パンストの御恩と御縁を還す 白稲荷ときつね

AnnA

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第3歩 「その人」①

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「その人」は、自分のアパートに帰り着き
ドアを閉めるなり 玄関にしゃがみ込んだ

今まで 気を張っていたのが
緊張の糸が切れた…

いや、まだ、緊張と困惑と…
ある種の興奮状態に…

どうしようもない 大きな不安というか
心配というかが…

自分の中で渦巻いていて…
訳が分からないでいる。

これは…本当にあった事なの…?と思うけど…本当の事だ。

何故なら、自分の この服装…

ホテルの浴衣に、素足にスリッパ
男性物のコート…

それに…ホテルのシャンプーと石鹸の匂い…

自分じゃ 絶対選ばないような…
甘ったるい匂いが…自分からしてる…

香水のように…匂いが強くて…
まだ、しっかり匂いが残ってる…
自分に 纏わりつくように……

気分が悪くなりそう…。

今日は、いつも通りに 出勤して…

いや、いつもよりも メイクと髪を頑張って…服装も…気持ち華やかにしたんだ…けど…

「その人」は、ハッとなり
心臓が 飛び跳ねるような動悸がし

ドアを見て、鍵とドアロックがしてあるのを確認し、フゥーー…と 長い息を吐いた。

無意識だけど、いつも通りに、ドアを閉めた時に ちゃんと鍵とドアロックをしていた。

しかし、動悸は続き 冷や汗も出る。

まだ、足に…体全体に 力が入らず
玄関から動けない…

それに…どうしよう…
部屋の中に…知らない人が…居たら?

仲間と思われて…
「あの人」と 同じ事になったら…?

更に 動悸と冷や汗と恐怖と…
増していくけど

ここを出ても、他に行く場所も無い…。

部屋の電気は真っ暗で、朝 自分が出て行ったままの状態に思える…

誰かが 侵入した感じは…無い…よね…?

玄関の壁に もたれ掛かり
上手く 息が出来ないから
意識的に 深呼吸して

大丈夫…大丈夫…と、声に出して
自分に言い聞かせ…

こんな時の対応法だ。

こうやって…何度 乗り切って来ただろう…。

今日の事を 冷静に振り返ってみる…

なんて…酷い日だったのか…。

こんなに…酷い日は…
今までで…1番かも…。

昔から…運が悪い人生だったけど…
今日は その中でも 最悪で間違いない…。

今日は…職場の打ち上げだった。
大きな仕事が 無事に終わって。

先輩と同じチームで…毎日 ドキドキして…褒めてくれて…それで 十分だった…

仕事の内容で 会話するだけで、その流れで「お腹空いたね」「ランチ行こうか」「お茶とおやつタイムに」とか…

チームの皆と一緒にだけど
先輩とランチとか 同じお菓子を食べて…

「美味しいね、これ好きだな」って
言ってるのを聞いて

自分と同じ事を…先輩も思ってるって…

他の人達も同意してる 美味しいお菓子なんだけど…

先輩と皆と…普通の人と同じって…
それだけで、嬉しくて…十分だった。

告白とか、大それた事をするつもりなんて、微塵も無い。

この、クッキリした 重たい一重のつり目に 鼻の形も…

何度、「狐」と言われたことか…

表面上 仲良くしてくれてても
陰で「キツネ」って…言ってたし…。

容姿もだけど…生まれだって……。

相手が 先輩じゃ無くても
告白も結婚も…自分には……。

今日は、チームとして 最後の仕事…
打ち上げで…。

先輩は優秀だから
もう 同じチームになる事も…

それに、異動とか栄転とかも
十分にあり得る…。

内面的にも…こんな自分にまで 気を遣ってくれて…とても善い人だし…皆の人気者だもん…。

だから、今日は…チームのメンバーとして、何気ない会話を 一言 出来れば…って

「これ、美味しいですね?」とか
「次のお酒は?」とか

そんな一言を交わせればって…。

その時に、いつもよりも メイクとか頑張ったって 気付いてくれなくていいから…

自分のベストを尽くした姿で…
先輩の視界に入れたらって…思って…

早起きして…ううん…1週間前から…
肌に良いように…って…してたのに……。

開始早々…お知らせが ありますって…
今度、結婚しますって…!!

