上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第一章 出会い編

第六話 雲の上の存在

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 大学に到着し、オリエンテーションの行われる教室に入る。300人ほどが収容出来そうな大きな教室に、既に半分ほどの人が着席していた。

 席は自由なので、俺は教室右側、中央より少し前の二人掛けの席が空いていたので、その左側に座った。しばらくすると、教室は多くの人で埋め尽くされた。

 俺は、ぼおっと正面のホワイトボードを眺めながら開始時間を待っていると、ふいに後ろから声を掛けられた。

「あの、すいません」

 声をもとへ振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
 その女性は、おどおどしながらも言葉を紡ぐ。

「隣、空いてますか?」
「あ、はい。どうぞ」

 女性は「すいません」と一言いいながら会釈する。俺は椅子を引いて、後ろを通してあげた。
 隣に座ったその女の子は、鞄を机に置き、ふうっと一息ついて汗をぬぐっていた。ギリギリになったため、走って来たのだろう。

 黒フレームの正方形の形をした、大きなレンズの眼鏡に映る綺麗な瞳、前髪をピンで止め、おでこを片側だけ見せたサラッとした少し青みがかった黒髪で、透明感あふれる小顔の美少女だった。

 俺はその美少女に目を奪われてしまい、じっと見つめてしまう。その視線に気が付いたのか、彼女がチラっとこちらを向いた。

 俺は、とっさにそっぽを向いてしまう。今までも美人な女性には何度も出会ってきたが、彼女のような群を抜いた美少女は初めて見た。

 俺はもう一度彼女の方をチラッと見た。すると、ずっとこちらを見ていたのか、彼女と目が合ってしまう。そして、彼女はニコっと微笑み、俺に会釈をしてきた。その瞬間、俺の心は完全に彼女に魅了されてしまった。

 それからしばらくして、オリエンテーションが始まった。学部長からの話などを聞いている間も、俺は隣の彼女のことばかり気になり、話が耳に入ってこなかった。
 
 そんな中、諸説明などが終わり、入学者たちに授業の一覧表が配られた。
 
 大学生はそれぞれ取りたい授業を中心に、時間割を自分で決めていくのだが、一年生は半分以上必修の授業が組み込まれているので、それ以外の授業をどのように選択していくのかが難しい。
 
 必修科目の予定を確認して俺は絶望する。マジかよ……土曜日に英語の必修入ってんじゃん最悪。まさかの、週6大学に通わなければならない事実に肩を落とす。
 
 ちなみに英語のクラスによっては、土曜日に授業がない人もいるため、これは運次第なのだが、どうやら運は俺に味方してくれなかったようだ。
 
 必修科目を一通り確認して、選択授業をどれにしようかと試行錯誤していると、どこからか声が聞こえてきた。

「あの、すいません」

 とても心細い声だったので、自分が声を掛けられているとは思わず、聞き流していた。だが、その声は再びもう少し強い口調で発せられる。

「あのぉー、すいません」

 ここで俺は、ふと時間割表から顔を上げて、キョロキョロと辺りを見渡した。隣に顔を向けると、美少女の彼女が俺に声を掛けてきていた。
 
 俺は一瞬ドキッとしたものの、慌てずに聞き返す。

「あの、その……もしかして、俺のこと呼んでた?」

 俺が自分のことを指さしながら隣の美少女に尋ねると、彼女はコクリと頷いた。

「そのぉ……時間割表の見方がよくわからなくて、教えてほしいんですけど」
「あぁ、いいよ」
 
 何だそんなことかと思い、俺はその美少女に、時間割の見方を丁寧に教えてあげる。彼女は俺の説明にこまめに受け答えをして、とてもしっかり者の印象を受けた。ちらりと彼女の真剣な表情を伺うと、どこかで見たことがあるような顔だな……と思いつつ、時間割の説明以外にも授業の組み方なども教えてあげた。
 
 説明を一通り終えると、彼女はとてもすっきりした表情になっていた。

「なるほど、そういうことなんですね! やっとわかりました。てっきり全部取らなきゃいけないのかと……」
「あはは、流石にそれはないよ、頭がパンクしちゃうよ」

 少しずつお互いの会話にもぎこちなさが消え、軽やかな空気になっていた。

「ありがとうございます。私……こういうのすごく苦手で、説明聞いても全然理解できなくて。でも、あなたのおかげでとてもよく分かりました」

 彼女は俺にお礼をいいつつ、にこやかな笑顔を向けてきた。

「どういたしまして。あ、俺は南大地っていいます。北の大地から来ました南大地って覚えてくれると、すぐに覚えられると思う」
「あはは、なにそれ。でも、確かに覚えやすいかも」

 彼女はくだらない自己紹介のシャレも、ニコニコと笑ってくれていた。

「北の大地ってことは北海道出身なの?」
「うん、そうだよ」
「実はね、私も北海道出身なんだ」
「え? そうなの!?」
「うん、私は札幌なんだけど、えっと……南君はどこら辺なの?」
「俺は室蘭の辺り」
「あぁーっ! あの辺かぁー」

