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2話 午前4時の攻防
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――――
――
――そして、深夜4時
「おい、藤井……」
「なんですか、部長……」
「流石に疲れたな……」
「既に月明かりすら、山の向こうに沈もうとしていますが……」
二人は未だに狩りを続けていた。前々日の午前中から始まるクエスト、休憩はほぼ無し。絶え間なく湧き出るスライムを延々ぶっ叩き続けるという異常なクエストに、二人は既に疲労困憊であった。
だが救われた部分もあった。スライムの腐敗臭は、気温の低下によりそれほど漂わなくなった。それは、藤井たち少々慣れたということでもある。ただし救われたと言っても、あくまでスライムに対する臭いだけで、肉体的・精神的には少しも救われていないのだ。
手の豆は全て潰れた。棍棒は俺自身で血塗られている。膝も笑いっぱなしで、ただ立っているだけで、手や腕身体全体が震えてくる。
そんな中ふと、藤井が気付いた。
「ねぇ……部長……。こいつのHPって、極端に少ないんじゃないですか?」
「言うな藤井……、そんなことは判ってるんだよ……。ただ、その数が異常すぎるんだよ」
「じゃあ、部長はなんだって、こんなクエスト受けたんですか……」
「一食1280ゴールドの世界で、生きていくには仕方がないことなんだよ……。お前はまた野草を齧って食いつなぎたいのか?」
「いや……。あれはもういいです。苦いし、美味しくないし、無理に食べれば下痢が続きましたし。でも、だからって何もこんな、きついクエストじゃなくても……」
「大体“お前ら”が、寝坊しすぎて、気が付いたらこのクエストしか残ってなかったんだよ!!!」
「――!! す……、すいません……」
実はギルドからの仕事を受けたは良いが、メンバーの殆どは疲労が溜まりすぎて、正常な起床が出来ないでいた。
「4人揃わないと、クエスト受けれないんだよ!! 通勤ラッシュや餌に群がる鯉じゃあるまいし、毎朝毎朝クエストボードからクエストを奪う仕事はしたくないんだよ! それに受注内容すら禄に確認できないのに、どうやってまともなクエスト受注できるんだよ! 全くもう、誰だよこんな仕様にした……は!!」
実はこの仕様。初期時に社長自らが設定したもので、「遅刻するヤツは連帯責任だ」となっているため、部長ですらあまり強くは言えなかったのである。
「はぁはぁ……。と、とは言えだ、もうじき目標まであと100匹程度にはなったな……。良く頑張ったな藤井」
「その一方で、女子社員は木陰でバリア張って、枕どころか寝袋まで生成して寝てますけどね……」
木陰の下で、女子二人は身体を折り曲げ、こちらの苦労も知らずに、安らかに寝息を立てている。
「彼女らは仕方ない。女子に過酷な労働を強いてはいけない」
「俺も強いられたくないんですけど……」
「藤井は男だからしょうが無い」
「くそっ、女で作れば良かった!!」
「そもそも、性別選べんだろうが。というか、藤井よ、彼女らの寝袋生成したのお前だろう。なんでもっと早くに言わなかったんだ。便利な武器を作るとか、いろいろ出来ただろうが」
「物質変化出来るのは、つい昨日知ったことなんですよ。多分スライムぶっ叩いて、スキルがアンロックされたんじゃないですかね……」
「変化できるなら、変化したアイテム売り捌いて金儲けできそうだな!!」
「とは言いますけどね、部長……。自分の棍棒で試してみたら持って数時間、そして変化中はMPがじりじり減少、そしてフィールドの木や石、部長のバットとか殆どのアイテムはロックされています。狸のお金じゃあるまいし、その行為は欺行為ですよ」
「そういえば、そうだったな……」
「それに回復したMPだって、一度の寝袋生成で殆ど持っていかれ、変化中は継続的にMP減らされるんで、ゴミスキルですね」
「なんだか使えんな、そのスキル!」
「と言うわけで、こんなスキルしか無いのに、部長に肉体労働されられているこっちの身にもなってくださいよ……。まぁ、この労働のお陰でスキルがアンロックされたことは、多少感謝していますけども……」
