キラースペルゲーム

天草一樹

文字の大きさ
41 / 98
正義躍動する三日目

正義の使者による裁き2

しおりを挟む
「嘘をつけないのなら黙秘するだけの話ね。暴力の禁止されたこのゲームでは、黙秘した相手の口を割らせる方法なんてまず取れないでしょうから」

 この状況をいち早く理解し、真っ先に口を開いたのは架城だった。
 皮肉な笑みを浮かべ、宮城の作戦がいかに愚かだったのかを態度で示してくる。
 だが、宮城に動じた様子は一切ない。正義煌めくどこまでもまっすぐな瞳で、真っ向から架城に反論した。

「もしこの場で黙秘を続け、己が罪を償おうとしない不届き者がいたならば。俺はそいつらに捨て身の攻撃を行う。ルール違反を犯し処罰されるとしても、そこには数秒のタイムラグがあるはず。その間に貴様ら貧弱な犯罪者を殴り殺すことなど、俺にとっては造作もない話だ。ゆえに、もし俺の一撃を受けてでも死なない自信があるのなら、黙秘をしてみればいい」

 清々しいまでの脅迫。しかしこの場においては確実に効果が望める一言である。
 血命館に集められたプレイヤーの中にはあまり逞しい体つきの者はいない。基本的に肉弾戦が行われることを想定していないためか、宮城と一井を除けばほとんどが華奢な体つきの者ばかりである。
 とはいえ、いくら何でも一発殴られただけで死ぬことなどあり得ないと思われる――が、宮城の全力をまともに食らってしまえば、その後のゲームで不利になる怪我を負うことは十二分に考えられる話だった。
 架城としてはその挑発を笑って受け流したかったようだが、宮城の目を見て彼が本気で実行するつもりだということを悟ったようだ。俯いて宮城から視線を外すと、悔しそうに爪を噛み始めた。
 地味な恰好もそうだが、どうにも架城には品性が足りていないな、などと明は品定めをする。
 宮城に論破されたのがそんなに悔しかったのだろうか。まあプライドはかなり高そうではあるが。
 そんな風に架城を観察していると、明としては少し意外なことに鬼道院が口を開いた。

「宮城さん。罪を償えと言いますが、罪とは何を指し示すのでしょうか? 法律を犯す行為のことでしょうか? それとも人として倫理的に外れた行為でしょうか? 人間だれしも、生きていれば何かしらの罪を背負うことになると思います。一体宮城さんは、何を罪として認識し、私たちに罰を下すのでしょうか? 少なくとも正義の使者であるあなたは、人を――悪人を殺そうとしています。とすれば、理由さえあれば、人を殺すこと自体は罪ではないと考えているのですよね。公平な裁きを行うのであれば、まずはそこのところを明確にしてもらえないでしょうか」

 さすがは教祖といったところかと明は感心する。
 罪を裁く・許すという違いこそあるものの、罪の在り方については普段から意識し問い続けているのだろう。まして教祖という立場からしてみれば、正義の使者を自称している宮城だって教え導く対象となるはず。
 あわよくばここで宮城を改宗させ、自分の手駒として使えるよう篭絡しようとしているのかもしれない。
 だが、鬼道院のその目論見に反するが如く、宮城は険しい視線を教祖に投げかけた。

「悪いが、貴様の言葉はもう俺の心に響かない。昨日あれだけの大言を吐いておきながら、むざむざと藤城を死に追いやった。もとより、貴様にとって自分以外の命になど興味はないのだろう。
 それから何を罪とするかは、貴様に言われずとも俺の中に明確な線引きがなされている。もしその判断に反論したいというなら、それは好きにしてくれて構わない。だが、いまだかつて俺の下した結論を覆すような正論を述べたものは、誰一人としていなかったことは言っておく」
「それは結局、お前の独断と偏見で決まるってことだな」

 ぼそりと明はそう呟き、小さくため息を漏らした。
 これ以上何か聞いたところで、宮城が考えを改めるようなことはなさそうである。
 誰もが半ば諦めの気持ちで、この先の展開を享受するしかないかと肩を落としていく。
 質問はもう出なさそうだとみて取ったのか、宮城が改めて口を開いた――その直後。明の後ろで沈黙を貫いていた神楽耶が唐突に質問を発した。

「これから先は宮城さんが私たちに質問する時間が続くのですよね。でもそれって、当たり前のことですけど一人ずつ聞いていくことになりますよね? そこで聞きたい、というよりお願いしたいことが一つ。質問されていない間は多少リラックスして、周りの人とお話ししてもいいでしょうか? 私にはあなたに裁かれるような罪はないのですぐ終わると思いますけど、それでもここにいる全員の告白を聞いていたらかなり時間がかかりますよね。その間の暇つぶしとして会話ぐらいは許してもらえないでしょうか」

 思いがけない神楽耶の提案。そこに秘められた彼女の意図に気づき、明はいくらかの驚きと共に彼女を振り返った。
 今、この場においては、宮城を除く全員が嘘をつくことはできない。それはつまり、宮城の質問に対してだけでなく、それが誰の質問であっても相手は正直に話すか黙秘するかしかできないということ。
 明は今更ながら、この瞬間以上に相手から情報を得られるチャンスはないということに気が付いた。
 そのことを察したのは明だけでなかったらしく、数人が驚いた表情で神楽耶へと視線を送っている。
 神楽耶が提案するものが何を意味するのか知ってか知らずか、宮城は真顔のまま「小声で会話するぐらいなら構わない」とあっさり許可を出した。
 神楽耶は笑顔で礼を言うと、「そうだ、もう一つお願いしたいことがあるんです」とさらに言葉を続けた。

「先程の宮城さんと鬼道院さんの会話からだと少しあやふやなまま過ぎてしまいましたが、私としてはどんな理由があろうと殺人は悪であり、許すべきでない行為だと思っています。ですからまず、誰が藤城さんを殺したのかを聞いてみてくれませんか? つい数時間前に人を殺しておきながら、飄々とこの中に交じっている人がいると思うと吐き気がしてきますから。是非真っ先に裁いていただけると嬉しいです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...