先輩を狙ってた人は多かったし…でも、彼女さんがいるのを知ってる人も多くて…

あたしは、全然 知らなくて…いや、ステキな人だから、絶対 彼女さんはいるって、思ってきたけど…

その存在を聞かされるのと…
結婚の話は…グサッときたし…

あたしって、大それた事って 思ってたクセに…本気で 先輩が好きだったんだって…

気付く ちょっと前に
既に 失恋な訳だけど…。

そこから、絶対に 表情にも態度にも 出してはいけないって 自分に言い聞かせて

でも そんな事は 慣れっこで、得意だから、上手く出来てたはず。

表情だって、小さい頃から
何百、何千って 練習したんだから…

ちょっとでも、愛想よく見える様に
狐感が無く見える様に…

気に入ってもらえるように……。

結局、先輩の周りには 人が沢山で
言葉を交わす事もなく

離れた席から「おめでとうございます」と、自分の席の近くの人達と 声を揃えて言って…

それで、お終い…恋は…。

この失恋は 予想よりも苦しくて
表情とか態度に出そうで…

酔ってしまって と言って
二次会には 行かず

それで、先輩との仕事も お終い…。

あたしの顔色が 本当に悪かったみたいで、誰も 嘘だと思って無いだろうから 良かった。

先輩は 華やかなメンバーに 
ううん、皆に 囲まれて

「残り少ない 独身生活を満喫するぞ~!」って

そのまま 繁華街に消えて行った。
あたしの事なんか 一瞥もせずに。

まあ 当然だけど…幹事でもないし、二次会参加者のチェックとか…しないよね…。

席が近かった人達が、あたし1人で 帰すのは…って 気を遣ってくれたけど

「大丈夫」って「タクシーで帰ります」って言ったら、安心して二次会に行って…。

タクシー待ってる人も 沢山いたし
安全だと思って。

あの時、お金の事を考えずに
タクシーで帰っていたら…!!

でも、そんな余裕も無いし…。

土地勘ないから、駅までの最短ルート調べて…そしたら…ホテル街を突っ切るルートって…

ホテル街に入ってから 気付いて。

引き返すよりも、進んだ方が早い場所で…

それに、どうせ あたしが声をかけられるなんて無いし…

今までの実績があるから、とか
変な自信があったし。

それでも、足早に 端を歩いてたら…

まさか、道でも無い所から 人が出て来て…

あんな事に巻き込まれるなんて…!!!

正直…記憶が無い…というか、驚き過ぎて…必死に 言われた通りにしただけ…

何て言われたかも…今、こうして 落ち着いて思い出そうとしても…

嵐の様だったから…
記憶が 曖昧というか…。

最後、仲間の人達が来て、一緒になって「頑張って」って、名前も呼んで…

あれ、苗字?珍しい苗字…
初めて聞いたけど…名前の方かな…?

大丈夫…よね?助かってるよね…
あたしの処置が 悪くて…⁉︎

そう考えると、体がブルッと震え
動悸が一層 全身が脈打つように…

息が…上手く出来ない…!!
冷や汗も…

大丈夫…大丈夫…また、声に出して
自分を落ち着かせて…。

「あの人」も「ありがとう」って
仲間の人達も、「感謝します」って
何度も言ってくれて…

大丈夫よね…?あたしの処置が悪いなんて…言われないよね…??

何の人だったのか…職業は…
思い当たるのは…考えたく無いけど…

でも、バッチついてた…服に。

あのバッチって…何の職業だっけ…
じっくり見る余裕も無かったけど…

警察とか?法律関係の人も
バッチつけてる…よね?

「あの人」も…あの状況だけど
物腰柔らかで 話し方も丁寧だったし…

裏の仕事とかじゃ…仲間の人達も…
「お嬢さん ありがとうございます」って…
腰が低かったし?優しかった…。

「あの人」が運ばれた後…
呆然と立ち尽くしてた あたしに…

仲間の人が 1人残って…帰り支度を…
血塗れだからって…

ホテルのシャワー借りて、服も浴衣をって、それで…その格好じゃ…って

今は 服屋が閉まってる時間だからって…
自分のコートを 羽織って下さいって…

パンプスも汚れてたから、ホテルのスリッパで…裏口から 外に出て

タクシー拾っててくれて…
服は処分しときますって…

「!!!」

ハッとなり、バッグの中を確認する。

バッグは 色々入ってるから
このまま持って帰ったんだけど!!

だけど!!!

「!!!!!」

あった…やっぱり…!!!

どうしたらいいの!!??

最後、「汚して駄目にした服代とお車代です」って…

何か 分厚いのをバッグに入れた?って思ってたけど…!!

もう、何も考えられなくて…!!!

いつも 会社用に使ってる
安くて使い勝手のいい バッグには…

札束が…見えてるだけで…2…3…

もう、気絶しそうだ。

一瞬、警察か法律関係の人達かと思ったけど…

そんな人達は、こんな風に 札束をバッグに入れないだろうし…。

つまり、「あの人」達は…裏の世界の…

待って!!?この!コート!!!

どうしたらいいの!!?返すの?!!

何て言ってたっけ?!!

待って!!?

じゅっ 銃とかっ クッ クスリとか…ッ!

コートに入って無いよねッ…?!!

何か…秘密のメモとか…!!?

命狙われたり、犯罪者に仕立てられたりとか…?!!

「その人」は、今まで見聞きしてきた テレビの警察モノやサスペンス的な情報を 思い出し

頭をフル稼働させ、色々と考え…

可哀想に、人生最悪の日から どうしていいのか分からない状態のまま…

恐怖を抱えた 人生最悪の日々が続くのだった…。
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