「まぁまぁ……。ほれ、もう少しで狩り終わるぞ」
「何せ、地面を転がってるだけで、スライムが倒せるってのが分かりましたからね……」
スライムのライフは極限まで下げられている為か、些細な衝撃で倒せると知ったのは4万匹越えたあたりで、藤井が滑って転んだ時に発覚した。もう少し早く気づいていれば豆も潰れず、疲労は最小限で済んだのかもしれない。だが、転がる度に顔に付き、口や鼻、耳の穴にまで、そのスライムの粘液が入り込むのであった。
「まぁ、目が回るのと、臭いさえ我慢出来れば、こいつらは雑魚中の雑魚だからな……」
そして再び転がり続けること数十分。ようやく最後のスライムを討伐することに成功する。密集している時であれば、転がるだけで討伐数は安易に稼げるが、個体数が少なくなると、密度も甘くなるため、固体を探し出すこと自体に時間がかかってしまうのだ。だが、それももう間もなく終わる。部長と藤井は、ようやくこの地獄のようなクエストからの解放に、安堵の気持ちでいっぱいであった。
「よし、これで最後の一匹か、見つけるまでに時間が掛かったが、ようやく帰れるな」
「身体動かしていないせいか、突然冷えてきましたね……、鳥肌すら立ちそうですよ」
藤井の漏らす言葉のせいであろうか。いや、そんな事は無い。確かに空気がヒヤリと下がる。その極端な温度変化は肌で感じられるほどであった。冷たい風が吹くとかそういう次元ではない、例えるなら悪寒に近い感じだった。
さっきまで倒していたスライムであったが、臓物だけは踏みつけても潰れることは無く、留まり続けていたことが不思議であったが、その意味が今分かった。臓物は1点に向かい寄り集まると、それは1つの集合体を形成する。各個の臓物は色を取り戻し、脈を打ち始め、そのたびに紫の体液が漏れ出る。ぶじゅぶじゅと奇怪な音を立てながら、ゆっくりゆっくりと、その大きさを増す。
「……部長……ちょっと、待ってください。あんな巨大なスライム見た事ありますか……?」
背後に居たその大きなスライムは、既に人の大きさを超え、最も高い木をも優に超えるまでに至った。そして、ゆっくりとゆっくりと、女子社員の寝袋のある木陰へと進路を変える。
「おい藤井、あのクソでかスライム。なんだかこっち向かってきてるじゃねぇか!!」
「いや、よく見てください! どうやら、女子社員たちのバリアに吸い寄せられているようです!!」
「おいおいおい、はやくバリアに入って女子社員起こせ、藤井! 俺がやったらセクハラになっちまう!」
「待って下さい、部長。このバリア……」
「おい、どうした藤井、早く女子社員起こして退散するぞ!」
「……バリアに入れないんですが……」
「おいおいおい! バリアって言うのはパーティ限定じゃないのかよ!!」
「まって下さい。今、解析できました!」
藤井の目には視覚情報の他にパラメーターが映るようになっていた。
だがそれは、解析には少々の時間と、やはりMPを徐々に持っていかれるのが欠点である。
「おおっ!? 藤井のスキルに、そんな機能があるのか!」
「男子(壮年期※)禁制だそうです……」
※30~64歳
「どんなバリア張ってるんだよ!! 藤井も俺も襲わねぇよクソが!」
「仕方ない、そのまま一旦退避するぞ!!」
「でも、まって下さい部長!! もしあいつが男子(壮年期)でなかった場合はどうなんでしょうか!!」
「そりゃあ、侵入される……されるに……。まずいな、この状況!!」
「そうなんです、まずいんですよ!!」
「あいつ(スライム)が、壮年期かつ男子でないことを願うしか無いな……」
「部長、逆ですよ逆!! コンプラに引っかかりますよ!」
「しまった、つい本音が!! いやそんな事を言っている問題ではない!」
「由々しき問題ですよ、部長! どうします、コレ。コレどうしますか!!」
「まてまてまて、冷静になれ藤井よ。こういうときは落ち着いて考えるんだ……。まず、ここで考えられる選択肢は2つという事だ」
「……と、いいますと?」
「一つは、“スライムにバリアが効くことを願っての一次退散”……」
「……」
