パンストの御恩と御縁を還す 白稲荷ときつね

AnnA

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第2歩 「焼肉事変」の裏側で②

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俺が通りに出ると、「その人」は 俯いていた顔を上げ、声も出ないほど驚き

重たい一重の目を 真ん丸くして 足を止めた。

そりゃそうだ。

いきなり自分の目の前に 男が出て来るのでも 十分驚くが…ホテル街だし 尚更だ。

しかも、出て来た場所は 路地とも言えない ビルとビルの隙間で…

本来、人なんか出て来る場所じゃない。

猫くらいだ。ここから出て来るのは。

驚き、時が止まった様にしてて、声も出せない、その瞬間を逃しはしない。

「その人」の首に腕を回し、ガシッと掴んで、悲鳴を上げる前に…!

耳元で…他人に聞こえない声量で

「驚かせて申し訳ありません。お願いです、今 1人で歩けませんので 力を貸してください。絶対に、変な事は致しません。身体がキツくて…横になりたいので、どうか ホテルの部屋まで 肩を貸してください。部屋の前までで 結構ですから…」

最後の力を振り絞り、息が苦しいけど やっとの思いで 話の内容が分かるように、途切れず 言い切ったが…

「その人」は、いきなり知らない男に抱きつかれ 驚きと恐怖と諸々で固まってしまい、理解できてない様だ。

まあ、無理もないが…この瞬間にも
俺の血は 流れ続けてるから
止まってる時間は 1秒も無い。

男の力で、力づくでホテルになんて
今の俺には 出来ない。

「この人」に寄りかかって立ってるのが
やっとだ。

俺が重たいからか
恐怖で足がすくんだか
腕の中に居る「この人」は 下へ…

座り込みそうだ…
必然的に俺も…一緒に沈む…

ああ…ここまでか…

耳鳴りで 聞こえ難いが…
スマホから、声がする。

どうか 俺に力を貸してやって下さいと…

電話の向こうで…
組の人間が懇願してる…

まだ…意識があるうちは…
諦めない…!!

俺が「あの…!」と言うと同時に
「あ… 血…?」と、呟き

懇願されたからか、この 鉄のような…
むせかえるような 血の匂いに気付いたからか

「この人」は ハッとなって 身を固くして
足に力を入れ 俺を支えようと…してくれてる?

突然の事に 驚いて固まっていたけど
ヤバイ状況という事が 分かった様だ。

もう一度、落ち着いて
「この人」に お願いする。

「あの… 立って居られないので、大変申し訳ありませんが…部屋の前までで良いので…お力を貸してください…お願いです…」

「あっ…えっ…救急車はっ…⁈」

「使えないんです…」

スマホからも、自分達が もうすぐ着くから、どうか 救急車を呼ばずに ホテルの部屋に 俺を送り届けて欲しいと 懇願しているのが 聞こえる…。

「あっあのっ…どっどこのホテルですか…⁈」

「あ…ここで、このホテルでいいです…1番 近い部屋を…お願いします…」

「はっはいっ!!」

重たいだろう…俺は…
でも、「この人」は 必死になって…
言われた通りに してくれてる…

まあ、この状況だから
俺を助けずに逃げたら…

それに、俺が一般人じゃ無いのも
分かってるだろうし…
協力せざるを得ないよな…

元々…内気で 気弱そうだし…
反抗とかせず…事なかれ主義で…
生きて来た人…だと…

一見した…印象は…
だから、「この人」を選んだ…

頭がボーっとする…ヤバイ…。

俺の言った事と
スマホからの 組の人間の指示を受け

1番 近い部屋…1階のフロント過ぎて
すぐの…部屋が空いてた。

この立地だ。フロントの人も 日常茶飯事なのか、血塗れの客の対応も 慣れたモンだな…。

「この人」は、部屋の中まで
俺を運んでくれるようだ。

善い人だな…あ…そうだ…パンストを…と
朦朧とする中 止血を考えていると
いつの間にか 部屋の中央まで来ていて

「あっあの…!座りますかっ?布団に横になりますかっ…?」

「あ…」

部屋を見渡すと…昭和の遺産の様な…ホテル…よりにもよって…和室…それに…

声に出して「ハハ…ッ」と
笑いが出た…

部屋は、壁紙も家具も 紅色で統一され…
吉原の遊郭の一室を 模してる様だ…

苦笑とも 失笑とも…分からないが…
フフフと 鼻で笑ってる 俺…。

こんな…俺に ピッタリの…部屋があるか…?

この俺の…人生そのものの様な…部屋が…!

