俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第111話 Lv424 エメラダ・アイゼンバーグ vs Lv32 渡辺 勝麻

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 アイゼンバーグ……確かディックのラストネームがそんなだったか。
 あの女、まさかディックの母親か?

 「やれやれ、せっかく気分良くふかしながら芋焼酎を飲んでたというのに。邪魔をしてくれたな」

 うんざりした様子のエメラダの手元に紫色の穴が現れ、彼女はその中から黒光りする拳銃を1丁引き出した。

 エメラダが武器を手に取ったのを見て、渡辺は構える。

 あの女が何であろうと関係ない。俺の邪魔するなら、コイツも黙らせるだけだ。

 「……怖い目をするボウヤだ……それに、その風は何だい?」

 エメラダが、渡辺の暗く沈んだ瞳と吹く風に注目する。
 質問を投げかけられた渡辺だったが、言葉を交わす気は一切無いとばかりに眼光を刃物のようにギラつかせていた。

 「まるで血に飢えた獣だな。いいだろう、お望みど――」

 エメラダが言い切る前に、渡辺が壁に向かって飛び出した。
 その壁を蹴って飛ぶ。次に反対側の壁を。その次は天井を、次は地面を。
 渡辺は狭い廊下を銃弾が跳弾するかの如く、天井も地面も関係無く縦横無尽に乱反射をしながらエメラダへ迫った。
 相手が銃を使うならば、照準を合わせる暇を与えなければいいと考えての行動だ。

 「人が話している最中だというのに、勝手なヤツだ。まぁ、その方が好みではあるが」

 悠々と語るエメラダまで間近に迫った渡辺が、拳を振るった。

 直撃コースだ。

 そう思った渡辺。
 だが、渡辺の拳はむなしく空を切った。

 「な! 消え――ウッ!」

 驚く渡辺を、二発の銃弾が貫いた。右肩、左腿を撃たれ、片膝を着く。チャラッと薬莢の落ちる音が背後から聞こえ、後ろを振り返るとエメラダがいた。

 ……速い!

 「ん? 思ったより出血が少ない……頑丈……いや、その逆、脆いのか」

 出血の具合から、渡辺の異様な防御力の低さに気がつく。

 エメラダが使用している拳銃は、ただの銃ではない。魔人の防御力を想定して作られた特別性で、通常の拳銃よりも遥かに速い弾が発射される。
 だが、銃というものは、撃ち出される弾丸が速ければ良いという単純なものではない。あまりに速いと、銃弾の破壊力が十分に伝わる前に撃った対象の体を貫通してしまうからだ。
 エメラダが使用している拳銃の威力に対して、渡辺の防御力はかなり低く、十分なダメージを与えられないまま弾が貫通していたのだ。

 「それだけの攻撃力を持ち得ながら、その防御力、『禁じられたチート能力』の類か? ここ100年、そんな転生者は現れていないと記録にはあったが」

 「速さ足りないってんなら、スロットルを上げるだけだ!」

 両脚、50%!
 足元の地面が砕けるほどの力で、エメラダへ突撃する。

 「加速した?」

 スピードの上昇にエメラダは目を見張るが、対処は冷静に行われた。
 より速い動きで、渡辺の後ろへ回り込み、引き金に指をかける。

 「どうせ後ろだろ!」

 渡辺は前に拳を放つと見せかけ、体を180°回転させて背後に回し蹴りを行う。

 「甘い」

 その脚を、二発の銃弾が撃ち抜く。

 「構うか!」

 それでも怯まずに、渡辺は蹴りを繰り出した。見事、エメラダの脇腹に命中する。だが、

 「良い蹴りだ。とてもレベル32とは思えない」

 エメラダは平然と立っていた。

 「――ッ! チィッ!」

 これでもかと渡辺は左拳を打つが、エメラダの右手に容易く受け止められてしまう。

 これ以上は反撃される!
 
 渡辺は一度後ろに下がって仕切り直しを試みようとした。しかし、エメラダはそれを許さなかった。

 がっ! 左拳が、離れねぇ!

 渡辺の左拳が、エメラダの右手にガッチリと握られていた。全体重をかけつつ左腕を振り回すが、岩にでも挟まれたかのようにビクともしない。

 こ、この野郎! ホントに女かよ! どういう握力してやがんだ!

 危機的状況下のため、無意識に前の世界の常識で考える渡辺だが、ステータスのある世界で力の有る無しに性別は関係ない。エメラダのレベルは424。能力に『怪力アサルトパワー』こそ無いが、その力は『怪力』を有するディックと同等だ。

 「アタリの能力を神様からいただいたみたいだが、宝の持ち腐れだな。剥き出しの闘争心は悪くないが、技が単調過ぎて全くなっちゃいない」

 エメラダが左手に持つ銃の口を渡辺に向ける。

 「覚えときなボウヤ。女は正常位だけじゃイけないんだよ」

 火薬が炸裂する乾いた音。飛び出る薬莢。銃口から出る煙。凶弾が、渡辺の胸にトンネルを開けた。

 「……あ……」

 渡辺の両脚から力が抜け、後方へと体が傾く。
 ここまでだな、そう思ってエメラダは握っていた渡辺の手を放した。


 ここまで……なのか? こんなところで?