「そして、もう一つは“バリアを抱えて退散”と言うこ――」
「2つめで行きましょう」
「即答だな、藤井よ」
「いくらバリアが強靭だからと言っても、流石に女子社員を見殺しにはできませんよ!」
「面倒くさがりやのお前の割には、随分とまともな事言ってくれるじゃないか」
「部長の口から、そんな腐れたセリフが出てくるとは思っても居ませんでしたが、今はそうするしかないですよ」
「だな!! 幸いバリアは球状。二人で抱えればなんとかなるだろ! よし、やるぞ藤井! そっちの端のバリアを持ちあげろ! 気合い入れろよ藤井!!」
だが、そのバリアは球の半分から上までしか露出していなかった。それはつまり、地面内部にもバリアがあると言うことを示していた。
「ふんぬぅぅ! だめです、部長。残念なことに、地面にもバリアが食い込んでいるようです!!」
「ちっ、ダメか! それなら下から上に蹴り飛ばすようにして、無理やり地面から引きはがすぞ!!」
バリアに尻を向けて仰向けに、そのまま膝を曲げて両足をバリアに付ける。深夜にやるような事では無い。そんなことは藤井も部長も重々承知である。だが今は、そんな些細なことに構っては居られなかった。
「いきますよ、部長!!」「っせーの!」
部長と藤井二人は、かけ声と共に、そのまま蹴り飛ばし、内部の地面ごと持ち上げることに成功したのだ。
「うっしゃぁあぁぁぁ!!」「やりましたね部長!」
「よし、藤井。ここまで出来たら、あとは抱え……」
「無理です部長!! 重すぎてピクリとも動きません!!」
「ちっ、しまった。俺の力ですらダメだ、なんて重量だ、重すぎる!! こんな事ならベンチプレスでもっと鍛えておくべきだった!」
「ベンチプレス関係ないですよ部長!!」
「仕方がない、こうなった以上、大玉ころがしの原理で転がしてこの場から離脱するぞ!!」
「――! そんなことしたら、中の二人は……」
「構うな! いまの状況からそんなことを考えている余地はない。死ぬ気で転がすぞ藤井!!」
「承知しました部長!!」
こうして深夜の大玉転がしならぬ、バリア転がしが開始された。
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――そして、深夜4時
「おい、藤井……」
「なんですか、部長……」
「流石に疲れたな……」
「既に月明かりすら、山の向こうに沈もうとしていますが……」
二人は未だに狩りを続けていた。前々日の午前中から始まるクエスト、休憩はほぼ無し。絶え間なく湧き出るスライムを延々ぶっ叩き続けるという異常なクエストに、二人は既に疲労困憊であった。
だが救われた部分もあった。スライムの腐敗臭は、気温の低下によりそれほど漂わなくなった。それは、藤井たち少々慣れたということでもある。ただし救われたと言っても、あくまでスライムに対する臭いだけで、肉体的・精神的には少しも救われていないのだ。
手の豆は全て潰れた。棍棒は俺自身で血塗られている。膝も笑いっぱなしで、ただ立っているだけで、手や腕身体全体が震えてくる。
そんな中ふと、藤井が気付いた。
「ねぇ……部長……。こいつのHPって、極端に少ないんじゃないですか?」
「言うな藤井……、そんなことは判ってるんだよ……。ただ、その数が異常すぎるんだよ」
「じゃあ、部長はなんだって、こんなクエスト受けたんですか……」
「一食1280ゴールドの世界で、生きていくには仕方がないことなんだよ……。お前はまた野草を齧って食いつなぎたいのか?」
「いや……。あれはもういいです。苦いし、美味しくないし、無理に食べれば下痢が続きましたし。でも、だからって何もこんな、きついクエストじゃなくても……」
「大体“お前ら”が、寝坊しすぎて、気が付いたらこのクエストしか残ってなかったんだよ!!!」
「――!! す……、すいません……」
実はギルドからの仕事を受けたは良いが、メンバーの殆どは疲労が溜まりすぎて、正常な起床が出来ないでいた。
「4人揃わないと、クエスト受けれないんだよ!! 通勤ラッシュや餌に群がる鯉じゃあるまいし、毎朝毎朝クエストボードからクエストを奪う仕事はしたくないんだよ! それに受注内容すら禄に確認できないのに、どうやってまともなクエスト受注できるんだよ! 全くもう、誰だよこんな仕様にした……は!!」