「あっ あのっ…?」

「あ…あぁ…すみません…そこの…ソファーに…座って、止血しますので…」

「はっ はいッ!!」

やっとの事で ソファーに倒れこむ…

女の力じゃ、ゆっくり腰掛ける様に…
なんて 無理だ。

よくやってくれた…本当に…

それに、今の衝撃からの痛みで
朦朧としてた頭が少しクリアに…は
なっては無いけど…少し覚醒。

でも、俺の反応が遅いのが分かるんだろう、スマホから「この人」に

俺が どんな状態かとか、止血を、とか
言ってるのが聞こえる…

「この人」は、真面目な人のようで
言われた通りに 部屋を見渡し

バスローブは 見える範囲に無いとか
浴衣はあるとか…

縛る紐 探しだな?あるんだ…
1番 ピッタリなのが…
大変申し訳ないが…

「あの…」

「はい!大丈夫ですか⁈」

「紐代わりに ストッキングを…」

「ストッキング!分かりました!あの…こんな…ホテル 初めてで…どこの引き出しに ストッキングがあるんでしょうっ?」

「あ…いえ…今、貴女が 穿いているのを…」

「…えぇっ⁈だって…1日穿いててっ…!きっ汚いですし!!」

「そんな事は…お願いです…もう、血が…ストッキングくらいしか…手の力も…」

「あ…は…」

スマホからも、ストッキング脱いで下さい!お願いです!!止血を手伝ってやって下さい!!!と…

耳鳴りが 凄いけど…聞こえてくる…

もう、目を開けてるのも やっとで…
「この人」の表情までは…

けど、命に関わると…
一大決心で脱いで…

スマホからの指示を頼りに…
必死な声で…

「あの!手っ…どこですかっ?右っ?左っ?手だけ⁈他はっ⁈」

「あ…右腕と腹…」

「どっちが先ですっ⁈」

「あー…右腕…左手で押さえてる…所より…上で…思いっきり縛って…あ…ストッキング…腹にも使うので…半分に…」

「ストッキング 破ればいいんですね⁈片足ずつに⁈」

「そうです…」

会話してないと…意識飛びそうだから…
丁度いい…。

ストッキング…胴回りの部分が なかなか裂けなくて、泣きそうな声で

「お願い!破れて!!」と…
女の力じゃ難しいか…

でも、今の俺じゃ…諦めるな!俺!!

「先に、腕を縛ります…破れて無くていいので!そのままで…」

「はい!!」

指定した通りに…創より上に ストッキングを腕に回して、ギュッと縛ってくれて…

正直、もう感覚が無いけど…
大丈夫そう…

結び目…解けないように…
2回縛って…癖なんだろうな…

蝶々結び…靴じゃ…
まあ、いい…

「あ!つい!あ!!きれいに半分じゃ無くていいのか!!」

そう閃いて、胴の部分じゃなく
太もも辺りの部分を引き裂いて

「あの!お腹は⁈どこら辺ですかっ⁈」

「あ…この…丁度、スーツが破れてる所で…」

「ええ!!大きい!!大丈夫ですか⁈どう…縛ったら…⁈」

「あ…刺されて無くて…横に…切り傷みたいな…感じ…かな…?」

「あ…切り傷…切り傷…!あの!何か、当て布みたいなのして…上から縛りましょうか⁈」

「あ…それで…」

スマホから、「ナイスお嬢さん!!」と、「お嬢さん!タオルが風呂場にあるハズです!!」と…。

それを聞いて すぐに「そうですね!!」と、風呂場に走り…

ありったけのタオルを抱えて来て…
意外に…テキパキと…

加えて、スマホからの指示通り その上から 更に タオルを丸めたのを押し当て 圧迫して、浴衣の紐で 固定して…

「…慣れてますね…?」

「え⁉︎あ、小学校で…保健委員で…中学も…あみだくじで…」

「へぇ…それでか…あみだくじに外れて?」

「あ…希望して無いのに、1番人気の保健委員に当たってしまって…イジメられました…」

「あー…それは…可哀想に…でも…お蔭様で、俺は助かりました。本当に…あり…が…と……」

「⁈ え⁉︎ちょ!!ちょっと!!?大丈夫ですか!!?」

「お嬢さん!!どうなってますかッ⁈」

「真っ青で!!はじめから真っ青でしたけど!!もう…ッ血の気が無いです!!」

「しっかり!!もう着きますから!!お嬢さん!!お願いです!!頭を下にしてッ!!足を持ち上げてッ!!!」

ここまで…聞こえた。

耳鳴りで…ザーザー…ピーピー…聞こえる…目も…昔のテレビの砂嵐画面みたいな…

もう、目の前の「この人」も見えない。

寒い…凍えそう…

痛みは…感じない…

最期に…頼もうか…

「この人」に…

布団まで…運んで…と。

いや、布団の上で死ねる様な…人並み…

いや、贅沢か…俺には…。

飯食って、風呂入って、布団の中で眠るように…なんて、贅沢過ぎる…

砂嵐から…真っ暗になった…

もう、これまで…か…

「この人」には…悪い事した…
とびきりの お礼をしてやって欲しい…

まるで…鏡を見てるかのような…

あ…耳は 最後まで聞こえるって…
本当だった…

俺の名を呼んでる…
しっかり…頑張って…って…

「この人」も…一緒になって…
俺の名を呼んで…

不思議と…1番よく…聞こえる…な………







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