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第2怪:真珠蜘蛛
ホンファの正体
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伏見と大石の姿が見えなくなってから、刹亜は大きく息を吐きだした。
パニック状態になっている大石は心配だが、伏見がいればどうにか入り口まで戻れはするだろう。気にはなるが、無事を祈ることしかできない。
それに何より。今、他人を気遣っていられる余裕はなかった。
「そんでホンファさん。俺はこれから奥まで行って爆弾を仕掛けてくるつもりだけど、ついてくんのか?」
「キヅイテイタノカ」
上から何かが降ってきたと思った直後、背後からホンファの声が聞こえてきた。
内心では盛大にビビり散らかしながらも、見かけ上は不敵な笑みを浮かべ振り返る。
「こうもあっさり出てきてくれるとはな。無視されるかと思ってたわ」
「バレテイルノナラ、カクレテイテモイミナイダロウ」
「あっそう。じゃあその片言もやめてくれねえか? 本当は普通に喋れるんだろ?」
「そうか。なら止めよう」
「……」
あまりにも当然のごとく流暢な日本語で話し出すホンファ。
こちらから頼んだことではあるが、刹亜はしばらく呆気にとられ声も出ず。
彼女は刹亜の反応を気にかけることなく、完璧な日本語で尋ね返してきた。
「それで、お前はどこまで知っているんだ? いや、気付いていると聞いた方がいいか」
「……その前に答えろ。蜘蛛の糸が増えてんのもお前らの計画通りか」
「違うな。私たちもこれは想定外だ」
「ならこっちも予定通り動くか」
刹亜は気を取り直して、真珠蜘蛛の最奥に向かって歩き始める。
ホンファは一瞬眉を震わせてから、ゆっくりとその後ろをついてきた。
周囲を警戒しながら蜘蛛の糸を飛び越える。ホンファも怪獣化することなく、ジャンプで糸を飛び越えた。
「えーと、俺がどこまで気づいてるかだっけ? 別に、何も気づいてねえよ」
しばらく歩いたところで、ようやく刹亜は質問に答えた。
「ならなぜ私が監視していることを知っていた」
「だから知ってたわけじゃねえって。単にカマかけてみただけだ」
「そうした理由を聞いている」
怒気は感じられない。だがふざけた回答を続けるようなら容赦はしないという、殺気じみた圧は強く感じられる。
背中にジワリと冷や汗をかきながら、刹亜は平静を装い応じた。
「てか、あんたは怪獣人間のわりに全然狂ってないんだな。俺の知ってるやつらは何かしらおかしくなってた気がすんだけど」
「強靭な精神を持つ者なら一般人のように振舞うのは十分可能だ。それ以上に適性の有無が大きいが」
「ふーん」
「で、どこまで知っている」
追及をやめる気配は一切ない。
面倒に思いつつも、刹亜はこれまでの自身の思考を話し始めた。
「最初の疑問は誰もが思いつくことだ。怪獣が支配する今の世界で、怪獣化できるからと言って中国から日本まで辿り着けるのかって」
「一角鷹は怪獣の中でも速度は速い方だ。それでは納得できなかったか」
「無理だね。建物の残骸や植物がうまく隠れ蓑として作用する地上ならともかく、障害物一つない空中を長時間移動すればまず間違いなく殺される」
海を隔てた各国の人的・物的移動というのはここ数年一度も成功していない。
当たり前の話だが、地球上の大半を占めるのは陸でなく海である。その分、海には陸よりも遥かに危険で厄介な怪獣が多数生息している。船で海を渡ろうなどすれば百パーセント殺される。
そして、そんな海よりさらに危険なのが空だ。陸地と違って障害物が一切なく、海よりも遥かに明るく視認しやすい。強いて言うなら雲があるが、雲型の怪獣や雲を拠点とする怪獣もおり、端的に言って安全な場所が一切ない。数百メートル程度の距離であれば気付かれず移動もできるだろうが、数キロ、数百キロ空中を移動して怪獣に見つからないのはまず不可能。