実はこの仕様。初期時に社長自らが設定したもので、「遅刻するヤツは連帯責任だ」となっているため、部長ですらあまり強くは言えなかったのである。
「はぁはぁ……。と、とは言えだ、もうじき目標まであと100匹程度にはなったな……。良く頑張ったな藤井」
「その一方で、女子社員は木陰でバリア張って、枕どころか寝袋まで生成して寝てますけどね……」
木陰の下で、女子二人は身体を折り曲げ、こちらの苦労も知らずに、安らかに寝息を立てている。
「彼女らは仕方ない。女子に過酷な労働を強いてはいけない」
「俺も強いられたくないんですけど……」
「藤井は男だからしょうが無い」
「くそっ、女で作れば良かった!!」
「そもそも、性別選べんだろうが。というか、藤井よ、彼女らの寝袋生成したのお前だろう。なんでもっと早くに言わなかったんだ。便利な武器を作るとか、いろいろ出来ただろうが」
「物質変化出来るのは、つい昨日知ったことなんですよ。多分スライムぶっ叩いて、スキルがアンロックされたんじゃないですかね……」
「変化できるなら、変化したアイテム売り捌いて金儲けできそうだな!!」
「とは言いますけどね、部長……。自分の棍棒で試してみたら持って数時間、そして変化中はMPがじりじり減少、そしてフィールドの木や石、部長のバットとか殆どのアイテムはロックされています。狸のお金じゃあるまいし、その行為は欺行為ですよ」
「そういえば、そうだったな……」
「それに回復したMPだって、一度の寝袋生成で殆ど持っていかれ、変化中は継続的にMP減らされるんで、ゴミスキルですね」
「なんだか使えんな、そのスキル!」
「と言うわけで、こんなスキルしか無いのに、部長に肉体労働されられているこっちの身にもなってくださいよ……。まぁ、この労働のお陰でスキルがアンロックされたことは、多少感謝していますけども……」
「まぁまぁ……。ほれ、もう少しで狩り終わるぞ」
「何せ、地面を転がってるだけで、スライムが倒せるってのが分かりましたからね……」
スライムのライフは極限まで下げられている為か、些細な衝撃で倒せると知ったのは4万匹越えたあたりで、藤井が滑って転んだ時に発覚した。もう少し早く気づいていれば豆も潰れず、疲労は最小限で済んだのかもしれない。だが、転がる度に顔に付き、口や鼻、耳の穴にまで、そのスライムの粘液が入り込むのであった。
「まぁ、目が回るのと、臭いさえ我慢出来れば、こいつらは雑魚中の雑魚だからな……」
そして再び転がり続けること数十分。ようやく最後のスライムを討伐することに成功する。密集している時であれば、転がるだけで討伐数は安易に稼げるが、個体数が少なくなると、密度も甘くなるため、固体を探し出すこと自体に時間がかかってしまうのだ。だが、それももう間もなく終わる。部長と藤井は、ようやくこの地獄のようなクエストからの解放に、安堵の気持ちでいっぱいであった。
「よし、これで最後の一匹か、見つけるまでに時間が掛かったが、ようやく帰れるな」
「身体動かしていないせいか、突然冷えてきましたね……、鳥肌すら立ちそうですよ」
藤井の漏らす言葉のせいであろうか。いや、そんな事は無い。確かに空気がヒヤリと下がる。その極端な温度変化は肌で感じられるほどであった。冷たい風が吹くとかそういう次元ではない、例えるなら悪寒に近い感じだった。
さっきまで倒していたスライムであったが、臓物だけは踏みつけても潰れることは無く、留まり続けていたことが不思議であったが、その意味が今分かった。臓物は1点に向かい寄り集まると、それは1つの集合体を形成する。各個の臓物は色を取り戻し、脈を打ち始め、そのたびに紫の体液が漏れ出る。ぶじゅぶじゅと奇怪な音を立てながら、ゆっくりゆっくりと、その大きさを増す。
「……部長……ちょっと、待ってください。あんな巨大なスライム見た事ありますか……?」
背後に居たその大きなスライムは、既に人の大きさを超え、最も高い木をも優に超えるまでに至った。そして、ゆっくりとゆっくりと、女子社員の寝袋のある木陰へと進路を変える。