 彼女も同じ北海道出身らしく、地元話で盛り上がった。地元での出来事や、東京にはよく来ているが、今年から上京してきたことなどを話してくれた。
 お互いに一通り話が終わり、しばし間が空いた。俺はその間を埋めようとすぐに話題を変える。

「そういえば、名前聞いてなかったんだけど……」

 俺がそう尋ねると、彼女は一瞬困ったような表情を見せて目線を逸らした。どうしようといったような戸惑った表情を見せていたが、少し顔を赤らめながら手招きをしてきた。
 
 どうやら、あまり他の人に聞かれたくないらしい。俺は、彼女の方へ耳を近づけた。
 彼女の吐息が、耳に直に伝わり、少しゾクっとするのを堪える。

「あのぉ……私の名前は……」

 その時だった、前に座っていた男女二人が突然振り向き、俺と彼女に声をかけてきた。

「ねぇねぇ、授業なに取るか決めた??」

 俺と彼女は、ビクっと身体を震わせて、お互い元の位置へ戻る。慌てて前を向くと、爽やかな雰囲気の男子と、お調子者系な女子が話しかけてきていた。

「あれっ?……もしかして話しかけちゃまずい感じだった?」

 爽やか系男子は、戸惑った表情を見せながら俺に尋ねてくる。すると、お調子者系女子が爽やか男子をどついた。

「バカ健太! 空気よめ」

 お調子者女子は、俺たちに向き直り、苦笑いを浮かべる。

「ごめんね、邪魔しちゃって」
「あっ、いやっ、邪魔なんかじゃ……」
「ホント? はぁ……よかった」

 隣の美少女の彼女がそう答えると、お調子者系女子はほっと胸をなでおろした。

「で、なんだっけ用件は?」

 俺が二人に尋ねると、健太と言われていたその男子が、慌てて話題を戻す。

「あ、そうそう、授業の取り方教えてほしいんだけどさ、説明のとき寝てて全然聞いてなくて困ってたら、ちょうど後ろで説明してたのが聞こえたから」
「そうそう、うちも寝ちゃってて全然聞いてなくて、申し訳ない」

 二人は申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。どうやらずっと聞き耳を立てて、俺たちの会話を聞かれていたらしい。少々恥ずかしかったが、別に断る理由は特になかったので、「別にいいけど」と一言答えた。

「ホントに、スゲー助かるわ。サンキュ!」

 健太といわれていたその男子は、俺の手を強引に握りしめて感謝の意を伝えてきた。

「あぁ、別にいいって」

 ……いきなりフランクでノリの軽い奴だな。
 俺は少し表情を引きつらせながら答えると、ようやく健太という男子は俺の手を解放してくれた。

「あ、そうそう。自己紹介が遅れてすまん。俺は、厚木健太あつぎけんた。そんでこっちが、高本詩織たかもとしおり
「どもー、高本詩織たかもとしおりって言います。あ、コイツとは高校の同級生なの、よろしく!」

 厚木と高本は、夫婦漫才のようなテンポのいい自己紹介を披露した。通りで仲がいいと思ったら、同級生なのか……納得。

「あぁ、よろしく。俺は南大地。北の大地から来た南大地て覚えてもらえるとすぐ覚えられると思う」
「ブッ! 何それ、ウケる」

 高本は、噴き出して下を向き、手で口を抑えながら、肩を震わせて笑っていた。どうやらツボに入ったようだ。

「わるいな、こいつ笑いのツボがちょっと浅い残念なやつなんだ」

 厚木が苦笑いを浮かべながら、俺と彼女に説明してくれる。

「うるさいわ! それで、そっちの子は?」

 笑い終えた高本が厚木にツッコミを入れて、すぐに今度は俺の隣の彼女へ話題を切り替える。

 俺を含めて三人は彼女へ視線を集める。彼女は少し恥ずかしそうに手を胸の前に置きながら答えようとする。

「あ、あの……私は……」

 彼女が名前を答えようとした時、厚木が彼女の言葉をさえぎって叫んだ。

「あれ? 井上綾香いのうえあやか!?」

 厚木の方を向くと、驚きを隠せない表情で彼女を指さしながら固まっていた。俺は再び彼女へ視線を戻すと、彼女は困ったような表情をしていた。しかし、意を決したかのように「はぁ」っと一息ため息をついて、スっと黒縁メガネを外した。

「あはは……ばれちゃったか」

 苦笑いをしながらメガネを外して現れたのは、あの透き通った透明感あふれる顔立ち。そして、人の心を離さない真っ直ぐな黒い瞳。紛れもなく、女優井上綾香いのうえあやか本人だった。

「初めまして、井上綾香です。えっと女優やってます。その……仲良くしてくれると嬉しいです」

 井上綾香は少し頬を染めながら、照れ笑いを浮かべていた。三人は突如として目の前に人気女優が現れた衝撃で、鳩が豆鉄砲を食らったようにポカンと口を開けて、ぼおっと彼女の透明感あふれる姿に見とれることしかできなかった。

 だがこの時、俺は胸の中で、目の前に現れたに衝撃を受けつつも、これから始まる大学生生活が、さらに楽しくなる予感しかなく、心を躍らずにはいられなかった。
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