大怪獣がトリックです

天草一樹

文字の大きさ
30 / 40
第2怪:真珠蜘蛛

ホンファの正体

しおりを挟む
 伏見と大石の姿が見えなくなってから、刹亜は大きく息を吐きだした。
 パニック状態になっている大石は心配だが、伏見がいればどうにか入り口まで戻れはするだろう。気にはなるが、無事を祈ることしかできない。
 それに何より。今、他人を気遣っていられる余裕はなかった。

「そんでホンファさん。俺はこれから奥まで行って爆弾を仕掛けてくるつもりだけど、ついてくんのか?」
「キヅイテイタノカ」

 上から何かが降ってきたと思った直後、背後からホンファの声が聞こえてきた。
 内心では盛大にビビり散らかしながらも、見かけ上は不敵な笑みを浮かべ振り返る。

「こうもあっさり出てきてくれるとはな。無視されるかと思ってたわ」
「バレテイルノナラ、カクレテイテモイミナイダロウ」
「あっそう。じゃあその片言もやめてくれねえか? 本当は普通に喋れるんだろ?」
「そうか。なら止めよう」
「……」

 あまりにも当然のごとく流暢な日本語で話し出すホンファ。
 こちらから頼んだことではあるが、刹亜はしばらく呆気にとられ声も出ず。
 彼女は刹亜の反応を気にかけることなく、完璧な日本語で尋ね返してきた。

「それで、お前はどこまで知っているんだ? いや、気付いていると聞いた方がいいか」
「……その前に答えろ。蜘蛛の糸が増えてんのもお前らの計画通りか」
「違うな。私たちもこれは想定外だ」
「ならこっちも予定通り動くか」

 刹亜は気を取り直して、真珠蜘蛛の最奥に向かって歩き始める。
 ホンファは一瞬眉を震わせてから、ゆっくりとその後ろをついてきた。
 周囲を警戒しながら蜘蛛の糸を飛び越える。ホンファも怪獣化することなく、ジャンプで糸を飛び越えた。

「えーと、俺がどこまで気づいてるかだっけ? 別に、何も気づいてねえよ」

 しばらく歩いたところで、ようやく刹亜は質問に答えた。

「ならなぜ私が監視していることを知っていた」
「だから知ってたわけじゃねえって。単にカマかけてみただけだ」
「そうした理由を聞いている」

 怒気は感じられない。だがふざけた回答を続けるようなら容赦はしないという、殺気じみた圧は強く感じられる。
 背中にジワリと冷や汗をかきながら、刹亜は平静を装い応じた。

「てか、あんたは怪獣人間のわりに全然狂ってないんだな。俺の知ってるやつらは何かしらおかしくなってた気がすんだけど」
「強靭な精神を持つ者なら一般人のように振舞うのは十分可能だ。それ以上に適性の有無が大きいが」
「ふーん」
「で、どこまで知っている」

 追及をやめる気配は一切ない。
 面倒に思いつつも、刹亜はこれまでの自身の思考を話し始めた。

「最初の疑問は誰もが思いつくことだ。怪獣が支配する今の世界で、怪獣化できるからと言って中国から日本まで辿り着けるのかって」
「一角鷹は怪獣の中でも速度は速い方だ。それでは納得できなかったか」
「無理だね。建物の残骸や植物がうまく隠れ蓑として作用する地上ならともかく、障害物一つない空中を長時間移動すればまず間違いなく殺される」

 海を隔てた各国の人的・物的移動というのはここ数年一度も成功していない。
 当たり前の話だが、地球上の大半を占めるのは陸でなく海である。その分、海には陸よりも遥かに危険で厄介な怪獣が多数生息している。船で海を渡ろうなどすれば百パーセント殺される。
 そして、そんな海よりさらに危険なのが空だ。陸地と違って障害物が一切なく、海よりも遥かに明るく視認しやすい。強いて言うなら雲があるが、雲型の怪獣や雲を拠点とする怪獣もおり、端的に言って安全な場所が一切ない。数百メートル程度の距離であれば気付かれず移動もできるだろうが、数キロ、数百キロ空中を移動して怪獣に見つからないのはまず不可能。
 さらにさらに厄介なことに、空の怪獣は陸の怪獣よりもヤバイ。というのも、大地に縛られない影響か、大怪獣の数が桁外れて多いのである。
 戦艦亀の一件から、怪獣人間の強さはある程度理解している。彼らが新人であったことから、歴戦の怪獣人間なんてものがいればその強さはさらに上であることも重々承知。
 しかしその上で。かつて実際に大怪獣と戦った経験から、怪獣人間が単騎で大怪獣を倒せるほどではないと刹亜は判断していた。
 勿論、とてつもない幸運により大怪獣と遭遇しない、遭遇してもうまく逃げることができ、無事に日本まで辿り着けたという可能性もゼロではないだろう。が、そんな限りなく奇跡に近い話よりも、ずっと現実的な推測がいくつも浮かんだ。

「もし中国から来たわけじゃないとすれば、当然日本にいたことになる。さらに怪獣化していることから特務隊のメンバーであることもほぼ確定。じゃあなぜ身分を偽っているのかといえば、俺らとは違う任務だからだ」
「ふむ。しかし私の任務がお前たちの監視であるとするならば、そもそも姿を隠していた方が良かったんじゃないか?」
「この怪獣が跋扈する世界で、怪獣と特務隊の双方から隠れながら監視するって? やれるもんならどうぞって感じだな」
「……」

 挑発的な刹亜の口調に、ホンファの顔つきが険しくなる。
 刹亜の態度を諫めるように白マフラーがぶるりと震えるが無視。
 調子に乗って続きを語った。

「それに決定的だったのは二宮がお前の同行を許可したことだな。普通に考えて指示を聞かない、いつ裏切るかもわからないやつを連れて大怪獣の内部に入るわけないからな。特務隊の仲間だと見抜いたわけだ」
「……それで、私の具体的な任務も分かったのか」
「何となくな。こうして俺を監視してたわけだし、疑ってんだろ。戦艦亀での出来事を」

 刹亜は立ち止まり、目を細めてホンファを見つめる。
 彼女は黙ったまま見つめ返してくる。
 どこまで確信をもって彼女がここにいるのか。
 緊張から、刹亜は自然と白マフラーに手を伸ばし――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...