さらにさらに厄介なことに、空の怪獣は陸の怪獣よりもヤバイ。というのも、大地に縛られない影響か、大怪獣の数が桁外れて多いのである。
戦艦亀の一件から、怪獣人間の強さはある程度理解している。彼らが新人であったことから、歴戦の怪獣人間なんてものがいればその強さはさらに上であることも重々承知。
しかしその上で。かつて実際に大怪獣と戦った経験から、怪獣人間が単騎で大怪獣を倒せるほどではないと刹亜は判断していた。
勿論、とてつもない幸運により大怪獣と遭遇しない、遭遇してもうまく逃げることができ、無事に日本まで辿り着けたという可能性もゼロではないだろう。が、そんな限りなく奇跡に近い話よりも、ずっと現実的な推測がいくつも浮かんだ。
「もし中国から来たわけじゃないとすれば、当然日本にいたことになる。さらに怪獣化していることから特務隊のメンバーであることもほぼ確定。じゃあなぜ身分を偽っているのかといえば、俺らとは違う任務だからだ」
「ふむ。しかし私の任務がお前たちの監視であるとするならば、そもそも姿を隠していた方が良かったんじゃないか?」
「この怪獣が跋扈する世界で、怪獣と特務隊の双方から隠れながら監視するって? やれるもんならどうぞって感じだな」
「……」
挑発的な刹亜の口調に、ホンファの顔つきが険しくなる。
刹亜の態度を諫めるように白マフラーがぶるりと震えるが無視。
調子に乗って続きを語った。
「それに決定的だったのは二宮がお前の同行を許可したことだな。普通に考えて指示を聞かない、いつ裏切るかもわからないやつを連れて大怪獣の内部に入るわけないからな。特務隊の仲間だと見抜いたわけだ」
「……それで、私の具体的な任務も分かったのか」
「何となくな。こうして俺を監視してたわけだし、疑ってんだろ。戦艦亀での出来事を」
刹亜は立ち止まり、目を細めてホンファを見つめる。
彼女は黙ったまま見つめ返してくる。
どこまで確信をもって彼女がここにいるのか。
緊張から、刹亜は自然と白マフラーに手を伸ばし――
パニック状態になっている大石は心配だが、伏見がいればどうにか入り口まで戻れはするだろう。気にはなるが、無事を祈ることしかできない。
それに何より。今、他人を気遣っていられる余裕はなかった。
「そんでホンファさん。俺はこれから奥まで行って爆弾を仕掛けてくるつもりだけど、ついてくんのか?」
「キヅイテイタノカ」
上から何かが降ってきたと思った直後、背後からホンファの声が聞こえてきた。
内心では盛大にビビり散らかしながらも、見かけ上は不敵な笑みを浮かべ振り返る。
「こうもあっさり出てきてくれるとはな。無視されるかと思ってたわ」
「バレテイルノナラ、カクレテイテモイミナイダロウ」
「あっそう。じゃあその片言もやめてくれねえか? 本当は普通に喋れるんだろ?」
「そうか。なら止めよう」
「……」
あまりにも当然のごとく流暢な日本語で話し出すホンファ。
こちらから頼んだことではあるが、刹亜はしばらく呆気にとられ声も出ず。
彼女は刹亜の反応を気にかけることなく、完璧な日本語で尋ね返してきた。
「それで、お前はどこまで知っているんだ? いや、気付いていると聞いた方がいいか」
「……その前に答えろ。蜘蛛の糸が増えてんのもお前らの計画通りか」
「違うな。私たちもこれは想定外だ」
「ならこっちも予定通り動くか」
刹亜は気を取り直して、真珠蜘蛛の最奥に向かって歩き始める。
ホンファは一瞬眉を震わせてから、ゆっくりとその後ろをついてきた。
周囲を警戒しながら蜘蛛の糸を飛び越える。ホンファも怪獣化することなく、ジャンプで糸を飛び越えた。
「えーと、俺がどこまで気づいてるかだっけ? 別に、何も気づいてねえよ」
しばらく歩いたところで、ようやく刹亜は質問に答えた。
「ならなぜ私が監視していることを知っていた」
「だから知ってたわけじゃねえって。単にカマかけてみただけだ」
