スライムを1万回倒さないと出れない部屋で、いつの間にか世界最強の剣聖になってました!

マカロニ

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赤い満月

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 飛び交う魔法の攻撃。
 踏み進む地が揺れる。

 まるでそこは地獄と表現するのが正しいと思えるくらいに、凄惨な光景が広がっていた。

 仲間達のエルフが目の前で散っていく。

 なぜ私たちは戦っているのか。
 なぜ、身も知らない人々の為に戦わなければならないのか。
 どうして、自分の仲間達が無惨に死ぬのか。

 私は人間を見たことがない――でも、私から自由を奪った人間が嫌いだ。
 人間に親も、すべても奪われた。

 魔界と人間界の戦争は過酷で、今もこうして眠っている間にも、仲間が死んでいるのだろう。

 ――でも自分は仲間に生かされた。
 『生きろ』と。

 あの魔界から命からがら離脱して、逃げ帰った私を、仲間達は許すのだろうか。

 好きな異性も作れず、仲間達の思い出も数少ない。
 私に生きる価値はあるのだろうか。

 ――そんな悪夢が、ふいに途切れた。



「貴方は誰?」

 朦朧とする視界の中で、私は目の前にいた金髪の子供に声をかけた。
 6歳児くらいに見える子供だ。
 でもどこか知的そうで、少し変な子供に見える。

「あの、ここは――」

 私が冷静に事情を聞こうとすると、子供はそそくさと部屋から出て行った。
 変な子供だと思いながらも、自分の足でベッドから立ち上がる。

 傷だらけで血まみれになっていた体が、今は綺麗になっている。

 ふと、私は窓へと歩み寄り、外を見た。
 そこは豊かで平和そうな農村のようだ。
 戦場とは、まるで別世界――。

「あ、起きたんですね」

 背後から声が聞こえた。
 女の人間の声。

 私は反射的に後ろを振り返った。

 するとそこには、金髪の女と男――そして、さっきの子供がいた。

「あなた、家の前で倒れていたから、心配したんですよ?」
「貴方たちが私を保護してくれたのだな」
「そうだ、あんた血だらけで倒れてたから心配したよ」

 血だらけ……。
 きっとこの人間達に、私の事情なぞ知ったことでは無いのだろう。

 私はそのまま毅然と立ち振る舞った。

「自己紹介が遅れました。私はルイ、ただの雑多兵だ」
「ルイさん、気が済むまで好きなだけここに居て下さいね! 色々あったと思うだろうし――」
「――それ以上私に近づくな!!」

 気づけば私はそんなことを吠えていた。
 女が歩み寄ろうとしたから、私はエルフの本能的に吠えてしまっていた。

 戸惑う女と、警戒する男。

 しまった……子供がいる前で。

 咄嗟に私は子供の方に視線を向けた。
 怯えて怖がらせてしまったのだと思った――が、不思議なことにその子供は目をキラキラと輝かせていた。
 まるで、珍しいものを見たとでも言いたげに。

 不思議な子供だ。

「す、すまない。決してシルも悪気があって近づいたわけじゃないんだ。エルフだということを忘れていたよ、すまない」
「……いえ、私もいきなり大きな声を出して――すまなかった」

 私は彼らに頭を下げた。
 失態を犯してしまった……冷静沈着だけが取り柄の私が取り乱すとは。

「そこの子供、君が彼らを呼んでくれたのか?」

 私が優しく声をかけると、子供はコクリと頷いてくれた。

 さて……どうするべきか、これから。
 1日ほどここに滞在して、直ぐにここを立ち去ろう。

 そう決心した私は、彼らと食事を共にして、少しの話をした。
 私がどこの戦場にいたのか。
 そして、どんな生き方をしてきたのかを話した。

 シルという女は、時折悲しそうな表情を浮かべながらも、温かいスープを何度も注いでくれた。
 ジークという男は、無骨ながらも優しい目で私を見守っていた。
 そして、あの子供――ウィルは、じっと私の話に聞き入っていた。

 人間に対する憎しみが、ほんの少しだけ揺らいだ気がした。



 外の空気を吸うために少し家を出た。
 彼らの家の近くにあった巨大な木にもたれ掛かる。

 そこから見えるのは、平和で静かな畑と数少ない民家の数々。
 私が見てきた戦場とは真逆の世界だった。

 仲間達に救われたこの命。
 ここに少しだけ滞在したら、戦場に戻らねば。

 そう決心しながらも、目の前に広がる光景をボーッと見つめる。
 夕日が、畑を黄金色に染めていた。

 こんなにも美しい世界が、まだ残っていたのか。

「父上、母上……今貴方たちはどこにいるのでしょうか?」

 孤独と戦ってきた私の脳裏を過ぎるのは、物心がつくまで一緒にいた両親。
 優しく、時として厳しかった両親。

「あなた達は今、私を天から見ているのですか?」

 青く広がる空に手を伸ばす。
 しかし、聞こえてくるのは鳥のさえずりだけ。

『生きろ』

 あの時、仲間が最後に叫んだ言葉が、脳裏に蘇る。

 私に『生きろ』と言ってくれた貴方は今生きてますか?

「私はなんで生き延びてしまった……会いたい、母上に、父上に、そして――仲間たちに!」

 そんなことを呟きながら、私の目には涙が浮かんでいた。
 頬を伝う涙を拭う。
 けれど、涙は止まらなかった。

「お姉さん、どうしたの?」

 隣から幼い声が聞こえた。
 咄嗟に視線を向けると、私の隣に座っていたのはさっきの子供――ウィル。

 子供は困惑した表情を浮かべている。
 まるで、なんで泣いてるの? とでも言いたげな顔だ。

「恥ずかしいところ見せてしまったな。……少し過去に思いを馳せていた――ただそれだけだ」

 涙を拭いながら言うと、子供は優しく笑って、

「お姉さん、大丈夫だよ! だってお姉さんカッコイイから!」

 そんな理由にもなってない言葉を投げかける子供。
 それを聞いた私は、自然と笑みをこぼしていた。

 忌々しいと思っていた人間にも、純粋無垢な人間がいることを知った。

「そうだな、ありがとう」
「うん、お姉さん。笑ってた方がカッコイイ!」

 代々エルフは認めた相手にしか近づくことを許さないと言われてきた。
 そのエルフの特異性を引き継いでいる私だったが、何故かこの子供に対しては何も嫌悪感は感じなかった。

 子供の純粋無垢なる純情が原因なのか、それとも私がこの子供を認めたのか。
 この時の私は、まだ知る由もなかった。

 夕日が沈み、空が茜色から紺碧へと変わっていく。
 私の隣で、ウィルは無邪気に笑っていた。

 ――この平和が、少しだけ、羨ましかった。
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