一帯で、ジェヌイン以外に起きているのは君と小樽さんの二人だけなのさ」

 催眠……さっき助けを呼んでも意味が無いって言っていたのはこれか!

 「警戒心の強い小樽さんには、あらかじめ備えられていた『魔法反射マジック リフレクション』の魔法石で防がれたようでね。腐っても僕と同じで警察官だっただけはある」

 オルガが警察官?! 初耳だぞ!

 「おや、その顔は知らなかったようだね。当然か、あの人は他人と関わるのを恐れているからね。伴侶を殺され息子を殺され、そして異世界に転生してからも多くの関係を失ってきたことが原因で」

 ッ! 奥さんと子供を殺されただと?! ……前に自殺の話を聞いて、オルガも碌な人生じゃなかったんだろうとは思っていたが……。

 「ぅぉぉ!!!」

 車の後ろからオルガの声がかすかに聞こえてくる。

 「だからこそ、驚いているんだ僕は。小樽さんが海や祭りで君たちと楽しそうに過ごしていたのが。今こうして、君を救わんと全力で駆けているのが」

 「ナベウマアァ!!!」

 オルガ!
 さっきよりも声が近いぞ! 近くまで来てるのか?! 振り向いて状況を確認したいが、体を動かせねぇ!

 「速いね」

 千頭がチラリとバックミラーを一瞥して呟いた。

 「知っているかい? 前の世界における人間の走る速度の最高記録は時速45kmだ。で、今この車は時速100kmで走行している」

 話しながら、千頭がドアのスイッチを押して、運転席側のパワーウィンドウを下げる。それにより風が窓から入り込み、千頭の金髪がなびく。

 「全く馬鹿馬鹿しくて不快な気分にさせられるよ。チート能力だの、レベルだの、ステータスだの、そんな得体の知れない数値だけで、人間の弛まぬ努力を軽々に凌駕してくるんだからね」

 これまで悠然と話していた千頭の声色に嫌の色が浮き出でていた。
 
 「だから、僕は」

 千頭の右手には、いつの間にか先程の拳銃が握られている。その右手でハンドルを支えつつ、左手をシフトレバーに添える。

 ちょっと待て、こいつ何をする気だ?!

 「

 千頭がシフトレバーを一段階下げると同時に、エンジンがブオンッと派手な音を吹き上げ、それに呼応するように車が時速100kmからさらに加速する。
 それから今度は5秒も経たない内に、千頭がブレーキペダルを強く踏み込みながらハンドルを思い切り右に回した。
 急な減速に、否応無しに俺の体は前に投げ出され、助手席に頭からぶつかってしまう。
 それだけでは終わらない。
 千頭がサイドブレーキを引き上げた直後、キュルルという高音が後輪から発せられ、車が右へ旋回しつつ道路を滑った。
 そのため、俺の体が今度は遠心力によって後ろへ引っ張られ、後部座席へ強制着席させられる。

 わけのわからない状態に、俺は驚くばかりだったが、本当に驚いたのはここからだった。

 千頭が運転席の窓から、拳銃を握る右手を外へと伸ばした。
 最初はその行為の意味を理解できなかったが、車が右へ回転していくのに合わせて、その銃口の先が通ってきた後ろの道へ向いていくのを見てわかった。
 車体が90°まで回転したとき、千頭の視線と拳銃がオルガを捉えた。

 「オルガァ!!!」

 その瞬間、発砲音が鳴り、オルガの体がビクッと跳ね上がった。
 車が尚も右回転して悲鳴のような音をあげる中、続けて千頭はトリガーを引く。
 二、三、四発と撃つ度に、オルガの体が震え、五発目でついにオルガは転んでしまった。しかし、オルガは前転をすることで、出来るだけスピードを落とさずに起き上がり、また走り始めた。

 「しぶとい」

 千頭が呆れ気味に言う頃には、車体は180°向きがひっくり返っていた。左手でサイドブレーキを下ろしシフトレバーをリバースに入れると、車がバック走行を開始する。こちらも滑りながら移動していたので、大して減速はしていない。

 オルガと向き合う形となった千頭は、再度オルガへ拳銃を向けたが、オルガが急に横へ走り出したため、千頭は撃つ機会を失った。
 そこはちょうど交差点で、オルガは坂を上ってその通りから姿を消した。

 「ほー、上から攻めるつもりですか」

 千頭が左上方向を見上げたので、俺もそちらに顔を向けた。
 するとそこには、民家の屋根を飛び移っていくオルガがいた。
 忍者かよ!

 「これはやられましたね。角度的にフロントガラスを撃ち抜かないと攻撃できない位置にいる。愛車を傷つけたくない僕には有効な一手だ」

 バック走行のためか、スピードを今以上に上げられない車は、少しずつオルガに距離を詰められていく。

 「ナベウマ! 今行く!」

 そして、車と平行に並んだところで、オルガがこっちに向かって飛んだ。

 「仕方がない。あまり手札を使いたくないが」

 千頭が再び窓の外に右手を出す。
 さっきと違い、手に拳銃は無く、代わりに手鏡が握られており、その鏡が街灯の光をキラキラと反射した。

 一直線に車に向かって落ちていたオルガが、突如、真横へふっ飛んだ。
 次にターンッという音が耳に入ったときには、オルガは『鋼の肉体スチール ボディ』の破片を撒き散らして、道端に体を二回ほどバウンドさせていた。
 バウンドを終えた後、オルガは倒れたまま動かなくなった。

 「オルガ……オルガ!! おい!!」

 俺は必死に叫ぶが、オルガは全く反応しない。

 「魔法で強化された対物ライフルの一撃は流石に応えたようですね」

 「テメェ! 今すぐ車止めろ! この人殺し野郎!」

 「ハハハ、まぁ落ち着きなよ。小樽さんはまだ生きてるさ」

 「何でそんなことがわかるんだよ!」

 「仲間が『解析アナライズ』でチェックしたところ、まだステータスが表示されている。ステータスが見えるということは生きているってことさ。もっとも、それもいつまで続くかわからないけど」

 仲間? 『精神感応テレパシー』でやり取りでもしてるのか?!

 「くっ! よくも平気な顔で言えるな!」

 「おっと、こう見えても結構心を痛めてるんだよ。小樽さんは僕の憧れだったからねぇ。僕としても、あの人が僕の邪魔をしないなら何もする気はないんだ」

 しゃべりながら、千頭は車体の向きを変えてバック走から通常の走行に切り替えた。

 クソッ! オルガ死ぬんじゃねぇぞ! 俺に構わず逃げてくれ!


 「さて、もうすぐ目的の場所だ」

 目的の場所? ここに何があるっていうんだ?

 車が交差点で曲がり、坂を下って海へ向かって行く。
 そして、それが目に映る。

 アトランタ号。

 この世界の始まりに近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

​『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』

月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。 ​外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。 ​目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。 「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる! ​かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。 しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――! ​降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。 ​キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。 ​リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。 ​ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。 ​ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。 ​優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。 ​そして、村人に危機が迫った時。 優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……! ​「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」 ​現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】! 凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!

処理中です...