「そうした理由を聞いている」
怒気は感じられない。だがふざけた回答を続けるようなら容赦はしないという、殺気じみた圧は強く感じられる。
背中にジワリと冷や汗をかきながら、刹亜は平静を装い応じた。
「てか、あんたは怪獣人間のわりに全然狂ってないんだな。俺の知ってるやつらは何かしらおかしくなってた気がすんだけど」
「強靭な精神を持つ者なら一般人のように振舞うのは十分可能だ。それ以上に適性の有無が大きいが」
「ふーん」
「で、どこまで知っている」
追及をやめる気配は一切ない。
面倒に思いつつも、刹亜はこれまでの自身の思考を話し始めた。
「最初の疑問は誰もが思いつくことだ。怪獣が支配する今の世界で、怪獣化できるからと言って中国から日本まで辿り着けるのかって」
「一角鷹は怪獣の中でも速度は速い方だ。それでは納得できなかったか」
「無理だね。建物の残骸や植物がうまく隠れ蓑として作用する地上ならともかく、障害物一つない空中を長時間移動すればまず間違いなく殺される」
海を隔てた各国の人的・物的移動というのはここ数年一度も成功していない。
当たり前の話だが、地球上の大半を占めるのは陸でなく海である。その分、海には陸よりも遥かに危険で厄介な怪獣が多数生息している。船で海を渡ろうなどすれば百パーセント殺される。
そして、そんな海よりさらに危険なのが空だ。陸地と違って障害物が一切なく、海よりも遥かに明るく視認しやすい。強いて言うなら雲があるが、雲型の怪獣や雲を拠点とする怪獣もおり、端的に言って安全な場所が一切ない。数百メートル程度の距離であれば気付かれず移動もできるだろうが、数キロ、数百キロ空中を移動して怪獣に見つからないのはまず不可能。
さらにさらに厄介なことに、空の怪獣は陸の怪獣よりもヤバイ。というのも、大地に縛られない影響か、大怪獣の数が桁外れて多いのである。
戦艦亀の一件から、怪獣人間の強さはある程度理解している。彼らが新人であったことから、歴戦の怪獣人間なんてものがいればその強さはさらに上であることも重々承知。
しかしその上で。かつて実際に大怪獣と戦った経験から、怪獣人間が単騎で大怪獣を倒せるほどではないと刹亜は判断していた。
勿論、とてつもない幸運により大怪獣と遭遇しない、遭遇してもうまく逃げることができ、無事に日本まで辿り着けたという可能性もゼロではないだろう。が、そんな限りなく奇跡に近い話よりも、ずっと現実的な推測がいくつも浮かんだ。
「もし中国から来たわけじゃないとすれば、当然日本にいたことになる。さらに怪獣化していることから特務隊のメンバーであることもほぼ確定。じゃあなぜ身分を偽っているのかといえば、俺らとは違う任務だからだ」
「ふむ。しかし私の任務がお前たちの監視であるとするならば、そもそも姿を隠していた方が良かったんじゃないか?」
「この怪獣が跋扈する世界で、怪獣と特務隊の双方から隠れながら監視するって? やれるもんならどうぞって感じだな」
「……」
挑発的な刹亜の口調に、ホンファの顔つきが険しくなる。
刹亜の態度を諫めるように白マフラーがぶるりと震えるが無視。
調子に乗って続きを語った。
「それに決定的だったのは二宮がお前の同行を許可したことだな。普通に考えて指示を聞かない、いつ裏切るかもわからないやつを連れて大怪獣の内部に入るわけないからな。特務隊の仲間だと見抜いたわけだ」
「……それで、私の具体的な任務も分かったのか」
「何となくな。こうして俺を監視してたわけだし、疑ってんだろ。戦艦亀での出来事を」
刹亜は立ち止まり、目を細めてホンファを見つめる。
彼女は黙ったまま見つめ返してくる。
どこまで確信をもって彼女がここにいるのか。
緊張から、刹亜は自然と白マフラーに手を伸ばし――
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