 
 『 でもね。それでも、渡辺君がいてくれるなら、私頑張れるよ 』

 信頼してくれた友達を護れず。

 『 ……ヤダ……私、ショウマと……皆といたい 』

 女の子の願いを護れず。

 何より、


 『 私に、甘えてくれますか? 』


 自分の全部を受け止めてくれた女の子を――好きな女の子を救えない?

 マリンの笑った顔が浮かぶ。

 ……そんなこと、認められるかってんだ!!!

 一際強い風が渡辺から吹き出し、倒れかけていた体が勢いよく起き上がる。

 「何?!」

 そのまま、意趣返しとばかりに左手でエメラダの右手首を握り締める。

 「無駄だ。お前程度の力では私を――!!」

 …………能力100%。

 エメラダの骨がメキメキと軋みをあげた。

 「こいつは?!」

 エメラダは久しく感じていなかった恐怖というものを、思い出した。
 死の嵐を纏っていた。
 渡辺の右腕が。
 その死を、真正面から受けた。

 直後、空気が爆発して周囲の壁や天井が凹み、エメラダは遥か彼方へ真横に飛んで壁に激突した。その衝撃でガラガラと壁が崩れてエメラダは生き埋めとなる。

 「……やってやったぜ……ハウッ!……エッ!……カ……ハッ!」

 突如、渡辺が左手で胸の辺りを押さえ込む。

 な、何だ?! 呼吸が、上手くできねぇ!

 「ふぅ、せっかく熱く盛り上がってきたのに、終わりかい?」

 「ッ!!」

 瓦礫の中から、エメラダが立って出てきた。

 「そん……ゲホッ」

 ダメージは決してゼロではない。エメラダはコートの内側から血を流している。それでも、懐からライターと煙草を取り出して、火をつけて口に咥える程度の余力が彼女には残っていた。

 「戦いのスリルはどんな美酒より勝る……フー……魔人とやり合った時以来の味わい。吸わずにはいられんな」

 「く……う……」

 渡辺は立っているのもやっとだった。体から血の気がどんどん無くなり、体温が下がっていく。

 「緊張性気胸というやつだ。お前の肺には孔が空いている。呼吸する度、肺から胸腔内へ空気が漏れ、溜まった空気に肺が押しつぶされる。そのままの状態が続けば、心臓が圧迫されて死に至る。さて、どうする? 死にたくなければ、大人しく拘束されて治療を受けることをオススメするが」

 「……誰が、するかよ!」

 渡辺が、自らの左手の親指を胸の銃創へ突っ込み、血と肉で閉じた孔をこじ開けて体内の気圧を下げる。

 「ン"ン"ッ!!!」

 「……少しクレイジーなボウヤだと思っていたが、これは少しどころではないな。タガが外れている」

 少し呼吸が楽になると、右手を脱力させながら、エメラダへと早歩きで向かう。

 「早漏は早漏で困りものだが、遅漏も面倒だな。両手両足の骨を砕けば満足するのか?」

 口から煙草の煙を吐く。
 エメラダの横に紫の穴が出現し、中から銃身が1mはある狙撃銃が取り出される。エメラダは瓦礫を椅子代わりにして腰掛け、片手で狙撃銃を構える。

 「10数える。その間に止まらなければ、四肢が同時に千切れ飛ぶと思え。10、9、8、7」

 渡辺の歩は止まらない。それどころか、足の動きが早くなる。

 「……数えるだけ馬鹿馬鹿しいな」

 エメラダの指が引き金にかかった。

 そのときだった。


 「お待ちになって、エメラダさん」

 場違いな、おっとりとした印象の女性の声がエメラダの横の通路から聞こえた。

 「フィオレンツァ?! お前、何故勝手に牢屋から出ているんだ!」

 エメラダが初めて声を荒げた。

 「ふふふ、すごい音が聞こえてきたものですから。気になったので、騎士の方々にお願いして、出してもらいました」

 そして、その女性は、渡辺からも見える位置へと出てくる。
 金髪のロングヘアに、ぽわんとした表情のタレ目で、緑のドレスを身に纏っている。

 「初めまして。私は、フィオレンツァ・フィネガンと申します。以後、お見知りおきください」

 ドレスを両手の指で摘み、膝を曲げてお辞儀をするフィオレンツァ。
 彼女の翠玉色の瞳が渡辺を捉えて揺れていた。
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