「おい藤井、あのクソでかスライム。なんだかこっち向かってきてるじゃねぇか!!」
「いや、よく見てください! どうやら、女子社員たちのバリアに吸い寄せられているようです!!」
「おいおいおい、はやくバリアに入って女子社員起こせ、藤井! 俺がやったらセクハラになっちまう!」
「待って下さい、部長。このバリア……」
「おい、どうした藤井、早く女子社員起こして退散するぞ!」
「……バリアに入れないんですが……」
「おいおいおい! バリアって言うのはパーティ限定じゃないのかよ!!」
「まって下さい。今、解析できました!」
藤井の目には視覚情報の他にパラメーターが映るようになっていた。
だがそれは、解析には少々の時間と、やはりMPを徐々に持っていかれるのが欠点である。
「おおっ!? 藤井のスキルに、そんな機能があるのか!」
「男子(壮年期※)禁制だそうです……」
※30~64歳
「どんなバリア張ってるんだよ!! 藤井も俺も襲わねぇよクソが!」
「仕方ない、そのまま一旦退避するぞ!!」
「でも、まって下さい部長!! もしあいつが男子(壮年期)でなかった場合はどうなんでしょうか!!」
「そりゃあ、侵入される……されるに……。まずいな、この状況!!」
「そうなんです、まずいんですよ!!」
「あいつ(スライム)が、壮年期かつ男子でないことを願うしか無いな……」
「部長、逆ですよ逆!! コンプラに引っかかりますよ!」
「しまった、つい本音が!! いやそんな事を言っている問題ではない!」
「由々しき問題ですよ、部長! どうします、コレ。コレどうしますか!!」
「まてまてまて、冷静になれ藤井よ。こういうときは落ち着いて考えるんだ……。まず、ここで考えられる選択肢は2つという事だ」
「……と、いいますと?」
「一つは、“スライムにバリアが効くことを願っての一次退散”……」
「……」
「そして、もう一つは“バリアを抱えて退散”と言うこ――」
「2つめで行きましょう」
「即答だな、藤井よ」
「いくらバリアが強靭だからと言っても、流石に女子社員を見殺しにはできませんよ!」
「面倒くさがりやのお前の割には、随分とまともな事言ってくれるじゃないか」
「部長の口から、そんな腐れたセリフが出てくるとは思っても居ませんでしたが、今はそうするしかないですよ」
「だな!! 幸いバリアは球状。二人で抱えればなんとかなるだろ! よし、やるぞ藤井! そっちの端のバリアを持ちあげろ! 気合い入れろよ藤井!!」
だが、そのバリアは球の半分から上までしか露出していなかった。それはつまり、地面内部にもバリアがあると言うことを示していた。
「ふんぬぅぅ! だめです、部長。残念なことに、地面にもバリアが食い込んでいるようです!!」
「ちっ、ダメか! それなら下から上に蹴り飛ばすようにして、無理やり地面から引きはがすぞ!!」
バリアに尻を向けて仰向けに、そのまま膝を曲げて両足をバリアに付ける。深夜にやるような事では無い。そんなことは藤井も部長も重々承知である。だが今は、そんな些細なことに構っては居られなかった。
「いきますよ、部長!!」「っせーの!」
部長と藤井二人は、かけ声と共に、そのまま蹴り飛ばし、内部の地面ごと持ち上げることに成功したのだ。
「うっしゃぁあぁぁぁ!!」「やりましたね部長!」
「よし、藤井。ここまで出来たら、あとは抱え……」
「無理です部長!! 重すぎてピクリとも動きません!!」
「ちっ、しまった。俺の力ですらダメだ、なんて重量だ、重すぎる!! こんな事ならベンチプレスでもっと鍛えておくべきだった!」
「ベンチプレス関係ないですよ部長!!」
「仕方がない、こうなった以上、大玉ころがしの原理で転がしてこの場から離脱するぞ!!」
「――! そんなことしたら、中の二人は……」
「構うな! いまの状況からそんなことを考えている余地はない。死ぬ気で転がすぞ藤井!!」
「承知しました部長!!」
こうして深夜の大玉転がしならぬ、バリア転がしが開始された。
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